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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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味方が優しいとは限らない~1

恐いのは上司か敵か・・・(/ω\)。

あんなにクタクタに疲れて、気分も落ち込んでいたはずなのだが・・・・凄いよね<癒しの魔術>って、お陰様で平常心に戻れました。

こんなに便利な魔術が有るのなら、あのクソ不味い<紫色の面妖な匂いがするドロドロとした魔術薬>なんて必要無いんじゃね?

そう感想を漏らしたら、普通はそんな気分まで回復する様な<癒しの魔術>なんて無いそうなのだ。魔術は掛け手と受け手の魔力の相性や、気持ちの加減で効果が変わる(良いんかい!それで。)んだそうで、こんなに効果が有る事は滅多に無いんだって。

多分・・詩乃の事件を忘れたいと強く願う気持ちや、生まれ持った魔力の質が、ラチャ先生の強い魔力と良い塩梅に混ざり有って良い結果を生んだのだろうと説明を受けた。そうだよね・・・そんなに効いたら一家に一人ラチャ先生だよね。

・・・何にしても、午後からの後始末も大変だろうから(ゲンナリ)気分がスッキリしたのは大変に有難たい事だった。




「いけねっ!忘れてた、タヌちゃんはどうした?」


助けた獣人達を集めて、点呼を取っていて気が付いた。

慌てて迎えに行くと、何とタヌちゃんはまだ穴の中で絶賛気絶中だった。

怖い思いをしないで済んでいるのだから、ある意味<計画通り、キラッ>なのだろうか?しかし周囲に助けてくれる者が居る時にしか効力は発揮出来無い作戦だが?

・・それでいいのか生存戦略としては?

タヌちゃんを助け起こして枷を外してあげる、まだ外していなかった獣人の枷も外し自由にしてあげた。中には枷のせいで毛が擦り切れて肌がむき出しになり、ジクジクと痛そうで(歳をとってきたウララちゃんの肘もこんな風に毛が擦り切れてしまっていたものだが・・・。)可愛そうなので、下手糞だがラチャ先生の<癒しのコピー>を使って怪我などを治していった。


獣人さん達は喜び、多分お礼を言ってくれている様だが・・残念な事に言葉が解らず・・日本人特有スキル<愛想笑い>で誤魔化した。

ニーゴさんも彼らの言葉が解らないんだってさ、ニーゴさんの一族は早くからランケシ王国に来ていたそうなので、3代目となるニーゴさんはランケシの言葉しか喋れない・・・彼らは多分ザンボアンガ語を話していると思うそうだ。


丁度パガイさんも来る事だし、彼らはパガイさんに丸投げすれば良いだろう。

そんな風に簡単に考えていたのだ、この事件が切っ掛けで、また異世界の嫌な部分を見せつけられる事となるとはさ・・この時は思いもしなかった。


【・・失念していたが、彼らの身分は奴隷で・・所有者がいるのだった。】



    *****



「やあシ~ノンさん大丈夫かい?君の活躍はラチャから連絡が入ったよ、随分と無茶をしたそうだね。あんまり無茶をすると、心配性のラチャに監禁されるよ?」


ギャースの買い付けに来た6男に、開口一番不吉な言葉を投げつけられる・・・顔は相変わらずのモブ顔で柔和そうに笑っているが、その目は少しも笑っておらず冗談か本気か解らず困惑する事しきりだ。


「ザンボアンガの民を助けてくれたのは感謝しきれないが、お前が死んだら面倒が起こる事を・・頼むから自覚してくれ・・・。それに、お前のドラゴンが嘆き悲しんで儚くなったら嫌だろう?トデリやクイニョン・スルトゥでも、皆が悲しむんだぞ?」


パガイさんのお説教を素直に聞けない気分なのは・・・面倒が起こる?のセリフが引っ掛かるからだ。なんのこっちゃ?別にお葬式など簡単に済まして貰って構わないが?神官の儀式なんかノウサンキューだし、お経はお婆ちゃんと仏壇で唱えていたワンフレーズしか覚えて無いから、多分極楽浄土には縁が無いと思うが?

・・・異世界からご先祖様が迎えに来てくれないかなぁ。


「此処まで鈍いと哀れになって来るな・・・。」


お互い?で、睨みあう事しばし・・・まぁ、どうでもいいや(結論)。


「そんな事よりパガイさん、此処の獣人さん達はパガイさんが面倒見てくれますよね?スルトゥに連れて行って貰えば、生活訓練や仕事の研修なんかが出来るでしょう?スルトゥならザンボアンガの言葉が通じるでしょうから丁度いいし。」


「まぁ、すんなり事が済めば吝かでは無いが・・・。」


そんな話をしている時、彼らが隠れていた洞窟の方から悲鳴が上がった。


「なんだ!まだオレウアイが残っていたの・・・かぁ・・はぁあ?」


振り向いて見えたモノは、カワウソの様な獣人の腕に噛み付いている何か。


「あれは・・・虎さん?・・・ってか、虎姫様?」


それは往年の名作・・・元祖電撃攻撃で、愛しいダーリンをビリビリさせるキャラの様な恰好をした、フルフェイスの虎獣人の女性だった。

可哀想にカワウソの男の人は腕を離させようと、必死に暴れているが虎姫様は鋭い牙を立て一向に離そうとしない・・このままでは、腕が千切れてしまう!


ウワァァァ~~~~悲鳴が絶叫に変わる。


ポアフ隊長が魔弾を放とうとするが、それでは二人とも危ない、カワウソ君も巻き添えになってしまう。

凍り付いた様に動けないで見つめていたら、後ろからニーゴさんがスルリと近づいて虎姫様の喉にチョップを入れた、流石ニーゴさん虎獣人の急所を良く知っている。思わず口を開いた隙を狙って、ニーゴさんはカワウソ君を引っ掴み後退した、アァァ・・・あんなに血が。

顔面蒼白なカワウソ君の元に急いで駆け寄り、<癒しの魔術のコピー>を当てる。お願い頼むから作動して・・良かった・・どうにかなりそうだ。不思議な事に、時間を巻き戻す様に体の中に血が戻って行き、傷口も中から塞がって行く。

手当をしながら、お互いホッとため息を漏らしていたら。


    キシャアァァァ~~~~~~~


およそ人の声と思えな様な叫びが響いて、思わず全身に鳥肌が立ってしまう・・・何の声?また新たな強力な魔獣が・・・慌てて辺りを見渡すが・・・いや、この叫びは魔獣では無かった。

虎姫様が絶叫したのだ・・・その瞳は光りも無く何も映していないかの様に、黒々と闇が広がっているばかりで生きている者の感じがしない。


「気を付けろ、それはビタタマ粉でラリっている。正常な判断は出来ない、人だと思うな魔獣と同じだと思え。」

ニーゴさんが叫んだ、鼻を押さえているビタタマ粉の匂いがするんだろう。


『ビタタマ粉?虎さんが恐れていた・・あの粉?』


猫科の獣人には麻薬の様な作用をし、自分を保てなくなる恐ろしい粉だと聞いた事が有ったが、そんなモノを使われたのか?まだ若い女性に見えるのだが。


「仕方が無い、討伐せ・・・」

「待って!彼女は悪くない、悪いのはビタタマ粉なんか盛った奴でしょう?」


ポアフ隊長の命令を思わずブッた切ってしまった、部下なんだけどさぁ・・・討伐はチョッと酷くね?


虎姫様は膝を折り、喉を両手で抑えてグルルルルゥゥゥゥ~~~と唸っているが、とてもじゃ無いが話が通じる状態には見えない。とにかくワンパンでもかまして、沈めて意識を狩らなきゃどうにもならない様子だ。


「そんな悠長な事を言っている場合では無いぞ、女とは言え虎獣人の攻撃力は強い。本気でやらなければこっちがやられる、虎を甘く見るな。」


そうだけど・・・それは解っているけれど・・・彼女は被害者だよ?なんで被害者が酷い目に遭わなければならないの・・・そんなの理不尽すぎる!

魔力が強い6男が魔術を展開して放とうとしている、あれは空娶る魔術だ・・・拘束するつもりなのか?


「虎獣人の冬虫夏草はどんな仕上がりになるかな、ねぇ、この子押さえたら貰っても良いでしょう?」


「ダメェェェェェ~~~~!!!!」


こいつハナから助けるつもり何かないぞ、人体実験?駄目!絶対!!

どいつもコイツも、碌なもんじゃぁ無い。

詩乃の怒りの視線に気付いたのか、6男は神妙な顔を装いつつ恐ろしい事を話し出す。


「重度のビタタマ粉中毒患者の脳は委縮していて、二度と元には戻らないと言われているんだ。ビタタマ粉を餌に、命令に忠実に動くカラクリ人形の様になり果てると言われている。それでは可哀想だろ?むしろひと思いに・・・」


「それを決めるのはアンタではない!」


そう叫ぶや、詩乃は<空の魔石>を握りしめて、思い切って虎姫様の懐に飛び込み、その胸に石を当てた。


「解毒、実行!」

 ガブッ!!


「詩乃ちゃん!」「姫さん!」「お前、注意した傍から何を!」


詩乃が実行を叫んだその瞬間、虎の鋭い牙がその華奢な肩に食い込んだ。両手はギリギリと詩乃をベアハッグの様に搾り上げ、全身の結界がギシギシ鳴っている。


「大丈夫、結界が有るから・・噛まれてはいない。手を出さないで、しばらくアッシに任せて。」


結界(弱)が嫌な音を立てて軋んでる、このままではとても持ちそうも無いか・・・<解毒>は進んでいるのか・・・目の禍々しさは薄れて来ているように思えるが・・どうも決め手に欠けるな、他に持っと違う手立ては無いだろうか?


<クリソプレーズ>・・・久々に作ったよパワ石。


クリソプレーズは激しい怒りや不安・緊張の高ぶりを抑えてくれると言われている、問題を解決して成功に導くという、美しい萌黄色の結晶・・・お願い効いて!

虎の牙が容赦なく詩乃の肩に食い込んでくる、凄い圧力だ・・・結界にヒビが入って行く・・・割れるのも時間の問題か?


「シ~ノン隊員、これ以上は看過できない、魔弾を放つから厚い結界を張れ。」

「隊長・・悪いが厚い結界は品切れだ、さっきのギャースで使ってしまった。」


『詩乃、まだ(中)の結界は残っているでしょう?もうやめて!その子は助からない、詩乃のせいでは無い。もう頑張ったから・・・十分頑張ったから!!』

モルちゃんの悲鳴の様な声が頭の中に響く。


「殺しては駄目だ、息が無いと冬虫夏草が出来ない。此処は私が生きたまま捕獲するから、貴殿は引っ込んでいてくれ。」

いきなり公爵風を吹かせて、隊長を圧迫して来る6男(けっ、後継ぎでもない癖に。)もう虎姫様の命は風前の灯だ・・・あぁ、もう!!

虎さんなら、こんな時にはどうするだろう・・・虎さん助けて~~~お仲間のピンチ(しかも可愛い子)だよぉう。脳内で虎さんの雄姿を思い出し涙する・・・おぉぅ?と気が付く。

これでイケるか・・最後の切り札だ。


詩乃は肩を噛まれながらも、二つの石を虎姫様の胸に押し付けつつ、片手で胴巻をゴソゴソと漁り何かを探している・・・ええ~~と、出て来い・・・セーターで検索?それとも虎さん?


周囲をハラハラさせつつ、肩からツッーーーと一筋の血が流れる頃。


「あったーーー!」


詩乃は胴巻の内から、まっ黄色のセーターを取り出した。

クイニョンにいる時に、虎さんがプラントハンティングで取って来た魔虫の体液で染めたセーターだ。


「ほら、これ。」


肩に食い込む牙の直ぐ上、鼻の所にセーターを押し付け虎姫様の様子を窺う・・・・スッと彼女の体から力が抜け・・フリーズする事しばし・・・。

やがて虎姫様はゆっくりとその牙と両腕を詩乃から外し、両手に詩乃の小さなセーターを握りしめると鼻に押し当て突っ立っていた。暫くの後・・・その場に座り込むと、丸くなって寝る体勢に入った。何だか喉がゴロゴロと鳴っている・・こんなところはホント猫と同じだね・・・デカいけどね。


突然嵐が静まったと思ったら、凶悪怪獣の如くな者が丸まって寝てしまったので、皆呆気に取られている。詩乃もホッとすると力が抜け、思わず後ずさりしたら踵を岩に引っ掛けて尻餅をついた、尾骶骨いてぇ。モルちゃんがすっ飛んでやって来ると、詩乃の襟首を咥えて猫の子の様に運び、虎姫様から距離を取った。


「心配かけてごめんね?」


モルちゃんにまた舐められたビチョだ、肩の傷はラチャ先生の魔術の残滓が有ったのか、いつの間にか綺麗に消えていた。皆に取り囲まれる事再びだ、今度の方が人数が多いけど。


「シ~ノン、お前いったい何をした?あのセーターは確かクイニョンで着ていた物だろう、何故それで虎獣人が大人しくなったのだ。」


ふん、<王妃様の使い魔・眷属・式神>パガイさんには解るまいよ。


「そう、あのセーターはクイニョン最後の日に着ていた物でさぁ、お世話になった虎さんとムースさんとお別れをする時にも着ていやした。

最後に虎さんに思いっきりハグをしたんで・・・ギュ~~ッとね?虎さんの匂いが付いているんじゃぁないかと思ったんですよ。同族で男前な虎さんの匂いなら、虎姫様の心に響くモノが有るんじゃぁ無いかと思ってね。流石虎さんだぁ、こんなに離れていても、同族の獣人を助けることが出来るなんて・・・出来る男は違うねぃ。」


お前・・・。  何?匂いフェチ?  虎獣人にハグ・・?


皆、影でコソコソ喋っている・・感じが悪いね。


「虎さんは将来大物になる予感がしたんで、そのまま保存しておけば将来プレミアが付くかなぁ~~とか思って取っておいたんですよ。アッシには匂いはよく解らないが、鼻の良い獣人には解ったんでしょうねぃ。取り敢えず大人しくなったんだ、このまま眠らせて<解毒>を試みれば良いだろう?」


残念そうな態度の6男が気に障る、感情が顔にハッキリ出ていたんだろう(王妃様の様な必殺ポーカーフェイスには、まだまだほど遠いので。)詩乃に面と向かうと、6男はハッキリと自分の立場を表明して来た。


「僕はボコール公爵家の一員だからね、領地や領民の為なら手を汚すし汚名も甘んじて受ける覚悟が有るんだよ。領地内にはまだ地方格差が大きいし、インフラの整備にも幾らでも金が要るからね。彼女の件は不幸な出来事だと僕も思うが、彼女の犠牲で多くの領民が潤うのなら、手を下した僕自身が死んで神に裁きを受けようと悔いはないさ。・・・ただの守銭奴の様に思わないでくれ。」


始めて見たような、冷たい目のモブ顔だった。

けっ、モノは言いようだ。


「・・・そんなに冬虫夏草で濃縮された魔力が欲しいのなら、6男さん・・あんたがもうアカンと成ったら、自ら苗床になったら如何で?さぞかし良い魔力が採れるでしょうさぁ。」


「それ良いアイデアだね、今度の一族の会議で提案してみるよ。最後の最後まで為政者としての本分を尽くせる、貴族冥利に尽きる話だ。」


・・・・・・・。


「そうそう、魔力の多い貴族はもれなく・・」

「ラチャ先生には、指一本手出しはさせませんからね!」


吠えた詩乃に、驚いた顔の6男はやがて愉快そうにカラカラと笑い出した。

笑ってる場合では無いし!!笑うなよ!!不愉快でぃ。



    *****



その後・・・虎姫様はパガイさんが連れて来た魔術師(クイニョンで詩乃もお世話になった、癒し系の魔術が上手い人)に、眠りと生態保持(点滴みたいなものか?)の魔術をかけられて安静にしている事となった。

またビタタマ粉の毒を抜く為の魔術は無いそうなので、それは詩乃の<空の魔石>で解毒して行く方針だ。


今、虎姫様はベットの中で詩乃のセーターを握りしめながら、丸くなってひたすら眠っている、深い深い眠りの様だ。

体の周りには沢山のパワ石が置かれ、彼女の眠りを見守っている。



どうぞ石の力が彼女を救いますように・・そう願わずにはいられない詩乃だった。


痛い話はこれでお終いかな?・・・たぶん。

なかなか恋話に行けない・・・(´・ω・`)何故じゃ?

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