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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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復興顧問のお仕事~2

慣れないお仕事は大変です、前例を踏襲してお茶を濁せっ!

詩乃がやらかした事とは・・・オレウアイを売り物にならない状態にしてしまった事である。


元々はオ~イが詩乃を怒らせたのが原因なのだが、オレウアイに向かって鞭を放ち、通電させて感電死させたまでは良かったのだが・・・何故だろう・・・始めは焼肉の香りを漂わせ美味そうだったのに、一晩経って見に行ったら石化していたのだ。それも何やらくっつき固まって、ブロックの様な有様で巨大な廃棄物となり果てていたのである。なんでやねん!

それでもカルシュウムなら畑の肥料にでもなるかと思いきや、倒れても魔獣・・・ほんとの石になっていて、糞の役にもならない有様なのであった。

・・・誠に異世界は摩訶不思議な所である。


これには冒険者達から非難が轟々と湧いて出た、何故ならギャースの皮の売り上げで未払いの賃金を受け取る手はずだったからだ、ギャースと白兵戦の如くに戦ったのも彼らだし功績は大きい。


「話が違う!だれの責任だ!!責任者出て来い!」


激高した彼らは、詩乃に詰め寄って来るのかと思いきや・・何故だかオ~イにその矛先を向けていた。まぁ、部屋の気温を一瞬で低下させるような得体のしれない空調女に、文句をつける度胸がある冒険者は居なかった訳だが・・・。


悪の元凶・オ~イと言えば、エヘラエヘラと笑いヌラリクラリと話を逸らし続け・・・1時間の話し合いの後には、彼ら冒険者は引き続きこの地の治安維持を請け負い、平民にしては魔力も強いので、魔貝の仕事に向かう獣人達のフォローも任されていた。


何んだか凄い説得力だね、生まれつきの人タラシとでも言うのかな?それとも冒険者達が単細胞すぎるのか?まぁその両方なんだろうなぁ~。

オ~イはガタイは良いが、ご尊顔は横線1本のタレ目だし・・間違っても良い男とは言い難いのだが、妙な愛嬌が有り平民には好かれるカリスマスキル持ちみたいな感じだ。

確かに顔がイケてれば良いってものじゃぁ無いしねぇ・・・いい例が王家の王子達や高位の貴族のあれだ・・プウ師範やターニー達なんかだ。

魔力は強いが自分本位で、相手に合わせる事など知らない、およそリーダーには向いていない御仁達だろう・・・?

そんなオ~イの知り合いの冒険者達はどれもベテランぞろいで・・・モノは言い様だが、詰まる所はオッサン(ジジイ)達だ。このまま栄えるであろう伯爵領に仕えて、骨を埋めるのも良いと思うよ?栄える港町には何やら事件が起きそうだし、治安の維持は不可欠だろう?領地の騎士に成るのも悪く無い選択なのだろうさぁ。




さて、問題はそのギャースブロックなのだが。

取り柄は・・ひたすら固い事と・・複雑な形状である・・何に使おうか?


詩乃はこれを波消しブロックにしようと考えた、テトラポットみたいに可愛い形では無いし、ギャースの面影も残り禍々しさも感じるけれど・・隙間が多いから、波の勢いを削ぐには良いんじゃないかと思う。それに見様によってはインスタ映えしそうな一品じゃん?商船がこの港に寄港するようになれば、名所の一つになるかもしれない・・・し?


シャルワが発掘して来た港の竣工図を眺める、うん、よく解らない・・・こんな時にはパガイさんである。パガイ商会は顔も広いので、インフラ関係の仕事を請け負う会社も知っている。

土木関係はキツくて汚れる仕事だからと貴族関係者達は敬遠しているそうなので、今やザンボアンガ系の独占市場となっているらしい・・・屋台骨から侵食されているね・・・ランケシ王国それで良いんかぃ?


    *****


魔貝石の発見や、城砦や港のリノベーション工事・新たな市場の独占の予感?と、美味しい話を並べられたパガイさんは絶好調で、今は工事の準備の打ち合わせの為に伯爵領を離れて居る。


【前の会議の時には嬉しすぎて(ほら、冬虫夏草の一件ではボコールに出し抜かれていたし。)時々尻尾をピョコンと出しては詩乃にモフられ、驚いて飛び上がったりしていて(笑)皆に白い目で見られていた・・・詩乃がである。獣人の尻尾は大事なアイテムで、恋人にしか触らせ無いんだってさ、知らなかったよゴメンゴメン。】


そんなパガイさんとはどんなに離れていても、ドラゴン経由で連絡を取れるので実に便利なおっさんである。パガイさんは各種工事の現場監督の手配もすませ、今日は魔貝石の加工販売の件でクイニョンに行くらしい、温泉でも入って少し休めばいいのに。


その他諸々で忙しい様だが、バリバリと楽しく仕事をこなしているそうだ(自己申告)、それは結構毛だらけだねぃ。



    ****



そんな慌ただしい工事が続く中、<虎とやっと連絡がついた>とパガイさんから報告が入ったのは・・・事件の実に2か月後の事であった。


虎さんは単独でダンジョンに潜る事が多く、中々に連絡が取りずらい御仁なのだそうだ。久方ぶりにスルトゥにフラリと現れた虎さんを捕まえて・・・聞かせるのも辛い話だが、パガイさんは懇切丁寧に虎姫様の事を説明・説得をしてくれたそうだ。


・・・孤独を好む虎さんが、同族とは言え虎姫様の世話やら後見を引き受けてくれるだろうかは定かでは無いが・・・虎姫様は虎さんの匂いで気持ちが落ち着くのだから、たまに顔を見せてくれるだけでも良い影響が有るだろう・・そう考えての頼みだった。

独身男に若いお嬢さんを預けるのも気が退けるが、同族ってところが重要なポイントなので仕方が無い、スルトゥならザンボアンガ系の土地だから安心だし・・。



    *****



そんな虎姫様は事件後間もなくな頃は、時々目覚めては・・また眠る・・そんな赤ちゃんの様な感じで時間を過ごしていた、お世話係はタヌちゃんが担当してくれている。人間だと姫が怖がるし・・・他の獣人さん達は荒ぶる虎姫様を見てしまっているので怖くて・・とてもじゃぁ無いが近づけないしで、結局気絶していて何も見ていないタヌちゃんに白羽の矢が立ったのだ・・・快諾してくれて現在に至る。


本当は助けた詩乃自らがお世話するのが筋なのだろうが、詩乃は工事の仕事も有るし、付きっ切りと言う訳にもいかない、だからタヌちゃんの了承は有難かったのは事実である。タヌちゃんは幼児が大人を世話する様な感じ(比率的に)で、何くれと無く手厚くお世話を続けてくれていた。


それから不思議な事に詩乃だけは、虎さんと一緒にセーターから存在が匂っていたせいなのか、姫様は嫌がらず受け入れてくれて、傍に行っても怖がらないし涙を零したりもしなかった。

詩乃がお菓子などを差し出すと嬉しそうに食べてくれる、そんな様子は本当に幼子の様で、誠に可愛らしいのだが・・・また哀れも誘う姿だった。


【ビタタマ粉で委縮してしまった脳は、二度と元には戻らない。】


6男の声が聞こえて来る様だ・・・。


詩乃は<空の魔石>で解毒や、臓器の活性化!などと念じているのだが・・結果は捗々しく無い。彼女の酷く透明で感情の無い瞳は何も映してはおらず、ただ人形の様に・・言われた事には素直に従うが自発性は無く、起きている時はひたすら窓の外を眺めているばかりの日々だった。

ただ、脳の萎縮にしては教えた事はすぐに覚えるし、忘れる事も無く日常生活は如何にか送れているので、これは委縮と言うよりは<記憶の喪失>と言った方が正しいのではないかと思っている。


『失いたいほどの記憶なら、思い出さない方が良いのかもしれない・・・彼女が必要だと思えば思い出すだろうし。』・・・詩乃はそんな風に考えていた。


そんなある日、2人分の夕食を持って(詩乃と虎姫様の分だ、タヌちゃんは此処で休憩と食事で交代する事になっている。)虎姫様の部屋を訪れた詩乃は、細い綺麗な声を耳にした・・・歌っている?

日が落ちた漆黒な海を眺めながら、虎姫様が歌っていたのだ・・・それは綺麗だが悲しい様な、哀愁の籠った歌声だった。だらりと降ろしている指先が僅かに動いて、何かをつま弾く様な感じに見えた・・・タヌちゃん(ジェスチャー)によると、このところ機嫌の良い時にはこうして歌っているらしい。


『そうか・・・虎姫様は歌姫様だったんだ。』


彼女の僅かな変化が嬉しくなった詩乃は、よく解らないので弦楽器(高かった(涙))を一通りパガイさんに注文すると虎姫様の前に並べてみた。

彼女は数日の間、焦点の合わない目で楽器を眺めていたが、やがてゆっくりと竪琴を手に取ると歌い出した・・・今までにない大きな声で・・・。

その歌声は城砦の中に響き渡る様な声量で、詩乃は思わず<エンダァ~~~>を思い出すくらいだった。廊下には何だ何だ、どうしたどうしたと領民が溢れていたが・・・。




竪琴を抱えてから、だんだんと虎歌姫様の目覚めている時間が長くなっていった。


調子の良さそうなある日、詩乃は彼女を獣人達の目の前に連れて出てみた、梱包箱の台の上に乗れば即席のステージの出来上がりだ。


始めは戸惑う様にフリーズしていた歌虎姫だったが、やがてポロンポロン・・・優しくガットを弾き始め、豊かで美しい歌声が流れ始める。

彼女の姿に始めは緊張していた獣人達だが、やがてそんな力も抜け歌声を楽しむようになって行き・・・誰かが<ザンボアンガ>と声を掛けると、彼女はザンボアンガの懐かしい国歌らしい曲を歌い出した。勇ましい曲調の行進曲みたいな感じだが・・・歌詞もラ・ナンチャラ~ユみたいに血生臭かったりして?喜んだ獣人達も歌い出し、歌声喫茶の様になった頃・・・。


「ザンボアンガの曲を歌えるのか、何処のコロニーから攫われて来たんだか。」


パガイさんが立っていた。

いつの間にか戻って来たパガイさんは、虎さんと話が付いた事・・彼は虎歌姫様の後見を引き受けてくれて、衣食住を提供すると約束した・・と報告してくれた・・・それは大変有難い。


「彼女は今は歌が有りやすから、パガイさんが懇意にしていて、身の安全を保障してくれる様な所なら歌姫の仕事をさせても良いでしょうやぃ。歌うのも、客に喜ばれるのも嬉しい様だから・・・生きがいに成れば良いなと思っておりヤス。」

「あぁ、スルトゥならば大丈夫だろう。」

「タヌちゃんはどうしヤスか、このままお世話に付けやすか・・・通いの方が良いのかな、彼女の今後もパガイさん丸投げして良いですか?」

「スルトゥの住民となれば、街の皆で守るから安心しろ・・・お前は肩の荷を降ろして良いぞ。自分から面倒事を抱え込む癖はやめろ?早く老けるぞ・・・。」

「それ、経験から言ってる?・・・こわっ!

本当は、アッシが責任を持ってスルトゥまで送って行って、虎さんに頭の一つも下げなけれいけないところでヤスが・・・。」


期待を込めて、チラっとパガイさんを覗くと・・・。


「駄目だ、工事が予定より遅れている。来年の夏の嵐までには仕上げないと、二次被害がとてつもない事になるぞ。お前は此処で工事の重機役に徹していろ、魔術具を器用に仕えるのはお前だけなのだからな。」


そうなのだ・・・ターニーから貰った魔術具をコピーして配ってはいるが、中々みんな使いこなせないで四苦八苦しているのだ。もう少し魔力の強い人材が助太刀に来てくれれば助かるのだが。


「虎さんによろしく伝えて下され、無理な頼み事をして申し訳ないと。」

「あぁ、伝えるよ。」



・・・それから数日後・・貝魔石を詰め込んだ沢山のコンテナと共に、虎歌姫様とタヌちゃんはドラゴンの引く飛行船に乗り込んで南の伯爵領を去って行ったのだった・・・もうあの事件から2カ月半が過ぎて、この南の地にも冬の訪れが感じられる頃だった。




     *****




<虎さん>事、虎獣人の男は夕方に到着予定の飛行船を待っていた。


オマケの小娘に纏わり付いている、胡散臭い商人の持ち込んで来た話は驚きの内容だった。自分以外の虎獣人が、まだ生き残っているとは思ってもいなかったからだ。

隠れ里を突然襲撃して来た人間達、ビタタマ粉を撒かれ急いで鼻を覆ったが・・気が付いた時にはただ一人魔石の鉱山にいた。里の皆の行方は要として知れず、もう皆儚くなってしまったのだと諦めていたのだ。

この自分にしたって鉱山の閉鎖と共に更に売られ、貴族達の慰みに戦いを強いられ、危うく殺される所だったのだ・・・オマケのあの小娘に助けられなければ。

聞けば今度の同胞の件でも、オマケの小娘が命がけで助けたという・・・ビタタマ粉に狂った虎獣人の懐に飛び込むなどとは、とても正気の沙汰では無い・・・同じ虎獣人であっても躊躇するだろう。

しかしあの小娘ならやりそうな事だ、狼族の子供を助ける為に、ただ一人オレウアイの只中に突っ込んでいくような無茶をする小娘なのだから。


別れの時、無理をしているのがバレバレな半泣きな笑顔で、獣人の俺達に礼を言い頭を下げた小さな体を思い出す。

その後ドラゴン部隊に無理やり入れられて、今では荒事をこなす毎日の様だが、本来そんな事が向いているような娘ではなかった・・・人間は酷い事を平気で立場の弱い者に押し付ける。

小娘の境遇を思うと同情は禁じ得ない、たとえ人間だとしても・・アイツは異世界人だからな・・同情してもいいのだ・・・可哀想に。


ベルトのポケットの中から小娘のくれた石を取り出し眺める、アメジストとか言ったか・・・守り石なんだと・・・魔石の鉱山で酷使された自分は、石なんぞは大っ嫌いだし・・信じる気持ちも無かったが・・・あの小娘がくれたから捨てずにとっておいたのだ。


「真実の愛を育む石か・・・。」


ふんっと鼻で笑い、そろそろ時間か・・・と、これから同居する虎獣人の娘の為に誂えた小さな家、<クイニョンには人間に見える姿の者も多いから、刺激しない様にと街の外れの森の中の一軒家を買い、住める様に整えたのだ。>をもう一度見まわして、ドラゴンの発着所へと迎えに出たのだった。


虎歌姫様・・・沢山のパワーストーンを身に着けての退場です。

何の石が彼女に良いのか、詩乃も解らず量で勝負となりました。

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