オレンジ扉
本番直前、薄暗い舞台袖で円陣を組む私たち『茅ヶ崎ハッピーデイズ』の五人。
「さてさて、いよいよ本番ですな」
いつも通り平静を保ち皆の緊張を解くクールビューティー、フルーツの香りがする夢のような女子、白浜沙希。
「お、俺、なんだか演劇より緊張してきたぞ。ミスったらどうしよ……」
巨体をビクビクさせる武道。全員に振動が伝わる。おいおいこれじゃ私が解いた緊張が台無しじゃないか。それとも私の力不足で武道の緊張が解けていない?
「なんだ武道、肝っ玉もちっちゃいのか?」
弱る武道の心のタマタマを握りニヒルに笑うまどかちゃん。
「‘も’ってなんだまどか」
「◯ンタマ」
「おほほほほ、女の子がキ◯タマなんて言うものじゃありませんわよまどかちゃん」
けしからん! 私は言葉にしなかったのに!
「沙希は女の子じゃないんだな」
私の股間を見遣るまどかちゃん。しかし残念もっこりしていない!
「あらいけない、わたくしったらはしたない言葉を、おほほほほ」
つぐピヨと自由電子くんは黙ってるけど、つぐピヨは唇を震わせ瞳にノイズが走っている。一番危険かもしれない。自由電子くんは虚無に見せかけ脚が少し震えている。
これは私がしっかりせねばならん。
「それに、さっきの演劇だってなんとかなったんだし、なんとかなる。ミスってもなんとかなる」
私が歌えればバンド演奏がなくてもなんとかなる!
「おうお前ら、そろそろ出番だ行ってこい!」
舞台の出入口にあるオレンジ色の鉄扉、通称『オレンジ扉』が豪快に開くと、主催者だが特に何もしていない、ただ偉ぶっているだけの主催者まみちゃんが現れて号令をかけた。
時間になったら行くっきゃない。
「はいよ~。それじゃ、行きますか」
私は敢えて脱力気味かつフラットに言った。
「茅ヶ崎からハッピーを振り撒こう! We are 茅ヶ崎ハッピーデイズ!」
五人息を合わせ「レッツゴー!」と、重ねた手を天へ振り上げると、各々異なる挙動でステージへと歩を進めた。