閑話:楽しんでやってること
「この街の人って、なんでこんなに地元のために頑張れるの?」
楽屋に入れてもらった部外者の私、廻谷巡はジャージ姿で幕の内弁当を食べながら休憩中の沙希ちゃんたちに素朴な疑問をぶつけてみた。
沙希ちゃんに茅ヶ崎市内の年間行事予定表を見せてもらった、この茅ヶ崎エンターテインメントフェスティバル、大岡越前祭、アロハマーケット、湘南祭、浜降祭、茅ヶ崎パンまつり、サザンビーチちがさき花火大会、サザンオールスターズ茅ヶ崎ライブ(何年か毎に開催)、茅ヶ崎サザン芸術花火ほか多数。これらすべてに地元の人が何らかのかたちで協力しているという。
「地元のため? いやいや、んなこたない。楽しいからやってるだけ。それで誰かが喜んでくれたり、茅ヶ崎のためになったらいいなくらいの感じ。地元のためにとか、気張ってやってるつもりはないんだよなぁ、私は。毛頭、内輪だけで盛り上がるために演劇とか音楽なんかをやる気もないけど。まどかちゃんとつぐピヨは?」
沙希ちゃんが淡々と言った。
「私、陸上の長距離ランナーになりたかったんだけど、挫折してさ。そんで、走る以外に得意なことといえば音楽だから、沙希の誘いに乗ってみた。ひょっとしたら、音楽が私の生きる道かもしれないしね。つまるところ、自分の可能性を探ってるんだ。地元のことはあんまり意識してないけど、地味なこの街が自分たちの音楽でいくらか有名になったらいいかなとは思うよ」
「私もそんな感じかなぁ。気にしいな性格だから、自分をある程度忙しくすればイヤなことはいくらか忘れられるかも? みたいな。自己完結でごめん」
「いやいや。ふむ、なるほど、文化祭の延長線みたいな感じだ。青春だわ」
「そうかも。青春は、いくつになっても訪れる! 中高生時代だけが青春じゃないぞい!」
そっか、私な普段、高校生が主人公の漫画を読んだり、SNSに流れてくるJKのイラストを見たりして、青春時代といえばそのくらいの年齢で私には無関係だったと思ってたけど、捉えようによってはそうじゃないかもなんだ。
高校か大学を卒業したら安定した職に就いて無難に生きてゆくのが正解だと刷り込まれてきたけど、自己責任下では法の下に平等だもんな、日本人は。
「ふふーん、巡ちゃん、難しい表情をしておるな? きょうはなんも考えないで肩の力を抜いて、リラックスリラックス。一日楽しんでってくださいな」
演劇2回目公演の後、夕方からは音楽の時間。沙希ちゃんたち『茅ヶ崎ハッピーデイズ!』ほか数組のバンドが出演する。一部の曲は聴かせてもらったけど、まだ聴いてない曲もあるから楽しみだ。