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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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王太子の思惑

命令する方は気楽でいいですよねぇ~~(*´Д`)

王宮の無駄に装飾が過剰な回廊を歩くと、何故かウンザリして来るのが自分でも不思議な気分だ・・・今までは周囲の装飾など、少しも目に入らなかったと言うのに。

そう、あの不可思議な異世界人シ~ノンと暮らすまでは、そんな事を感じる心の容量はこの身体の中には無かったのだが・・。


「不可思議なものよ・・・。」


そのラチャ自身も、貴族仕様のゴテゴテした衣装は重く煩わしくなって来て、今では全体的にスッキリした装いへと変わっている。仕掛け人はシ~ノンだ、彼女は己の衣装の他に使用人のお仕着せや、家主である自分の衣装までも自らデザインし発注していた。

執事からは、貴族の威厳が使用人に感じさせられ無い・・・と不評だったが。


『アッシの世界にはシンプルイズベストと言う言葉が有りやしてね、無駄を削ぎ落した究極の機能美が美しいとされているんでヤス。ワビサビってね?

ホントに偉い人や強い人は、逆にゴテゴテ着飾ら無いモノだそうですよ・・・仏像もそうだった様な?」


彼女は新しい自分の装いを良く似合うと褒めてくれた・・・それは自画自賛と言うべきなのか?

シンプルの方がラチャ先生の美貌が際立つから、かえって目立つし評判になると思う!とか言っていたが・・彼女が喜んでくれるなら良しとしようではないか・・仏像とか言う者のビジュアルが少々気にはなるが・・。




衣装はシンプルがベストでは無く、この世界では富の象徴を表すのに装飾は欠かせないアイテムなのだ・・・その者の身分を表すのに、衣装程簡単で的確なものは無いからだ。

使用人達も相手の衣装の程度により、接客の扱いを変え、待遇が良くなったり・・悪くなったり。仕える方からしても、面倒くさい者を嗅ぎ分ける為の、一種のセンサーの様なモノかもしれないが。

・・・取り敢えず今のところ、自分の新しい衣装は侍従から最上級の扱いを受けているので問題は無いのだろう・・・うむ、仏像とか言う者のケースの様だな。


微妙な考え違いをしつつ、不機嫌を隠すこと無く歩き続ける魔術師長。

・・・王宮は魔術を阻害する魔法陣(自分で設置したものだが)があるので転移する事が出来ないのだ。

『目的地が遠くても歩くしかないとは・・不便極まりない・・誰だ、こんな陣を施したのは・・・自分だよ!自業自得なのか。』


【詩乃と暮らす様になってからセルフ突っ込みを見覚えたラチャ先生、覚えた事はどんな事でも実践してみなければ気が済まない。・・・誠に難儀な性格をしている男なのだ。

使用人達から何気にドン引かれているのだが、残念な事に本人は気付いていない。水は高い所から低い所へと流れ、人間は高尚な所から、楽で面白い方へと落ちて来るものなのだ・・・無意識のうちにだ・・・恐ろしい事に。】


離れていた期間は僅かではあるが、王宮のセキュリティーや侍従の振舞いが煩わしい、早く自分の屋敷に戻りたいと思ってしまう。

・・思いのほか、王妃領での屋敷暮らしが気に入っている自分に驚く。

いまや魔術師長の眉間の皺は、渓谷の如く深くなっていた。


    ****


チッ・・ほら見ろ・・考えている傍から装飾過多な一団が歩いて来たぞ。

側妃の一族か、王太子になり損ねた金の掛かる孫(➀王子)に手を焼いているそうだが・・・どうせ陳情だろう、領地の魔獣に手を焼いて助けを求めに来たに違いない。


『領地の為にどうして自ら打って出ない、其方ら強い魔力を誇っているのだろう?己の手を汚さないで、何故他人が動いてくれると思うのだ?』


胸糞の悪い思いをどうにか鎮めながら、一団の横を通り過ぎ様とした時だ・・・空気を読まず公爵が声を掛けて来た。

流石、自分が何より優先されるのが当たり前と信じ込んでいる男だ。


「これはこれは、ちょうどいい所でお会いできたものですな!ラチャターニー様、いやいや今は稀代の魔術師長殿とお呼びした方が良いかな?この出会いは女神の・・・聖女様の御導きと言う処ですな。」


『其方如きが気安く、聖女様を呼ばわるのではない不敬者め!』


横目で冷たく一瞥をくれるラチャ先生、その姿は決して詩乃や屋敷の面々の前では見せない、対外的な鎧を纏った魔術師長の姿だった。


「何の用だ。」


「いやはや私の様な公爵と言えども困り事は有りましてな、王にも王妃様にも・・・もちろん王太子や聖女様にもお願いして回って要るのですが、一向に解決できない問題があるのですよ。

お判りでしょう?魔獣の件です、公爵領に騎士団の派遣や魔術師団の派遣を何度も要請してはいるのですが・・・政治的思惑なのでしょうか、一向に我々の願いをお聞き届けいただけないのです、これは由々しき事ですぞ!

どこぞの貧乏な、捨て置かれたような領地にはドラゴンの部隊を差し向けると言うのに、こんな納得いかない話はありませんぞ!どうか魔術師長からも・・・・ぐっ・・・・・。」


「言いたい事はそれだけか、ならば教えてやる・・・其方の領地に騎士団を派遣しないのは、そなたら領地に籍を置く貴族達に魔力が有り余っているからだ。其方だって攻撃魔法の一つや二つ使えるだろう、なぜ自ら動かぬ・・・領地や領民を守るのは貴族の務め・・・貴族が存在できる意義だろうが。」


突然魔術師長の魔力を当てられ威圧されても、腐っても公爵な様で・・苦しそうに胸を押さえてはいるが膝を折ることは無かった。周りの取り巻きは、師長の魔力が強すぎて、とても二人に近づいてドウコウ出来る騒ぎではない。


「魔獣と戦う・・な・・ど、爵位の有る者のする事では・・・手を血で汚すなど・・下賤の者がすれば良い事で・・ふぐっぁっ。」


魔術師長が普段封印している膨大な魔力が、怒りによりその精神から滲み始めていた。


『そのお前が言う下賤な仕事の為に、シ~ノンは南の僻地に赴いているのだ!女の身で有りながら、魔獣と戦うその為に!!』


「その辺にしておけ、ラチャそんな者でも公爵だ、死なれたら面倒だ。」


いつの間にいたのか・・王太子の前に、庇う様に立つプマタシアンタルが結界を張って此方を睨んでいる。気に食わないのはこの二人も同じだ・・・南の紛争地にシ~ノンを送り込む決断をしたのはこの二人なのだから。自分は個人的に・・・魔術師長としても何度も反対したし、魔獣を葬り去る必要が有るなら自分が行くとまで言ったのにだ。


・・・けれども。


「あいつは何も・・一言の不平不満も言わずに飛び立って行ったよ。

ドラゴンの騎士である以上は、その職責を全うするつもりなのだろう・・・聖女もそうだが・・異世界人の仕事に対する職業意識は、我々としても見習わねばならないな。」


以前・・騎士団派遣に関して会議を行った際の話だ、王太子は反対を続ける魔術師長に一つの提案をしてきた。


【あいつ・・シ~ノンが・・・南の地に派遣される事を辛く思い、ラチャに不安や不平を訴えて来たのなら・・・交代しても良い。】と・・。


その結果・・シ~ノンは騎士団の守秘義務を守って(辛気臭い話をしたくなかっただけだが。)口を閉ざし、ラチャに相談も苦情も言う事も無く旅立って行った。

・・・その事実は、少なからずラチャにショックを与えていた。


『自分はアノ者にとって、相談や不安を分かち合う価値も無い程の、タダの同居人と同然なのだろうか・・・使用人と少しも変わらない(いや、あのチビの犬娘とは親しくジャレ合っているでは無いか)。私はそんなに存在価値の無い、頼り無い者なのか・・・。』

怒りは凪いだが、今度はズウズンンンンンンンン・・・と、気持ちが心の海溝深く落ち込んで沈み込んで行く。


魔術師長が突然石化して動かなくなったので、これ幸いと公爵様御一行はソソクサと暇乞いを告げ、その場を逃げ去って行った。


「相変わらずアホな奴らだ、命拾いしたな公爵も。」

王太子が苦笑いして魔術師長の石化を解こうと近寄り、手首に巻き付けて有る淡いピンクのリボンに気が付いた。


「このリボン・・・あいつのドラゴンの色か。」


その一言に石化の呪いが溶けたのか、強面魔術師長は慌ててリボンを人目に付かない様に袖口に隠すと顔を背けた・・・耳が赤い・・・。


『オッサンなんだけど、中身は初心で可愛いんだよなぁ・・気持ち悪いけど。』

➁とプの心が完全に一致した一瞬だった。


「ラチャがあの者を心配する気持ちも解らないでは無いが、此方としては戦力以外の期待もしているのでな、今回の遠征のメンバーから外す訳にはいかなかったのだ。


お前達・・・どう思う?


アイツが最初に移り住んだ最北に近いトデリの地は、これと言って誇る産業も無い、やる気の欠片も無い様な土地だった、どうにか食いつないでこれたのはボコール公爵の傘下に入っていたからで、公爵領の中でも厄介者で見るべき物が無い土地だった。

・・・それがオマケのチンチクリンが移住してから4年・・・経済規模は6倍に膨れ上がり、自力で他国と交易をするほどの発展ぶりだ、今や子爵領としてボコール公爵から独立して黒字を叩き出している。

狼族のクイニョンにしてもだ、俺はあの様にすんなりと移住が成功するとは考えてもいなかった。今でも一人の脱落者も出さずに、最初の冬を乗り切れたのは奇跡に近い事だと思っている。

・・・あの気難しい狼達が、今では近隣の村々やスルトゥと交流を図り行き来をしているし、ほかの土地の狼族とも連携して魔布の生産に励んでいる・・・近い将来には、ランケシ王国の主要な輸出品になるかもしれないほどの名産をだ。我らでは成し得なかった事だろう・・獣人との間に有る高い壁を易々と飛び越える事は。・・・あのオマケのチビには、不思議な力がある・・・周りを巻き込んで新しい道を探せる何かが。」


少しばかり悔しそうで、複雑な心境をのぞかせた顔をして王太子は話を続ける。


「なんと言ったか・・・魔術学で、変化を起こす切っ掛けになる作用をする術の事を・・。」

「・・・触媒の陣・・・。」

「そうそれだ、アイツはそんな資質を持つ者なのだ・・・きっと。見最南端の地でも、何か仕出かしてくれるだろう・・・其処に期待せざるを得ないのだ私は。」



   *****



しかし勝手な期待を掛けられた詩乃は、只今絶賛修羅場中だった。


自分の結界(強)に触れた肉ギャースは粉微塵に吹き飛んだが、まだまだ数えたら5頭は居る・・・オマケにデカギャースまで揃っている。


「動けるものは洞窟に避難しろ!」


獣人達に指示を出すが言葉が通じないのでワタワタするだけだ、必死に身振り手振りする獣人を見ると、どうも洞窟の奥からもギャース達が湧き出て来たらしい。トンネルでもあったのか?

とにかく囲まれ無い様に、せめて背中を預ける壁が欲しい所だが・・・あぁ!簡易結界は使い切ってしまっていた・・・使えるもの・・・使える・・・のは海?


『やれるか?やるしかないか!』


「表面張力!」

詩乃は海水に向かって<空の魔石>を向けると、幾つかの巨大な水玉を造り出した。

「ギャースの顔を覆え!!」

途端に巨大水玉はギャース達の頭を包み込んで行く、陸の上で溺れるとは・・・ねぇ、今どんな気持ち・・と聞きたくなる光景だ。


ギャースは傍目には、丸い水玉を被って踊っているように見えるが・・・実のところ息が出来なくて苦しんでいるのである。前足は短いから水の弾を振り払う事が出来ない、頭を激しくヘドバンして飛び散らせるしか方法がないのだ。


『・・・メタルの髪の毛振り回す奴みたい・・・。』


今のうちに・・・詩乃は<空の魔石>を取り出すと、獣人達を拘束している魔術具に当て<解除>して回った、援軍が駆け付けるまで自力で逃げてもらうしかないのだ。

人数が多いからすぐには解除できない、そうこうしている間に、水玉を振り払った怒れる肉ギャースが突っ込んで来た。窒息してくれたのは2頭だけだった、流石に強いオレウアイは。


「逃げろ!!」


詩乃は背中の菊一文字を抜き放つと、逆鱗に向けて<薙刀>に変形させて突きを入れて昏倒させた。




・・・デカ物入れて・・・後・・3頭・・・。



肉ギャースとは因縁のある間柄・・・( 一一)。

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