登夢道、いわしらーめん
「お待たせしました~」
座敷席で待つこと10分、奥さんが私のもとへ運んできてくれたのは、数量限定メニュー、いわしらーめん。SNSでの告知を見て、食べてみたいと思っていた一品。追加で小ライス、輪切りネギと味玉も。
続いてまみちゃんには看板メニューのもやしらーめん醤油、中盛り野菜多めニンニク多め肉2枚増し、瓶のコーラ。巡ちゃんは特製らーめん塩こってりタイプ。
「いわしか。美味いよな」
「まみちゃんもう食べたの?」
「あたぼうよ。もう3杯は食ったな」
「美味しそうですね」
「一口どうぞ~」
「いいんですか? じゃあお言葉に甘えて」
巡ちゃんに麺とスープを少々と、3個あるつみれを1個あげた。
魚介油なのか、少々黄色い澄んだスープに、つみれ、厚さ1センチ弱の鶏肉スライス、水菜、メンマ、なると、トッピングのネギ、味玉が乗っている、オリジナルちぢれ麺メニュー。
「おお、高級な味……。このちぢれ麺と、塩とも醤油とも言い難いやさしいスープ、まるで高級な喜多方ラーメン……」
巡ちゃんの出身地、猪苗代はラーメンの街、喜多方の近くに位置している。私もいつか本場の喜多方ラーメンを食べてみたい。
「ほお、高級な味とな。私も食べてみよう。いただきます」
スープを一口含み、麺をすする。
「ふは~あ……」
うんまい……。
青魚出汁の、まろやかだけど旨味の染みたあっさりスープ。シャキシャキ水菜もいい感じのアクセント。好みによりトッピングでゆずピールがあってもいいかもしれん……。
つみれも旨味が染み込んでるけど、魚介出汁の味がほどよくて、しつこくない。
筋が通ったコシの強い細麺をすすり、半分くらい食べたところでれんげでライスにスープをかけ、つみれ、水菜、ネギ、味玉を乗せる。
ああ、うんまい。これは美味い。やさしい味のスープにネギと水菜のシャキシャキしたアクセントが心地よい。
「へえ、ラーメンって、こういう食べ方もあるんだ」
お鍋のシメをイメージした私のオリジナル茶漬けを不思議そうに見る巡ちゃん。
「ラーメンライスだよ。ライスにスープをかけて、トッピングにネギ、メニューによってはコショウをかけると美味しかったりする、魅惑の味」
「ら、ラーメン、ライス……。お店の人に嫌がられそうでやりにくい、ラーメンライス……。それは正しく、禁断の組み合わせ……!」
「登夢道さんは大丈夫。ほかのお客さんもやってるの、けっこう見るよ。ね、まみちゃん」
「そうだな、私は辛味噌スープにライスぶっ込むのが好きだ。あれにビールがあると最高だな」
「寛大なお店なんだね」
「そうだね、もちろんスープ本来の味を壊さないようにするけど」
「そこは礼儀だね」
「んだんだ」
「福島弁かよ?」
かよ? のイントネーションが標準語のそれじゃなくて、かな? と同じ。巡ちゃんのイントネーションはほとんど標準語だけど、いくらかの訛りが垣間見える。
「ん? そうなん?」
「この辺のヤツらは言わないな」
と、箸でもちもち太麺を持ち上げるまみちゃん。
「そういえばそうかも。どこかで刷り込まれた福島の言葉……」
フルーツの香りがする夢のような女子、白浜沙希。フルーツ大国ふくしまとは、何か見えないチカラでつながっているのかもしれない。
福島との運命のような何かを感じつつ、再び麺をすする。他のメニューにも入っているけど、ミリンと醤油の味がしっかり染みつつもさっぱり後味なメンマも美味。
「ふーう、ごちそうさまでした」
ライスも追加したのに、スープまで完飲、完食。ほぼ同じタイミングで巡ちゃんも完飲完食。
「ふはー、美味しかった。ごちそうさまでした」
「よおし、私も完まくしたぞ。あとは追加でギョーザ6個とネギチャーシュー丼だな」
ふむふむ、やっぱりまみちゃんヤバいな。