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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
高校3年3月 最後の潮風登校
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若大将のリズム

 学校を出て東へ数十メートル、突き当たる一中通りの横断歩道。押しボタン式信号。


 9年間、いつも歩いてきた一中通りの狭いグリーンベルト。古びた欧風の元酒場は、いまはイタリアンレストラン、隣はずっと変わらずサーフショップ。


 茅ヶ崎を出るわけじゃないのに、侘しいのはなぜだろう。


 海と学校に背を向ける北への一歩一歩が、履き慣れたローファーの踵が磨り減って砂粒のようにくうへ消えてゆくようで、名残惜しい。


 去るときにその場所の良さを知るってやつか。


 だが並んで歩く私とまどかちゃんの後ろに武道が付いているからあまりムードがない。ありがとう萩園はぎぞのガードマン。


 心なしかゆっくり歩いて帰宅。誰もいない昼下がりのマンションの一室。


 制服、まだ脱ぎたくないな。


 厳密には3月末まで湘南海岸学院の生徒だから制服を着用する資格はある。でもきっと、これで最後なんだろうな。中学のジャージはまだ寝間着にしてるけど、制服は卒業式の日から着ていない。高校の制服もきっとそうだ。


 いや、そうかな?


 制服JKは乙女の象徴。フルーツの香りがする夢のような女子という世界的に奇跡的な存在である私が、ボロボロにもなっていない、まだまだ着られる制服をもう着ない選択をするだろうか。


 わからんな。


 スカートふわり、制服を着たまま、レースのカーテンを透過した陽光だけが照らす自室のベッドに仰向けになって白い天井を仰ぐ。どこかで見た構図のように、意味もなく手をまっすぐ上へ伸ばしてみた。


 うん、白いすべすべの手。日頃のスキンケアがものを言う。


 暫し静かな時間を過ごすと、何の気なしに小学校の校歌を口ずさんだ。高校の卒業式を終えたばかりなのに小学校の校歌。入浴中など、ふとしたときに浮かぶ若大将のリズム。


 手をそっと下ろして、目を閉じた。風の音、少し遠くの救急車のサイレン。


 眠い。夕方は自由電子くんも合流して打ち上げだし、ちょっと昼寝しよう。

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