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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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海辺の敵~1

普通の感覚では、他国の獣人を助けに単身突っ込んでいくのは考えられない行為。

ポワフ隊長・・・大いに焦っております(=_=)。

残り3頭と言っても、大物のデカギャースもいるし、並ギャースに間合いを詰められているから胴巻から<空の魔石>を取り出す暇も無い。

へたり込んで動けない獣人もいるから、自分一人瞬間移動して逃げる訳にもいかない。


「くっ、突風!」


砂を巻き上げて目潰と行きたい所なんだが、残念な事に海岸は石がゴロゴロで思うような効果が表れない。それでもギャースが怯んだすきに、クナイを取り出し


「ギャースの目、刺され!実行!!」と叫ぶ。


魔力が少なくなってきているのかクナイは上手く刺さらずに、辛うじて1頭の両目だけ潰せていた、しかしこれがまた下手を打ったのだ。

突然両目に激痛が走り、視界を奪われたギャースはパニックを起こして闇雲に暴れ出した。尻尾を振り回しドタバタと走り回ると、仲間と激突しズッ転び、怒り狂って海岸に落ちているデカイ流木やら、岩やら、デカギャースの尻尾やらあらゆるものに噛み付き始めた。

いきなり仲間に噛まれたデカギャースは当然の如く怒り、これまた暴れ始める、海岸は阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を呈して来た。

恐竜同士の喧嘩に、原始哺乳類は逃げ回るしか術はなかっただろう・・ここ異世界でも体の小さな哺乳類は隠れてやり過ごすしか生き残る方法がなさそうだ。

獣人数人が隠れていた岩陰を、デカが尻尾の一撃で粉々に破壊してしまった。

獣人達は頭を守りつつ、必死になって散り散りに駆けだして逃げて行ったが、一人恐怖の為か動けないでいる個体がいる・・まだ幼そうな小さな体。


「瞬間移動」


詩乃は震えながら腰を抜かし、動けないでいるジャパニーズラクゥーンの様な獣人の近くに瞬間移動すると彼?彼女?(解らん)を抱きかかえ、


「瞬間・・・・駄目だ・・・これアカンやつだ。」


瞬間移動しようとして諦めた、言葉に触れただけで解る・・この駄目な感覚。

そう・・・例えるのなら、昨年の夏物のGパンを履こうとして、足を通したのは良いが太ももの当りで「あぁもう無理」・・・って解るあの感じに似ている?無理なものは無理なのだ。


「どっせ~~~ぃ!」


仕方が無い、詩乃は(ジャパ・・・タヌキだ!タヌキ!)ちゃんを気合一発抱え上げると、火事場の馬鹿力を発揮して、渾身の力で別の岩陰に向かって走り出す・・・<空の魔石>オラに力を~~~。

抱えて走る詩乃の姿を、他の獣人達は息がつまる思いで見ていた。



    キャァオゥウ  ウワァオオウウゥ   ケッケエケエケエエェェェ 



どうにかギャースから離れ、岩の窪みに隠る事が出来てホッとした時だ。

ギャースの奇声に驚いて岩陰からそっと覗き見ると、なんとギャース達は訳の解らない怒号を発し、お互いをボコり合っているではないか。


・・・怒りで我を忘れているんだ・・・。

(こんな時でも自然とお気に入りのセリフが湧き出て来るのだから恐ろしい、これはもう洗脳の域に達しているのではなかろうか。)

お願い!ギャース静まらないで!!・・・このまま同士撃ちしてくれれば、こちらとしては大変に助かるのだ、気が済むまで暴れて下さって結構よ?

・・・大音量の奇声と争う音に耳を塞ぎながら、詩乃は散り散りになった獣人達の安否を確認していく。


「熱感知」


ひ~ふ~み~よ~・・・取り敢えず踏ん付けられて圧死した者はいない様だ。

流石獣人さん、運動神経は良いからね・・・タヌちゃんはレアケースなのかな?

人間だったらひとたまりも無いだろう、この怪獣大戦争で生き残れる気がしない。

良く見ると、開錠されて自由になった獣人が、仲間を助けて安全そうな岩陰などに移動している。


『ここで結界の魔術具をコピーして造ってしまおうか・・・、そんな暇があるかな・・・。』


暫く大騒ぎしていたギャースだったが・・・ズウズンンンンンンンン・・・と言う、凄い地響きを最後に静かになった・・・・?

恐るおそる岩陰から覗いてみると・・・なんと、手負いのギャースがデカギャースの攻撃に倒れた所だった、尻尾の鞭を腹に叩き込まれたのかデカギャースの足元に昏倒している。

デカギャースは牛の角程もある大きな牙を禍々しく見せつけながら、鮫の様な感じで(口が前に出っ張る)開くと、大気を揺るがす大咆哮を放った・・・鼓膜がビリビリと震えたせいなのか、耳の奥からベコベコと変な音がする。うぅぅ~~~恐竜公園のお約束かィ。

タヌちゃんは今度こそ正しく気を失って、コチコチに硬直してしまった。

生き残れるんかい?これで・・・。

仕方が無いので岩の隙間にギュウギュウと押し込み、拾った大石で隙間の入り口をカモフラージュする。


『相当お怒りの様ですねぇ、デカさん・・・。』


怒れるデカギャースは、足元に倒れるギャースをその大きな口で咥えると、力一杯振り回して海岸の崖に叩きつけた。・・・容赦ないねぃ、格下にやられたのでオカンムリか?

叩きつけられたギャースはピクリともしない、ご臨終か・・・?単なる気絶か・・・確認できない内は危ないから近寄らない方が良いだろう。


詩乃は目立たぬように匍匐前進(あれだペッタンコになって両手両足で進むやつだ、別に銃など持っていないので肩肘で進む必要は無い。)を始めた。

なるべく皆から離れた所から不意打ち攻撃をして、何とか足止めしたいところだ。詩乃が<囮>になれば獣人の生存率は上がるだろうから・・・如何にか獣人達と距離を取りヤレヤレと一息つく。


『デカ物は虎さんでさえも苦戦した相手だ、とにかく時間を稼いで、部隊の皆が駆け付けてくれるのを待つ方が、お利口さんな作戦ってなモノだろうさぁ。』


詩乃はラチャ先生から貰った胴巻の表示を開けて、中を今更ながら確認する・・・ほら、食料&医療品しか見ていなかったから。


『平民文字だ。』


小難しい魔術具の解説・使い方のマニュアルが平民文字で書かれてあった。


この世界には2種類の文字がある。

あちらの世界の祖国でも、かつて王朝文化が花盛な雅の頃、男達はお固い漢文を修め、女達は仮名文字を使ってエッセイや人に見せる日記、ドロドロな愛憎劇のドラマを書いていたものだが。

ランケシでもそんな風に貴族の文字を簡略化して、平民にも覚えやすい様にと人為的に作られたのが<平民文字>だ。聖女様は王宮に居る時から精力的に勉強に励み(会話は成り立ったが文字はNGだったのだ、これも異世界のお約束か。)貴族の文字を攻略していったが、詩乃はこの世界に興味も無いし、むしろ反感しか感じなかったから特に必要も感じる事なく勉強しなかった。・・・勉強嫌いだったし・・・むしろ識字が必要だと迫られたのはトデリの頃で、泣く泣く<平民文字>を習得したものだった、オイに偉そうに威張られながら覚えたのだった・・・ムカつく。)


魔術具のマニュアルがその<平民文字>で書かれている・・・書いたのはラチャ先生だろうか、しかし貴族は平民の文字を馬鹿にして、汚れた文字として書くことは決して無い。

詩乃ためにワザワザ<平民文字>を覚え、書いてくれたのだろうか・・・いやいや・・・子分アシスタントにやらせ・・・いや、これは、まぎれも無くラチャ先生の書いた文字だ。だって特徴があるもの、フォントが揃っていて印刷物の様な文字を書くので感心した覚えがある。


・・・・有難う、ラチャ先生・・・。

先生は詩乃の無事を願い、読める様にと詩乃仕様で書いてくれたのだろう・・・コテコテな貴族な癖に。貴族・王宮関係者に利害関係が若干絡みつつも、かなり純粋な善意を受けたのは初めてな様な気がする。


さて・・・どうするか?

光で目潰し・・いやいや、またむやみやたらに暴れられたら圧死の確率が高くなるし・・・とにかく、奴を動けないようにして、止めはドラゴンから魔弾を放ってもらうのが一番だろう。


『モルガナイト、他の隊員達はどうしている?』

『隊長とニーゴさんが此方に急行中、他の隊員は作戦を続行しています。シャルワは沖の海賊船を牽制、海賊は諦めていないもよう、難民船に攻撃しています。』

『了解、此方まで後どのくらいかかる?』

『・・・あと5分くらいだって・・・耐えられる?』


『頑張るよ。』


あのツンデレ魔術師にまだお礼を言ってないからね、また会うと約束して出て来た事だし・・・へこたれて居たら女が廃るってなもんだ、フラグは折る為に有るのだ!

それにしても、お役立ちそうな魔術具が見当たらない。此処では強力過ぎる・・・この場合大は小を兼ねない、ラチャ先生の基準で戦ったら、海岸どころかこの辺一帯焼け野原になり果て灰燼に帰しそうだ。


『自分が基準か・・・ラチャらしいね、きめ細やかな力加減など、よほどの手練れにしか出来ない事をお解りでは無いらしい。取り敢えず自分には無理だ。』

さて、どうしたものか・・・。

アぁ、これなら良いね・・使えそうだ。


詩乃は魔術具を掴むと、デカギャースの前へと躍り出た。


『詩乃!』

モルちゃんの悲鳴が頭上から聞こえる、大丈夫さぁ任しておきなせぇ!

「図体ばかりデカいアホギャース!こっちだ、こっちに来な!」

そうしてラチャ先生の必殺技を食らうがいい。


地響きを立てて突進して来たデカギャースに、詩乃は魔術具をぶつける

「展開!」

ドンッ!と、いつに無い重低音で展開されたその魔術具は<結界の魔術>だった、デカギャースの身体の周り10センチ程の隙間を残して結界が張られている。いつも詩乃が使うような淡い虹色ではなく、何だかメタリックな輝きが有る強力な奴だ。これならデカがどんなに暴れようとしても、その体は少しも動きが取れないだろう。


「あんまり暴れ無い方が良いよ、酸欠になるから・・・。」


さっきの詩乃が造った水玉は簡単に振り払う事が出来ただろうが、今度はそうはいかない・・・何たって敏腕で天才な魔術師長様謹製の優れものなのだから。

普通こんな風には使わないであろう魔術具だが、獣人達がバラバラに散らばって逃げている為に、一か所に集まって籠れなかったのだから仕方が無い。

デカは如何にか体の自由を取り戻そうと奮闘しているが、動きが取れずに苦しそうだ・・・何だか満員電車でギュウギュウに押されているリーマンみたいだね。可愛そうではあるが、一撃で仕留める自信は無いので仕方があるまい。


『詩乃!うしろ!!』

モルちゃんの悲鳴、再びである・・・そういえばもう一頭いたんだよね肉ギャース。

詩乃に襲い掛かったその途端、30センチまで接近したところで爆発する、結界(強)は用心のため3回分に増やして有った、クイニョンの雪山での苦い経験からの反省でだ。


爆発するギャースの緑色の血しぶきの後ろから、何かが踊り出て来た、手には得物を持っている。



     ・・・・えっ、なに・・・人・・・・?


今まで訓練以外で人と戦った事が無かった詩乃さん。

・・・次話・・副題は「走馬燈見えたよ・・・。」です。

GW中はお休みです、頑張って書き溜めなければ!

皆様、良い休日をお過ごしくださいませね(*´▽`*)。

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