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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
93/126

海辺の敵~3

「ドレス?」


「あぁ、其方は無理に貴族と付き合う必要は無いが、まぁ王宮主催の舞踏会や園遊会には、たまには出なくてはならぬ事も有るだろう。慌てて用意するよりも、早めに準備しておいた方が良いのではないのか?女性の衣装の事は解らぬが、時間が掛かるものなのであろう?」


・・・舞踏会か・・・余り良い思い出は無いのだが。


「無理をして長々と参加しなくとも良いのだ、王族に挨拶してサッサと帰れば良い。私にとっても愉快な場所では無いからな・・・ふっ、今年からは結婚を迫って来る香水臭い女共に囲まれる事も無かろう、其方は役に立つな・・・色々と。」


「その結婚の夢破れて怒り狂うお嬢様達から、嫉妬のビームを受けるのはアッシって訳ですかい?面倒臭いなぁ~アッシには何のメリットも無いじゃないですか。」


「好きなだけドレスでも、宝飾品でも買えばよい、其方への報酬はそれでは足らんか?」


『ドレスなんか、欲しく無いんだけどなぁ・・・此処のデザインは好きじゃぁ無いし。』


食堂の隅で、壁と一体化している兎シスターズの赤い目がキラキラと燃えている、女の子は御洒落の話は好きだからね、自分に関係の無い事であってもだ。


あっ!


そうだ!シスターズにメイド服を誂えよう、ビクトリア時代みたいなバルーンスリーブの可愛いヤツが良いよね、フリフリのエプロンにホワイトブリム。

そう!執事さんはテール・コートが良いでしょう!これぞ執事ってヤツ!!

料理人さんにはシェフコート!頭には例の高い帽子を被せて・・・庭師の人にも何か作らないと不公平だから・・・う~~ん。サロペットが良いだろう、麦わら帽子と合わせたら可愛いよね!!ドラゴンのお世話係さんはツナギが良いかな、メカニックぽくてカッコ良いだわさ!

そうそうラチャ先生も、もっと軽快な服の方が良いよね、仕立の良いスーツってカッコ良いし。シルエットが大人の男って感じでさぁ・・・誰だっけ?あの口がへの字に曲がっている政治家の人も名前は、いつも良いスーツ着ているって感心していたなぁ・・お母さんが。あの人は色気って感じでは無かったけど、体にフィットしたスーツは和服の男性の後ろ姿に似た色気が有る。異論は認めない。

ジュストコールやフロックコート、そうそう例の腐った噂がある探偵さんのインバネスコートは絶対だよね。

背が高いから映えるでしょう・・・うぅ・・羨ましい8頭身。


詩乃がニヨニヨと考えていると、ラチャ先生も機嫌良さそうに眉間の皺を数ミリ伸ばしていた。いいぞ!スポンサーは金持ちだ!!此処は大盤振る舞いしてもらいましょうか?



   ****



「シ~ノン様!どんな衣装を誂えるのですか?ランパールには腕利きのデザイナーが沢山おります。誰に声を掛けましょうか?」


シスターズはウキウキと詩乃以上に燥いでいる、人の服でも楽しいよね~気持ちは解ります。


「う~~ん、デザインは自分で考えたいから・・・<御針子さん募集>が良いかな?これから自分の店を持ちたいとか、やる気があって柔らか頭な若手の人が良いな。」


「若手ですか・・・友達にも、御針子をしながらデザイナーを目指して頑張っている子が何人かいますが。」


「皆に声を掛けてくれる?沢山作りたいから人数は多い方が良いし?仕事は大勢に振り分けた方が、皆で儲かるから良いでしょう?」


詩乃の勢いに不安になったメイド長が聞いて来る、一体何着ぐらい作るつもりなのかと。


「まず、皆さんのお仕着せを作ります。その縫製の腕を見て、自分のドレスとラチャ先生の服を作って貰おうと思うんだけれど・・・どうかな?」


私達のお仕着せ?途端にメイドシスターズが色めきだつ、この世界では平民の服は布を買って来て自作するモノなのだ、更に田舎では布まで織っている。(女子力無いと辛い所だよね、異世界って。)御針子さんに、仮縫いから本縫いまでして貰う様な服は、平民の女の子にとっては憧れの夢のまた夢だ。


「貴方達、お静かに!浮かれるんじゃぁありません。」

詩乃の暴走ストッパー役を自任しているメイド長が怖い顔で割り込んで来た。


「メイド長さんは管理職で偉い人だから、偉いと一目で解るように、何か特別な飾りでも付けましょうかね?」


まぁそのような・・・勿体ない事・・・そうですか?あらあらマアマア。

・・・満更でも無いらしい(笑)。

それからはワイワイと皆で楽しくデザインを考えたり、若手の御針子さんに声を掛けたりして、詩乃のドレスの制作権を賭けたコンペを開催する事にしたのだった。

誰でも気軽に応募できる、若手の登竜門的チャレンジカップだ(笑)。



まぁ、詩乃のドレスはね・・・プロポーションの関係でデザインが限られてしまうのですよ、凸凹の乏しい体では憧れのマーメードラインの色っぽいドレスは着こなせない。

此処は無難に、体形が誤魔化せるプリンセスライン一択でしょう・・つまらん。

魔布でもクイニョンから取り寄せようかと思ったが、魔力が籠るから平民の御針子さんには扱えないし。何かつまら~ん・・とブ~垂れて居たら、なんと獣人の御針子さんが応募してきた。

何でも以前から魔布を扱うのには、獣人の御針子さんの存在が必須だったとの事で、隠される様にお店の隅で作業をさせられてきたそうなのだ。

そんな扱いに不満を持ち、独立したいと野望を秘めていた所に詩乃のドレスコンペの話が舞い込んで来たと言う。ぜひ参加させてほしいと押しかけて来たので、面接してみたら・・・狐獣人のオネエの方だった、この世界で初めて会ったよオネエ系の人。キツネエは細い色男?女?で、詩乃より女装が似合う美人さんだった・・・でも声は低いよ、セクシーボイスだよ?

キツネエは見事な縫製技術とパターンを起こせる才能が有るそう(自己申告)なので、詩乃は難しい執事さんのテール・コートを任せてみた。女性の服より男性の服の方が難しいのだと、パタンナーの母さんが言っていたからね。キツネエは特に不満を言う事も無く、数日で見事な執事服を携えてやって来た。これは決まりだね!詩乃は多数のコンペ出品者の中からキツネエにドレスの制作を任せる事にした。


キツネエは詩乃の希望をあれこれと聞くと、サイズを事細かに測り(涙)デザインは私に任せて頂きたいのぉ~と、可愛く小首を傾げて切れ長な目を細めて見下げて(背が高いのだ)来た。


「シ~ノン様のぉ、新たな魅力を引き出したいの~ですわぁ。ご自分では~お気づきにならない~~隠れた魅力ってのも・・・有りますからねぇ~。」


キツネエは語尾を伸ばす人だった・・・お約束か?

『・・・自分で解らない魅力?今では腹筋には自信があるよ。』


まぁ、それも面白いか?と思って快諾したのだ、キツネエはセンスが良さそうだから。

それから・・・そのドレスに合う様にラチャ先生の衣装も合わせて作って欲しい、素材はパガイ商会を通して値切って買って欲しい旨を伝えたのだった。


・・・・あれから、何日経ったかのか・・・ドレス・・・どんなふうに仕上がったのか・・一目見たかったな。


挿絵(By みてみん)


「・・・ドレス・・・。」


「ドレスなら、仮縫いをしたいと狐獣人の女性から申し込みが来たと連絡が入ったぞ。其方、私の服まで誂えていたのか?お揃いの服が欲しいと願ったそうだな。」


「・・・えへへ。ウベェふぅ。」




ボンヤリしていたら暖かいヌメッコイ座布団の様なモノで、顔をベロベロ舐められている・・・ううう。


『詩乃ちゃん!しっかりして!!目を開けて~~~。』


取り乱すモルちゃんの声・・・えっと、岩の上に投げ出されていた・・と思っていた体は、温かい頑丈そうな固い何かに包まれており・・・ふぇ?


「ラチャ・・・タ・・・?なん・・で?」


「婚約者に呼ばれたら、すぐに駆け付けるのが紳士としての務めだろう?間に合って良かった・・・本当に・・・・もっと早く呼ばんか!この馬鹿者!!肝が冷えたわ!」


始めはシミジミしていたが、だんだん怒り出すラチャ先生・・・ホッとするとそうだよね、腹が立って来るものだよね。

薄らボンヤリしながら周囲を見渡すと、部隊の皆やドラゴンズが心配そうに詩乃の顔を覗き込んでいた。

・・・うぐぅ・・・恥ずかしい。


「ありゃ・・・敵は?」


ラチャ先生がぞんざいに顎で示すと、詩乃が足を粉砕した敵と魔弾を放とうとしていた敵が、何とコチコチに固まって(プラスチックな様な透明な物に包まれて)転がっているではないか。

ラチャ先生は敵が魔弾を放つ寸前、詩乃が名前を呟いた僅か0コンマ1秒の間に王宮から此処まで転移し、反撃し助けてくれたらしい・・ってか・・凄いじゃん・・超人クラスじゃん。流石お偉い魔術師長殿である。



傍に取り巻いていた隊員の中で、海賊を取り調べていたシャルワが話してくれた事によると・・・。沖にいて難民船を襲っていた海賊船は実は陽動だった様で、すでに密かに数人が上陸を果たし、ドラゴン部隊の隊員に一矢報いる機会を狙って海岸に潜んでいたらしい。

彼らは以前、詩乃達が逮捕し他国の軍に引き渡した海賊一味の身内(なんちゃら皇士様の一族の者達)らしく、事件の後は帝国から追放され、海賊行為で糊口を凌ぎつつ復讐の時期を虎視眈々と狙っていたそうだ。今回運よくドラゴン部隊に邂逅でき、しかもあの憎い<黒髪の牝猿ひどい>が獣人風情を助ける為に、ノコノコと目の前にやって来たので千載一遇の機会に狂喜乱舞し攻撃を仕掛けたのが真相だそうだ。


『何か・・救いようも無いアホ共だなぁ・・・。』


「一族の命運を背負っていた皇士が処刑の憂き目にあって、残る一族は蜥蜴の尻尾切の様に追放処分を受け帝国から追い出され、寄る辺も無く海を彷徨い悪事を重ねて来た様だ。」



『・・・で、殺したいほど恨まれていたって訳だ・・・。』



泥の様に疲れて何の気力も湧かず、項垂れている詩乃にラチャ先生が<癒しの魔術>を掛けてくれた・・・フワッと体の中から黒々とした禍々しい何かが抜け出て行く様な気がする。


「ラチャ・・せんせ・・あ・・・りがと・・・。」


安心したのか涙が出て来て、それが恥ずかしくて、思わず先生の腕の影に顔を隠す。ラチャ先生は黙って清浄の魔術を使って、赤と緑に汚れて冷たく濡れた詩乃の身体を綺麗にしてくれていた。


「魔術師長殿・・・この度の事は・・申し訳ない。」


ポアフ隊長が緊張した声を出して、おずおずと2人に近寄って来た。

ラチャ先生が強い視線で隊長を睨み据え、身体を固くして怒りを抑え込んでいるのが詩乃にも伝わり、思わずラチャ先生の腕にギュッと縋りついた。

『この人が怒り出したら、周りはたまったもんじゃない!!』

縋りついて来た(気分はドウドウなのだが)詩乃に気づいたのか、ラチャ先生が詩乃を更に抱き寄せたのは良いが・・強いから・・力が・・折れるよ骨が・・肺から空気が漏れてグフゥと変な音が出ちゃった・・・全然感動のシ~ンにならない。


「この者・・・私の婚約者は、この世界の常識の外で生きていると言っておいただろう。危うい者が居れば、人であろうと獣人であろうと他国の者であろうと、我が身の安全を度外視して突っ込んで行くと注意しておいたはずだ。何をしでかすか解らんから、この者を一人で行動させるな、そう伝えておいたのを忘れたのか貴殿は。」


「申し訳ありません、今回の危機は私の判断ミスでした。」


「いくら失われた故郷の近くだろうが、其方は今は部隊の隊長だ・・・領主に戻りたければ騎士団を辞めてからにしろ。今回の失点は私から騎士団に・・・」


「いや、悪かったのはアッシで・・・隊長は何も・・・。」


思わず口を挟む詩乃、もっと言うならば、自分達の財産の一部(それも酷い話だが)とは言え、獣人達の存在を事前に報告・避難させておかなかった難民達の落ち度だろう。


「そうだ、一番悪いのは其方だ。其方は自分の・・異世界の基準で判断し行動し過ぎる。隊員なら、まず隊長の判断を仰ぎ指示に従うべきだろう。」


    ・・・・ずびばせ~~~ん・・・・。


「一人で突っ込むとはねぇ~、ほんと命知らずだわ、俺にはできない。」

「そりゃそうだ、呼んで瞬時に助けに駆け付けてくれるようなコレ(親指を立てる)も、俺達にはいないしな~。」


外野の声にラチャ先生が


「そう言えば王宮の会議中であったが・・・仕方があるまい・・。」


などと人騒がせな事を呟いた・・・王宮って魔術が使えない様に陣が施されていなかったっけ?そうですか、自分で施した陣だから大丈夫なんですか・・・。


「え~~っと、助けて貰っといて・・こんな事を言うのも何なんですけど・・・早く戻った方が良くないですか?王様とか待たせると拙いんじゃ・・。」

「そうだな、ひとまず危機は去った様なので私は去るが・・・其方くれぐれも・・くどくどくどくどくどくどくどくどくど・・・・。」


命の恩人に言い返す事も出来ないので、ひたすら大人しくお説教を拝聴する。

同じフレーズが3回ループした時だ、突然ハッと気付いた様に、ラチャ先生が詩乃の顔をマジマジ~と眺める事30秒(かなり長い)・・・何だ?なんだと思っていたら。

凶悪な顔(いつも愛想の無い顔だが、更に恐くなって)をしたラチャ先生が、空中からハンカチをマジシャンの如く取り出すと高速で詩乃の唇を拭きだした。


コシコシコシコシコシコシコシ・・・・ぎゃぁあ痛あああああぃぃぃぃぃ。


やめてやめて!!痛いから!!タラコ唇になっちゃう!!擦らないで!!

半泣きでラチャ先生の手を止めようと、必死に抑える詩乃、何なんだよーーーー!

擦れて血が滲んで腫れあり、某米国有名女優さんの様になった唇で、上目遣いの涙目で見つめる詩乃に、ボンッ!と真っ赤な顔に変身したラチャ先生が特大の癒しの魔術をかまし、ツヤツヤプルプルの潤いベビちゃん唇にと再生させた。


「ふん、汚された部分は無くなり、新たな唇に再生させたからな。これで何の問題も無いのだ。」


・・・?なんのこっちゃ?


オ~イのセクハラなど、ギャース&敵との激闘の後では、何のインパクトも残せていなかったようで、詩乃の容量の少ないオツムには既にどうでも良い過去としてゴミ箱行きだった様だ。あぁ、緊急避難的医療行為の事か?忘れていたよ・・・良く気が付いたねラチャ先生。


「まぁ今は仕方が無い、忙しいからな・・・次に会ったら許さん。」

ラチャ先生がジロッと物見台の方を見据えると、其方の方角から<グエッ>とヒキガエルが潰れた様な声が聞こえてきた。


「無茶はするな。」

そう詩乃に言うと、一瞬で消えて居なくなったラチャ先生・・・・・あんたもな。


      「はあああぁああぁ~~~。」


御偉い様が近くに存在するだけで、皆さん非常に緊張して疲れる様だ。

ラチャ先生が消えた途端に皆が弛緩したのが笑える、ニーゴさんまでもだ、特に隊長は座り込むほどの脱力ぶりだ・・・お疲れ様です?

・・・そんなに怖いかな?結構・・優しいよラチャ先生?


「なんか、プークの三枚肉食べた後みたいだな。」

ツヤツヤプルプル唇も、ムウアに掛かればそんなもんである。





・・・・それにしても・・・・。

「上書きしてやる。」

などと言わない所はラチャ先生らしいというべきか、それとも詩乃がその種の本を読み過ぎなのか?





「ドラゴンが飛んでくるぞ。」

目の良いエフルがいち早く気付いた、それは午後の戦いが始まる合図だ。

6男のボコール商会とパガイ商会が、倒したオレウアイを買い付けに来たのだ・・・なるべく高く売りつけたいが、商才の有りそうな人は伯爵領にいるのかな。


長い午後になりそうだ・・・・詩乃はツヤツヤな唇を尖らせた。



痛い話は疲れますねぇ・・・ドレスの話が急に書きたくなりました(笑)。

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