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河童のいる街、茅ヶ崎

 バスを降りて、閑静な住宅地から海辺の国道へ続く細い道を辿って海へ出て、波間にとろとろまばゆくとろける夕陽が沈むのを見たら、沙希ちゃんとまどかちゃんが通う学校を横目に、英国のお城みたいなレンガ造りのお家やおしゃれなブティック、レストランのある通りを歩いて、時計回りでバス停の前にある沙希ちゃんが住むマンションの前に戻った。


 ああ、なんておしゃれな街なんだろう。


 ふくすまの田舎で育ったわたすが、こんなハイカラな暮らしさできるかね。


「うち寄ってお茶でも飲んでって! めちゃくちゃ美味しいほうじ茶あるから」


 という沙希ちゃんの誘いで、お家におじゃまさせてもらった。玄関は暗い。奥のほうは灯りが点いている。誰か家族がいるんだ。


「ただいまー」


 沙希ちゃんに続き、私たち三人は「おじゃまします」を言って、部屋に上がった。


「え……」


 思わず声が漏れた。つぐみちゃんはビクッと軽く仰け反った。沙希ちゃんとまどかちゃんは動じていない。


 リビングの中央にテーブルがあり、座布団には全身緑色で円形脱毛した頭だけ黄色い人があぐらをかいている。菱形に整えられた髪も緑。


 河童かっぱだ。沙希ちゃんのお父さんかおじいちゃんがコスプレしてるのかな。


 何にしろ、おしゃれな湘南、茅ヶ崎のイメージとは相反するディープなビジュアル。


「よーお、帰ったか!」


 河童がこっちを見て、私たちに話しかけてきた。


「帰ったよー! 何してんのー?」


 平然と会話している沙希ちゃん。いつもの光景なのかな。


「キュウリの香りに誘われてな、来てみたんだな」


「へーえ、どうやって入ってきたの?」


 どうやって入ってきたの? どういうこと?


「あの、沙希ちゃん、こちらの方は……」


「ん? 全然知らない人」


「全然知らない人!?」


 え、なに、なんで全然知らない人と普通に話してるの!?


 しかし驚いたのは私だけだった。


「なんだ嬢ちゃん、アンタ、福島の出かい?」


 怪しい河童が私の目を見て話しかけてきた。


「え、あ、はい、そうですけど……」


「やっぱりそうかい、その訛り、会津のほうだね」


「え、あ、はい、猪苗代ですけど」


「猪苗代! 猪苗代といえば野口英世か! だがやっぱりあの辺と言やあ小原おはら庄助しょうすけさん! いいねえ! 朝寝朝酒朝湯! これに勝るもんはねえ! そうだ、会津といえば酒どころ、持ってないかい? ほまれ花春はなはる末廣すえひろ!」


「未成年なので」


「会津じゃないけど、福島の飯坂温泉から買ってきた日本酒ならあるよ」


 と、沙希ちゃんは右後ろのキッチンにある冷蔵庫から飯坂の銘酒『摺上川すりかみがわ』火入れの瓶を取り出した。しかも‘むすめ仕様’の限定ラベル!


「おお、嬢ちゃん気が利くなあ!」


「え、いや、ちょっと待って、不法侵入だべこれ? 警察呼ばないと」


「おうおう嬢ちゃん、そんな警察なんて、滅多なことで呼ぶもんじゃねぇ、空き巣にでも入られたか?」


「あ、あ、あっ、あなたが空き巣でしょ!?」


「いやあ、俺は何も盗んじゃいねぇ、まだキュウリも食ってねぇ」


「でも不法侵入」


 みんなすんなり河童を受け入れてるけど……。


「もしかして茅ヶ崎って、そういう街?」


 河童を除く三人に訊いた。


「そういう街って?」


 沙希ちゃんは質問の意図を理解していない。


「不法侵入オッケー、みたいな?」


 まどかちゃんは理解している。


「そう、そうそう。不法侵入オッケーなの?」


「ううん、そんなことないよ。でもこのおじさん、悪い人じゃなさそうだから」


 穏やかに笑むつぐみちゃん。


「いやいや、そう見せかけてナイフとか持ってたり」


「それは大丈夫だよ。だって、ほら」


 沙希ちゃんが指差した先には、ロン毛のゾウさんがいた。


 この人、全裸だ。緑に塗りたくっているだけで全身の何もかもを隠していない。


 お父さん以外のを見たの、はじめてだなあ……。


 って、そうじゃない! なんか私もこの変態エロガッパを受け入れつつあるけど通報案件!

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