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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
小さな旅:藤沢、江ノ島・鎌倉
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鉄ちゃん坊や

 沙希さんに呼ばれ、小さな女子旅の撮影係として参加している僕。なんでも「茅ヶ崎は思いっきり湘南だけど、全国的な湘南のイメージは江ノ島とか鎌倉辺りだから、たまにはご近所紹介の旅に出ようじゃないか」とのこと。


 報酬はみんなの笑顔とかやりがいなどではなく、交通費飲食代全額支給に加えてフルーツアソート。


 僕らはいま江ノ電に乗っているが、どこで降りるかは聞いていない。江ノ島駅で購入したフリーパスを利用しているので乗降自由。


 電車は現在、路面区間をゆっくり慎重に走行している。路面電車といえば、全国的には広い道路の中央部を走る路線が多いが、江ノ電は線路の両サイドにようやく自動車1台収まる程度の車線があり、昭和風情漂う店舗がぎっしり軒を連ねる狭い道の中央部をゆく。自動車が線路にはみ出てきたり、至近距離で自転車が並走したりとなかなか危険だが、ぶつかって痛い目に遭うのは電車に当たるほうだろう。


 車内で派手に撮影すると周りの迷惑になるからやめておくぞよと言っていた沙希さんは大人しく運転台を眺めていたところ、鉄道が好きな中学生くらいの少年に絡まれた。


「この電車、1000形といって1978年に登場したんですどねぇ、ブルーリボン賞を受賞しましてぇ、40年以上も藤沢と鎌倉をひたすら走り続けていてですねぇ、40年といえば東海道線の特急踊り子や湘南ライナーで大活躍している185系も1981年登場でナウいヤングパワーのキャッチコピーで爆音を轟かせてですねぇ……」


 などとマシンガントークを浴びせられていた。対して沙希さんは、


「踊り子! 乗ったことある家族で伊豆お泊まり! 宇多田うただヒカルじゃないよオートマチックじゃないよ伊豆お泊まり! ところで鉄ちゃん坊や、お主はレイルウェイワーカーになりたいのかいドリームスカムトゥルー?」


「確かに僕の未来予想図の中に動力車操縦者つまり電車の運転士という構図はありますが鉄道会社は狭き門。勉強を頑張ったからといって適性がなければ入れない世界。逆にいえば適性さえあれば万年赤点製造機でも入れないことは全然ないそうでしかしそれはどの鉄道会社のお話なのかは未知数でありまして勉強もできて適性もなければ更にコミュニケーション能力もなければ入れないなんて会社もザラであったりしてつまり奥手でコミュニケーションが苦手な慎ましい僕にはいまのままでは到底手が届かない業界でありしかし夢を叶えるにはそれなりの手応えがなければ面白くないのもこの世の常でありましてつまるところ僕は鉄道員になる夢は諦めない所存でありますんですねぇ」


「そうかいそうかい頑張ってくれたまえ」


 ぽんぽんと、沙希さんは鉄ちゃん坊やの肩を叩いた。


 コミュニケーション能力は低いがよく喋るガキだと僕は思った。それに付き合えている沙希さんのコミュニケーションは高いと思った。僕だったら、はぁ、そうなんですか、と受け流して、早く話を終えてほしくてムズムズするだろう。沙希さんの面倒見が良くて聞き上手なところを、僕は尊敬している。


 ムオオオンと電車は独特の駆動音を轟かせ、狭い住宅地のきついカーブを抜けると、国道134号線と並んで陽光きらめく相模湾に面した区間に出た。何度も見ている景色だが、少しばかり心が躍る。

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