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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
高校3年3月 最後の潮風登校
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未来への乗車券

 日が、日が暮れる……!


 なんだかんだ4時間昼寝して、10月から3月までは16時半に市内全域で鳴り響く『赤とんぼ』に起こされた。音楽のとおり、街は夕焼けこやけ。起き上がって窓から外を見ると西の空が紅に染まり、光の当たらない半島の東側が黒々としている。


 ああ、一日を流してしまった……。


 流れた時間は取り戻せない。流した時間は無理をした分の返済。そうわたしは頑張り過ぎた。毎日5時間くらいしか寝てないからその分のツケが回ってきたんだ。


 だが幸い打ち上げの時間までは余裕がある。寝坊しなくて良かった。


 ……制服、脱ぐか。


 別に制服のまま行ってはいけない場所には行かないけど、なんとなく、ね。


 惜しい、惜しい気持ちを抱きつつ、クローゼットの前に立ち、制服の中でいちばん着用機会が少なかったブレザーのボタンに手をかけた。


 ひとつ、ふたつ、ボタンを外す。


 寒い季節に温めてくれてありがとう。


 心の中で言ってクローゼットから頑丈なプラスチックのハンガーを取り出し、いつものように掛けた。


 さて、次はどちらに。


 迷いつつ手をつけたのは胸元のリボン。いつもはスカートから脱いでいたけど、今回はこっちだった。


 スカートは、JKの象徴なんだな。


 ちっちゃいときから巷のJKを見てそう思ってたけど、ここに来て、その意味を理解した。これからもスカートを穿く機会はあると思う。チアガールにもなるかもしれない。でも高校のスカートとそれ以外は、大きく異なる意味を持つ。




 JKって、そういうこと。




 脱いじゃったな、シャツ。


 視線はベッドに向いたまま。


 驚いた。身分とかそういうの、どうでもいいと思っていたのに、JKという身分にこんなにも華を帯びていたなんて。


 微かに痺れる指先で、スカートの掛け金を外し、チャックを開いた。


 何者でもない、わたしが生まれた。


 思い出したのは、ある初夏の曇った昼休み、校門前の錦鯉の池。さっき『こーんにちわー!』したところ。


 その隅っこで、ヤゴの殻を脱いだトンボともいえない生きものが、尻から水滴を垂らして翅を伸ばしていた。


 3時間後、部活で江ノ島へ走るときには翅が伸びていて、パッと瞬時に翼を広げた。


 江ノ島から戻った夕方には、脱け殻だけが残っていた。


 それから一月くらい経つと、アキアカネでも海岸や広場でよく見るウスバキトンボでもない、真っ赤なトンボが池の上を旋回していた。自由電子くん曰くショウジョウトンボというらしい。


 無防備で何者でもないわたしでも、華やかで、翼を広げ飛んでゆける。そんな可能性が、ほんとうにあったりするのかななんて、思ってみたり。


 陸みたいに明確な目標は未だないけど、誰もが持つと言われる未来への乗車券と、茅ヶ崎というグリーン券くらいは持っているのかもと、いつ花開くかわからない将来を夢見た、JKからの卒業だった。

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