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明日晴れるかな

「ほいじゃさらば」


 言いたいことを言って気が済んだのか、河童は謝罪もせずに消え失せた。私たちは横断歩道を渡って市民文化会館の前に差し掛かった。つい先日、湘南台しょうなんだいの図書館にバニーガールが現れて茅ヶ崎も登場したあの大人気青春アニメのイベントを催した会館だ。


 道路の向かい側には中央公園がある。この辺りは人通りが多く、ほかの地域と例外なく多くの自転車が速度を落とさず歩行者の合間を縫ってゆく。歩行者と自転車の通行帯があるものの、両者それを無視している。私たちは通行区分をちゃんと守って三角形になって歩いている。前がまどかちゃん、自転車通行帯側が私、内側がつぐピヨ。


「河童さん、きっと寂しかったんだね」


 つぐピヨが言った。


「んだね、構ってほしくて周りの人を巻き込む老人だね」


 西久保には本家の河童がいるのかいないのか、いても上手くいっていないのか。なら仲間がいる幽世かくりよに成仏したらとも思うけど、たとえ孤独でも住み慣れた茅ヶ崎を離れたくないのかもしれない。


「知ってる人がみんな死んじゃって、自分一人だけ取り残されたら、それはどんなにつらいことなのかなって、私思ったの」


「きっとそれはそうならないとわからないだろうし個人差もあるだろうけど、河童の場合はそれが耐え難きことであると。その悲しみは計り知れないけど、適度に構ってあげるくらいならね」


「ま、わかんないもんだからな。陽気に見えるヤツでも抱えてるモンはあって、悟られないように笑顔振り撒いたりしてさ」


 まどかちゃんは河童の話をしながら、私の話もしている。私の機微に気付いて、気にかけてくれている。胸がつかえて返す言葉が見つからなかった。


 市役所分庁舎の横を通過し、国道1号線と交差する地下道を抜け、解体工事中の家電量販店横の歩道を歩く。家電量販店は解体が終わると新店舗の建設工事に着手するらしい。またひとつ、茅ヶ崎の歴史が塗り替えられてゆく。


「そうだ、カラオケ行かない?」


 暮れ泥む街で唐突に提案。最近エンターテインメントフェスティバルの練習以外で歌っていないから、何か他の人の曲を歌いたくなった。


「いいね、行こうか」


 つぐピヨが乗ってきた。


「うん」


 まどかちゃんの賛同も得たので、私たちは北口の東西に伸びる車道が石畳の商店街、エメロードにあるカラオケ店に入った。


 2時間コースでドリンクバーを注文。私はいきものがかりや the peggies が得意。まどかちゃんは絢香あやか中島なかしま美嘉みか、つぐピヨはそんなんじゃダメとか、もっともっととか、そんな感じの曲をアニメ声で歌っていた。知らない曲だったけどクセになるフレーズ。男はああいうのに弱いんだと思う。


 そして茅ヶ崎市民の間ではカラオケでほぼお約束になっているサザンオールスターズもしくは桑田さんも。私はマンピーを指差し振り付きで、まどかちゃんは『明日晴れるかな』、つぐピヨは『夏をあきらめて』を歌ったんだけど、先ほどのアニメ声とは一転、艶っぽい声で妙に色気があってゾクッとした。

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