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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
高校3年3月 最後の潮風登校
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シャワーと熱めのサザンと

「いってらっしゃい」


「いってきます」


 見送って、私はそっと、扉を閉じた。


 3月下旬の7時半、雨の月曜日。


 父が蒸発、アバズレの母は行方不明、ひとりきりの家。


 シャワーを浴びて、裸でフローリングの廊下を歩いて自室に上がり、衣類を纏った。


 4月の茅ヶ崎エンターテインメントフェスティバルに向けた練習は、きょうは休み。


 なんの予定もない私、城崎きのさきまどかは、薄暗い部屋でテレビも点けず、薬缶やかんと急須で熱めの茶山さざんを淹れて飲んだ。緑茶と茅ヶ崎海岸の砂をイメージした抹茶をブレンドした茅ヶ崎名物のお茶。


 寝不足だから少し眠り、10時に目覚めて外に出た。


 一中通りを抜けて、サイクリングロードのボードウォークを西へ。富士山は見えず、江ノ島さえ霞んでいる。烏帽子岩は見える。波は荒くサーファーが多い。


 普段は多くの自転車やランナーが行き交うサイクリングロードは静かで、数分に一度ゴッデスのラックにボードを積んだ自転車が通る程度。


 黒い折り畳み傘を差したまま、右ポケットにしまっていたスマホを手に取って『愛する女性ひととのすれ違い』をかけた。人通りの少ないときだけ音楽を流して歩くのが好き。


 雨のサザンビーチは観光客なんていないと思っていたら、30代くらいの女性ひとがスマホでサザンCを撮影していた。


 サザンが好きなのか、映えスポットだからなのか。なんでもいいや。


 サザンビーチカフェの前を通過して、茅ヶ崎漁港に着いた。小学生のとき、反対方向からチャリに乗った黒人のガキに顔面を足蹴りされたから、走って追いかけチャリを蹴り倒して顔面と股間をボコしてやった覚えがある。


 自由電子くんもこの辺りで、同一人物かは不明だが黒人のガキに顔面を蹴られそうになったものの咄嗟に交わし、帰りに柵に留まっていたギンヤンマを素手で捕まえたらしい。


 私も小学生のころ、校庭でギンヤンマを追いかけていた。採集目的ではなく、決まった範囲を高速で長時間飛翔するから速く走るためのトレーニングになった。


 漁港から更に西へ。あまり遠くに行っても仕方ないから、少し先の西浜あたりで内陸に入ろうと思う。


 左側に現れた展望デッキはだいたい誰かが寝そべってるけど、きょうはまみちゃんだけが雨に打たれている。パチで負けたのか競輪で負けたのか。関わると面倒だからスルー。


 人気のない一直線のサイクリングロードをしばらく歩いて、西浜中学校前に着いた。南湖なんごという地区だ。


 ここから脇道を抜け、信号待ちが長い国道134号線の横断歩道を渡った。


 茅ヶ崎に育って一度通ったかもわからない片側一車線、歩道はなく狭い路側帯のある道路に入ると、この街の名所が現れた。


 こんなところにあったんだ。


 そこにあるのは、中学校で習った東洋一のサナトリウム、南湖院なんこいん。道路からは建物が見えないので、どこからか漂う胸を締め付けるものに瞬時躊躇って敷地内に足を踏み入れた。

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