初日の出とホットミルク
「あ~、あったまる~」
明けましておめでとうございます。フルーツの香りがする夢のような女子、白浜沙希でございます。ただいま1月1日、まだ薄暗い6時半でございます。
5時まで音楽番組を見ていて寝不足の私と、まどかちゃん、つぐピヨ、陸、自由電子くん、武道はコンビニで買ったホットミルク(レジ横のコーヒーマシンから専用の紙コップに注ぐやつ)を飲みながら、ラチエン通りを海に向かって南下中。そう、これから初日の出を見るのです。
私が先頭、自転車を引く武道が最後部。通行妨害にならないよう一列になって進む。歩道がない一方通行と見間違えるくらい狭い道だから広がると自動車や追い抜きたい人にとってすこぶる迷惑だけど、周囲の連中はそんなの関係なしに広がっている。例年と変わらず路上駐車もウジャウジャ。赤信号、みんなで渡れば怖くなくても悪は悪。悪しきことは控えよ。
だがしかし、こやつらも新しい年の始まりに胸を踊らせているのであろう。そしてご来光を浴びご利益にあやかろうとしているのであろう。
武道は遠く萩園から東海岸まで自転車で来た。去年は遠方から来てもらうのは悪いと思って誘わなかったら寂しそうな表情をしたので今回は誘った。
「ホッとするね」
「いつもコーヒーだけど、ミルクもいいね」
ホットミルクにコメントするつぐピヨ、まどかちゃん。男性陣は黙々ちびちびと吸い込んでいる。
思えば私、生まれてはじめて外でホットミルクを飲んでいる。私がホットミルクを飲むのはだいたい寝る前。電子レンジのホットミルクボタンを押すとちょうどいい温度に仕上がる。朝はフルーツでビタミンを補給、夜はカルシウムとラクトフェリンを補給して眠る夢のような女子、白浜沙希。
ラチエン通りを歩くこと10分、国道134号線に突き当たる松の間から烏帽子岩が大きく見えるスポットまでやって参りました。信号が青になったら暴走車が来ないかよく確認しながら横断歩道を渡り、砂浜へ降り立った。
雲一つない朝焼けの空、凪ぎの海、はしゃぐ人々、群れで飛ぶハト、一羽のカラス。今年も変わらない、茅ヶ崎の元旦。
「そろそろ、そろそろ陽が出るぞいっ」
山の向こうの空がオレンジからみるみる白んで、光が差してきた。今年も十人数人のサーファーが肩を組んで海に浸かり、ご来光を待っている。
「出る出る出る出るッ! 出た!」
私だけ虚しく喋ってるけど、とにかく陽が出た!
今年は高校卒業の年。人生の転機。どんな未来が待ち受けているかわからないけど、進むしかない!
両手に抱えた紙コップの牛乳を飲みながら、私たちは今年もきらめく一直線の光を浴びた。
◇◇◇
その頃、福島県、猪苗代の巡は___。
「さむさむさむさむしばれるこれはタヒぬる……」
外は大雪、家の中も氷点下。初日の出など見られるわけもない。布団の中に染み入る冷気は、容赦なく巡のからだを冷やしてゆく。
「ホットミルクでも飲むかあ」
むくりと布団から起き上がった巡。薄暗い家の中で灯りも点けず、巡は美少女アニメのキャラクターが描かれたマグカップに酪王牛乳を注ぎ、電子レンジで温めて飲んだ。
「ふは、凍死は免れたンゴ……」
巡は冬の間ほぼ毎日、こうして凍死の危機を乗り越えている。