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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
高校2年バレンタインデー

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映えスポット(完全新作エピソード)

「ゴール! 白浜選手逆転サヨナラホームラン!」


 着いた! 茅ヶ崎に着いた!


 スタートおよびゴール地点はサイクリングロードのヘッドランド前。ライフセーバーの本部がある第一中学校の看板下。陽が沈みかけたちょうどこの時間、開けたボードウォークからはソーダとオレンジをミックスしたカクテルのような空と、雪をどっさり被った富士山が見える。さっき見た江ノ島からの景色とは少し異なる味わい。


 江ノ島からは波間の向こうに富士山、このヘッドランドからは海を左手に地続きで富士山を臨む。


「走ったの最後の数メートルだけだろ」


「陸、電車より早かったよ! 湘南新宿ラインの特別快速より早かった!」


 特別快速。藤沢駅と茅ヶ崎駅の狭間にある辻堂駅のホームで普通電車を待っていると、目の前を特急踊り子顔負けの物凄いスピードで通過してゆく。


 物知りな自由電子くんによると、実際に踊り子より特別快速のほうがスピードを出すらしい。ただ特別快速のほうが停車駅が多く、横浜よこはまから小田原おだわら間の所要時間は踊り子のほうが若干短いらしい。まあ、踊り子は特急料金かかるからね、早く着いてくれなきゃ料金払う意味がない。


 なんだろう、たぶんあれだ。山手やまのて線みたいにゆっくり走ってるイメージのある通勤電車が豪速で通過するというのは、喩えればママチャリがロードバイク並みの速度で走るのと似た意外性がある。だから度肝を抜かれるのではないかと。


「そうだな、スピードは速くないけど近道してる分だけ早く着いたな」


「そうそう、7キロ移動して電車より徒歩のほうが早く着くと気付いたときは衝撃だったよ」


「あぁ、沙希が走った距離の話をしてたのに、上手に逸らしたな」


「えっへん!」


 私は軽く反って拳で自分の胸をトンと叩いた。


「胸張れることじゃないだろ」


「まぁまぁ、ありがとね、お礼をしたいから、どっかその辺で待ってて!」


「おう。じゃあ学校前の丁字路で待ってるわ」


「うん、わかった! じゃあ私、これから超速でダウンとストレッチとシャワーと着替えを済ませるから、ゆっくり行ってて!」


「おう、でもダウンはゆっくり走らなきゃ意味ないぞ」


「オッケー! じゃあまた後でね!」


 私はひらひらと陸に手を振り、学校へ向かって軽く走り始めた。学校に着くまでの5百メートルがクールダウンの区間。


 松林の間の道を抜け、国道134号線を跨ぐ歩道橋を渡る。実はここ、昔は押しボタン式の歩行者信号機があったらしい。それを知ってか知らずか、不届き者は歩行者信号機と横断歩道が無くなった現在でもその道路上を渡り、自動車の往来を妨げている。


 いまこの瞬間、私の目の目の前でも数人が道路を横断している。


 そしてそのまま、一中通りを逆走。


 お前らいつか罰当たるからな。


 信号の待ち時間が長いこの丁字路では、本来進めたはずの自動車が身勝手な歩行者や自転車乗りによって行く手を阻まれた結果赤信号に掛かり、待ち時間が倍増する。これもまた、茅ヶ崎の問題点。


 歩道橋の頂上に到達。ここからも富士山が見える。


 両サイドの松林を一直線に貫く国道の先に威風堂々たる霊峰。


 思わず足を止め、写真撮影をする人も多い。


 私もときどき立ち止まって眺めるけど、きょうは陸を待たせているからそのまま通過。絶景をスルーだなんて、私たち茅ヶ崎市民はつくづくロケーションに恵まれていると思う。


 茅ヶ崎には、いわゆる映えスポットが多数ある。


 海、街、山、それぞれに魅力があり、あまり知られていないスポットを探してみるのも街歩きの醍醐味。


 ただやっぱり、目の前の景色を綺麗に撮影するだけじゃなくて、その場所の空気を五感で吸収してほしいと、個人的には思う。


 そこに、画面だけでは表現できない本物がある。


 お家に帰って、しんどい日常に戻って、ふと画像フォルダーを漁る。


 そこに出てきた、茅ヶ崎の写真。


 見返して、またそこを訪れる。


 季節が移ろっても、そこにはまた違った味わいがある。


 感覚を研ぎ澄まして染み入ってきたものは、きっと少しくらいなら疲れを癒してくれる。


 と、偉そうなことを思ってはみたものの、ずっと茅ヶ崎で育った私がそれに気付いたのは高校に入学してから。


 私たちが通う湘南海岸学院には他県から通っている生徒が多くいる。熱海あたみ沼津ぬまづなど、茅ヶ崎と気候が近い沿岸地域から通っている子はあまり感動しないみたいだけど、内陸の地域から来た生徒は大層感激する子が多い。


 多い、というのは、中には綺麗な景色とか叙情的なものに興味のない子も相当数いるということ。趣味嗜好は人それぞれ。


「沙希遅い。もうみんな帰っちゃったよ」


「ホワッツ!?」


 オーマイガー、なんということだ。


 学校、陸上競技部の溜まり場に着くと、残っていたのは既にジャージからブレザーに着替えたまどかちゃんと自由電子くんだけだった。


「どこでサボってたの? センコーがチャリで後を追ったけど見当たらないって」


「いやいや、私はほぼコース上にいたよ。アウトしたのは往路の鵠沼海岸から片瀬江ノ島まで」


「ふぅん」


「それより」


「それより?」


 私はまどかちゃんに寄って、耳元で囁く。彼女の耳たぶは本当に火傷を治せそうなくらい冷えている。


「チョコは渡せたの?」


 言った瞬間、耳たぶは瞬間湯沸かし器のように温まった。


「ま、まだ……」


「あちゃー、じゃあいまだ。私、シャワー浴びてくるから、その間に」


「う、うん……」


 ほほーう! 紅潮するまどかちゃん可愛い!


 さてさて、邪魔者はさっさとシャワーを浴びるとしますか!

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