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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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青い森のほとりの村~4

アクションシーンは難しい・・・(/ω\)


 白骨街道の方から集団でやって来た、暑苦しくも悪そうな小父さん達が、喚き出し暴れる前に出来るだけピザを食べておきたい。今度いつ焼くか解らないしね、冷めたら美味しく無いもの。


「あ~ぁ、せっかくのピザが・・消化が悪くなりそうでござんすよ」


プッとラチャ先生が噴き出し、プウ師範の口の端が僅かに上がっている、何だかこの2人も感情が豊かに(これでも)なってきたよね。子供達との触れ合いが良かったのか?何にしても結構な事である。


「腹ごなしに暴れるには、少し物足りないかも知れないがな」


やる気満々のプウ師範、どうだろうねぇ?

歓迎されがたい一行の中に、抑えてはいるが隠しきれてない強い魔力を持つ者がいる・・上の下・・位の感じか?お付きの騎士達の魔力は大したことは無い、無いからこそ本流から外れてこんな田舎で用心棒まがいの事をやっているのだろう。

馬に乗っているのが代官と呼ばれる男だろうか?あれだけの魔力を持てば、このような田舎ではお山の大将でいられるだろう。大した努力もせずに先天的に得た魔力をひけらかし、弱い者に君臨する・・反吐が出そうだ。この世界の偉いさんはやっぱり好きになれない、平民の普通の働く小父さん小母さんの方が遥かに尊敬できるし親近感も湧く。


「今食事中でさぁ、少し待ってつかぁあさい。

ゆんべのお客はあちらで団子になっていやすんで、見てやっちゃぁ如何で?」


顎で人間団子の方を示す、イチゴ村長の顔が強張った。


「此処の村長は、村の衆を治めるのに用心棒をお使いとは・・いやはや、呆れたもんでござんすよ」

「五月蠅い!この村は儂が銭を払って買い取ったものだ!生かそうがが殺そうが、売り飛ばそうがどうしようと儂の勝手だろう!」


「はぁ・・・?」


思わず詩乃はじめ旅の不仲間は声を合わせる、村を買う?村人ごと?


「まぁ、なんて大きな人身売買」


こりゃぁ驚いた、貴族でも領地の売り買いは王の許可が無ければ出来ないし、ここ数年そんな事案は無いはずだ。むしろ貧乏貴族は領地を手放したいが、買い手が居なくて泣く泣く管理しているのが実情なのだから。


「誰からいくらで買やんした、その3倍で買い戻しやしょう」


慌てるイチゴ村長、思わず代官風の男を振り返った・・どうにかしてくれと。

やはりこいつがボスか?それともラスボスがまだいるのか?


「何を勘違いしているか知らんが、ここいら一帯は我がシンジャア家が先祖代々収めている」


馬に乗った武人風の装束を纏った男が話し出した、やっぱりこいつが悪代官のラスボスか。悪そうな顔だねぇ、昔のウェスタン映画に出て来る悪役みたい。


「収めている領地をどうするか決めるのは我らの勝手、どうこう言われる筋合いは無い」


・・・二重行政・・・ほら見ろ、言わんこっちゃ無い。

病気を恐れて王都に引きこもり、王都の外は<穢れの地>だなんて言って管理を丸投げしているからこう言う事になるんだ。ある意味当たりマエだのク〇ッカーで、当然の成り行きだろう・・領地の件は伯爵と勝手に話し合いでもドツキ合いでも何でもするが良いさ。

でもイチゴ村長・・こいつはイケない。

こいつは村長の資格は無いだろう・・村人を好き勝手に扱い暴利を貪り私腹を肥やした。うん、ギルティだね。ブッブーだ。


「どうやら青い森のほとりの村には、二つのお定めがあるようだ。一つは代官様が思い通りに平民を扱うお定め、もう一つは王様や・此処の領主の伯爵様のお定めだ。どちらが優先されるべきか、あんた様はどうお思いでやんす?」


「ふん、領主など会ったことも無いわ、時々書状を送って来て税を送れなどと下らん事をぬかすがな。この地にやって来る気概も無い奴らよ、王都の外は穢れの地だぁ?穢れで結構!平民に口を出すな、此方は我らの世界、我らの土地だ!」


うん・・まぁ、そうだろうけどさぁ。

ちゃんと土地を治めて、村人が幸せに暮らしていたなら、こっちだって介入する気も無いんだけどさぁ。

詩乃はピザを置いて立ち上がると、代官様ご一行に向き合った。


「村人は、あんたの奴隷じゃぁ無かろう?あんたは治世者としては最低だ、下の下だ・・赤点だよ。補習だ、居残りだ、再テストだ!」


詩乃は大きく息を吸い込みポーズを取った、ポーズは日曜早朝の戦隊モノからお借りしました。


「この世に悪が有る限り、アッシらの旅は終わらねぇ・・」


詩乃がお約束のセリフを喋り出すと、残りの2人はまた始まったのかとウンザリした顔でピザを食べている。君たちルーティーンの大切さを知らないのかね。

あっ、酷い!!詩乃の分のピザまで食べている、この食いしん坊め!!悔しいから強制参加の刑にしてやる!


「・・(略)・・麗しの聖女様の紋章だ!

こちらに控えし大剣を履く大男、聖女様の夫であり、このランケシ王国に王太子として君臨するお方の右腕とも呼ばれるお人でぃ。悪を切り裂く大魔剣使いのプウ師範とはこのお方だ!」


プゥはいきなり振られたので、少し慌てた様だがピザを置いて腕組みをしつつ代官を睨み付けた。よし!いいぞ!後は口の周りを拭け。


「そして此方におわすお方こそ、かの聖女様をこの世界に導いた大魔術使いにして聖女様の守護神!悪を裁く真実の探求者、ラチャ先生だぁ」


此方は振られる事が予想できたのか、余裕を持って手をバチバチ放電させて見せている。何気に自慢げだ。・・うん、案外ノリが良いね。


「頭が高けぃ!控えおろう!!」


      ワァアアアアア・・キャァアアアアア~~~


溢れる歓声、黄色い悲鳴。

家の中で大人しくしておいでと言ったでしょうに、子供達やお年寄りまで家の外にはみ出して応援している。ほんとに切実に助けを求めていたんだね。


言いたいだけ喋ると、後はお願いしますとばかりに後ろに下がる。

私、戦闘員ではないので悪しからず。あぁ・・ピザが残って無い(涙)。

まぁこんなに埃を立てられたら、とても食べる気は起きないけどさぁ~。


「貴様らは何処の所属だ!民を守る騎士団が悪の走狗になり下がるなど・・恥を知れ!!騎士の誇りはどうした!」


プウ師範が魔力を込めて魔剣を振ると、攻撃の魔力がビビッと飛び出し騎士達を薙ぎ払った。チョロい、こいつらチョロ過ぎる。

イチゴ村長が逃げ出そうと、手が薄い村の家の方に走り出した。


「させるか!」


チビがそう叫ぶと、村長の身体の割には小さな足に風を使い掬い上げる様に持ち上げ転ばせた。


「こいつは俺の父ちゃんと母ちゃんを、無理やり連れて行ったんだ!返せよ!父ちゃんと母ちゃんを返せーーーーー!!」


チビは泣きながらポカポカと村長を叩いている、まぁ太っているからそれ程のダメージは無さそうだが。

どうしたものだか・・子供に暴力など振るわせたくは無いのだが。

そう思いながら眺めていたらフッワ~ッと村長の身体が空中に浮きあがった、2メートルほどの上空にフヨフヨと静止している。


「君ごめんね、村長はこれから領主様のお裁きを受けなきゃならないんで、これ以上ボコれないんだ」


6男だった、やっと来たか・・・あんた遅いんだよ。


「その代わり、領主様がきっちりお仕置きするからね」


それから6男は詩乃に駆け寄り、手で口を押えてとコソコソ話し始めた。


「シーノンさん、君何かやらかしたのかい?村の上空に何か異質を感じる様で、ドラゴンが嫌がって降りてこようとしないんだ」


仕方が無いから白骨街道にスモーキークオーツちゃんを降ろして、此処まで単身走って来たらしい。ゼエゼエと息苦しそうだ、運動不足なのかね?

午前中に埋め込んだ、魔獣避けのパワーストーンが効いているのかな?


「みんな上で待機している、伯爵の子息も来ている。これからの為に存在感を示したいんだ、此方に降りたいんだが、どうにかしてくれないかい」


走って来てゼーハー言いながら、汗水垂らして訴えてくる。

うん・・・侍従さんにしか見えないね・・相変わらずの残念さだ。


「上空のドラゴンに、着陸の許可を与える。実行!」


詩乃が呟いた途端に何か感じたのか、大きなドラゴン達が音も立てずに滑空しながら降りてきた。壮観な眺めだ、飛行船を引いてるドラゴンもいる。この前の子達かな?スモーキークオーツちゃんも降りて来た、頭も良いし可愛らしい ベスト オブ ドラゴンちゃんだ。

あちらの方ではまだドタバタ・ボコスカやっているが、気が済むまでやってくれ。




詩乃の興味はもうスモーキークオーツちゃんにロックオンだ、近寄り頭を撫でまわす、お水飲む?木桶を借りて魔力で水を出すと喜んで飲んでくれた。

詩乃の水は日本の天然水だからね、美味しいんだよ~ふふん。


子供達も興味はあるようだが、怖いのと貴族の様なキンキラな人間が多くいるのとで、気後れして家から出てこれない。ドラゴンは気難しいのもいるし、貴族にかかわると碌な事が無いから家に籠っているのが正解だと思うよ。

そのままステイしていな?

ドラゴンが引っ張って来た飛行船が地面すれすれに舞い降りて来た、ホバーリングする様に空中に停止してユラユラ漂っている。騎士達が手慣れた様子で地面に杭を打ち込み、其処にロープを引っ掛け停船させている。飛行船に船のようにブリッジを渡すと、おっかなびっくり中から人が降りてくた。女性達のようだ。


           「母ちゃん!!」


チビが、感極まってドラゴンの存在も忘れ、ダッシュでお母さんの元に飛び込んで行く。


「母ちゃん!母ちゃん!!母ちゃんーーーーー」


目が大洪水だ、鼻チーンしなさい。


「代官の屋敷に居た人と村長の家で働いていた人は、取り敢えず自由にして連れて帰れたんだが。男性の方はまだ行方の分からない人もいるし・・残念ながら亡くなってしまった人もいる様なんだ」


チビの感動の再会を眺めながら、6男は心苦しそうにそう話した。

『それは心が重くなるね・・・』

詩乃は喉が詰まったような、何かがつっかえ手いる様な嫌な感じがしていた。


「シーノンさんのせいでは無いよ、貴族の怠慢が一番力の弱い人の所に現れてしまったんだ。王妃様と聖女様は此処の伯爵家をモデルケースとして、領地の運営改革を始めるそうだよ」


・・・それは結構な話だが・・・失われた命はもう戻らない。


子供達や年寄りが、帰って来れた母親を囲んで喜び合っている、誰が亡くなっても悲しいがチビの父親が無事でいる事を祈らずにはいられない。

その後、用心棒代わりに代官に付いていた騎士達は、伯爵の要請により本部から来た騎士達によって連行されて行った。代官とイチゴ村長は拘束され、お裁きを受ける為に飛行船に積み込まれた。



 見たことも無い大勢のキンキラな人達がやって来て、あれよあれよと言う間に荷物を詰め込み飛び去って行った。残された村人は喜びながらも呆然として、村は嵐の後の様な静けさに包まれていた。

ただ一人まだ居残っていた若いキンキラキン・・伯爵の子息は緊張を隠せない村人の前でこう話しだした。


「伯爵家の怠慢で領民の皆には大変な苦労を掛けた、すまないと思っている。これからは、このような事が無い様、気持ちを入れ替えて領地経営に勤めるつもりだ。其方たちの父親は遠くの街まで行かされているようなので、探すのには今しばらく時間がかかるだろう、すまないがもうしばらく待っていてくれ。必ず見つけ出して自由にし、村に返す事を約束する。代官と村長は、王様にお願いして公正なお裁きにかけるので判決が出たら其方達にも知らせよう」


村人は跪いて顔を下に向けて、ただ黙って話を聞いている。

まぁ・・封建制度だからね、仕方が無いんだろうけど。


        ・・・御免で済めば警察は要らないよ!!




突然チビが叫んだ、心が裂けそうな絶叫だった。


「もう、家族がバラバラなのは嫌だっ!!」


母親が慌ててチビの口を押えた、村人たちに緊張が走る。


「もう、その様な事は決して起こらぬ。安心せよ」


そう言い残すと、伯爵の子息はチビを咎める事もせずにドラゴンに乗って飛び立って行った。



    ******



「どちらかと言えば、これから大変なのは伯爵家でしょう。モデルケースとは聞こえはいいですが、失敗は許されないって事ですから。

現伯爵は頭が固いので使えそうもない感じだし、あの子息が先頭に立って改革していく事になりそうですがねぇ。王都育ちのボンボンで、何処まで出来るか・・」


「この世界の全部が全部、あの代官の様な悪人ではないでやんしょう?

領地の為、領民の幸せを願う人が、領内に1人や2人はいませんかねぃ?

それから公爵領から教師を出向させればどうですかぃ?技術移転料とか取れば採算は取れるでしょうや。公爵領では身分とか何とかの縛りで、実力は有るのに日の目を見る事が出来なくて・・でも、内心野心溢れる優秀な技術者とかいませんか?平民でも良いんじゃないですかぃ?」


『かつて日本も明治の頃に、お抱え外人教師とかを沢山雇っていたもの。本国では冷や飯を食べていた優秀な人達が、こぞって日本にやって来ていた。ナウマン象のナウマンって、発見した外人教師の名前だとは博物館に行くまで知らなかったよ』



「青熊を持って帰る前に、チョッと相談したいことがありやんす」


詩乃は掘り返された、旧耕作地を眺めながら考え込んでいた。


プウ師範はこれでも貴族様なので、フォークとナイフを使わないと綺麗に食べる事が出来ません。

手づかみは慣れないので、口の周りを汚します。残念臭が漂う大男。

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