モンキーミーツフルーティーガール
「ウキーッ! ウキウキウキーッ!」
「おい、バナナ食うか? 持ってないけど」
「ギイイ! ギイイ!」
「ななな、何やってるんですかっ! 野生動物挑発しちゃだめですよ!」
「ごめんつい」
「私らはレベルが同じだから、心が通じ合うんだ」
「フシャギーッ! ギヒャアアアッ!」
「いやいや、どう見ても敵意剥き出しで怒ってますよ!」
登夢道の開店時間まで少し時間があるので、私たちはさっき富士山を見ていた田園地帯のそばにある森に徒歩で立ち入ってみた。クルマは邪魔になりにくい場所に駐車。
なんで森に立ち入ったかって? そこに森があるからだよ。
車一台がギリギリ通れる幅の道は舗装こそされているものの、ガタガタで凸凹。しかも自転車のギア1で登れるか登れないかくらいのキツい坂。四方八方を高い木々に囲まれた原生林のような場所。ぶっとくて長い根っこが剥き出しの木もけっこうある。
そんな緑いっぱいのじめじめした森の中で、私たちは一頭のニホンザルに遭遇。日が暮れてきて不気味に暗い森で、顔真っ赤のモンキッキに出合った。もしや私から漂うフルーツの香りに誘われた? イヤン食べられちゃう。
そういえばいつしかこの近く、藤沢市城南でサルの目撃情報があった。この子は食べものを求めて移動中なのかな?
せっかくだから腕を広げ曲げて上げるゴリラのポーズで挨拶をしたら、お猿さんが「ギヤアアア!!」と返事をしてくれた。
あ、これアカンやつや。サルと遭遇したら放っておくのが鉄則。サルに遭ったのなんか初めてだから、そんなこと忘れてた。
「困ったなぁ、フルーツは家にいっぱいあるけど、野生動物にモノをあげちゃいけないんだよね。第一連れて帰っちゃアカン」
「……」
あ、お猿さんしょんぼりした。俯いてる。がっかりしてる。
「おい、サルが黙ったぞ。そんなにバナナ欲しいのか?」
「ペッ!」
「おいてめえ何しやがんだコラ!!」
思わせぶりなまみちゃんに怒り心頭のお猿さんは、彼女に向かって唾を飛ばしてとことこと四足歩行で森の中へ消えていった。食いもの持ってないヤツに用はないってか。そりゃそうだ。
「ったくあのサル、唾ぶっかけて逃げるとかクソガキかよ」
日が暮れて、田園地帯の広い空は瑠璃色、いちばん星きらきら。クルマに戻ったまみちゃんは、シートベルトを装着しながら文句を垂れた。
「クソガキみたいなもんでしょ。サルだし。引っ掻かれなくて良かったじゃん」
「引っ掻かれたら引っ掻き返してやる。一億万倍返しだ」
「あのー、茅ヶ崎の人たちって、いつもこんな感じなんですか?」
「そうだな、サルには滅多に会わないけど、人間同士ではこんな感じだな」
「ちゃうわ。それ低能な連中だけだわ。あたかも茅ヶ崎全体がそうみたいな言い方をしないでいただきたい。でもくだらないことでわいわいしてるのは確か」
「ふむふむ。低能はそういうことをする。うん、福島もそんな感じだからそのへんは変わらないか」
福島も、飯坂の人たちは茅ヶ崎と似た雰囲気があった。巡ちゃんは飯坂が大好きだから、茅ヶ崎でも同じように馴染んでくれたらいいな。