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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
東京さんぽ

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アキバのぬくもり

「まどかちゃん、クレーンゲーム上手い」


 右斜め後ろから巡が見物している。


 ゲーセンといえばクレーンゲームな私は2階の暗いクレーンゲームコーナーで箱入りマグカップを1回でゲット。ここのゲーセンはアームの力が強いようだ。以前同じデザインのマグカップを他の地域のゲーセンで捕ろうとしたが、20回やってもほとんど動かなかった。


「欲しい?」


「ほ、欲しい、欲しすぎる……!」


 餌をねだる雛鳥のように私と景品を見る巡。もとより巡かつぐみにあげるつもりで取った景品だから「はい」と惜しげなく手渡した。


「ありがとうございますありがとうございますありがとうございます」


「いいよ」


 何度もペコペコ頭を下げる巡。私はリアクションに困った。


 他方、沙希とつぐみは円周上を周回するお菓子を掬うゲームで遊んでいる。ミニサイズの箱入りチョコレート菓子がどんどん落ちてくる。


「まどか師匠、私にクレーンゲームのテクを教えてくださいませんか」


 巡が両手を膝に当て深くお辞儀をしてきた。


「いいけど、取れそうな景品に狙いを定めてアームをそこに運ぶだけなんだけどなぁ」


「それが、それができないんです!」


 ということで巡にレクチャーしつつ、沙希とつぐみが満足するのを待つ。沙希はいつの間にかぐでっとした玉子かヒヨコみたいなキャラクターの抱き枕を背負い、ビニル紐を腹に巻いて固定していた。


 次に少し休憩しようと、意外にも沙希の提案で立ち寄ったメイド喫茶は「おかえりなさいませご主人様」ではなく「いらっしゃいませ」のスタイルで個人的には少し安心した。対に巡は「メイド喫茶は冥途喫茶、裏では血で血を洗う抗争が」などと妄想を膨らませてビビっていた。メニューはいずれも割高だったので全員比較的安価なチーズケーキとホットコーヒのセットを注文。「おいしくなあれ、萌え萌えキュン」などのサービスはその店にはないらしい。


「あの、まどかちゃん、もう1回……」


 メイドカフェを出て、先ほどとは別のゲーセンの前を通りかかった。店頭にクレーンゲームの筐体きょうたいが多数あり、巡はその一つ、箱入りの美少女フィギュアが配置された筐体に熱視線を送っている。


「しょうがないなぁ、どっちの子が欲しいの?」


 筐体内には二人のキャラクターがいて、どちらも取れなくはなさそうな位置にある。


「どっちも」


 とりあえずアームの力を確認するためにまずは私がプレイ。一人は簡単に取れた。


「やっほーい、まどかちゃんワンダフォー!」


 沙希が拍手し、なぜか店の前を通りかかった数人が足を止めている。


「あざます、あざます!」


 ブンブン頭を振って礼を言う巡。


「もう一人は、自分で取りたいだろ?」


「へ、へいっ!」


 巡はパンパンに膨らんだ自分の財布から百円玉を取り出し投入。財布はみるみる痩せていった。


「ヤバい、でも諦めたらそこで試合終了って、湘北しょうほく地区の隣に住む私の血がたぎる」


 あまり知られていないが茅ヶ崎には『湘北』という地区が存在する。巡が住むのはその隣の松林しょうりん地区だ。


「けど百円玉があと1回分しかない」


 目当てのフィギュアは取出口の近くまで来ている。最初に停止位置を誤りかえって取りにくくしてしまった。私なら取れるが、ここは巡の実力でゲットしてほしい。


 私もつぐみも、普段はうるさい沙希もその他ギャラリーも、固唾を飲んで見守る。その視線が余計に緊張を煽る。


 巡は目標のフィギュアに向かってクレーンを運ぶ。そうそう、いい感じ。


 ドクン、ドクン、柄にもなく緊張で心臓が苦しい。巡はもっとだろう。


 アームが降りて、フィギュアを掴み上げる。よし、あと少しだ。行けるか?


 アームに吊られたフィギュアの箱がふらふら揺れる。


 行け、行け行け、あと少し。


 1秒を永遠とわに感じる瞬間が折り重なる。


 穴の横まで来た。


 よし来た、景品ゲッ……。


「トオオオオオオ!!」


「うおおおおおお!!」


「ひゃっほーい! ハイターッチ!」


 景品ゲットの瞬間、ギャラリーの野太い歓声が湧き上がり、何故か沙希が彼らとハイタッチしている。


「キタキタキタキターアッ!! まどか師匠、やりましたあああ……」


 感激のあまりゲットした箱を抱え私の胸元で泣き崩れる巡。


「よしよし、頑張ったな」


「おおおおおおおおおおおお!!」


 ギャラリーの野太い歓声は更に大きくなり、拍手喝采。


 しばらく泣いて落ち着いてきた巡はギャラリーたちに深く頭を垂れると、また拍手が湧いた。


 私にとってはアウェー感が強い秋葉原。けれどそこに息づく者たちの一体感と温かみには、私も胸が熱くなった。

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