自由電子、孤独にグルメ かもらーめん編
あ、白浜さんと門沢先生と、知らない人がお店から出てきた。
登夢道の裏手奥の住宅地寄り、バイパス側のスペースに自転車を停めたところで、僕は彼女たちの姿を認めた。横断歩道手前まで歩き、信号が青になってから渡って駐車場へ。横断歩道手前ながらも道路を渡ってしまう人が多い中、安全行動だ。
さて、お店に入ろう。
「いらっしゃいませー」
「こんばんは」
お店の奥さんに出迎えられ、手のアルコール消毒と検温を同時に行うと、券売機の前へ通された。
「いらっしゃいませー」
今度は店主さんに声をかけられた。同じく「こんばんは」と返した。
さて、今回のお目当ては……。
券売機のボタンを押した。あと、ネギ、味玉、小ライス、‘かもチャ’を追加。
ウォーター&ビールサーバの左横のカウンター席に着き、注文を聞きに来た奥さんに内容を伝えた。ライスはすぐに来たが、まだ手をつけない。
「お待たせしましたー。かもらーめん味玉トッピングかもチャ増し、ネギは別皿です」
「いただきます」
奥さんが運んできたのは、『かもらーめん』の、ちぢれ麺タイプ。細麺タイプもある。
艶のあるちぢれ麺が沈む醤油ベースのスープには、小さな鶏団子が4つ、なると、水菜、メンマ、味玉(これはトッピング)、そして、厚切りの鴨肉スライスが3枚。
立ち上る湯気、ほのかな出汁の薫り。
さて、いただきましょうか。
まずはれんげでスープをすくい、垂直にして吸い込む。
嗚呼、染み渡る、嫌味のないほのかな魚介の薫り。味はしっかり濃いめ。
カウンター上の割り箸立てに差し込まれた袋入りの割り箸を手に取った。これが上手に割れると、ちょっと気分がいい。
割り箸を横向きにして、上下に裂く。
うん、割れ具合はなんとも言い難い80点くらい。
気を取り直して、水菜を一口、続いて麺をすする。
おお、ちぢれ麺にスープがよく絡む。
つるつる、つるつる、箸が止まらない。
ちょびちょびとネギを織り交ぜて、麺がみるみる減ってゆく。
腕が疲れてきたので、ここで箸休めの鶏団子をいただく。
うん、一口サイズで食べやすい。
みりん醤油に漬け込まれたメンマも、上品な味。
おっと、もう麺がほとんどない。
ではここで、ライスにスープをかけ、鶏団子を2つ、水菜、味玉、別皿のネギを載せる。贅沢なラーメンライスだ。
箸で味玉を中央から割ると、半熟の黄身がとろり溶け出し、スープを伝ってライスの一粒ひと粒を包み込んでゆく。
それをれんげですくって、いただきます。
は~あ……、これは間違いない。
このまま一気に、米粒一つ、スープ一滴残さず掻き込んだ。
さて、それではメインへと参りましょうか。
ん、あれは……。
ふと目に留まった、卓上調味料の七味唐辛子。
これをほんのちょびっと、鴨肉1枚にかけてみた。
まずは七味をかけていない鴨肉をいただく。
あぁ、このやや硬めだけど噛みやすい絶妙な歯応えの鴨肉から滲み出るトリュフの旨味が、口いっぱいにこれでもかと広がる。
それでは七味をかけたほうも……。
ほわっ……、七味の爽やかな香辛料が鴨トリュフチャーシューの旨味を引き立てて、鼻へ突き抜ける。
美味い、旨い、巧い……。
少しずつ食べたけど、幸せな時間は刹那に過ぎゆく。
わずかに残ったスープを飲み干して、
「ごちそうさまでした」
どんぶりとネギの皿を、カウンターの上に上げた。
「ありがとうございましたー!」
ご夫妻にゆるりと会釈して、おもむろに店を出た。
目の前の道路や、頭上の高速道路をゆく自動車やバイクの音。
少し火照ったからだを冷やす、乾いた風。
街の喧騒に溶け込み僕は、美食の余韻に浸り自転車に跨がった。