ジューシーな桃『まどか』
「ただいま」
築3、40年くらいの白い外壁が少し黒ずんだ2階建て住宅。その玄関扉の鍵を開け、語尾を伸ばさずただいまを言った巡ちゃん。
「おじゃましま〜す」
「いまの時間は誰もいないけどね。とりあえず、桃でも食べて休憩しよう」
密接はしていないものの両隣を住宅に挟まれ薄暗い家屋。
「はぁ……」
溜め息ひとつ、顔を顰める巡ちゃん。曇りガラスが嵌め込まれた木製の戸が開きっぱなしの居間。座卓に座布団。踏み場がないというほどではないものの、その周りはチラシや雑誌が散乱している。
ここが、巡ちゃんの育った家。
「桃剥いてくるね」
巡ちゃんは視界から消えた。この時期、廻谷家では桃が常備されているのかもしれない。
数分後、パンまつりで貰えそうな白いサラダボウルに、6等分ほどの大きさにカットされた桃がどっさり。私も夏は桃をよく食べるから見慣れた光景ではある。
爪楊枝で刺してパクッと一口。
「うん、適度に硬くて甘み強めでちょい酸っぱい。いつも食べてる桃よりちょっとずっしり感ある」
「この桃ね、『まどか』っていうんだ」
「まどか」
「そう、まどか」
「まどか……」
「沙希ちゃんが普段食べてる桃はたぶん『あかつき』だとっていう一番人気の品種だと思うんだけど、『まどか』はそれより肉付きが良くて果汁多め、糖度高めなの。お盆辺りから出荷されるよ」
「へ〜え、甘々なまどかなんだね。うん、うまいうまい」
もぐもぐもぐ、まどかもぐもぐ食進む。
フルーツの香りがする夢のような女子、猪苗代到着早々香りエキス補給!




