東海岸北の裏道
それでは打ち上げ場所までの道順を紹介しよう。レストランまで自転車の旅。左側通行、一時停止その他交通ルールを守って安全運転でレッツゴー。
わたしが住むマンションからは東海岸北五丁目のアスファルトが少々傷んだ高級でもなければ窮屈というほどでもない昔ながらの住宅地を進み、同四丁目の公園前を通過、子どものころはここの雲梯でよく遊んだ。昔は砂場の前にリンゴ、レモン、バナナの形をした椅子みたいなのがあったらしいけど、記憶が定かじゃない。
公園から70メートルくらい進んで右折、直進して道なりに左カーブ、右折して50メートルくらいで終わるくっそ狭い道を抜け左折、更に50メートルくらい先のT字路を右折、銭湯『月見湯』跡地の裏道を抜け、押しボタン式信号の横断歩道を渡ってファミレスを横目に広い裏道を直進、突き当たりを左折、すぐ突き当たって右折、線路に突き当たって道なりに左折、線路を見上げ、美容室を左に緩やかな坂を上りながら秋上踏切へ。同一方向の線路が2つ、計4つの線路が並ぶ複々線だから対岸が遠い。
カンカンカンカン。
おっと電車が来るようだ。しばし停止だ、カンカン鳴ってからは踏切進入禁止。警報器は遮断桿が下りると音が小さくなるのね騒音対策。
下り電車が颯爽と通過。さて渡れるかと思ったら上り方面の矢印が点灯。駅到着前に警報器が反応するから、ここから1キロくらい離れた茅ケ崎駅に停車する電車だと待ち時間が長くなる。なお、大都会茅ケ崎駅にはほとんどの電車が停車する。
中央の線路を15両編成の電車が通過したところでいちばん奥の線路に貨物列車が登場。車両を数えてみたら27両あった。長いわ。
5分くらい待ってやっとこさ開いた踏切を渡って坂を下り、再び鳴り出した警報器の音を背に裏道の交差点を左折、5百メートルくらい進んで一中通りとクロスする交差点を直進、業務スーパー、こんどは茅ケ崎と橋本を結ぶローカル単線、相模線の踏切待ちをして、目的地のレストランに到着。
この道順がわかる人はだいたい東海岸在住歴がある。もしくは熱狂的な茅ヶ崎ゆかりの有名人のファン。
「よっ、やっと来たか」
「おや陸くん。ほかのメンバーはまだかい?」
自転車置き場の隅っこに、黒いチノパン、白いインナーに黒いジャケットを羽織った陸がいた。
「どうせ沙希が遅刻すると思ってのんびりしてるんだろ」
「なんと失敬な。しかしまだ予約時間の30分前。ちと早く着きすぎたかもしれんな」
陸と付き合っているとはいえ、学校が別だしふたりきりの時間はそんなに過ごしていない。数日間隔で数十分の通話はしてるけど、直接顔を見て話す時間ができたのはうれしい。