コツメカワウソは心の中に
「わ、ツキノワグマだ。動物園で展示しなくてもそのへんで見ちゃうヤツじゃん……」
元々は野生のツキノワグマが保護されたんじゃないかな?
それはさておき、な、なんと、なんと愚かなことに、秋葉原から2駅も歩いて上野動物園に来ました。動物園に入ってからも熱帯生物とかパンダさんとかネコさんとかいろんな生きものを見たのでけっこう歩いています。3年間陸上競技をやっていたとはいえ、脚の笑いが止まりません。イヤなことをされると防衛反応で反射的に引き攣った笑顔になるみたいな、そんな感じです。
しかし、私より体力がなさそうな巡ちゃんは沙希ちゃんといっしょにツキノワグマに見下ろされてリアクションを取っているではありませんか。
ああ、なんということでしょう、田舎住まいで徒歩移動なんかほとんどしない半引きこもりのオタクに、私は負けました。敗者の私はハイテンションな二人の背とその先のツキノワグマを見ながら、ただただ耐えるしかありません。
「つぐみ、そっちにコツメカワウソがいるから見て和むか?」
「うん、そうする、ありがとうまどかちゃん」
ツキノワグマのすぐ近くにコツメカワウソがいる。はぁ〜、円らな瞳、小さくて可愛い。
私が癒されている一方で、沙希ちゃんと巡ちゃんのツキノワグマ談義は続きます。
「そのへんで見ちゃう? というと巡殿、キミの出身地である猪苗代ではそのへんにツキノワグマがいるということかい?」
「最近ね、ふつうに街で目撃情報があるんだよ」
「というとあれかい? 私たちが歩いた畦道とか湖畔の辺りにも、彼らはいるということかい?」
そう、まだ巡ちゃんと知り合う前、私たちは福島県猪苗代町の畦道や湖畔を歩いた。山は遠くにあるけれど、どこに潜んでいるのかな。
「そうだね、だからお墓にお供えものをしないようにって言われてる」
「お墓、あったよお墓、私たちが歩いたところにも。あそこにもクマが出るのかい? シカじゃないのかい? トラでもないのかい?」
「トラなんか出たらもっとヤバいよ、下手したらクマもやられちゃうよ」
沙希ちゃんは北海道のテレビ局が制作した昔のバラエティー番組のネタを真似ていると思うけれど、巡ちゃんは知らないのか本気で受け止めている。
コツメカワウソに癒され、動物園を一通り見たところで上野駅から地下鉄銀座線に乗り、浅草に着いた。
「あーさくさー!」
沙希ちゃん、どこに行ってもバンザイするね。
駅を出てすぐに雷門があり、ワーワーガーガー騒がしい外国人団体が集合写真撮影の順番待ちをしている脇に変な日本人。
「へいへいフォーリンピーポー、ウェアユーフロム? アイムフロムジャパン! オーチャイナ? ヤッパリネー!」
へいへいフォーリンピーポーとか、やっぱりねっていうのは失礼なのかどうなのか。
英語に弱い国際派が外国人に絡み、会話が終わったところで私たちは雷門をくぐった。雷門での写真は順番待ちなので、私たちは並ばずなるべく映えるよう角度を工夫して個別に撮った。




