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本村地下道

「じゃあねー、また明日ー」


「きょうはありがとうございます。また明日。まみちゃん先生も、お世話さまでした!」


「おう、茅ヶ崎楽しんでってくれ」


 登夢道とむどうからクルマで20分、ここまでホームセンター前にある相模線の踏み切り待ちや、国道1号線に突き当たる長い信号待ちを経てやっとこさ、巡ちゃんの宿泊先であるビジネスホテルのはす向かいにあるピンクのビル前に到着。まみちゃんは農協の正面、交差点から約20メートルの地点にクルマを停めて巡ちゃんを降ろした。ピンクのビルには湘南江の島タコせんべいの店や百円ショップなどがテナント入りしている。ほんとうはホテルの前で降ろしてあげたかったけど、そこは丁字路の真正面、駐停車禁止箇所なので仕方ない。


 巡ちゃんが横断歩道を渡って無事ホテルの中に入るのを見届けてから、まみちゃんはクルマを出した。私は後部座席の右側から空いた左側にずれて、シートベルトを締め直した。


 この辺りは一方通行が多く、線路の向こうにある家に帰るには、ちょいと複雑な道のりになる。いくつかある道順のなかで、まみちゃんは少々の渋滞の中、国道1号線を辻堂方面へ5分、本村ほんそんまで進み、水泳教室がある交差点を右折、坂を下り、線路を潜って茅ヶ崎の南側に出る。


「巡は進路決まって茅ヶ崎を下見しに来たみたいだが、沙希はどうすんだ。まだ希望調査出してないだろ、〆切過ぎてるのに。ま、うちのクラスの奴らは誰一人出しちゃいないが」


 地下道の手前に差し掛かったところで、渋滞にはまった。クルマは徐行と停止を繰り返し、少しずつ地下へ進入している。


「だって、無難に進学とか就職とかしたって、夢も希望もないじゃん」


「真理だな。教員免許でも取るか?」


「やなこった。まみちゃんみたいな教師、これ以上抱えるキャパないでしょ」


「おいおいこんな自堕落になるの前提か? まあでも、そうだよな、大人になるのに夢も希望も持てない。模範的な回答だ。私の親世代なんかはそれなりに景気が良くて、バブルもあって、憧れの大スターだっていた。だから、大人になるって、キラキラして、妖艶で、憧れで、手を伸ばしたくても届かない、高貴なものだった。


 だが、時代は変わった。


 私が職業を考えるころにはリーマンショックがあって、低賃金、長時間労働、ブラック企業なんて言葉が飛び交うようになってきた。日本の未来は、世界が羨むようなものには、到底及んじゃいない」


「よくわかってるじゃん」


 正に人生が本村地下道。大雨降ったら冠水まっしぐら。地下道なら抜け道はあるけど、人生の地下道は抜け道があるのか。近道はなさそう。


「私のころと今では、そんなに変わっちゃいないからな。進路希望調査だって当然〆切突破、とりあえず近くのFラン大学に行って教員免許取って、校長の弱みを握って今に至る」


「校長の弱みかぁ。私も誰かの弱みを握るか……。いや、それはハッピーライフへの道ではない」


「そうだな。ハッピーライフの道じゃない。とりあえずカネをもらうためにしたことだ。夢はあったが、叶わなかった」


「え、まみちゃんに夢なんてあったの?」


 こりゃ驚きだ。流浪の茅ヶ崎ヤンキーかと思いきや、叶えたい夢があったとは。

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