味方が優しいとは限らない~2
後始末までがお仕事です・・・これが一番面倒臭い(*´Д`)。
虎姫様は洞窟の奥に檻に入れられて隠されていたので、オレウアイにも気付かれなかったらしい。カワウソ君は彼女を心配して見に行って、逆に怪我を負ってしまったそうだ可哀想に。
何にしても、誰も死なずに済んで何よりだねぃ・・・今回の掃討作戦で、人的被害は出なかったのは幸いだった。そうそう、沖にいた難民船の人達も詩乃の結界のおかげで、海賊の攻撃もやり過ごせたらしいし。
・・人的被害は海賊だけだったね・・主に詩乃が関係しているのだが。
海賊達は、ランパールから派遣されて来た騎士団に連れていかれた。
コチコチ男達もそのまま運ばれて行った、足骨折してんだけど・・・良いのか?
<彼らは何処の国にも所属していない無国籍状態者なので、特に裁判なども無いらしく、そのまま残っている魔石鉱山の発掘現場に連行されるらしいが・・・そんな無粋な話は詩乃には伏せられていた。>
*****
そうして、海岸でラチャ先生の結界の魔術具でコーティングされた、例のデカギャースは6男がお持ち帰りを希望して来た。
酸欠状態で死んだのかと思われたが、流石魔獣さんで・・・そのぐらいではヘコタレず、現在は仮死状態なのだそうだ。それに6男の目がキランと光った・・・。
虎姫様を諦めた6男は今度はデカギャースに目を付けた様だ、オレウアイは魔獣の中でも強い方だし、しかもデカだ・・・これは良い冬虫夏草が取れそう・・ってなものなのだろう。別に今度は反対はしないよ?詩乃の事を食おうとした奴だしな。
ギャースの値段交渉に詩乃が出しゃばる謂れは無いのだが(魔獣は基本、採れた所の領主や採った者の財産となる。)倒したのは詩乃(ラチャ先生の魔術具)だし、オ~イの交渉能力が解らないので同席する事にした。命がけで戦った相手だ、高く買って貰おうじゃないのさ。
場所は伯爵の館・城砦の応接室と言う名の穴倉だ。
「これは女官長、いや伯爵様お久しぶりです、お元気そうで何よりです。」
6男はシャーシャーと言うが、この婆が元気そうに見えるのか?
骨と皮の様な婆だぞ・・・うん?女官長?
聞き捨てならないワードが聞こえて来て思わず言葉に乗せる。
「女官長・・・?」
改めて婆の顔を凝視すると、遮光器土偶の様なおメメ・・・女官長?
「知らなかったのかいシ~ノン君、彼女は聖女様の離宮のお世話を担っていた女官長だった人だ、君も当然面識が有るだろう?」
モヤモヤの正体がハッキリした瞬間だった。
「えええええ~~~、女官長?あの王宮の聖女様の離宮でブイブイ言わせていた女官長?だってだってだって、女官長はもっともっとフクフクしていて、柔らかそうで・・大福みたいで・・。」
「あの頃は太っていましたからね、解らないのも無理は無い(今頃気が付いたか、このオマケの小娘め。)でしょう。」
はぁ~~~~?余りの激減振りに驚いて声も出ない。
何たる強制ダイエット・・昔の面影はおメメにしか残っていないではないか・・・遮光器土偶のおメメ、突然カッと開いて威嚇して来る・・あの冷たい目。
急に居心地が悪くなってモジモジする詩乃だ、自分の昔を知っている人が居るって嫌な感じだよね、特にあの頃は思い出したくも無い黒歴史だし。
「シ~ノン君が海岸で大きなオレウアイを無傷で捕らえましてね、それを売って頂こうと考え参上致しました。如何でしょう、シ~ノン君は騎士団員なので報酬は受け取れませんから、金額の交渉は伯爵と致したいと思っています。」
「まぁまぁ、それは有難い事。」
ちっとも有難くなさそうに話す女官長、詩乃を無視して交渉をする気の様だ、此方を一瞥だにしない。そんな所は相変わらずの様だ、詩乃は女官長の中ではいつまでもオマケの小娘なのだろうさぁ。
詩乃は女官長は苦手なのでチョイチョイとオ~イを呼び寄せ、交渉方法とその金額を伝授する、冬虫夏草を作るつもりだろうから相当吹っ掛けてもいいはずだと。
「どうでしょう5000万ガルで。」
まぁ!有り難い・・・
「ふざけんな!」
どうしても引っ込んでいられないんだよね・・つい口を出してしまう悪い癖。
「6男さん此処の有様を見ただろう、食うにも困っている状態なんだ、値切るに事欠いて何だぇその金額は。復興資金になるんだ、ケチ臭い事を言ってるんじゃぁないよ。」
公爵家相手にタメ口をきく詩乃に、周囲は驚き固まってしまう、オ~イでさえ唖然として動けない様だ。
「デカギャースの売値は10億ガルだ、冬虫夏草を作るんだろう?この位吹っ掛けてもいいはずだ。1ガルだってまかんねぇよ。」
詩乃は腕組みをして6男を睨み付ける、残念な事に小動物が威嚇している様にしか見えないのだが。
10億ガルだって?!なんだ、その豊かな領地の1年の収入的な金額は?
周囲を取り囲んでいる関係者一同は騒然となった。
「確かにあれで冬虫夏草を作る予定だが、その技術はボコールしか持っていない秘術中の秘術だ。君達があのオレウアイを持っていた所で宝の持ち腐れだろう?皮を売るくらいしか使い道が無いモノだ。皮の代金として考えたら、異例の高値だと思うが?違うかい?」
「違うね、まず考え違いしているのは・・あのデカいのは仮死状態だって事だ。仮死状態のギャースなど手に入れたくても手に入らないレア中のレアものだ、それだけで付加価値が大きく違う。」
痛い所を付かれたのか、6男はニコリと笑う・・・目は笑っていないが。
ボコールでは確かに冬虫夏草を生産出来る様になってはいたが、苗床にする魔獣の収集に苦労していたのだ。弱い魔獣は生け捕りに出来るが、強いそれは中々捕まらない。たとえ生け捕りに出来たとしても、仮死状態にする塩梅が難しくて、死なせてしまうか余計興奮させて暴れさせてしまい、やむなく殺さねばならない・・・の2択ととなっている状態が続き悩みの種だったのだ。
仕方が無く現在は弱い魔獣を使い冬虫夏草を生産しているが、それでは薬効が少ない・・・どうせ作るなら、強い魔獣で強い薬を作りたい!と思うのが人情ってモノだろう。
本心では仮死状態のオレウアイは、喉から手が出る程欲しい一品なのである。
「では・・・7000万ガルで如何でしょう。」
あくまでも交渉相手は婆の様で、詩乃の方を見もしない、全くもって感じの悪い6男さんである。
「考え違い、その2は冬虫夏草を作れるのは、何もボコールだけでは無い事だ。」
この一言で、思わず詩乃の方を向く6男。
「ラチャ先生から貰った空間収納は大きいからね、デカを収めてクイニョンの洞窟に運ぶなんざぁお手のモノって訳だ。
知ってるかい?狼達は洞窟を封鎖して冬虫夏草を始末したつもりの様だが、あれらが住み着いてからの方が塩梅が良さげなのか、冬虫夏草が頻繁に出来て来るので困っているそうだ。
別にボコールで作らなくても言いのさ、クイニョンに運びさえすれば難なく冬虫夏草は作り出せる、養殖ではない天然物だから薬効も良いだろうし?売り手はザンボアンガ系の商人に任せれば良い。残念だったね、ボコールの独占販売とはならなかった様だよ?」
「そんな情報は上がっていない・・・ハッタリだ。」
6男の苦り切った低い声にも、肩を竦めて見せるだけの余裕な詩乃さん。
6男は固唾を飲んで壁に張り付いている関係者一同の中に、王妃の子飼いの商人<パガイ>がいたのを思い出し睨み付けたが、彼は床を見つめているだけで表情一つ変えず此方を見ようともしない。
・・・本当にクイニョンで?冬虫夏草が再び出来ているのか?
・・・あのタヌキ王妃の小タヌキめが!本当の事を言わんか!!
「・・・オレウアイを買ったとしても、上手く冬虫夏草が発生するかどうかは未知数だ。そこまで投資する事は出来ない・・・補償がなさすぎる。」
「それはあんた方の問題だ、頑張れ~~としか言いようがないね。」
シレっと答える小娘・・・・。
二人のやり取りに、唖然としながらも離宮時代を思い出す女官長。
『そうだった、この小娘は誰に対しても言いたい事を言い、恐れを知らない無礼者だった。少しも変っていないではないか、むしろ無礼さに磨きが掛かっていないか?』
女官長は何だか面白くなってきた・・・ククク・・・笑いを堪えるのに苦労する。
小娘を相手にするのは分が悪いと思ったのか、女官長の顔を縋るように見つめて来る大公爵家の4男坊に、彼女は気味悪く小首を傾げると。
「年寄りには、何の事だか難しすぎて・・・其方どう思う?」
甥っ子に話を丸投げした・・必殺、責任転嫁・・ほら、この人後継ぎですから。
オ~イは突然話を振られてドギマギしたが、事前に詩乃が入れ知恵しておいたので、領地の事を考えると・・なるべく高く買ってくれる方に売りたい事・・・これから先もオレウアイを生け捕りにする方法を考えて、ボコール商会に供給し、良い関係を築きたい事などを切々と訴えた。
・・・・・・・・。
「フ~~~ゥ・・・。」
6男は厭味ったらしく、長い溜息を吐くと・・・
「時間がもったいない、3億ガルの即金だ。これ以上は出せない。」
話を切り上げて来た、粘り腰の6男にしては珍しい・・・さては早く実験したいんだな、このマッドサイエンティストさんめが。
あら?6男さんたら、何で詩乃を見るかな?此処の責任者は伯爵様だろう。
オ~イがチラ見して来たので、ウインク一発パチリと決めて商談を成立させる様に促す。
『いや~~、ケチな6男が良く其処まで出したね、驚きだよ・・・10憶ガルは勿論吹っ掛けだし、其処まで出すとは思ってもいなかったが・・・デカさん、有難う・・・復興資金が出来たよ。』
高位の貴族相手にハッタリを噛ましニコニコと笑う詩乃に、部隊の皆はドン引きだ・・・何故だし?お互い顔を見合わせて何か言いたげにしている、部隊内での詩乃の評価が、今日一日で上がったり下がったりと忙しい曲線を描いた様だな・・・ここらで下げ止まりしてほしいぞ?どこかの国の株価ではないのだから。
6男はデカを手に入れるともう用は無いとばかりに、別れの挨拶も簡単にサッサと帰って行った、そんな所がドライだよねモブ男さん。バイバイ。
「フゥ~~~~ッ」
此処にもお疲れな方が一人・・・哀愁が似合う、チベットスナギツネさん。
「お前!クイニョンで冬虫夏草なんざぁ、出来て無いだろう!!精々落ちたモリコウに寄生した小さな奴が報告されているだけだ。なんで俺を巻き込んだ、ボコール商会に目を付けられたじゃぁ無いか。」
かなりオカンムリだ、いつもの勢いはどうした?
「パガイさんの背後霊にはあの王妃様がいるんだから、心配ない大丈夫さぁ!」
「ふざけんな、ボコール系とザンボアンガ系の仁義なき戦いを知らんのか。商売は血の流れない戦いなんだ、あいつら全力で潰しにかかって来るぞ・・あああああああ・・俺は此処に何しに来たんだっ!!買える物はもうないのか?・・・手ぶらで帰れと?この俺様に!!」
頭をワシャワシャと掻き毟り、苦悩するパガイさん・・・関係者一同ドン引きだ。
そんなにするとトンスラが出来るよ?おやめ?
・・・壊れちゃった・・・チベットスナギツネ・・・合掌。チ~~~ン。
詩乃を飼っていたつもりで、いつの間にか飼われていたパガイさん。
これからもヨロシクね~~(^^♪。