まどか&つぐみ in 辻堂
ソメイヨシノが散って、八重桜もそろそろ見納めになるころ、曇り空の湘南では南からの生暖かい風が吹き上げていた。もう少し経てば、海岸の砂地には浜昼顔が咲き連なるだろう。
西の空は晴れ夢幻の紅に染まり、辻堂駅直結のショッピングモール東側にあるテラスからは陽を浴びる江ノ島と藤沢の街を虹が繋いでいた。
無数の人が行き交い、眼下のロータリーでは赤い連節バスを含む神奈中バスが何台も停留しているが、タクシー乗り場はタクシー不在で、一人の高齢者が到着を待っている。
茅ヶ崎の東海岸に住む私たちは大学の位置関係上、辻堂駅でバスを乗り換えて通学している。そのほうが茅ケ崎駅を経由するより早い。高田に住む巡は茅ケ崎駅発のバスで通学している。
大学は講義を選択して受ける形式。なんとなく予想はついていたが、私とつぐみの二人、沙希、武道、巡の三人でグループが分かれ受講する日が多い。
きょうも例に漏れず、私とつぐみで映画を観に来て、上映時間が近付くまで暇潰しに風を浴びている。髪が風に靡いている。
「虹がきれいだね、まどかちゃん」
「あのまま虹の橋を渡って行けたらって、虹を見る度に思うよ」
「そうしたら私が涙の雨を降らせて、虹の橋を消して向こうへ行けなくしてあげる」
「そりゃ参ったな、つぐみより先に死ねないじゃんか」
「私が死んだら、まどかちゃんは追いかけてくれる?」
両者フェンスに両腕を置いて微かに前のめりでたそがれていると、左のつぐみが一見無邪気に、しかしどこか妖しい笑みを浮かべながらこちらを見た。
「さあ、どうかな」
「ええ、意地悪ぅ、そこは嘘でも追いかけるよって言ってよ」
「じゃあ、追いかけようかな」
「じゃあ? うううん……」
腑に落ちないのか、つぐみはフグみたいに頬を膨らませた。
「そろそろ映画、始まる時間じゃない?」
「あ、誤魔化した」