海辺の敵~2
連休お疲れ様でした・・・お話でも読んで、ノンビリして下さいませ(*´▽`*)。
ギャースの撒き散らす滝の様な緑色の血液(?)の膜の向こうから、突如人型の何かが踊り出て来た、手には剣を携えている・・・剣が光を反射して鈍く光る。
「・・・人・・・?]
詩乃は無意識の内に、自分の結界を弱めバックステップを踏む。
剣は詩乃の結界(弱)に当たったが、虹色の光が放たれて弾かれた。詩乃の身体まで5センチと迫る勢いだった、敵の魔力が強いのだろう、詩乃の(弱)結界が押し負けて居る様だ・・ただの海賊ではなさそうだ。
後退する詩乃に追い打ちをかける様に、何度も何度も剣を振り上げ、突き立てて来る「人・・・である敵」。
正直詩乃は混乱していた、今までも部隊のパトロールで海賊や盗賊の討伐はして来たが・・・なんか違う・・・こんな事は・・・嫌だ・・・違う!!
・・・・違うはずだ!!
詩乃はフッと思い当たった・・・今まで部隊での役割は、平民相手の活動中は後方支援要員だったし、飛び道具や魔弾を使った貴族相手の戦いでは、敵との距離は遠く離れており、生身の人と戦っている実感はあまりなかったのだ。
そう、人間相手の白兵戦は今まで経験がなかった。
過去に白骨街道をラチャ先生やプウ師範と珍道中していた時も、何気に血の気が多い2人が悪党共をサッサと片付けてしまっていたので、詩乃はお約束のセリフを披露するだけで出番は無かったのである。ボコされる悪党共に「あぁあ~~~っ」痛そう・・との感想は持っていたが、所詮自分の手を汚す訳でも無い他人事だったのだ。
どうしよう・・・このままでは、強い結界が発動して敵を殺してしまう。
相手は海賊だ・・・他人の物を奪い、抵抗する者や動けない傷を負った者は容赦なく殺し、残りは奴隷として売り捌くような極悪人なのだ。此処で詩乃の手に掛かっても、自業自得としか言いようのない人生を送って来たに違いない奴らなのだ・・。
それでもやはり躊躇してしまうのは、姿かたちが自分と似ているからなのか?
・・魔獣を倒した時も・・・以前は心が重くなっていた様な気もするが、近頃では<美味そう>しか感じなくなっている自分に驚く事があったが・・。
たとえエイ〇アンやプ〇テダーを殺しても、良心の呵責に苦しむことは無いだろうが、戦争映画では泣くだろう?たとえその戦いが自衛の為で有ってもだ。
・・・・やっちゃって・・・良いものだろうか?
あぁ、今まで自分は一端に騎士として頑張って働いていたつもりだったが、まだまだ不完全で・・・部隊の皆に庇われて来たんだと気づく。
流血沙汰の時には何気に背中に隠し、詩乃の視線から痛そうなモノは隠す様にしてくれていたし、汚い言葉は聞かせない様にワザと関係の無い話しを振って来たり、その場から離れる仕事を命じて来たり・・・何となく・・・特別扱いを感じてはいたのだが、自らの手を汚すのはやっぱり嫌で無意識に甘えていたのだ。
白骨街道でもクイニョンでも、詩乃が嫌な場面では、いつも誰かが知らない内に自然に肩代わりしてくれていた。
カポエの貴族の屋敷の事件でも、パニック状態だった詩乃が虫型魔獣をヤルのに<電撃攻撃>をしてしまい、下働きの者を巻き添えにして犠牲者を出してしまった・・あの痛恨の時にもだ・・・虎さんが、虎さんが<詩乃は悪くない>とキッパリ言い切ってくれたから心が病まずに済んでいたのだ。
【甘やかしてくれる代わりはいない、自分でやるしかないんだ。】
逃げの一手だった詩乃が腹を括って、敵を正面から見据え菊一文字を構えた、相手も詩乃の闘気を感じたのか距離を取って剣を持ち直し身構えている。
相手はまだ若い男だった、目をギラギラさせて、此方に向かって何か喚き散らしている、・・・なんだろうか?何か怨恨な感じを受けるが・・詩乃の事を・・、独立部隊と知っての狼藉なのだろうか?
彼は身内の敵討ちでもしているかの様に、異常な高揚感に包まれている感じで・・・つまるところはイッチャてるのだ。
『こんな奴知らないし、捕まえた海賊共のその後なんて興味ないし。』
以前捕まえた海賊は、帝国・皇帝の関係者で・・それ相応の裁きは受けたそうだが。何だか事情通のシャルワが、そんな話していた様な気もするが、さして興味も無いので聞き流していた。
詩乃は結界を目掛けてガンガンと剣を振り下ろして来る<怒れ男>の隙を窺い、後退しながら足を狙って魔力で石を飛ばした・・・ゴッ・・・嫌な鈍い音がして男が崩れ落ちた、足の骨が粉砕されたようだ・・・甲高い悲鳴が耳に触る。
『やり過ぎたか、開放性骨折しちゃった・・・加減が難しいね。』
まぁ、不幸中の幸いで足に当たって良かったよ、頭にヒットしていたら頭蓋骨が陥没してお陀仏だったに違いない。
若い男が痛みに泣き喚いている・・・嫌な声だ・・・泣き声は嫌いだ。
【・・・この世界は泣き声に溢れている・・・。】
泣き声の数々は、詩乃の記憶の中の深い淀みの澱の中に沈められて、めったに顔を出しては来ないが・・綺麗サッパリと忘れ去る事が出来ている訳では無いのだ・・・詩乃の心の柔らかい部分に沁みを造り、時々現れては苦しめる・・・黒歴史なのだ。
【王都の下町で見かけた、従軍する兵士とその恋人が別れを惜しんで抱き合い、彼女がすすり泣きしていた・・あのか細い声・・・。
トデリで嵐の夜に低体温で亡くなってしまった船員の家族が、父に縋りついて慟哭していた、身が斬られるような悲しみの叫び。
青い森のほとりの村でも、無理やり出稼ぎに連れ出されて・・・亡くなって帰って来た父親を迎えて、残された家族はどれほど嘆き悲しみを身に窶したのだろう。
そんな悲しみは・・・元の世界では、TVの向こう側の情報だった。
幸運な事に詩乃自身には、悲しみに血肉が付いて、現実として生きた形で迫って来る事は、今まで無かったのだ。
・・・その悲しみの原因を、今度は自分が作りだす?
この敵にも、親兄弟・・・家族がいるのだろうか・・・帰りを待っている誰かが居るのだろうか。無事の帰りを祈り続ける、そんな相手が居るのだろうか?帰りたいと強く願う、そんな場所があるのだろうか?
吐きだす息までも重く感じられる・・・しかし、詩乃はドラゴンの騎士だ・・・犯罪者は捕まえなければならない。
「命に別状は無かろう?」
体から力が抜けて行くのを意識しながら、敵に近づいた詩乃の真上から影が落ちて来るのを感じた、何処かに身隠しの魔術で潜んでいた敵がいた様だ。
「なっ!」
剣を垂直に立てて詩乃に向かって真っすぐに落ちて来た新たな敵、<カシャァンアァン>薄いガラスが割れたような音を立てて結界(弱)が割れた。
敵は、そのまま滑り込むように詩乃の懐に入り込むと、ナイフを細い首筋に当て、掻き切ろうと力を込めた所で・・・結界(強)が発動して真っ赤な霧の様になって弾け飛んだ。
生暖かい赤い霧は容赦無く身体に降り注ぎ、緑と赤のまだらに詩乃を染め上げる。
『・・・むぅ・・・吐きそう。』
思わずよろけて岩につまずきへたり込む、血だまりが気色悪い・・・呆然としていた詩乃だったが、頭の中に相棒の悲鳴を聞いて振り返った・・・その正面に・・・第3の敵が魔弾を放とうと手のひらを向け、何やら唱えている・・・・あ・・・・結界(大)は3回使い切ってしまった・・・(中)で耐えきれるか?
・・・これ終わった?
敵の動きはスローモーションの様に緩慢で、逃げられそうにも感じるが、何だか自分の身体も思う様には動かず、ただ脳だけが3倍速で活動している感じだ・・・急に目の前にパッ・パッ・パッと色々な映像が割り込んで来て、まるで二つの画面を交互に見る様に、敵と映像が入れ替わり目の前に写し出される。
・・・・これが所謂、走馬燈と言う奴だろうか・・・・
詩乃の目の前に、涙が出る程懐かしい映像が浮かび上がる・・・。
『ウララちゃん、爺ちゃん婆ちゃん!母さん父さん・・・お兄!』
中学校の教室・手芸クラブ・友達の皆・・・パワ石の店長さん。
トデリの街の皆、アン・リー・オイ。
クイニョンの子供達、ムースさん・・・虎さん!!
クイニョンの懐かしい日々、豆ちゃん・トクさん・・夜の森の焚火の暖かさ。
・・・可愛い卵ちゃん・・・私の大事な相棒モルガナイト・・・可愛い可愛いモルちゃん、泣かないでね?モルちゃん。
タンザナイトさん・・・パガ・・チベットスナギツネ・・王妃様けっ。
あちらの世界の・・詩乃の4畳半の畳の部屋、机とカラーボックスとベットでギュウギュウな小さな部屋・・・それにトデリの部屋の映像が重なって・・・やがてランパールにある詩乃の部屋に映像が変わった。
ランパール・・・ラチャ先生の屋敷・・・屋敷の皆・・。
突然、本当に突然に・・・目の前にラチャ先生の怒アップの顔が映し出された。
無表情な色白な顔なのに、急に真っ赤になる不思議な人・・・ねぇ、ラチャ先生・・・約束は守れそうにないよ・・・ごめんね?フラグは折れなかったみたい。
出張に出かける朝にも怒って睨み付けてきたっけ、ねぇラチャ先生・・・笑ってよ?笑えるでしょう・・1度だけ、詩乃に向かって笑いかけてくれたのは・・何の時だったっけ?
ラチャ先生・・・詩乃が帰って来ないと不機嫌になるだろうか・・・?
大丈夫だろうか?ねぇ・・・少しだけ悲しんでくれる?
あぁ見えて・・・意外な部分で繊細な人だった様な気もしないでも無い・・・か?
どうだろう・・・?
敵の手のひらに赤い光が集まって、魔弾を打ち出す寸前の様だ。
ごめんね・・・「ラチャターニー」・・・。
詩乃の口からスルリと言葉が漏れ出た途端、周囲に光が溢れ出て目が眩んだ、来るであろう衝撃に備えて詩乃は固く目を瞑り覚悟を決めた。
最後に脳裏に浮かべる者・物は何でしょうかねぇ?
・・・大福だってりして(笑)、あっ、豆の多いのをお願いします( *´艸`)。