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童話系

スノウスクール

1、

 私の名前はイヨといいます。今日で六才になりました。永遠の友紀国の真中山で雪おんなのお母さんとペットの雪うさぎとくらしています。私は大きくなったら、お母さんのように立派な雪おんなになりたいと思っています。そのために、私はお母さんに教えてもらって雪を降らせる練習を少しずつしています。

 雪のふらせ方はこうです。

 ちゃんとやり方があります。

 まずは、

一、お母さんの手作りの細かい氷のかけらで織った白い着物を着る。

二、お母さんの手作りの樹氷と霜が入った白い帯をつけて髪を下ろす。

三、まっすぐに背を伸ばし、息を整える。

四、手のひらからまず小さな雪の粒をだす。

 私は、三まではできます。四からはむつかしいです。四の通さな雪の粒を出すために、私はお母さんに私だけの特別のじゅ文をもらいました。それでも、できません。右の手のひらが、冷たくなり、小さな雪の粒が出るぐらいで終わってしまいます。

 お母さんによれば、四ができたら、五、六、と、もっと続きがあるそうです。

 私のお母さんは手のひらからも手のこうからも、気が向けば口からも。身体のどこからでも、どんな形の雪でも氷でも吹雪でもだせるスーパー雪おんなです。お母さんの仕事はもちろん雪を降らすことです。お天気の神様の命令で世界中どこへでも、雪ぐるまを操って雪を降らしにいきます。お母さんは自分でも空を飛べるので、近くの山で雪降らしをするときは、そのまま飛んで行ったりします。とてもかっこいいです。空の上から、広く、山の上から下までまんべんなく雪を降らせるのは、むつかしいらしいです。へただったら、一か所だけ大雪で、あとは雪が積もらないのです。大きくなったら、私もお母さんのようなスーパー雪おんなになりたいです。

 私はまだ小さいし、まだまだです。お母さんに作ってもらった私だけのじゅ文はこうです。

「スノウノウ、スノウノウ、フウワリフワリ、ラララララ!」

 息を吐きながら、いうのです。それでも三粒ぐらいの雪を出すのがやっとです。簡単そうですが、私にはむつかしいです。

 お母さんと雪うさぎたちは、だれでも最初から上手にはできない、まずは丸くてふわふわの雪を出せるようにしようねとはげましてくれます。


 私のたんじょうびのお祝いに、お母さんは真っ赤な南天の実に白い雪がかかった手作りのかみかざりをくれました。私の黒いかみによくにあうとほめてくれました。それから、こおりパイを作ってくれました。こおりパイは、とうめいのこおりパイ生地の中に、あまくてシャリシャリしたいちごが入っています。それと雪のあんこ入りのおまんじゅうと雪あられの塩味もありました。はちみつ入りのかきごおりも作ってくれました。氷マンゴーのトッピングもあります。おいしく食べていたら、お母さんが言いました。

「イヨちゃん、あなたは六さいになりました。いずれこの家を離れて本格的な雪のふらせ方を勉強する学校へ行かねばなりません。それをスノウスクールといいます。いろいろな雪のふらせ方のお作法や、儀式を教えてもらう学校のことですよ」

 私はそんな学校があることを知りませんでした。私は雪うさぎたちをぎゅっと抱きしめました。

「私はずっとこの家にいたいなあ」

 お母さんは、ほほえみました。すると家の気温がより下がって居心地がよくなりました。

「イヨちゃん。スノウスクールで勉強しないと雪おんなの資格がもらえませんよ。お母さんもスノウスクールの出身ですよ。そこでお友だちができましたよ。楽しいわよ」

 私にはだれもお友だちがいません。雪ふらしの練習仲間がいるときっと楽しいでしょう。友だちができるならば、少しぐらい家を離れるのも我慢できる。お母さんは言いました。

「ちょうど明日、スノウスクールの体験授業があるので、行ってみましょう」

 私はそれを聞いてびっくりしました。

「ねえ、お母さん。たいけんじゅぎょうって、なあに?」

「おためしに学校に行くことですよ。体験授業をして雪をふらせる素質があるとみとめられたら、スノウスクールに入れるのよ。そしてスノウスクールでよい成績を取って卒業したら、雪をふらせる資格がもらえますよ」

「おためしでも、ちゃんとスノウスクールに行けるかしら。まだ手のひらから雪を出すのがやっとなのに」

 お母さんは私のかみを優しくなでてくれました。

「イヨちゃんなら、きっとだいじょうぶですよ」

「うん……お母さんのように雪おんなになりたいから、がんばってみる」

 お母さんは私に、凍りみかんと凍りリンゴを戸棚から出してくれました。皮をむきながら教えてくれました。

「いいですか。雪おんなは、才能と努力がないとなれませんよ。まずはスノウスクールに入って、いろいろな雪のふらせ方をおぼえること。たくさんありますよ。そして雪をふらせてもよい所、ダメな所。雪をふらせてもよい時間、ダメな時間を覚えること。卒業したら、お天気の神様のところではたらきます。そこの神さまにみとめられると、どこの山でもどこの国でも雪をふらせることができる、スーパー雪おんなになれます。私のように。それにはまずスノウスクールでやっていけるかどうか体験授業に行きましょう」

 私は言いました。

「才能と努力ってよくわからないけど、がんばってみるわ」

「私がイヨちゃんの年ごろの時も、ちょっとだけしかふらせることができなかった。さいしょからたくさん雪をふらせたからってえらいことはないのよ」

「うん」

 雪うさぎたちが私のまわりに集まってはげましてくれました。私は一匹ずつ抱っこしてありがとうといいました。それからお母さんに見てもらいながら、手のひらから雪を降らせる練習をいつもより、ていねいにしました。すると五粒だけですが、雪を出せるようになりました。私はとてもうれしかったです。





2、

 次の日はスノウスクールの体験授業の日です。

 私はお母さんの手作りの、雪ふらしようの着物と帯を来ました。それからお母さんの運転する雪ぐるまにのって山をいくつも飛んで超えました。スノウスクールがある永遠の悠紀国の北山は、はじめていくところでした。山おくのつきあたりに長いたきがありました。そのたきをくぐると、大きなどうくつがありました。そこがスノウスクールでした。入り口にはこおりでできた重たげなとびらがあり、こうもりの門番がたくさんいました。そのとびらの前で、大きなシロクマのおじさんがまっていました。そのおじさんがスノウスクールの校長先生でした。

 お母さんが車から降りて校長にあいさつしました。東の山からきた娘のイヨですと私を紹介してくれました。シロクマ校長は私に体験授業用のへやでまつように言われました。そこがスノウスクールの基礎クラスでした。お母さんは私の頭を優しくなでてくれました。赤いもみじのかみかざりにもキスをして「上手に雪を出せるおまじない」 をしてくれました。私はちょっとだけ安心しました。

 でもお母さんは「じゃあ、がんばってね」 と手をふって雪ぐるまに乗りました。私は「えっ、もう帰っちゃうの?」 と泣きそうになりました。お母さんは「スノウスクールは、つきそいはいりません」 と空高く垂直に雪ぐるまを飛ばして家に帰ってしまいました。

 私は、通されたへやに、こわごわと入りました。戸をあけるとすでに二人の女の子がいました。私と同じぐらいの年です。二人ともとてもかわいくてキレイです。私は二人に笑い掛けました。でも二人とも笑いもせずに、私をじろじろ見てきました。そのうちの一人が言いました。

「あれは雪ふらしようの着物よね、あんなのを体験授業に着てくるなんてズルくない?」

「そうね、まだ生徒でもないのに、どういうつもりなのかしらね?」

 私は両手を着物の裾にしまい込み、背中を丸くしました。どうしたらよいかわからなかったのです。私の動作がおかしかったのか、二人で目をあわせて「あははは」 と笑いだしました。どうも、お友だちになれそうなふんいきではありません。

 私は目をふせて入り口の近くでじっと立っていました。一日だけの体験授業でも、やっぱりお母さんとはなれたくありません。私は急に心細くなって、これからもずっとお母さんと雪うさぎたちだけでくらしたいと思いました。

 私のお母さんは雪おんなだから、私も大きくなったら何もしなくても雪おんなになれるとおもっていました。スノウスクールがあるとはしりませんでした。ここで友だちができないならば、お試しであっても一日でもお母さんとはなれたくありません。雪のふらせかたもぜんぶ、スノウスクールではなくて、お母さんがおしえてくれたらいいのになあと思いました。

 私のほかにはあとにはだれもつづきませんでした。どうやらスノウスクールの体験授業を受ける子どもは私を入れて三人のようです。だれもしゃべらずじっとしていました。

 基礎クラスのへやは、床もかべも氷でできていて、きらきらと光っています。天じょうには氷でできたシャンデリアがありました。そっと二人を眺めますと、二人は私の方を見ながら私に聞こえないようにおしゃべりをしていました。私は二人のおしゃべりに入れず、しょんぼりとしてとこにうつる自分の顔をながめていました。

 やがてさっきのシロクマ校長が入ってきて、「体験授業の先生は、教頭先生でもあるスノウクインがします。まだ準備中なので教頭先生が来るまで、おたがいに、自己紹介をしましょう。そこの白い着物のコ。まず、きみからどうぞ」

 私のことでした。私は両手をあわせてていねいにおじぎをしました。声がちょっとふるえているのがわかりました。

「は、はじめまして……私は雪おんなのむすめのイヨです。真中山にすんでいます。ペットは雪うさぎです。私もお母さんのようにふわふわのやさしい雪をふらしたいと思っています。やわらかい雪で山の中を真っ白の世界にしたいです。しょうらいは、どんな雪でもふらせるお母さんのようなスーパー雪おんなになりたいです。雪のお城の城主になって、雪ウサギとライチョウをたくさんかってくらしたいのでがんばります」

 シロクマ校長はにっこり笑いました。

「はい、よくできました。では、つぎ」

 シロクマ校長が二人のうちの一人をゆびさしました。そのコはかみの毛はとこまでとどくぐらい長いのですが透明で小さく動くたびに七色の虹がわいています。目がうすいブルーでとてもきれいなコでした。海の色をしたシャツとパンツをはいていました。そのコはすきとおるような高いこえを出して、自己紹介をしました。

「私は、ようかいきりがくれのむすめ、トサです。私はお父さんとお母さんとお兄さんと雪ぎつねとくらしています。私はお父さんのように霧を、そしてお母さんのように樹氷をきれいに作れるようになりたいと思っています。全世界をきらきらと光る氷の世界に変えるのが私のゆめです。樹氷でできた大きなお城の女王になって、真っ白なくじゃくをたくさんかってくらしたいのでがんばります」

 シロクマ校長はうんうんとうなずきました。

「はい、よくできました。では、つぎ」

 シロクマ校長が別のコを指さしました。そのコは黒いかみで目も黒く、頭の上に二かしょ、ツノが生えています。上ははだかで、下はひょうがらのパンツをはいています。くつもはいていず、裸足のままでした。目と口が大きく賢そうでした。そのコはとても低い声でうなるようにしゃべりました。

「はじめまして、私は風神の娘、サヌキです。私のペットは雪ふくろうです。私はおじいさんやおばあさんのように稲妻を出し、お父さんやお母さんのように大きな風を起こせるようになりたいです。このスノウスクールで雪の降らせかたをおぼえたら、全世界を吹雪の世界にします。そして風のふきすさぶ雪嵐の城主になって、ホワイトイーグルをたくさんかってくらしたいのでがんばります」

 シロクマ校長は、ぱちぱちとはくしゅをしました。

「はい、三人ともよくできました。三人とも、このスノウスクールに入学できたらきっと立派な雪おんなになれるでしょう。期待しています。ああ、スノウクインが来られたようです。みなさん、姿勢を正してください」





3、

 とたんに部屋の中なのに、びゅうびゅうと、吹雪がふきました。天じょうのシャンデリアがゆれ、基礎クラスのドアがバーンと音をたててあきました。そこに背の高い女の人があらわれました。お母さんよりもずっとほそくて色白で、くちびるが赤い先生でした。目の下にも真っ赤なアイラインをひいています。足にはきらきらと光るハイヒールをはいています。あれもきっと氷でできているのでしょう。きているドレスも、雪と緑のはっぱでできています。動くたびにふわふわとうごきます。そのたびに長い足と大きなむねが見えそうになりました。とてもきれいな先生ですが、私のお母さんの方が美人だと思いました。

 その女の人は赤いくちびるを大きくひろげて声を出しました。

「みなさん。私がスノウスクールの教頭のスノウクインです。どうぞクインとよんでください。それでは今からさっそく体験授業をはじめますがその前にどのぐらいの腕をもっているか見せてもらいましょう」

 私たちはクインの前に横並びになりました。クインは立ったままうでぐみをして私たちを見おろしました。

「どんなじゅつをもっているか、まず見せなさい」

 私たちは目をあわせましたが、どうしていいかわかりません。するとクインが「だれが先にやってもいいのよ」 といいました。

 するとヒョウ柄のパンツをはいた黒髪のサヌキがさっと手をあげて「やります」 と言いました。

 クインは「名まえは?」 とたずねました。

「風神の娘のサヌキです」

 クインはにやりとわらいました。

「そうか。風神のコか。サヌキ、では、やってごらん」


 私たちは部屋のすみに行き、サヌキが部屋の真ん中でスタンバイしました。サヌキは手と肩をクロスさせて、さけびました。

「ウオウ! サオウ! フウライジン! ケンザン!」

 同時にごうごうと音をたてて風がおこりました。部屋の中のこおりがこまかくけずられてあらしになりました。息ができないぐらいの強い風が吹いています。私はお母さんがくれたかみかざりがおちないように頭をしっかりおさえていました。すると私とトサの前にシロクマ校長が来て風よけになってくれました。

「はい、よろしい」

 クインの声がしたとたんに風がやみました。サヌキは、はあはあと息をはずませています。サヌキの黒いかみが、みだれてツノも見えないぐらいぐちゃぐちゃになっていました。クインのドレスも大きくまくれて長い足がみえていました。クインはうでをくんだまま、サヌキをほめました。

「サヌキは、あらしのじゅつは心えているようね。さすが風神の娘ですね」

「はあはあ。ありがとうございます、クイン」

「それでは次の人。だれがやりますか」

 私のとなりにいたコが手をすっとあげました。透明の髪をもつキレイなコです。

「名まえは?」

「ようかいきりがくれのトサです」

「やってごらん」

 トサは、部屋の真ん中にでました。そして大きく息をすいこみました。とたんに、へやの気温が、より下がったのがわかりました。トサのまわりから七色のにじのかわりに、きりでできたうずまきが見えました。きりがごうんごうんと音をたててふきだしてきます。トサの口もとからさけび声が聞こえました。

「キリエイ、キリエイ、ソワカ。キリエエエエイエイッ、ソワカッ」

「あぶない」

 シロクマ校長が私とサヌキをだっこしてトサに背をむけました。クインはそのままトサのとなりにいます。私は校長のうでとわきばらのすき間からトサのまわりに金色のいなづまが走っているのが見ました、そのうちトサのすがたがきりにまみれて見えなくなってしまいました。そこにはきりの白いうずまきが見えるだけでトサのすがたが見えません。クインのドレスも、トサの出すきりでぼかされ、ハイヒールしか見えなくなっていました。

「はい、このへんでやめてよろしい」

 とたんにトサのすがたが元にもどりました。トサも息をはずませていました。クインはトサをほめました。

「さすが。すばらしいきりがくれの、術でしたよ」

「ありがとうございます、クイン」

 クインのドレスが破れて裸になってしまっています。クインは手を複雑に組んで手から雪のかたまりを出しました。それをブンとふりまわすと、白いぬのになりました。それを手で巻いてドレスにしました。雪のレースのドレスです。こんどは、雪のけっしょうのもようです。レースのすきまからクイーンの白いはだがちらちらと見えました。それもクインによくにあっていました。クインの雪ふらしは、多分こういうドレスを着てするのでしょう。お母さんはいつも袖の長い着物だけど。そして雪から着物を作るのが上手だけど、このクインもすごいと思いました。

 やがてクインは私をまっすぐに見ました。私はどきどきしてきました。足もふるえてきました。

「さいごはあなたですね。その着物はお母さんの手作りですか?」

「はい、そうです」

「雪のように白くて雪のように冷たい感じのするよい着物ですね」

 私は二人が睨んでくるのを感じました。私は下を向いて「ありがとうございます」 と小さな声で言いました。

「さて何ができますか」

「は、はい。ふわふわの雪ならちょっとだけふらせることができます。お母さんはそれしか教えてくれませんでした」

「名前は?」

「雪おんなのむすめのイヨです」

「それではやってみなさい」

「は、はい」

 私はトサやサヌキのようにすばやく風やきりを起こせません。でも息をゆっくりすって心をおちつかせました。お母さんのやさしい目を思い出して泣きそうになりましたが、お母さんは上手に雪を降らすことができるじゅ文を教えてくれたことを思い出しました。私は右手を上に、左手を下にして、そのじゅ文をとなえました。

「スノウノウ、スノウノウ、フウワリフワリ、ラララララ!」

 すると右手と左手のあいだに雪がにじみでるように出てきました。一粒だけ。それから二粒。数が増えて五粒。私はこれだけしか出せません。それを手と手の間だけ風をおこして左右に動かします。雪の粒を右手からは左手に向かわせる。それから反対方向に向きを変えて左手からは右手に向かわせる。たった五粒の雪は手と手のあいだを行ったり来たりするのです。私は、手と手のあいだだけ、雪をふらせることができるのです。それが一番、簡単なやり方だとお母さんにおしえてもらったのです。

 トサとサヌキがめずらしそうに近よってきましたが、それだけしかできないとわかると肩をすくめました。たがいに目くばせをして、わらっているのが見えました。私はトサやサヌキのように、スピードがでる風やきりは作れません。私は手と手をずらすと雪をとめられるのですが、途中でやめようかと思ったぐらいはずかしくなりました。ふわふわの雪が少なくなり、消えそうになってきました。

 するとクインが「つづけなさい」 といいましたのでつづけました。これだけなの、といいたそうにトサが大きなあくびをしました。サヌキは背のびをしました。

 私はこれだけしかお母さんにおしえてもらっていません。小さな雪のかけらをだんだんと大きくしてふわふわの形にしていきます。またクインが言いました。

「イヨ、その手を横にして間隔を大きくしてごらん。できる?」

「やってみます」

 私は右手と左手の間隔をできるだけこわさないようにして、たてからよこにむきをかえました。雪は右手と左手をいったりきたりしています。

 ふわふわふわ、

 ふわりふわりふわり。

 ふうわりふうわりふうわり。

 この雪をお母さんならうすいピンクやブルーにそめることができます。逆に強いあられや、ひょうにすることもできるのです。私はまだそこまでできません。でもいっしょうけんめい、手の中で雪をふらせました。

「はい、やめてよろしい」

 私は手をぎゅっとこぶしにしました。すると雪が出なくなります。トサとサヌキがやっとおわったかあ、というように、再び肩をすくめました。この三人の中で私がいちばんへたです。スノウスクールについていけないのは、きっと私だけでしょう。私はしょんぼりとしてクインの前に立っていました。

「三人ともスノウスクールの体験授業に参加の資格があります。ではさっそく授業にうつります。まずこの部屋を出て、地下の鍾乳洞に行きましょう。そこがスノウスクールの運動場になります」

 クインは基礎クラスのドアをあけました。そして、ろうかを先にたってあるきました。


 トサとサヌキはすっかりなかよしになったようです。二人で手をつなぎあって、私の前に出ました。クインが先、そのつぎがトサとサヌキ、さいごが私です。へやを出るときに白クマ校長が私をよびました。小さな声で話しかけてきました。

「ふわふわの雪を作るのはかんたんなようでも、けっこうむつかしいのですよ。イヨは、雪ふらしの、基礎が、できています。そしてイヨのお母さんはこのスノウスクールの卒業生だけど、成績が一番でした。二番目がクインでした。体験授業をがんばりなさい。期待していますよ」

 シロクマ校長はやさしい笑顔でした。私はうれしくなりました。

「ありがとうございます」 とおれいをいいました。

「よしよし、礼儀作法もよくできています。良いお着物に恥じないようにしっかりとした態度でね。では、行ってらっしゃい」






4、

へやを出るとクインは入り口と逆方向にいきました。ろうかはくだりざかになっていて、下へ下へとおりていきます。クインはふりかえりもせず、さっさと前を歩きます。ドアをいくつかとおりすぎました。と中のろうかでアザラシの赤ちゃんとすれちがいました。十ぴきぐらい、列をくんでいました。とてもかわいい声で、ぎゃっぎゃっとうたいながら、腹這いになってあるいていました。

 前を行くトサが透明の髪を床にひきずらないように、そっとあげながら言いました。

「スノウスクールって、アザラシの保育園も、やっているのかしら。たくさんいて、うるさいね。おっぱらってやりたいね」

 サヌキは黒いかみを、ぶん、とふりまわして言いました。

「おまけに、なまぐさいわ。私もあらしをおこしておっぱらいたいぐらいよ」

 私はトサとサヌキに「そんなかわいそうなことをしちゃだめ」 と言ってしまいました。サヌキは私をにらみつけて「ちょっと思っただけでしょ、ふん」 と言いました。するとトサが私に笑いかけました。トサは私たちの中でいちばんきれいな女の子です。うすいブルーのひとみをかがやかせて私に近よったので、どきどきしました。

「イヨ、そのかみかざり、とてもすてきね」

 私はうれしくなりました。

「ありがとう。これはお母さんの手作りよ、昨日のおたんじょうびにもらったの」

「私のほうがにあう。私にちょうだい」

「えっ」

 するとサヌキが私の横にまわり、私のかみから、かざりをぬきとりました。そしてトサのかみにさしました。トサはやったあ、というように、かみかざりをおさえました。

「やめて……」

 トサは、とくいそうに手で氷をひきよせ、空中鏡を造り、自分のすがたをうつします。サヌキもわらっていました。

「あら、トサのほうが、そのお洋服にあうわよ。いいじゃない」

「そ、そんな……」

 そこへクインがいきなりふりかえりました。

「おしゃべりは、禁止です。つきましたよ。三人ともこっちへきなさい」

 そのしゅんかん、トサはこおりで作ったかがみをこなごなにして、けしました。サヌキもクインの方へ走って行きました。クインは、私がかみかざりをとられたことに気づいていません。

「イヨ、おそい。早くきなさい」

「は、はい……」

 私はあとで返してもらおうときめました。あれは私のたからものです。かってにとるなんてひどいと思いました。

「三人ともこちらへ。ここがスノウスクールの運動場でここで体験授業をします」

 私たちはあっと思いました。クインがドアをあけると、鍾乳洞が広がっています。そこには、かべもありません。とこもありません。というより、とこぜんたいが、大きな緑色の沼になっているのです。つくえもいすもなく、とにかく広い運動場でした。

「うわ、すごい……」

「ここもスノウスクールなの?」

「鍾乳洞全体が、きれいなエメラルドグリーンになっているわ」

 クインは私たち三人のうしろにまわりました。そして、いきなり、鍾乳洞の下にある沼の中につきとばしました。

「きゃあ」

 沼の中にも魚がいてびっくりしました。魚の方がもっとびっくりしたのでしょう。むれをなしてほそい流れの方へにげていきました。クインは空中にうかんで私たち三人をみおろします。

「スノウスクールの入学希望者が、かんたんに、沼の中におとされてどうするのですか。さあ授業はもう始まっていますよ。早くうかんできなさい」

 クイン先生は沼の上にうかんだままです。まずサヌキがつのをまん中に、肩と腕を交差させてじゅ文をとなえました。

「ウオウ! サオウ! フウライジン! ケンザン!」

 すっと風が怒ると同時に身体がうきあがり、クインの前に行きました。いや、行きすぎてクインをみおろす形になり「もっと下にさがりなさい」 とおこられていました。

 次にトサがぬれた銀色のかみをかきあげながら、ものうげにじゅ文をとなえました。

「キリエイ、キリエイ、ソワカ。キリエエエエイエイ、ソワカ」

 でも、ういたと思ったらそれはいっしゅんで、バランスをくずしてまた落ちそうになりました。トサはふんばり、もういちどじゅ文をとなえ、口元をぎゅっとまっすぐにしてクインの前に出ました。


 私はクイン、サヌキ、トサに見おろされたままです。私は空のとびかたをまだお母さんから教えてもらっていません。クインが言いました。

「イヨ、何をしているの。もしかして空をとべないの?」

 私は立ち上がりましたが、沼の底がぬるぬるしていてまたすべってしまいました。私は沼の中に落ちてしまいました。クインのあきれたような声が頭の上からしてきます。

「イヨ。六才にもなって、とぶどころか立つこともできないの?」

 トサとサヌキの、くすくすわらう声がしました。私はクインを見上げて「今から行きます」 と言いました。そして、呼吸を整えてじゅ文をとなえます。

「スノウノウ、スノウノウ、フウワリフワリ、ラララララ!」

 すると私のまわりだけ。ふわふわの雪がふりました。雪を降らすのが初めてできました。私はびっくりして周りをきょろきょろながめてしまいました。トサのかんだかい声がこらえきれないように笑っています。サヌキの低い笑い声もしました。

「まあ、イヨったら、あはははは」

「まちがえてるわ、ここは雪をふらすところじゃないのにね」

 私はまた泣きそうになってきました。そっとクインを見ると、まだうでぐみをして私をみおろしています。私はもう家に帰りたいと思いました。

 スノウスクールは楽しそうだと思ったのに、これなら家でお母さんとこおりのおかしを作って、雪うさぎをだっこしている方がよほど楽しいです。早く授業が終わって家に帰りたい。今からでも帰りたい。

 お母さんの手作りのかみかざりも取られてしまったし本当に早く帰りたい。私はなみだが出てきました。クインの声が上から降ってきました。

「有名なスーパー雪おんなの娘にしては、気が弱くていくじがないのね? イヨ。お前はそんなに家に帰りたいか?」

 私ははっとしました。シロクマ校長は私のお母さんは一番の卒業生でクインは二番だったそうです。お母さんのためにもがんばりたいと思いました。私は泣くのは、あとにしようと決めました。

 私はもう一かい、呼吸を整えました。そして自分が雪そのものになって、ふわふわと飛ぶイメージを頭の中でえがきました。そうです。やわらかい雪を足の下に出してふわふわとうかべてもらうのです。手と手のあいだではなく、足と足のあいだに雪をふらせたら、うかぶことができるのではないでしょうか。

「スノウノウ、スノウノウ、フウワリフワリ、ラララララ!」

 すると足がふっと軽くなりました。足が水面から少しはなれています。

「う、うかんだ。はじめてういた」

 私はうれしくなりました。手をシロサギのように大きく広げて、もういちど、じゅもんをとなえます。

「スノウノウ、スノウノウ、フウワリフワリ、ラララララ!」

 またゆっくりとあがっていきます。私のまわりがふわふわの雪が舞います。雪をふらそうと力を入れていないのに雪が降っている。はじめての経験でした。私ははじめてお母さんに助けてもらわなくとも、雪を降らすことができました。足元には雪のくもができています。それが私をうかばせています。

 私はゆっくりと、うき上がり、クインの足まできました。もう少し、もう少しです。トサとサヌキの顔が見えました。二人ともおどろいた顔をしています。このへんでいいかな? 私はあがるのをストップするために手をおろしました。クイン、私、トサとサヌキが鍾乳洞のまん中でうかんでいます。入り口でみかけた、こうもりたちがわたしたちのまわりをせんかいしています。

 沼から出るエメラルドグリーンの光が天井をてらしています。そのてんじょうからは水てきがぽたぽたと落ちてきます。やがてクインが言いました。

「スノウスクールでは、空中にうかぶのはだいじなことです。三人とも、空中にうかべましたので、授業についていけるとわかりました。来年の本格的な入学が楽しみですね。では授業に入ります」



 クインは私たち三人をながめました。私は、授業って内容はなんだろうと思いました。クインはいいました。

「では、授業の内容です。空中にうかんだまま、この鍾乳洞にある水滴を、すべて雪に変えてみましょう。うかぶ高さは変えてはいけません。呼吸を整えてやるのが、コツですよ。わかりましたか」

 私たちは顔をみあわせました。三人とも、風やきりをおこせても、水滴から雪に変えることはしたことがないのがわかりました。これがスノウスクールの授業のやり方なのでしょう。クインが声をはりあげました。

「何をぐずぐずしているの? 早くしなさい。一人でもいいし、三人でいっしょにしてもいいのよ? りっぱな雪おんなになりたかったら、臨機応変に動くこと。雪おんなは、どんな場所でもどんな材料でもそれをつかって雪をふらせないといけない。さあ、あなたたちにはそれができる力がある。どうやってその力を使うのか、よく考えて動きなさい」

 するとトサとサヌキががっちりとスクラムを組みました。

「二人でやります」

 まずトサが透明のかみの毛から、虹色の光のおびを体にまとわせてじゅ文をとなえます。

「キリエイ、キリエイ、ソワカ。キリエエエエイエイッ、ソワカッ」

 次にサヌキが言いました。うでをまげて、元気よくさけびました。

「ウオウ! サオウ! フウライジン! ケンザン!」

 いきなり水滴が、ナイフのように二人にむかって、ささってきました。つめたくてとがった氷になってふたりのからだをきずつけようとするのです。

「きゃあ、いたい、いたい」

「術をとめなきゃ」

 二人がにげようとすると、浮遊の術がとけてしまい、沼に落下しました。二人とも頭から沼に、どぼんと落ちてしまいました。同時にとがった氷は元のぼってりとした水てきにもどりました。クインが腰に手をあてて二人にむかって注意しました。

「二人で組んで術をかけるときは、事前に役わりをきめないといけません。二人とも術をかけあってしまったので、こんがらがったのです。行き当たりばったりは、事故の元です。雪をふらすどころか自分がけがをしては何もなりませんよ」

 トサとサヌキはしょんぼりしました。クインは次に私を見ました。

「イヨ、やってみなさい」

「は、はい」

「ひとりでやるのよ」

「はい」

 私はゆっくり息をすい、つぎにゆっくりと息をはきました。もういちど。私はお母さんの手作りの着物とおまじないを信じようと思いました。トサとサヌキがふたたびさっきと同じ場所まで、うかんできました。二人とも私のほうを見ています。できるものか、というかおをしていました。

 私にはいままで友だちはいませんでした。だから友だちがほしかったです。でも、こんないじわるな友だちならいりません。そう思いました。そこへクインの声がまたしました。

「ほかのことを考えていると、失敗します。集中しなさい」

「わかりました」

 私は目をとじて、もういちど最初から深呼吸をはじめました。鼻から息をすって、口で息を吐く。お母さんのやさしい顔をおもいうかべました。

 鍾乳洞の水滴だと意識すると先の二人のように失敗するでしょう。私はそんなにむつかしいわざは知らないから、自分の上にある天じょうの水滴だけを雪にかえようと思いました。右手と左手のかわりに、鍾乳洞の突き出たところを右手に、もうかたほうを左手にみたてて、そのあいだに雪をふらせようと思いました。

私は、小さな声でじゅ文をとなえました。

「スノウノウ、スノウノウ、フウワリフワリ、ラララララ……」

 すると、水滴が丸くふくらみを持ったのがわかりました。私はそのふくらみをもっと冷たくするように、いしきする。するとふくらみが、ポップコーンのようにはじかれて、ふわっとした雪になったのを感じました。クインの声がしました。

「すこしだけどできていますよ。もう少し雪のつぶを大きくしてごらん。頭の中のイメージを大事にして」

 そこで、私はもういちど、大きく深呼吸をしてじゅ文をとなえます。

「スノウノウ、スノウノウ、フウワリフワリ、ラララララ……」

 雪のつぶが、少し大きくなったような気がします。でも空中にうかんだままなので、ちょっとしんどいです。クインのこえがしました。

「はい。はじめてにしてはよくできました。術をとめてよろしい」

 私は目をあけました。クインは私にむかってほほえみました。

「スノウスクールのでの本格的な授業が楽しみですね。三人の中ではイヨの成績が一番です。トサとサヌキ。あなたたち、帰りたかったらもう帰ってもいいわよ」


 とたんにトサとサヌキがわっと泣きだしました。それを見たクインはやさしくささやきました。

「お前たちが泣くのは一番でなかったのが、くやしかったからね?」

 二人は頷きました。クインも頷きました。

「ふふふ……それでこそスノウスクールの入学資格があるというもの。教えがいがあるというものよね。じゃあ、もう一度やってみようね。ね、イヨもそう思うでしょう?」

「は、はい」

 かみかざりをとるようなコでも、生徒が私ひとりだけでクインとスノウスクールにいるのはさみしいです。私はトサとサヌキに「がんばって」 といいました。

 トサとサヌキはくやしそうにくちびるをかみました。

「では、二人でむかいあって、術をかけあってごらん。そして雪でふきとばして沼におとしたほうを二番としましょうか」

 とたんにトサとサヌキの間隔があきました。二人とも戦闘態勢に、入ったのです。

 まずサヌキがトサにむかってさけびました。

「ウオウ! サオウ! フウライジン! ケンザン!」

 まけずとトサが、サヌキにむかってさけびます。

「キリエイ、キリエイ、ソワカ。キリエエエエイエイッ、ソワカッ」

 どちらも強いかぜときりをおこすことができるのはわかっています。大変なことになるとおもいました。クインはすでに二人の出す風にふかれていますが、平気なようです。そっとみるとからだのかたちにそって、うすい雪のバリアがあるのにきづきました。

 最初の基礎クラスでも平気だったのは、そういうわけでした。そして、私もそうすることにしました。小さな声でじゅもんをとなえると、小さな雪のつぶがわたしのからだをまもるようにおおってくれました。

 どうじに、雪よりも風がつよくふきあれ、鍾乳洞の突起が折れてこうもりたちをおどろかせました。そこへドアがあいて、さきほどのアザラシのあかちゃんたちが三匹ほどはいってきました。どうやらまいごのようです。

「あぶない」

 私はとっさにドアにかけよりました。鍾乳洞の突起が折れて、あかちゃんの頭にささるとたいへんです。あかちゃんたちにも雪のバリアをはり、そばにつくようにしました。 ふたりの風を起こす力は、おなじぐらいでした。私はあんな術は、しりません。でもふたりはしっているのです。ここはスノウスクールだから、そういうのはかんけいないのではないかな、と思いました。

 二人は風をおこしあい、とびあいながらじゅ文をとなえています。

「ちくしょう、これならどうだっ。キリエイ、キリエイ、ソワカ。キリエエエエイエイッ、ソワカッ」

「ええい、こっちも。ウオウ! サオウ! フウライジン! ケンザン!」

 ごうっ。

 私をめがけて、バリアをつきやぶり、トサにとられたかみかざりがとんできました。私は目の前で、ばしっとうけとり、自分のかみにかざりました。それからバリアがうすくなってきたので、右手と左手をかざして、もういちどじゅ文をとなえます。

「スノウノウ、スノウノウ、フウワリフワリ、ラララララ」

 ふんわりとした雪のバリアをつくりました。そして多少バリアにぶつかっても、ゴムのようにはずむようにしました。これを透明な二重にしました。赤ちゃんたちがあぶなくないようにしました。

 トサとサヌキは、風ときりの強さのたたかいのようでした。はあはあといきをはずませています。さきほどの二人の仲良しは、うそのようです。私はずっとみあげていました。

 いきなり、サヌキのつのが一本おれました。とたんにサヌキのじゅつがやぶれ、サヌキは沼におちてしまいました。

 トサのすきとおるような高い声がかちどきをあげました。トサのかみがきらきらと光り、ブルーの服が、たたかいのはげしさをものがたるように、上に下にとふくらんでいます。

「やった、私の勝ちよ、わーい! ざまあみろ」

 サヌキはぬまにおちたままのしせいで、黒い髪が前に全部落としています。表情が見えなくなった顔を手で更におおってなきだしました。

「ああん、風神の娘のわたしがまけるなんて! くやしい、くやしい」

 トサはかちほこって、高わらいをしています。私はトサのことがこわいと思いました。かみかざりのこともあるし、もしスノウスクールで一緒になっても仲良くできるか、不安になりました。

 クインは二人の前に立ちました。

「これで授業はおしまいにします。私は鍾乳洞の水滴を雪に変えて、飛ばしなさいといいましたね? 沼に落とすやり方が間違っています。二人とも一体何を聞いていたのですか? 風や霧を起こして倒せとは一言もいってませんよ。あなたたち、スノウスクールに入学したければ人のはなしをよくきくおけいこをおうちでしなさい。わかりましたね」

 トサの笑いがひきつりました。

「えっ、でもクイン。私はサヌキにかったわ。きりがくれのじゅつもできるし……」

「それは言い訳といいます。スノウスクールでは言い訳はつうじません」

 トサもなきだしました。

「ひどいわ、クイン。わたしはいっしょうけんめいやったのに。イヨのようにいるかいないかわからないコを一番にするなんて」

 クインはこんきよく二人にいいきかせました。

「いずれは雪おんなになりたかったら、気くばりも必要だということですよ。あなたたち、まよいこんできたアザラシのあかちゃんを心配する余裕もなかったでしょう。そこもわかっていないといけませんよ」

「……」

「スノウスクールを卒業しても神さまの許可をもらわないと、山全体に雪をふらせたりはできません。許可をもらうには、まわりの状況をよく見て、雪がふらせてもだいじょうぶかきめないといけません。だから、その常識がわかってほしくて体験授業をしました。私は、雪のふらせかたのじょうずさを見たかったのではありません」

「……」

 トサとサヌキはしょんぼりしました。そして二人そろって、「すみません」 といいました。私にも「いじわるをしてごめんなさい」 といいました。私は「いいのよ」 と首をふりました。

 それを見たクインはいいました。

「三人とも、それでよい。おまえたちはそれでこそスノウスクールにふさわしい生徒です。でも、イヨ。おまえは、いいたいことがあったらはっきりいうべきですよ。黙ったままでは、だめですよ」

 クインの目は私のかみかざりにむいていました。トサもそれがわかったようで、もっと、しょんぼりしました。

「わかりました」

「イヨ、あなたのお母さんが数あるスーパー雪おんなのトップだということ、しっているの?」

「いいえ」

「現代最高の超スーパー雪おんなですよ」

「ええっ、しりませんでした」

「まあ、あきれた。娘には何も教えていないのね。でもあの人らしいわね」

「お母さんがそんなにえらい超がつく雪おんなだとはしりませんでした」

「私とはスノウスクールでいっしょだったの。でも、私は二ばん目だったの」

「それはシロクマ校長からききました」

「まあ、校長はおしゃべりねえ」

 クインは笑っていました。

「じゃあ、きょうはここまでにします。さいごに、わたしからおどりをおどります。せっかくきたので、おどりもおぼえてください」





5、

 クインは両手を頭の上にすっとあげました。そして手をひらひらとさせました。赤い口元を大きくあけて歌いました。

「ゴウイン、ゴウイン、アラバサラバ、サラバアラバ、ゲゲーン」

 すると鍾乳洞の中に雪がふりだしました。水滴がぜんぶ雪になっています。それも大きくて白い花が咲いたような雪でした。雪の花は次から次へと沼におちていきました。エメラルドグリーンのぬまがだんだんと白くなっていきます。

 イヨは感動して踊るクインを見ていました。そうか、こうすればなんでも雪にかえられるのだと。トサとサヌキも、水てきから大きな雪の花がさくしゅんかんを見て「すごい、すごい」 とおどろいていました。

 クインと私の目があいました。

「イヨ、よく見ておきなさい。じゅ文をとなえるだけではなく、おどると雪をふらせるヴァリエーションが広がるのよ」

 クインは雪のかたまりをとりだすと、それを雪のおうぎにしました。緑の松葉と南天の実の赤い模様が入っています。そのおうぎを広げておどります。空中を上に下にと移動しながらおどりました。

「ゴウイン、ゴウイン、アラバサラバ、サラバアラバ、ゲゲーン」

 クインのまわりに雪が集まり、もう一人のクインができました。小さな雪がたくさん集まって真っ白なクインになっているのです。もう一人、一人とでてきます。

「これは分身のじゅつですよ、スノウスクールの三年生になればやり方を覚えられます。これからみんなでおどるから見ていてね」

 みんな雪のおうぎを持っていました。本物のクインだけが赤いくちびるをもっています。そして赤いおうぎをもっています。クインが中心になっておどりはじめました。足をたかくあげたりうでをまるくしてくるくるとまわったりします。鍾乳洞全体が、舞台です。いつのまにかコウモリが天じょうに、おぎょうぎよく逆さにならんで見物しています。さきほどのアザラシのあかちゃんたちもすみっこで見ています。私たちも岩の上にすわって、みあげていました。

 私は感心していました。

「キレイねえ」

 トサが言いました。

「お父さんからきいていたけど、クインは雪おんなダンサーなのよ。それも世界一の雪おんなダンサーらしいわ」

 サヌキも言いました。

「ねえ、イヨ。さっきはごめんなさいね」

 トサもごめんなさいと言いました。

「超スーパー雪おんなとしての世界一のタイトルをとったのはイヨのお母さんらしいけど、イヨはおとなしいのよね。いがいだったわ」

 私はうれしくなりました。サヌキはもういちど、あやまりました。

「それとその白い着物がうらやましかったの。だって私は雪ふらし用の着物なんて持っていないもん」

「見せびらかしているように見えてくやしかったのよ」

 まあ、と私はびっくりしました。そして二人は私のことをほめてくれました。

「あんなにふんわりした雪を作るのはむつかしいのにすごいよ。それとはじめてなのに、水てきを雪に変えられるなんてね、すごいよ」

 私はびっくりしました。

「え、そうなの? でもぜんぶ、変えられなかったし、私は風もきりも、おこせないのに」

 トサが笑いました。

「イヨは、ここはスノウスクールなのよ。雪を降らせることが一番大事なのよ」

「そういうことなの?」

「イヨのお母さんがスーパー雪おんなとして有名なのに、知らないなんて信じられない」

「そうかしら?」

 二人は、にこっとしました。

「やっぱりかわっている。でも私はあんたが気に入ったわ。来年スノウスクールの一年生になったらお友達になりましょう」

「私も、お友だちになってよ。三人で友だちになろう」

「ありがとう。トサ、サヌキ、友だちになろう」

 私は楽しい気分になりました。やっぱりここに入学して、いろいろな雪をふらせる勉強をしようと思いました。そうしたら世界をうつくしい雪に変えることができるようになるでしょう。

 クインがおどりをやめました。いつのまにか、鍾乳洞はたくさんの観客でいっぱいでした。コウモリ、アザラシのしゅうだん、白クマ校長もいます。私たちよりもずっと年上らしい雪ふらし用の白い着物を着た人もたくさんいました。

 クインは、にこにこしています。

「これでスノウスクールの体験授業はおしまいです。今のは、私からのあいさつダンスです。まずはスノウスクールに正式に入学して、立派な雪おんなになれるようにがんばりましょう」


 私とトサとサヌキはまたあいましょうと手をふりあいました。出口にいたら雪ぐるまに乗ったお母さんが出迎えにきました。シロクマ校長とクインが私のことをほめると、お母さんはよろこびました。

 お母さんの隣には大きな身体をした風神や霧隠の精が裾や裳をなびかせていました。トサやサヌキを迎えにきたのです。私は、雪ぐるまにのって山に帰りました。雪うさぎが私のかえりを知ってぴょんぴょんとはねて、よころんでくれました。たった一日の体験授業だったのに、長い時間をすごしたようです。

 スノウスクールの入学式は来年です。それまでにできるだけ長い時間、雪をふらせる持久力をつけようと思いました。



                                         了

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