小さな旅の終わりに
「さあさあさあ皆さん、湘南の定番スポットを紹介してきましたが、どこか忘れている、なんて思っていませんか? え、最初から見てない? 飛ばし見した? ここで切る? いやちょっと待って、最後にここだけはやらせて」
と言われると切りたくなるのが視聴者の性。
16時30分、一日中続いた動画撮影も、いよいよ最終スポット。新江ノ島水族館に行って、敢えて昼間は行かなかった湘南の定番スポット、江ノ島に僕らは上陸した。
沙希さんはサムエル・コッキング苑内、シーキャンドルを背景に、視聴者に向けて切実なお願いをしている。
「ということで、やって来ました江ノ島シーキャンドル! ご覧ください灯台全体がイルミネーションぴっかぴか! ここは江ノ島の象徴ともいえる灯台で、だいぶ遠く、たぶん東は横須賀、三浦、西は20キロくらい先の国府津か小田原くらいまで届くんじゃないかと思います! え、北は? うーん、茅ヶ崎の殿山公園くらい? ラーメン屋さんの登夢道の近くね。何しろ住宅地と山で光が遮られちゃうので。ちなみに南には伊豆大島があるけど、60キロくらい離れてるから見えないんじゃないかな。それではいよいよ、中へ入ってまいります」
ということで、僕らはシーキャンドルの展望台に上がった。騒ぐと迷惑なので、ナレーションは後付けするらしい。
僕は景色と、それを眺める沙希さん、まどかさん、つぐみさんを預かったスマホに収めつつ、自らも相模湾の更に向こう、富士山の左側へ沈みゆく夕陽を眺める。いわゆる左富士だ。
紅の光線は海を煌めかせ、一直線に僕らを照らす。
東の果てに沈んだ陽は、次の街へ、また次の街へ、西へ西へと朝を運んでゆく。そしてたった半日で世界を一周して、またこの街に朝が来る。
沙希さんが動画にナレーションを入れるとしたら、こんな文言だろうか。彼女は表向きバカで、胸の内は不安に怯える繊細なロマンチストだ。
「陽が沈みましたな。だが星たちがトゥインクル&シューティングして半日後には朝が来るぞい!」
「そろそろ帰るか」
「帰ろっか」
沙希さん、まどかさん、つぐみさんの順で言った。
「自由電子くん、きょうは一日ありがとね! 君に幸あれ!」
「いえいえ」
「いえいいえい! ハッピーは素直にイエスイエス!」
「いえすいえす」
沙希さんに応じた僕を見て、まどかさんがクスッとした。
良かったらまたこうして遊びたい。想いを秘めつつ電車を乗り継ぎ、不確定な次への期待と孤独への不安を織り交ぜて『希望の轍』が流れる駅に降り立った。