インクルーシブで誰も置き去りにしない街?
大学入学式3日前、それは大学入学式まで残り3日ということだ。
「うおおお!! あと3日で大学ううう!!」
「うるさいな昔の漫画みたいにわざとらしく頭掻きやがって」
「だってだって3日前だよまどかちゃん!! ということはつまり、エンタメフェス本番まで約3週間!!」
「約だよ約。厳密には3週間と2日」
「大したフォローになってない!!」
「まあまあ、焦ったって仕方ないよ。やれることを一所懸命やろう?」
「つぐピヨ! そうだそうだ、なんと! 成功したいならやるしかない!」
「演劇の台本がアレだけに卑猥に聞こえる」
「まどかちゃんセパレートだよ、それとこれとは分けて考えよう」
セイコウシタイナラヤルシカナイ。私それで下ネタ思い浮かばなかったよ。まどかちゃんのエッチ。
「さっきそこのパート練習したばかりだからね、狙ってるようにしか聞こえなかったよ」
きょうは分庁舎で演劇の練習。エレベーター前がある廊下の中央に置かれた椅子に座って呼吸を整える私たち三人。武道と自由電子くんは用事で欠席。この後ここでは香川屋分店のカメが座長を務める劇団『えぼし座』が使うので、私たちはそろそろ撤退の時間。
だがこの後、私たちには別のやることがある。
巡ちゃんが茅ヶ崎に引っ越して来るから、軽く片付けの手伝いと夕飯をご馳走する。
引っ越し業者を利用しているから搬入はそちらに任せて、彼らが去った後、私たちはベッドの布団敷きとかタンスに着替えを入れるとか、地味に面倒な作業をする予定。
スマホを見ると17時34分、巡ちゃんはいまごろ音速ラインでも聴きながら逢瀬川を渡っているころだろう。郡山駅から新幹線と東海道線を乗り継いで、茅ケ崎駅到着は約3時間後と思われる。約だけどね。
音速ラインは福島県の郡山を拠点にしたロックバンド。音楽ファンの中では広く知られ、私らの中ではまどかちゃんが一番ハマって聴いている感じ。
しかし、夜遅くに引っ越し作業とはさすが3月。
さて、茅ヶ崎で3時間潰せる駅近スポットといえば、居酒屋、カラオケ店、映画館、大型商業施設など。
とりあえず映画館のある大型商業施設へ向かう。カフェもフードコートもホームセンターも広い百均もあるから退屈しない。田舎町だけど便利な施設が一式揃っているのも茅ヶ崎の地味な魅力。メディアではちょいとお金を持っていそうな人向けの施設がよく紹介されるけど、実は庶民にやさしい街。大衆娯楽だけじゃなくて、お手頃価格のパン屋さんやお弁当屋さんもちゃんとある。
そういう意味では、インクルーシブで誰も置き去りにしない街かもしれない。
カタカナ語も使えるようになった私はもしや意識高い系のエリートかもしれない。さすが大学入学式3日前。みんなといっしょにいたくて背伸びして合格した大学の勉強に付いて行けるか不安だぞいっ。