究極のフライドチキン(完全新作エピソード)
これは、なんという、重さだろう。息が、切れる……。
体力的には、江ノ島往復より厳しい気もする。
僕らの横では、茅ヶ崎駅を発車した電車が富士山の方向へ加速している。行先表示は上野東京ラインの沼津行き。
ツインウェーブ南側の出入口、かつて大踏切があった場所で僕は、骨なしクリスピーチキンを手早く食べてしまった。
城崎さんに差し上げたのは、骨ありのオリジナル。
僕なりの男気を見せようと思い、敢えて食事に時間を要するオリジナルを差し出して歩き出した。食べながら歩くのはお行儀が悪いけど、歩行者の少ないサザン通りを選んだので今回は勘弁してほしい。僕の手もいま城崎さんが引きちぎったチキンのように分離してしまいそう。
学習した。ドリンクは思ったよりも重たい。5百ミリリットルくらいならこの場で一気に飲んでしまえるけれど、そんなことをしたら後で懲罰が待っている。
だからチキン屋さんで氷がたっぷり入ったウーロン茶を別途購入した。食事をするときにドリンクがないと、ただでさえ運動して渇いているからだには極めて厳しいものがある。
僕を気遣ってくれているのか、城崎さんはハイエナのようにチキンにがっつき、早く食べ終えようとしているように見える。
「あの、ごゆっくりお召し上がりください」
僕が言うと、城崎さんは口中のものを何度か噛み砕き飲み込んでから言葉を発する。
「お腹空いてたから。チキン、好物でさ」
それは半分本音で、半分僕への気遣いだろう。
空腹だと言われてしまえば、いいからゆっくり食べてくださいと無理強いはできない。言葉の駆け引きにおいて、彼女は僕より上手のようだ。
空腹と、チキンが好物なのは本音。正午の昼休みから4時間、加えて運動をしているのだから、空腹になって然り。
他方、チキンにも食欲をそそる工夫が凝らされている。
サクサク歯ざわりよく芳しい衣、引き締まった肉、決め手は秘伝のスパイス。
3ヶ月前、学校の研修旅行でオーストラリアのケアンズへ行った際に食べた同じ会社のチキンも、いま城崎さんが食しているそれと同じ味だった。あれには本当に驚いた。まさか海外の店舗でも同じ味だなんて。
世界中で愛される、何度食べても飽きない究極のフライドチキン。僕も食べたくなってきた。
部活終了後、学校のグラウンドと国道に挟まれた茂みに隠れて食べる分も買えば良かった。




