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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
89/126

激闘~4

セクハラ駄目!絶対!!( `ー´)ノ。

「詩乃ちゃん・・・?」


モルちゃんの心に、何かがヒヤリと触れた様で鱗がそそけだった。

何が有ったのかと、城砦の物見台の辺りを眺めると次の瞬間 カッ と光ったと思ったら・・・ポーンと見事な放物線を描いて誰かが放り出されたところだった。


「なんだ!まさか敵があそこまで入り込んだのか?」


モルちゃんに騎乗しているラセンさんが、驚いた様に叫んだが・・・・。

モルちゃんの異変に気付いていた他のドラゴンと同じく、物見台の方を観察していた騎乗者である同僚たちは一様に。


「あぁ~~ぁ~っ。」

やっちまったよ・・・とため息を吐いた・・・。


こんな未確認飛行物体を目撃するのは2回目である、1回目はハイジャイの鬼上司サムディン大佐の飛翔だった、無理に詩乃に結婚を迫ってぶん投げられたのだ・・・気の毒にも、多くの部下の目の前に着地したのだ・・・頭から。

皆は知らない事だが、じつは王都の聖女様の離宮時代にも、詩乃は➁王子の側近であるプマタシアンタルと言う名の無礼な脳筋を投げ飛ばしている。

飛距離は今回が一番長いし、放物線の軌道が美しい。



「馬鹿野郎がウチの部隊の姫さんに、チョッカイを掛けやがったな。」

「大佐より軽いのかな、飛距離が結構伸びたねぃ?」


ノンビリ語る隊員たちに、焦った様にラセンさんが訴える。


「オレウアイの只中に落ちましたよ、早く助けないで良いんですか?」


    別に・・・・良いんじゃぁね?


腕に覚えがある奴でも気楽に近づけない(物理的にだ、背後霊がドラゴンやら魔術師やら王妃とかで最強すぎる。)高値の花の詩乃に、無謀にもアクセスした野郎がアホなのだ。

実のところ隊員の面々は、ハイジャイで詩乃に何かと世話になっていたので(吊り橋効果か?)、ごくご~く淡い好意を抱いてはいたが、命は惜しいので・・その気持ちは封印し心の海溝深く沈めていた。

ただニーゴだけは常識とか?色々と勝手が判ら無いので気持ちが察せられない、どうか暴発しません様に・・・と密かに隊員達は祈っている、ドラゴン持ち同士のイザコザに巻き添えを食うのはごめん被る。


「この位の魔獣ぐらい、一人で捌けない様な軟弱者は姫さんに相応しくない。ドラゴン含む部隊員全員が認めん、俺達を倒してから口説く事だな。」


  【オ~イさん・・口説くどころか、実力行使に出て居ましたがな・・。】


    ******


一方、物見台では・・・。


「嬢ちゃん、アイツが悪かった・・・すまん!許してやってくれ。」

「あんなのでも、此処の守りの指揮者だし、死なれたら困るのだ。」

「そうそう、礼金の支払いの件もあるし。婆は踏み倒すだろう?」


「私からも、甥が仕出かした事、心より詫びを入れましょう。あんなのでも次期当主・・・死なれたら妹に面目が立ちません・・・ご容赦を。」


詩乃の周囲から2メートルは距離を取り、皆で取り囲んで謝罪に勤めているのだが、詩乃は一瞥もしない。それどころか、胴巻から菊一文字を取り出すと一瞬で鞭に変え


     バッシィ~~~~~ン


と、物見台の床を(石組み造り)撃ち据えた・・・大きな音に皆縮みあがる・・・どこがだと?察してくれ。

元より武器の種類が少ない異世界で、初めて見た得体の知れない長い蛇の様な?(ここの鞭は騎乗用で、50センチ程の撓る棒っ切れみたいな物だ。)武器だ、皆ビビりまくっている。

詩乃はそれを頭上でビュンビュン振り回すと、オレウアイの犇めく地上に向かって投げ放した・・・が、不思議な事に蛇の長さがシュルシュルと伸び出し、オレウアイ達に絡まり纏わり付いて行く。


「通電。」


地を這うような低い声で、ボソッと詩乃が呟く・・・途端に。


バリバリバリ・・・ドォォォォン・・・ギヤァオゥ!!!!


断末魔の叫びをあげて、オレウアイが黒焦げになって倒れて行く・・・残っていたオレウアイの半数以上は片付けた様だ。辺りは焼肉の様な良い匂いが漂い出した、塩もいいけどタレも欲しいぞ?





上空にも通電の余波は伝わって、あちこちピリピリしてチカチカ光っている。


「ヒエエエェェェェ~凄いな姫さん、何だあリャァ見たことも無い魔術だぜ。俺これから姫さんのオカズ狙わない様にするよ、騎士として此処に誓うよ」

「雷みたいだったな、空の上でこんなに離れているのにビリビリ来たぞ。どう言う仕掛けになったいるのか、興味深い・・・俺もやってみたい。」

「やったね~、だいぶ片付いた~やれやれだ。」

「どれだけ怒らせたのだろう、何をやらかしたんだ砦の奴ら。」

「このまま食えるかな?」



・・・やらかしちゃった、砦の奴らの反応はと言うと。

砦の面々は、息も止まるぐらいの衝撃を受け動けないでいた、ドラゴンの騎士の実力を甘く見ていたのだ(・・・イヤイヤ、他の騎士はこんな事出来ませんが。) 

    

特に女官長は、『このオマケの小娘は、魔力が弱かったのでは無かったのか。』

聖女の離宮時代とのギャップに驚き恐怖を感じていた、まさかこの様な事が・・・これでは聖女と同等の魔力では無いかと。


固まるギャラリーを余所に、詩乃は鞭の変形を解くと菊一文字に戻し、殊の外刀を見せつけ、刀紐を回して背中にしょい込んで忍者背負いにした。あれだ・・・寄らば切るゾ・・・って奴だ。しかしその顔は全くの平常心で、何の感情の欠片も見えない。


「・・・お嬢、今の技は何なんだ?なんか光の蛇のように見えたが。」

恐るおそる、勇者(空気が読めない)が声を掛けて来る。


詩乃は小首を傾げると

「う~~~ん、送電線?電気は大切にしないとね。」


よく解らない事を答える、しかし暴れて気が済んだのかいつもの笑みを称え(アルカイックスマイル)て、何事も無かった様に澄まし顔だ。嵐がどうやら過ぎ去ったのを感じて、一同ホット息を付いたその時・・・


「流石、この俺様が惚れ込んだ女だ!やるじゃねぇか!」


彼方此方焦げて、ボロボロになったオ~イが城壁を駆け上って来たのだ。


    【あっ・・・生きてた・・・・。】


物見台の面々は、オ~イの命根性の強さと、その間の悪さに頭を抱えたくなって来た。おっかないのが静まって来たんだから、蒸し返さないでくれぇ。



     *****



「詩乃ちゃん、隊長さんからの連絡のです。生き残ったオレウアイを誘導して山の奥に戻す為、ムウアとエフル、ニーゴさんが現場を離れます。

元領地の偵察にこれから隊長が向かいます、今後此処を守るのはシャルワとモルです。そちらは結界を張って午後の戦いに備えるようにとの事でした。以上です。」

「お疲れ様、まだ何があるか解らないから、モルちゃんは広い範囲を意識して見守ってください。ラセンさんにもよろしく。」



「・・オイお嬢、聞いてんのか?俺様の話を!]


聞いていませんでした、モルちゃんと業務連絡の最中だったからね。

絆がある同士でしか会話は成り立たないし、聞こえない・・・傍から見たら単なるボケッとした人に見えるだろう。

焦げ男は腕を組んで、偉そうに上から目線で詩乃に言い放った。


「だから!責任を取ってやるって言っているんだよ!」


ギャラリーのハラハラを余所に、オレウアイの只中ら単身生還して来た男は未だに絶好調である。


「?なんの責任ですか、意味わかんな~い。」

「だから、あれだ・・・(ちと赤くなる焦げ男、案外初心な様だ。)お前に・・・した責任をだな。くそ!お前に口付けした責任を取って嫁に貰ってやると言っているんだ!嬉しいだろ・嬉しいよな・喜べ!!」


「・・・口付け?覚えが有りませんが、何の事です。」

「お・・・おまえ・・。」

「あれは、緊急避難的医療行為の実践ですよね?」


       はぁ?


「緊急避難的・医療・こ・う・い!弱った人間に投薬しただけだろ!」

溺れた人に誰かが人工呼吸をしたとして、何処のどいつが嫁だ婿だと騒ぐと言うのだ馬鹿馬鹿しい。おととい来やがれ、アンポンタン!!


  


    【こいつ・・・無かったことにしやがった。】



詩乃以外の面々は、皆そう思った事だろう。

女性の人権が低いこの異世界で、平民の中では略奪婚の風習まで残っているとかいないとか・・・そんな社会で、既成事実(未婚の男が女を抱きしめたぐらいで、皆揃ってパニック起こして、出入り騒ぎの殴り合いだ。)を作られた女性は泣く泣く嫁ぐ羽目になるのだ。この領地でも、そんな経緯で嫁に来た女性が何人かいるらしい。


「あんたら、碌な事をしでかさないから教えておくが、清浄の魔術や癒しの魔術を掛けリャァ、汚い跡なんざぁ綺麗サッパリ無くすことが出来るのさ。くだらない行為で嫁をGetだぜ・・だと?ふざけんな、とんでもない了見違いだ。心を共に寄せられない者同士で、どうして家族を作って守って行くつもり何だ?・・・そんな馬鹿野郎はモゲてしまえば・・・・」

ギロッと睨み付ける詩乃に、


「俺が悪かった!この通りだ!!」


股間を守りつつ、土下座するオ~イ。

・・・どうやらモゲるのだけは、絶対に避けたいらしい。

「フンッ。」

土下座する、その軽いオツムを踏みつぶしてグリグリしたい様な気もするが、一応冒険者のリーダーだし?やり過ぎるのも良くないだろう。

詩乃は皆の目の前で、清浄の魔術具を使って口と顔の周りを清めて見せた。


「そんな~ぁ・・・俺の口付けは汚れか。」


誠に正しくバイ菌である、空にキランと消し飛ばしたいぐらいだ。

ションボリするオ~イは仲間に慰められている、狙った獲物が大きすぎるとか、あれじゃぁ夫婦喧嘩の度に家が半壊するとか・・・諦めの悪いオ~イは、まだ詩乃を口説いて来る。


「俺達気が合うんじゃぁないのか、貴族嫌いも同じだし・・・此処が落ち着いたら、俺は冒険者に戻ろうと思っているんだ。」


驚いた様に婆伯爵が振り向き、遮光器土偶の目が カッ と光る。

そりゃそうだ、大事な後継ぎだと思っていたんだから、驚くよね・・・悠々自適の老後の計画が台無しだ。


「一緒に旅に出ないか、旅とかした事が無いだろう?白骨街道って道があって・・・」


白骨街道?・・・散々歩いて、ノウセンキューだぜぃ。

話に乗って来ない詩乃に、ジレたのかオ~イは心理攻撃に出て来た。


「お前、魔術師長と暮らして居るそうだが、それでいいのか・・・そいつは、単にお前を逃がさ無い為の見張り役で、お前はそいつの家族なんかでは無く、そいつの研究対象ってだけの間柄何だろぅ?お前は利用されているだけだ、解らないのか?自由は欲しくは無いのか?!」


『そんなことは知っている、自分は異世界に来てから常に監視対象者だ。ど田舎のトデリに住んでいて、自由に思い通りに生きて来たつもりだったが・・・常に動向は王妃に漏れていた。』

だから何だって言うんだろう・・・そんなの今更だ、監視だろうが観察対象だろうが、ラチャ先生は詩乃の嫌がる事や妙な無理強いは決してしてこなかった・・・オ~イの様にズケズケとパーソナルスペースに踏み込んでくることも無い。

それに確かにラチャ先生に利用されてはいるけれど、詩乃だって相手を利用している・・・お互い様の関係だ。赤の他人の焦げ男にとやかく言われるのは不愉快だ。


この世界のスタンダードはオ~イの方かも知れないが、・・・それでは詩乃の心は動かないのだ。

ホントに [まだ、マシ何だよねラチャ先生って・・・。] 

これ以上喋ると・・・あんた・・・モグよ?


睨みあう詩乃とオ~イ。


何とも険悪な雰囲気の中、突然モルちゃんの悲鳴の様な声が頭に響いて来た。


「なっ!」


突然詩乃が海側に向かって走り出した、周囲も驚き慌てて後を付いて走る。


「突然どうした!」

「海岸に獣人達が・・・・多数いるそうだ、なぜ海岸に人がいる!昨晩の内に避難させておいたのでは無かったのか。」

「いや、全員避難させた筈だ・・・いやまて!昨晩、獣人が居る事は申告されてはいなかったぞ。これで全員だと告げられたので、俺達は彼らを砦まで護衛したんだ。」

髭もじゃの冒険者の男が叫ぶ、・・・そうか。「奴ら獣人を隠していたんだ、奴隷として売れる財産だからな!!」



『詩乃ちゃん!海にいたオレウアイが、海岸に向かって泳いで戻ってくる~~~。どうしよう、シャルワも攻撃用の武器を使い果たしているし・・・。皆を呼び戻すにも時間が・・・・。』

『落ち着いてモルガナイト、隊長に連絡を・・海岸はアッシが行くから大丈夫。』



物見台から遠く海岸を眺めると、確かに十数人の獣人が居る様だ・・・手足に枷が付いていて、これでは逃げにくく走れそうにも無い。

遠距離射撃をしたくても、オレウアイが迫る中、これじゃぁ近すぎてどちらもハチの巣にしてしまいそうだ。


『デジャブ再びだね、アッシはオレウアイとサシで勝負する運命にあるのかねぃ?サシそう・・虎さんの戦い方を思い出すんだ、それに・・・今のアッシにはクイニョンの雪山と違って武器もある。大丈夫!いける!!』


詩乃の覚悟を感じ取ったモルガナイトが悲鳴を上げる、クイニョン再び?

此処には虎さんもムースさんもいないのに!ダメだ!ダメだ!!

『やめて!詩乃!!』


モルガナイトの必死の呼びかけにも答えず、詩乃は瞬間に物見台から姿を消した。

「瞬間移動」




「駄目だ!食われる!!」

そう覚悟を決めた猪獣人は、突然オレウアイの前に立ち塞がった小さな人影に驚き、次の瞬間・・爆発音に肝を冷やして思わず砂を掘って身を屈めた。

少しばかりの・・・静寂の後、恐るおそる見上げた彼の目に写っていたのは、全身緑色の返り血を浴びた若い女の姿だった。


・・・くさっ。


アホな男には天誅を!(-_-)/~~~ピシー!ピシー!

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