味方が優しいとは限らない~4
カッとすると、本当に首や頭に血が上る感じがして痛いですね。血管を大切に(´・ω・`)。
夕暮れの海の上を2頭のドラゴンが飛んでいる、ラチャ先生のグリーンカルサイトさんとモルちゃんだ。
詩乃は今はモルちゃんには乗っておらず、グリーンカルサイトさんにラチャ先生とタンデムで・・・と言うか・・・後ろから、ロマンチックに言えば抱きしめられて・・・実のところは拘束されて座っている。
城砦の中の食堂で怒りを爆発させた詩乃は、ラチャ先生に<危険物>だと判断されて、すぐさま空の上に連れ出されていた。いまだに詩乃のご機嫌は頗る悪く、斜めどころかオーバーハング状態で・・・それをラチャ先生が辛抱図良く聞いてやっている。
『グチグチ言っている自分が言う事では無いけどさぁ、随分と辛抱強いよねラチャ先生って。うちのお母さんだったら、しつこい!の一言で、今頃話をぶった切っているよ。』
一通りの経緯を話して、盛大にため息を吐き出した詩乃に向かって、ラチャ先生がシミジミと話し出した。
「其方覚えているか?プマタシアンタルと私と其方で白骨街道を歩いていた時の事だ、青狼の群れに追われて避難所に駆け込んだ事が有っただろう?」
あぁ・・・確かにそんな事が有ったっけ・・旅を始めた頃の出来事だ。
狼達にしつこく追われて、仕方なく救難信号のお助け弾を打ち上げたのだけれど、中々助けが来てくれなくて・・・プウ師範の機嫌は悪いわ、やる事無くて暇だわ、食料は無いわ・・・メニューに文句言われるしで散々だった記憶が有る。
「腐り切った騎士が来て、其方に何と言ったか覚えておるか?」
「あっ。」
「其方に金を要求して来ただろう、残念ながらそれがこの国の騎士の実態なのだ。弱い者から金を巻き上げ、気分次第で相手を甚振る・・・騎士が弱者の味方などとは御伽話の中の話だ・・・残念ながらな。そうして平民の方でも心得ていて、言い分を通して貰う為に心付けをするのだ・・・どちらが悪いとは一概には言えないだろう?立場の弱いのは平民の方だからな。」
・・・ムゥウゥ・・・・。
ふくれっ面で俯く詩乃の頭をワシャワシャと撫でるラチャ先生、だからその撫で方はドラゴン仕様だと・・。
「其方の世界では、清廉潔白な騎士しかおらぬようだな。」
騎士なんか居なかったが・・・それでも交通違反をして車を止められた時に、目を瞑ってやるからお金を寄越せ何て要求するような警察官はいなかった。
・・・どんな悪質なドライバーでも、捕まった時に<どうか、これで宜しく~。>なんてお金を握らせる様な輩もいなかった。それが当たり前だと思っていた・・・だから警察官は、子供達が将来成りたい憧れの職業の上位に毎回ランクされているのだ。
「其方は間違っていない、そのまま真っすぐに生きれば良い。そんな其方の姿を見て、少しずつだが騎士達の心構えも変って行くだろうよ。」
『あの様な怒りを見せつけられたら、馬鹿な事をしようなどと思う奴は居ないだろう。少なくてもドラゴン部隊の中ではな、それほどにあの時のこの者の魔力は異常だった・・不思議なものよ異世界人と言うのは、怒ると瞬時に魔力が上がるのだろうか?』
「平騎士が間違えを起こさないように、仕事に見合う額に給料をUPするように王太子に言って下さいよ。苦労が報われていないから、間違えを起こすんですよぃ。その代り賄賂を受け取ったり、悪者に手心を加えた騎士は厳罰に処すって事でさぁ。」
振り返ってラチャ先生にもたれ掛かり上目遣いで見つめる詩乃、かなり甘い態勢なのだが本人は気付いていない。
「・・・解った伝えておこう。」
「有難う・・・ラチャ先生は約束を破った事は無いからね、信頼しているよ・・・(残りの王宮関係者よりはね。)」
「いつまでだ?」
「へっ?」
「いつまで私を先生と呼ぶのだ?私はそなたの師ではないぞ、婚約者では無いのかシュノ。」
「シュノ?」
シ~ノンからの進化形か・・・ラチャ先生<詩乃>って練習してくれていたのかな?ちょっとまだ惜しいけれどね・・・シュノかぁ。詩乃を見つめ無駄な色気を振りまいて来るラチャ先生、そうだった・・・この人・・・黙っていれば顔とスタイルは結構イケているんだった。
「ええええぇぇぇぇ~~~~とぅ?」
「うん?」
近い近い近い・・・顔が近いから!!どうした?これがあの朴念仁のラチャ先生か?何か妙な薄い本でも読ませた奴でもいるんかい?
詩乃の顔が赤いのは、何も夕日が照り映えているだけでは無い様だ・・・突然な出来事にアタフタするが空の上だ、逃げようがない・・・ウウウウウウワアァン。
「シュノ?」
・・・えっ・・・とぅ・・・。
「・・・・ターニー・・・・?」
ラチャ先生改めターニーさんは、満足そうに頷くとペンダントを空中からスルリと取り出した。
「魔力切れを起こさないように魔力を補充する魔術具だ、本来魔力は他人に融通できる様なモノでは無いのだがな・・・不思議な事に、異世界人の其方と私には親和性が有る様だから作ってみたのだ。いつも身に付けている様にな、これで余裕の有る行動が出来るだろう。」
ペンダントを付けてくれようとして・・・ターニーさんは詩乃の首にぶら下がる2つのペンダントに気が付いた、オイの手作りの貝殻のと狼族の牙のペンダントだ。微妙に不機嫌になるターニーさん。眉間に皺が寄り始める・・・皺レベル3・・要注意だ。
これは思い出の品だからと、取り上げられたらタマランとばかりに慌てて外して胴巻にしまう詩乃。空っぽになってスースーする細い首を晒して、これで如何だとばかりにターニーに見せニッコシ笑う。
「まぁ良いだろう・・・。」
ターニーさんは、詩乃の首にペンダントを付けると満足げに・・・軽い羽根で触れるようなキスをした・・・唇に・・・・。
ボンッ!!
夕日より真っ赤になった詩乃に、満足そうにニヤリと笑うターニーさん。
「其方の初めては全部私のモノだ、そうだろう・・・?」
驚きでで呼吸が止まり、口をパクパクと開け閉めする詩乃・・・誰なんだこいつは、本当にあのお堅い魔術師長ラチャターニー閣下なのか・・・。
ビックリし過ぎて、ドラゴンから落ちそうになった詩乃を支えて抱きしめ、更に愉快そうに笑うターニーさん。
アッハハハハハハ・・・と、声をあげて明るく晴れ晴れと笑う。
2頭のドラゴンもこれには驚いた・・・あの人間を笑わせられるなんて・・・詩乃ちゃんって凄い!と。
『クソォ・・調子に乗りやがって!このおっさん!違うもん、詩乃のファーストキスはウララちゃんだもん!』
詩乃の心の声は誰にも聞こえなかったが・・・。
その後、帰って来た詩乃達を戦々恐々として迎えた城砦の関係者一同は、ご機嫌な魔術師長と妙に大人しくなった詩乃を迎えて拍子抜けした。
・・・怒っているより、よほど良いが・・・。
魔術師長はすぐに消え去ったし、詩乃は「疲れたから寝る」と言ってモルちゃんの近くにテントを張って引っ込んでしまうしで、どうしたもんだかと思ったが・・・・寝た子を起こすのも恐ろしいのでそのまま無かった事にしたのだった。
*****
そうして翌朝早く、詩乃は単身モルちゃんと出かけると2頭の中型のギャースを結界で包み(仮死状態ですな)持ち帰って来た、6男を呼び寄せる餌にする為にである。
「ねぇ、もうあの人達の顔も見たくも無いからシャルワから伝えてもくれる?獣人の代わりにこのギャースをあげるから、それで納得するようにって。此処から去りたいのなら、買いに来る6男と交渉して何処でも好きな国にへと行くがいいってさぁ・・・十分な補償だろう?」
それだけ告げると、詩乃はサッサと食堂から出て行った。
『アッシはこれでも復興顧問だからね、忙しいんだよ!』
昨日の豹変ぶりに恐れおののき、皆恐々と遠巻きに詩乃を見ている。
強い力はそれだけで他人を怯えさせるし、どんな言葉や態度が詩乃の地雷になるのかサッパリ解らないので無暗やたらと怖いのだ。
物見台に居た冒険者達は<何を今更、タダの小娘なものか。>と思っていたが。
パガイさんだけが詩乃の後を付いて行った、獣人のこれからの事も有るし、商売の話が残っているからだ。
「あの商人根性が有るよな・・・怖くは無いのか?」
誰かがポツリと呟いた。
そうしてギャースを餌にホイホイと呼び出された6男は、難民たちの意向を聞くとあっさりと快諾、特別に船を仕立てて彼らを東の王国まで送る約束をし、難民達に熱い感謝の言葉を贈られていた。
3日後には仮の桟橋に船が着けられ、難民達はランケシ王国の最南端の地から去って行ったのだった。
その船を丘の上から遠く眺める、オッサン臭い後ろ姿の人物が2人。
「それにしてもあいつら、よりによって東の王国に行きたいとはな。何を考えているのか、ボコール様は注意をしてやらんのですか?」
立ち去る船を見ながら、呆れた様に呟いたのはパガイさんだった。
「まさか、そんな義理は僕には無いよ。」
・・と、にこやかに笑う6男の姿が隣に。ライバル商会のトップはこのところ、南の地で顔を合わせる機会が多い。
帝国と敵対関係にある東の王国も、相次ぐ戦いと魔獣の侵攻で平民の人口が減って困っていた。そこで美味い話を帝国内に流布させ難民の発生を促し、帝国を弱体化させると共に自国の人口増加を狙っていたのである、彼ら難民はその情報に踊らされ海に漕ぎ出して来た口だった。
東の王国は元々身分などに五月蠅い国柄である、受け入れる難民たちの扱いだって知れたものだ、碌な未来など有るはずも無い。
その昔、魔樹の為に祖国を失い、東の王国に流れたザンボアンガの難民達は辛酸を舐める羽目となった。後にランケシ王国(王妃様)が身柄を引き取る際には、多大の援助料を請求されたものだ、奴隷状態でこき使っていた癖にだ・・・ザンボアンガの民には苦い記憶が有るのが東の王国なのである。
「ボコール公爵領でも、人口増加させるのは課題でしょう?」
「それでもね、僕は自分の領地に住む人物は選ぶよ。腐ったリンゴをわざわざ樽に入れたがる奴はいないだろう?彼らの考え方はこれからのランケシには合わない、彼らの吐き出す言葉は毒となり周囲を腐らせる。僕はこれでも獣人の生産力には一目置いているからね、民の間に金にもならない差別感情や偏見は要らないよ、まぁシ~ノンの様に純粋な好意を寄せる事も出来ないけれどね。」
2人は怖がる事無く虎獣人に(ベタベタと)懐き、気難しい狼族に寄り添い(時に身銭を切り)信頼を得て行った詩乃を思う。見も知らない獣人の為に、命を張る様な奇特な人物はこの世界にはいない・・・詩乃は例の虎の女も我を通して守り続けている。
「異世界人は、解りかねる・・・。」
「あの子の事は嫌いにはなれないよね、まぁ特に好きにもなれないけど・・・この僕にハッタリをカマシて来るなんて良い度胸だよ。それに・・あの青臭い理想論が、あの子の口からだと現実になって行く様に思えてしまう。まぁ、僕らの手には余るから、相手をするなら魔術師長ぐらいが丁度良いのかもね?・・・それで?パガイ君。本当は冬虫夏草なんか出来ていないんでしょう?」
6男の言葉に苦笑いすると、パガイさんは肩を竦めて見せた・・・精々気でも揉んでいろ、一人だけ美味しい思いなどさせるものか。
『パガイ商会にも独占販売できる様な品が欲しいものだ・・・シ~ノンから何か知識を搾り出させねばならんな。』
海岸に目を遣ると、シ~ノンが土地の者や冒険者達と何やら話し込んでいる、今度は何を始める気なんだ。
「おぃ、シ~ノン。その話一枚俺にかませろ!」
丘の上から大声で呼ばわると、驚いた様に振り向いた詩乃が悪い顔でニヤリと笑った。
ラチャ先生の枕の下に、薄くてアレな本を置いたのは兎メイドシスターズの8番目。今では次の本を借りて来るようにと、枕の下に読み終えた本とお金が置かれています。8ちゃんの良い稼ぎになっています、犯人はお前かぁ~~~(@_@。。