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番外編:ワンダフォーな花火とサッポロ軒!

「ううう、強風オールバック!」


 どうしてこんな日に外に出なきゃいけないの? 天気はいいけど。


「それはねつぐピヨ、明日が茅ヶ崎サザン芸術花火だからだよ」


 サザンやKさんの楽曲に合わせて夜のサザンビーチに大輪が打ち上がる芸術花火。特にアップテンポな楽曲と花火の連動は見もの。今年は3万7千人の来場見込み。


「心の声を読まれた!?」


「けど、大丈夫なのかこれ。今夜の予定だった江ノ島の花火大会は中止だってさ」


「そうやまどかちゃん。それが問題だ。サザンのライブがない年は茅ヶ崎で一番のビッグイベント! 浜降りとか大岡様とかもあるけど来場者数のうえでな。それが中止になるのは茅ヶ崎市としても痛いし、花火師も関係者も楽しみにしているみんなも痛い。だがこればかりは神に委ねるしかない。烏帽子岩に向かって土下座して祈りを捧げるんだ」


「お前がやれ」


 こういうの、苦笑いしておくしかないなぁ。


「ということで私たちはいま、サザンビーチの茅ヶ崎サザンCの前に来ています! Seaを臨むCですな。ここで明日、10月21日の土曜日、茅ヶ崎サザン芸術花火が開催予定なのですが、風が強い。砂混じりで頭に付着したり目に当たったりするんですな。そんな中、有料の観覧席や音響装置の準備は着々と進んでいる様子」


「そんな茅ヶ崎だけど、明日は穏やかな天気になる予報とのことで」


「なんと! それは良かったつぐピヨ! なんてったって明日の茅ヶ崎は花火以外にも予定しているものがあるからね!」


「これといったもののない街だから、ここぞとばかりに宣伝だね」


「コラまどかちゃん! そんなこと言われちゃ言葉に詰まるよ! 恋が終わるよ!」


「あの~、漫才はいいんだけど、ちょっとお話が脱線してないかな?」


 この調子じゃいつまで経っても話が進まないよ。


「おっといけないこりゃ失敬。えーとですね、明日の茅ヶ崎は、私たちもよく行くサザン通りの小林園の建物の中に、新しいパン屋さんが、オープン!」


 ア○ホテルのCMみたいな口調で沙希ちゃんが言った。


「このパン屋さんは流行りのお洒落なパン屋さんというよりは、コッペパンとか揚げパンをメインにしたお店みたいだね」


 私が補足。


「昔あったパン屋さんの復刻らしいね」


 まどかちゃんが更に補足。


「いまは貴重だね、そういうお店。私たちが中学生だったころはサンドビーチも清月せいげつもあったけど、数年でどっちも閉めちゃったからね」


「それと明日は、市役所の前のラジオ局でもイベントがあるみたい」


「もし花火大会が中止になっても楽しめるようにはなってるね」


「中止にはなってほしくないけど、もう宿とか新幹線とか飛行機を予約した人もいるだろうからね。キャンセル料かかるし、せっかくだから茅ヶ崎においでよ」


 私たちはCの前から立ち去り、サイクリングロードを数百メートル東へ進んで市営球場前の歩道橋を渡った。国道134号線を跨ぐこの歩道橋の上からは、海、富士山、野球場、江ノ島などが一望できるけど、往来が多いときは立ち止まらなぬようお願いします。ペコリ。


 サザンのライブ会場としても知られる球場を横目に、閑静な住宅地を貫く高砂たかすな通りを北上。松の木が繁る静かなこの道には、どこか文学的な情緒が漂っている。


 松林の高砂緑地を抜けて裏道を抜けると雄三通りに出た。


 クルマの往来を確認して信号のない横断歩道を渡って数十メートル右に進むとお花屋さんがあって、その隣にこの辺りに住む人ならほとんどが存在を認知しているであろう昔ながらのラーメン屋、サッポロ軒がある。


 私はあまり行ったことないお店だけど、沙希ちゃんの高校時代の担任だったまみ子さんの行きつけのお店。


「ということでやって来ましたサッポロ軒! 今回はあの、私たちの中学の先輩で国民的ミュージシャンのKさんに関連する場所を辿ろうということで、ここに来てみましたよと」


 そう、私たちの中学の先輩である『相模33 ち・・45』の被りものを着用していた『爺』は若かりしころ、このお店に通っていたそうで。彼は『味噌大』がお気に入り。現在は3代目が営み、建物は解体のため2024年の6月までに退去しなければならないそう。移転先は探索中。


 沙希ちゃんは味噌、まどかちゃんは醤油、私は塩を頼むと、店主のおじさんがせっせとチャーシューを切り、麺を茹で、スープのタレを丼に注いだ。


「はいどうぞー」


 5分くらいでラーメンが出来上がり、私たちは『いただきます』を言ってスープを啜った。


 うん、変わらないパンチの聞いた味。


 つるつる、つるつるっ!


 黄金色の麺を啜る。適度に弾力があって伸びにくい麺。旨味の染みたチャーシューとメンマ。


 裸の電球が照らす店内、横浜のラジオは流行りの音楽を流している。


 変わりゆく街の、あと少しだけ味わえる変わっていない空間。


 私たちが知らない時代のノスタルジーに、ほんのちょっぴり、心がホクホク。あと何回来れるかな?


 故郷ふるさとの味、ごちそうさまでした。

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