味方が優しいとは限らない~3
苦難は続くよいつまでも~~~(*´Д`)。
お家帰りたい・・・。
まぁ、何にしても魔獣の脅威は取り敢えず去ったようだし、後はサッサと後始末をしてお家に帰りたいものだ・・・隊員皆そう考えていた時だった。
関係者が揃って要るいい機会だから・・と、ポアフ隊長が懐から命令書を取り出した。普通命令書は隊長など幹部が読むもので、平隊員にはおよそ関係の無い物なのだが?
「騎士団とは別に、王宮からの命令を伝える。これは伯爵殿、貴方と領地にも関わる事なので心して聞いてほしい。」
嫌な予感しかしないね・・・。
「独立空軍部隊隊員は引き続き、伯爵領の復興に尽力・治安の維持に努める様に。尚、シ~ノン隊員は領地の復興顧問として領主を補佐、この地を発展させる為の知恵を出す事を期待する。」
『何だぁそりゃ~あぁ~~~~~。』
トデリやクイニョンの件を知らない他の隊員・領地の人々は不思議に思ったのだろう・・・<こいつが顧問?>みたいな目で見て来る・・・全くもってアッシも同感だ・・・どないせぃと言うんじゃぁ、ふざけんな丸投げかよ!!
「伯爵殿、貴殿には領地の復興を命ずる他、難民の件を全権委任するとの事だ。貴殿の手腕なら大丈夫だと・・・王妃様から直々に委任状を預かって来た。」
ポワフ隊長が気の毒そうに、婆を見つめて・・・目を逸らした。
「そう、それから後継ぎ殿・・・魔術師長からドラゴン経由で伝言が来て有るが・・・貴殿はいったい何をしたのだ?師長は大層なお怒りの様だぞ?
『伯爵領から一歩でも外に出てみろ、粉微塵にしてやる・・精々働け。』
・・との事だが、心当たりは有るか?」
あの時物見台に居た一同は、視線を逸らして中空を見つめる・・・<この小娘が魔術師長のコレ(小指・異世界共通のサインだった)かぁ?趣味解んねぇ。
オ~イはガックリと膝を折りORZの姿そのままに石化している、詩乃をナンパした件がバレている・・・いったいどこから知っているのだろうか・・・何これ盗聴・・・怖い・・ストーカーなの?
逆に後継ぎに逃げられなくて済んだ女官長は上機嫌である、魔術師長の目を掻い潜るなど出来ない事は貴族の端くれなら皆良く知っている。
『小娘め、なかなか良い働きをしてくれるわ。』
「ご命令確かに拝命致しました、王妃様のご期待に沿うよう・・・其方・・・精々頑張りなさい。」
遮光器土偶の目をカッと開いて、薄ら笑いつつ詩乃を睨み付ける女官長。
「はぁ?」
女官長もアッシに丸投げですか?
アッシは未来の青い猫型ロボットじゃあ~ござんせんぜ?ふざけんな婆。
「まぁまぁ・・とにかく、食事でも取りながら今後の事を決めませんか?領民はもう長く、自分達の事は合議制で決めている様だし・・・話に加わりたいでしょうから。自分達の事を自分達で決めれば、覚悟も違った来るでしょうし。」
ポワフ隊長が綺麗に締めくくった、隊長にしても詩乃にそんな能力があるとは思えないでいるのだろう・・・全くもって同感だ。
確かにもう夕方だし・・・お腹が空いたよね・・・。
魔弾倉庫にまだ閉じ込められている領民達も出してあげなきゃ可哀想だし、新たな難民たちの健康状態もチェックしないと、病気でも持ち込まれてここで蔓延せれたら困るしな。
「兎にも角にも、魔獣の脅威は去ったんだし!!乾杯と・・・」
石化から復活したオ~イが叫んだが、手持ちにお酒なんか無いし?
其方、気が早い!!と女官長に一喝されていた・・打たれ強いよね、この人。
*****
今日はみんな疲れているし(肉体的にも精神的にもね)ラチャ先生の救援物資(屋敷の料理人さんが作ってくれたカレー風の煮込み料理だ、雑穀ご飯にかけて食べる、簡単で美味しい・元気の出る詩乃が教えたレシピの一つだ。)を振舞う事にした。命拾いの後のご飯は美味しいよね、みんな食事を見て歓声を上げた。詩乃は領地の女性達に配膳を任せると、今度は難民の健康チェックと清浄の魔術具を使ってのクリーンアップに向かう。
彼らはまだ城砦の中には入れず(検疫が済んでいなかったからね)壁の前で待たされていた、海賊から逃れてホッとしてはいたが、この地は何やら恐ろしい魔獣が居る様なので戦々恐々としていた、目の前で怪獣の死闘を見せつけられたのだ・・・それは怖いだろう。
詩乃達数人が迎えに現れると、涙を流さんばかりに喜んだ・・待たせて御免ね。
今度の人達とも言葉が通じなかったが、シャルワが通訳を買って出てくれたので何とかスムーズに事は運んだ。それにしてもシャルワさん、何気に有能だね?聞けば大陸共通語が有り、それに訛りが加味されて地方色が出て来るんだそうで、共通語を知っていれば如何にかなると言う事だ。
その訛りが難しいと思うのだが・・シャルワさん、騎士よりスパイとかの方が向いていたりして?存在感無いから周囲に溶け込むのが上手そうだし?
若干失礼な事を考えつつ、難民の健康状態を調べる、<空の魔石>で検診・実行だ。軽度の栄養失調が認められたが命に別状は無さそうだ、伝染する病気も無いし安心した・・・これで城砦の中に入れることが出来る。
シャルワによると、今度の難民さん達は帝国の北部に住んでいた人達らしい。
何でも帝国皇帝は国々を併合した後、土地に対する愛着や伝統などの郷土愛に触発されて、帝国に反旗を翻えさない様にと考え、帝国内で領地や・領民達を交換する政策を実行、人々を見知らぬ他国の領地へ強制的に移住をさせたそうだ。
『・・・何だか、そんな話があちらの世界でもあったよね?誰だっけ・・・そんな事をした独裁者は?その計画は結局上手く行ったんだっけ?』
違う土地に財産を減らしつつ(不動産関係は持って行けないものね)移住したのは良いが、農業にひとつにしても勝手が解らず苦労するばかり、少ない収穫は帝国に搾取されるし・・・何もかも嫌になって逃げだして来そうで、彼らは苦難の日々を切々とシャルワに訴えてきた。
『ふ~~ん?帝国が崩壊すれば故郷に帰りたい口の人達なのかな、難民と一括りにしてもみんな望みは違うみたいだし。どうしたものか・・・王妃様は女官長の手腕なら大丈夫って言ったんだよね・・・女官長の得意分って何だろう?』
そんな事を考えながら、new難民さん達を食堂に案内するべく皆で向かっていたら、其処では何やら騒動が起きていた。
*****
食堂の隅に固まる獣人達に、海岸の洞窟で潜んでいた、掃討作戦前に保護されていた難民達が詰め寄っている。かなり険悪な雰囲気で、領民の人達は間に入ることも出来ずオロオロしているばかりだ。
ただ一人、難民達に対峙しているのはパガイさんだけだ、彼は厳しい視線を難民達に向け睨み付けている・・・あんな顔をしているのを見るのは初めてだ。
パガイさんはどんな時でも余裕をブッコいて、ヒョウヒョウとしているイメージが有ったのだが・・・。
「ねぇ、どうしたの?何が有ったのさぁ?」
隊員でありながら、何故かすでに食事中のムウアに話を聞く。
「奴らは、獣人を洞窟に隠していた難民たちだ。俺達・・・シ~ノンが獣人の枷を外しただろう?獣人の所有権を主張しているみたいだ、言葉が解らんからハッキリしないが。あの商人が婆と難民との間で通訳をしているんだが・・・婆も獣人が嫌いな様だし、商人はザンボアンガ系だろ?話が拗れている様だ。」
パガイさん、あれでもザンボアンガの王弟のお孫様だっけ?亡国の民だろうが何だろうが、ほっておく訳にはいかないんだろう。・・それであの厳しい顔か・・・。
「隊長や皆は?オ~イや冒険者達の姿も見えないけれど。」
「皆は、城壁や物見台の損傷を確認に行っている。俺は此処で治安維持だ。」
そうか、飯を食いながらな・・・全然治安維持してい無いじゃぁないのさ。
難民共め、話が通りやすそうな女官長しかいない時を狙って騒動を起こしたな。此処で貴族然としているのは女官長だけだ、貴族の扱いに慣れている層の難民なのだろう。
・・・では、働いてもらおうか。
「シャルワ通訳、ムウアは睨みを利かせて、行くよ。」
トラブル有る所に詩乃の姿有りだ、詩乃はシャルワとムウア(彼は残っていた煮込みを丸呑みして立ち上がった、これこれ煮込みは飲み物では有りませんよ?)をバックに引き連れ、詩乃は険悪な雰囲気の只中に介入していった。
「いったい何の騒ぎだぇ、飯が不味くなるような事は良しなせぇ。」
詩乃の言葉に眉間に皺を寄せる女官長、パガイさんは慣れているのか動じないが・・・気配りしいのシャルワは貴族然としたクィーンズ共通語で通訳した様だ。
難民達が話が分かる人物が現れたと感じたのか、愛想笑いを漏らし腰を低く下げて礼をして見せた。
『高位の貴族におべっかを使う、下位の貴族みたいだね・・・。』
装飾の多い・・つまるところ、何が言いたいのかおよそ解らない訴えを聞く事10分、キリが無いのでやめる様に片手を上げ制する。こーゆー権力に擦り寄る事を知っている輩には、偉そうな態度で接した方が話は早くなると言うモノだ。
何たって復興顧問だからね、偉い事には偉いんだよアッシはさぁ。
「ランケシ王国では人身売買は禁止されているし、獣人もその人権を保障・保護されている。貴殿らの主張は此処では通用しない。」
詩乃語を綺麗に訳してシャルワが伝える、詩乃の話す言葉はもっと直接的で単純だ・・・つまるところ、ふざけんな馬鹿野郎・・・だ。そう言えば某893映画は怖くて最後まで見られなかったが、馬鹿野郎この野郎のセリフは・・・覚えている・・ってか、それしか頭に残っていないが。
『監督!詩乃は今異世界でレイジ化されているよ。』
詩乃の言葉に、難民たちは一斉に抗議の声を上げる。詩乃がチビで女だから舐めている様だ、イヤハヤと首を振りながら、モノを知らない子供に諭す様に話を続けて来る、慇懃無礼を絵に書いたような男だ。
要は、自分達も好きでランケシに漂着した訳では無く困っている事と、獣人達は帝国の民である時の財産だからランケシの法律は適用されない等と訴えているようだ。
『・・・だからなんだ・・それがどうした?』
「帝国の法律を盾にするなら帝国にいろ、此処はランケシだ・・・当然ランケシの法律が適用される。財産と言うがランケシでは人身売買は違法だ、彼らを売るなら違法行為者として処罰する・・・騎士に引き渡されたいのか?」
詩乃はイチイチ難民を見ることも無く、機械的に返答を繰り返す。
法律的な小難しい言葉は、当然シャルワさんの付けたしだ・・・意訳って言うのかな?出来る通訳は助かるね。
「獣人達がランケシに亡命を希望するのなら、我々はそれを受け入れる用意がある。」
これにはもう非難轟々だ、何だか泥棒呼ばわりされているような気がするぞ?
パガイさんは青筋立てて睨み付けているし、通訳のシャルワも憮然とした表情だ・・・最もいつも不機嫌そうな面構えなのだが。詩乃に詰め寄ろうとした難民がムウワの壁に阻まれる、厚い肉壁だからね突破できないだろう?
「あんたらの財産を守ったのは此方だ、保護もせず洞窟に置き去りにした時点でOUTなのさぁ。」
詩乃は襟の映像の魔術具を外すと、録画してある海岸での一件を壁に映し出した・・・枷を付けられたまま魔獣から逃げ惑う獣人達、助けに駆け付けた詩乃・・・爆発するギャース。
「こちらが命がけで助けなければ、獣人達は既にこの世にはいなかった・・・あんたらの言う財産はもうこの世には存在してはいないのさ。これを見てもまだ財産権を主張するか?それならば、此方は助けた手間賃を請求するぞ?一人に当たり100万ガルだ・・・どうする欲をかいて身包み剥がされたいか?」
流石に恐ろしい映像を見せられて、言葉も出ない様子だ・・・。
『帝国には強い魔獣がいないのかな?それとも魔力の強い貴族が多くて討伐しているから知らないのか。』
これで話は終わったなと、獣人達を引き連れてその場を去ろうとしたその時だ。
可憐な少女がいきなり進み出て来て、膝を折り詩乃の手を両手で包み込むと何かを握らせてきた・・・これは?金の指輪?
・・・思わずラチャ先生級に眉間に皺を寄せる詩乃。
少しの間・・手の中の指輪を見て石化していた詩乃だったが、いきなり噴火した・・・家の爺ちゃん級の大噴火だ、噴煙は成層圏まで届き飛行機は軒並み欠航しそうな勢いだ。
「何なんだこれは!!賄賂のつもりか!馬鹿にするな!!
こんな指輪と命を懸けて守った獣人が、等価交換されるとでも思っているのか!」
突然目の前が真っ赤に染まった、血圧が急上昇したようだ・・・怒りで目の前が真っ赤になるって本当だったんだ。実感したよ・・古の言い伝えは真であった。
大声で怒鳴り散らし只ならぬ雰囲気の詩乃に、食堂に居た全員が凍り付く・・・物理的に温度が下がっている様だ、吐く息が白くなっている、最南端のこの地では有り得ない現象だ。
シャルワとムウアも驚き固まってしまった、シ~ノンはいつもニコニコしていて怒る事も無くキツイ任務をこなしていたし、ましてや民間人に大声を出した事等なかった。
・・・好きなお菓子をムウアが横取りしても怒らなかった・・・のにだ。
指輪を握らせた少女は驚きのあまり息をするのも忘れた様だ、許しを請う事も出来ずにフリーズしてい詩乃を見つめて震えている。
詩乃が少女(詩乃より背が大きいが)に向かって、聞いた事も無い様な低い声で威嚇するように呟いた。
「騎士に対して何たる無礼・・・許しがたい!このアッシに職を汚せと言うのか・・・お前ら全員不法侵入者として騎士団に引き渡してやる!」
懐から鞭を取り出し、拘束しようと振り上げたところで
「其方、何をそう怒っておるのだ・・・。」
後ろから突然湧いて来た魔術師長が、両腕で詩乃を拘束していた。
『ウウウウォォォォ~~~~ン!邪魔すんなぁ~~~~。』
「うわぁぁ!また現れた!!」シャルワ&ムウア( ;∀;)。