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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
茅ヶ崎の道の駅

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イケメン女子まどかの悩み

「あー……」


 講義が終わり解放感が爽やかな夕方6時半。酷暑の日中よりいくらか気温が下がり、風は湿気を帯びながらも涼しい。


 木々や竹林に切り取られた茜空と芝生、その向こうに大きな池と森が広がる大学近くの谷戸公園。それを見渡す事務所棟の軒下に設置された自販機の前でようやく力が抜けて溜息を吐いたのは、イケメン女子、城崎きのさきまどか。厄介事が降り掛かると取り敢えず蹴散らす彼女だけど、今回はそうもゆかない事情があるみたい。


「どしたん? 話聞くよ」


 互いに自販機で買った冷たい缶ココアを開栓して飲む。


「私さ、陽キャじゃないんだよね」


「うん、知ってる」


 陰キャでもないけど。


「ドス黒いことばっかり考えてるんだ」


「そうだろうね」


 そこは否定しろよ、というツッコミがないのが私たちの関係性。


「それが、大学に入ってからはつぐみとか巡みたいな女たちに囲まれてさ」


 みたいな女たちに囲まれても、同じくそういうのが好物な本人たちにはベタ付かれない辺りが真理。


「イケメンだもんね」


「鬱陶しいけど好いてくれるのは有り難いから、社会性とやらで愛想を振り撒いてたら」


「いわゆる宝塚の男役みたいな扱いになってて、素の自分を出せなくなってきたと」


「そう」


 ハハハ、みんなありがとう! とか言っちゃってるもんね。柄にもなく。


「最初はキャラづくりでも、段々馴染んできて‘自分’の一つになるかもよ」


「年取って柔らかくなるってヤツ?」


「うーん、どうだろう。本質的には同じかもね。尖っててもいいことないし、生きてくうちに色んなことを知って、奇特な人の事情を推察したりして、寛容になったり諦めたりする。それを『柔らかい』と括る。中身は米もケーキもマムシも腐ったものも、みんなごった煮の釜でもね、深入りは面倒だから柔らかくなったってことにする。そういうのを『距離感』って呼んだりもする」


 じき天の川が流れる空を見上げると、ずいぶんと高いところを翅の茶色い大きなトンボがビュンビュン飛び回っていた。


「あのトンボ、なんていうの?」


 それなりに物知りのまどかちゃんにトンボの種類を訊いてみた。


「翅の色が濃いからマルタンヤンマのメスだと思う」


「まるたんやんま……まるたん……かわいいね」


「あいつらは人間の世界とは無縁で、この世界に音楽っていうものがあるのも知らないんだろうな」


「どうかな。人間の生まれ変わりで、子孫を遺せないと延々と人間に生まれ変われずマルタンヤンマとしての生涯を繰り返すのかもよ?」


「そうだとしたら、そりゃ必死に子孫遺そうとするわな」


「虫はよく天敵に食べられちゃうもんね。そんな一生を繰り返すなんてトラウマもんだ」


 ちょっと気になって、スマホでマルタンヤンマを画像検索してみた。


「オスめっちゃ綺麗やん。お目々がトルコ石みたいにツヤツヤな水色」


 メスのお目々は黄色い。


「そうだ……!」


「なんか変なこと思いついただろ」


「ムフフ、まどかちゃん、キミの美麗な容姿は武器だよ」


「武器になんかしなくていいから悩みを解決してくれ……」

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