錦鯉
「こーんにーちわー!!」
各教室にタッチ開閉式の重厚な白い鋼鉄製ドア、白いリノリウムの床、ダイヤルロック式のロッカーや靴箱、小、中学校と比べたらハイテクな湘南海岸学院ともいよいよほんとうにおさらば。わたしは校門前の大理石で縁を固めた泉水の前でまどかちゃん、武道と合流した。噴水池のようで噴水はない四角い池は縦横5メートルほどの四角形。中には錦鯉が数匹泳いでいる。
「なにやってんだよ」
池に向かって叫ぶわたしを訝しげに見るまどかちゃん。
「錦鯉さんたちともこれでお別れだから、最後の挨拶をね」
「おう、そうだな、俺も別れの挨拶するか! こーんにーちわー!! ほら、まどかも錦鯉たちに挨拶だ。世話になっただろ」
武道が叫ぶと怪獣の攻撃みたいでなかなかの迫力。
まどかちゃんはイヤなことがあると独りで大理石の縁に座って身をよじり、ぼんやり錦鯉を眺めていた。だが武道よ、それを見ていたと本人には言うべきじゃないと思うぞい。
「見てたのかよ。まあ、そうだね、あ、ありがとう、いままで……」
まどかちゃんは気恥ずかしそうに頬を染め、錦鯉に礼を言った。
「さて、それじゃ、行きますか」
「うん」
「だな」
わたしたちは学舎に背を向けて、校門のレールを跨いだ。