表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
高校3年3月 最後の潮風登校
141/273

抱えたり、手放したり

 卒業式が終わって、生徒は各々の教室に戻った。私はもちろん15組。ブブセラとエレキが四六時中響いた教室ともこれでおさらば。


 後れてまみちゃん含め全員戻ったところで最後のホームルーム。楽器音は響いていないものの、ガヤガヤ騒がしい教室。


「はい全員戻ったな、それじゃ解散!」


 おおおおおお!! と野太い声が響き、さっさと出るヤツは出て、出ないヤツは駄弁っている。なんとも呆気ない最後。


 まみちゃんはさっさと教室を出た。


 3年間、この最底辺クラスで学んだのは、ヤンキーは情が厚いとか面倒見が良いとか、そういうのはけっこう嘘だということ。そういうヤツもいるけど、底辺の底辺だとドス黒いオーラとか尖ったオーラが出まくってる。一つも長所を見出だせないクズだらけ。そういうものに、私はなりたくない。


 お世話になった机と椅子、ダイヤル式ロッカーとハコに内心で「ありがとう、お世話になりました」と礼を言って、私はあまり良い思い出のない教室を出て、屋上に上がった。ほかの学年は授業中で、卒業生の集団が3組いる。ぼっちは私だけ。


 フェンス越しにグラウンドと松林を見下ろし、空を仰いだ。


 雲が流れる青空の下、風に靡くブレザーとスカート。春先は止め処なき愛を抑えられない杉が踊り狂って全身花粉まみれ。気高き富士山は霞んでうっすら。海は松林に隠れて見えない。


 そういえば、茅ヶ崎の松林を見下ろす機会はこれが最後かもしれない。そう思うと、なんだか尊い。


 今日明日で茅ヶ崎の街が一変する可能性は低いけど、私が見る景色のレパートリーはいくつも減って、代わりに新しい景色が加わる。人生って、その繰り返しなんだなと、幼稚園から高校まで卒業して気付いた。


 さて私の今後でございますが、まみちゃん主催の茅ヶ崎エンターテインメントフェスティバルが来月に控え、演劇に作詞作曲に大忙し。高校卒業という区切りの向こうも地続きで、大まかな人間関係は変わらない。福島から来るめぐるちゃんが輪に加わるかもしれないのは楽しみ。


 ただ、私とまどかちゃんと武道が卒業して、自由電子くんだけを残してゆくのは心苦しい。あの子は付き合う人をめちゃくちゃ選ぶ。教室ではぼっちを貫いているという。


 オープンで余計な交遊関係まで築いて、それが煩わしくて少しずつ距離を置いてきた私がぼっちを否定する気なんてさらさらないけど、一つのハコの中に心許せる相手が一人でもいたら心強いのは確か。


 私にとってはこれが卒業の心残りで、まどかちゃんはもっと心配してると思う。


 自由電子くんだけじゃなくて自分自身に関する不安もあるけど、そういうのを抱えたり、手放したりしながら、楽しい、幸せだって思える人生を送っていきたいフルーツの香りがする夢のような女子であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=50222365&si

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ