激闘~3
セクハラ・パワハラ表現有り。
苦手な方は、最後の方を読まないでください。
私達は、故合って慣れ親しんだ故郷を捨てざるを得なくなり、他の地に活路を求めて旅立った・・・所謂、難民と呼ばれる者です。
私はその中の長の娘、カーナーと申します、今年の冬に成人となった16歳です。
今・・・私達は、この地の領主様のご厚意により、此処の城砦の内部・・・その昔、魔弾倉庫だったと言われる場所に集められ、恐ろしい災いが過ぎ去るのを息を殺して待っている所です。魔弾倉庫は固い岩盤を魔術で掘り抜いて造ったと言う、非常に強固で安全な場所らしく、何が有っても大丈夫だから此処にいろと言われ放置されました。
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昨晩の事です・・・突然空から現れた、ドラゴンの騎士様と言う方の御指示で、海辺の洞窟で夜露を凌いでいた私達は城砦に連れてこられました。私の住んでいた大陸にはドラゴンは居なかったので、初めて見たその姿には大変驚き恐れを感じたのは無理からぬことでしょう。
そのドラゴンの騎士様が仰る事には、これから行う魔獣討伐作戦に、か弱い民間人は邪魔だそうで・・・安全が確認されるまで、此処に避難しているようにと命令され、冒険者の様な人相の悪い男たちに連行されたのです。
魔弾倉庫は暗く湿気っぽい穴倉の様な所でしたので、監禁されるのかと疑う気持ちが湧きましたが、此処にはまた、この地の領民である者達も多数避難していたので嘘では無いのだと安心しました。
彼ら領民には、大変申し訳無いのですが、余り良い感情は持っていません。
彼らはこの国の正民なのに・・・大変貧しい身なりをしていて痩せています。
私達も貧しい暮らしと、帝国の圧政に、堪らず故郷を捨てて逃げて来た身なのですが・・・この地はもっと貧しいのでしょうか・・・。
魔獣が沢山いて、絶えず脅かされていると聞いた事が有りますが。
それにしても難民である私達より、貧しい身なりなのはどう言う事なのでしょうか?此処の領主、また国の王様達や重鎮は何をしているのでしょう?
為政者の都合や思惑で、苦しい生活を強いられている平民の一人として、憤りを感じざるを得ません。貧しい身なりの彼らでしたが、不思議と清潔は保てれている様で、同じ空間に居ても臭気に悩まされる事はなかったのが不思議でしたが・・・大変に助かりました。
あぁ・・・それにしても、どのくらい時間が経ったのでしょうか?
暗い中だと悪い事ばかり考え、こんな時間が永遠に続きそうで、胸が悪くなりそうで苦しいです。難民船で航海している途中に時化に合い・・・ずぶ濡れになり、もう駄目かと覚悟を決めた時も辛かったですが、ただじっと成り行きを待つのも心細く悲しくなります。
領民のいる方から、小さな子供の啜り泣きが聞こえてきます恐いのでしょう。
「・・・大丈夫、ドラゴン様がお助け下さるよ・・・坊。」
しゃがれた老婆の慰める声が聞こえてきます。
此処の者達のドラゴンに対する信頼は、驚くべきものが有ります。
あの異形は・・・魔獣とどこが違うと言うのでしょうか?
大きな口と牙・・鋭い爪、鈍く光る鱗・・・どれをとっても、私には恐ろしい存在にしか見えないのですが。
此処の者は、口を開けばドラゴン・ドラゴン・ドラゴン・・・。
言葉が解らなくても、ドラゴンだけは聞き取れる様になりました正直ウンザリします。あのような魔獣に頼って生きるなど、真っ当な人のする事か・・・魔力を持つ貴族は何をしているのでしょう?魔獣などサッサと殺してしまえば良いのに。
領民の男が、個々に集まっては不安そうにボソボソと話しています。
言葉は訛りが強くてサッパリ解りません、大陸の国々と遠く離れたこの僻地の島国では、発音が独特で良く聞き取れないのです。
・・・あの者達の言葉が解れば、もう少し状況が解ると思うのですが。
もうどのくらい時間が経ったのでしょう、いつまで此処に・・・いえ・・・、この土地に居なければならないのでしょうか?
故郷を出奔したのはもう半月も前の事です、予定ではホンの数日の船旅で、目的の地に着く筈だったのですが。・・・もう凄く長い月日を、さ迷っている気持ちになります・・・あぁ、安息の地に早くたどり着きたい。
私の国は大陸でも小さな国で、隣の帝国に絶えず脅かされ、干渉されて来た歴史が有った様ですが・・・私が小さな頃には、そんな祖国も無くなり帝国の一部となっていました。
貴族の方々は魔石を掘り出す鉱山へと連行され、お可哀想な王様や王妃様、お子様の王子様達の行方は要として知れず・・・噂ではもうこの世にはおられないとか・・・恐ろしい事です。
私達庶民は罪を問われる事も無く、どうにかそれまでの暮らしを続けて生きてこれましたが。税金は年々上がり、新たな税金が増えたりして・・・日々使う水にさえ、多額の税金を払わなければならなくなったのです・・・信じられますか!
そんな苦しい時代が続くなか、ついに帝国内で内乱が発生しました。
帝国の圧政に苦しめられていた、吸収された旧王国の者達が次々と反旗を翻し、それに正妃様のお子様で有りながら、冷遇されていた王子様が合流し・・・ついに主流派である愛妾様の息子である王太子派と大きな争いとなったのです。
貴族ら(魔獣同士)の抗争に、私達の様な(野ネズミ)が巻き込まれては、とても生きては行けません。
お父様はついに帝国に見切りをつけ、私達一族は持ち出せるだけの財を携え、月の無い真夜中に密かに船に乗り込み、平和な暮らしへと続くはずの海に漕ぎ出でました。
目指したのは東の王国、魔術が盛んで魔石も豊富な豊かな国、私達の様な難民の者にも寛容で、仕事もあると噂になっていた理想郷です。
東の王国はその魔力の強さ故に、好戦的な帝国も手出しを出来ずに、対立していたそうですから安心でしょう?私達は夢を描いて船に乗ったのです・・・ところが途中で嵐に会い・・・運悪く、こんな小さな島国に漂着してしまうとは・・・。
お父様は言ってました、此処はその島国の中でも最南端の、尤も貧しい土地で有ると。
私達は嵐の只中で、如何にか船を沈ませ無い様にと、多くの積み荷を海に投げてしまっていました。ですから今は僅かな財産しか持っていません・・・それでも、背に腹は代えられません。
この地にたどり着いた時にお父様は、この地の者達に、金の指輪と幾何かの食べ物を交換してくれないか?と持ちかけました、かなりの譲歩だと思います。
それなのに・・・食えないモノなど要らん!と、断られてしまったそうです。
・・・信じられますか?金の指輪ですよ?
普通だったら、小麦の大袋10ダースと交換できる程の品物ですよ?
金の価値が解らぬとは・・・文化程度の低い野蛮な国に来てしまった様で、暗澹とした気持ちになったものです。
お父様達が、お話している声が聞こえます。
『もう少し東に向かうと、ランパールと言う土地があるそうだ。そのは此処より遥かに開けていて、住みやすく安全なのだそうだ。其処なら仕事も見つかるだろう、どうにか此処から移動してランパールまで辿り着かねばならぬ・・・このまま、この最貧の地で一族郎党儚くなるわけにはいかない。ランパールで態勢を立て直して、再度東の王国に向かおう。』
お父様の言う通りです・・・本当に、早く此処を出て行きたい。
・・・とにかく無事にこの魔獣退治が終わったなら、とてもお話になら無いこの土地の者に交渉するのでは無く、ドラゴンの騎士様達にお願して、此処よりマシなランパールと言う土地へと連れて行って頂けるようお願いするしか無いと思います。それに騎士様なら金の指輪の価値がお解りの筈でしょう?騎士は貴族の成るものなのですから。
ドラゴンなら力が強そうだし、私達一族など、軽くその背に乗せて飛ぶ事が出来るでしょう?
・・・私は我ながら良いアイデアだと思い、騎士様に差し出すお礼の魔石やら、細工綺麗なアクセサリーなどの入ったカバンを大事に抱え込みました。
その時です!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・
突然、地中から地響きが湧き出し、堪らず誰もかれも悲鳴を上げました。
何!何が起きたのでしょう!!
「奴らだ・・・オレウアイの大群が、此方に向かったいるんだ。」
熊の様な大きな男が喚いています、何を言っているのか解りませんが、彼は天井を見上げ睨み付けています。
オレウアイ?・・・その言葉が憎しげに彼方こちらで吐き出されています。
何でしょうそれは・・・?
地響きは鳴り止まず、天井からパラパラと小さな石の破片が落ちてきました、子供達の泣き声が大きく響き耳に障ります。もう!五月蠅いったら!
老婆が手を合わせて・・・ドラゴン様・・・ドラゴン様と呟いています。
何かが壁に激突しているのか、大変な振動で体が揺れて座っていられません。
私はもう、気を失いそうになりながらも、大事な鞄を抱え蹲っていました。
******
「どうです、塩梅は?」
緑の血がヌルヌルと滑る物見台の上に、場違いな感じの老婆がスックと立っている。年をとっても矍鑠としていて、プライドが背骨に内蔵されているのか、ピンと伸ばした背筋が婆の矜持を感じさせる。
「叔母さん、危ないから引っ込んでいろと言っただろ!」
婆伯爵様でしたか・・・御馴染みの遮光器土偶のおメメちゃん。
(甥っ子のオ~イは、横線1本のたれ目で、この二人には確かに血の繋がりが感じられる。)
いつもと同じの服にエプロンを付けて、若い者に何か大きな物を持たせてノコノコと最前線にやって来た。修羅場にようこそだ婆。
「この地を守る貴族の生き残りとして、自分一人オメオメと逃げ隠れしているつもりは毛頭御座いません。客人が頑張っていると言うのに、引っ込んで入られる道理は無い。」
「いや、俺ら客人じゃぁ無いから、報酬は欲しいですから。」
冒険者の切なる訴えは黙殺された、婆はこんな時に突発的難聴を発症し、聞こえない振りをするので侮れないぞよ?・・・よく詩乃のお婆ちゃんもやっていた技だ。
「陣中見舞を持って来ましたよ、疲れが出る頃だと思いましてね。秘蔵の素材を使って、この私自ら調合した[ルケンユ]です、有難く頂きなさい。」
オオオォォォ・・・・・
何やら喜んでいる、冒険者のオッサン達・・・オッサン・疲れ・秘蔵で調合?
何そのワード、嫌な予感しかしないね・・・。
オッサン達は三々五々、婆と若い者の元に集まると、手を腰に当て背を逸らし、何かを一気飲みしているではないか。
その後、苦悶の表情で「ぐ~~っ。」とか「カハァ」とか、変な音を出している。
・・・チラッと見えたが、どぎつい紫色をしていたぞ・・・これは予感的中か?
「おぃ、嬢ちゃん。婆さんが滋養強壮に良く効く薬を持って来てくれたぞ、嬢ちゃんも早く飲め、効き目一発!元気モリモリのビンビンだ!」
ビンビンって何だよ、いらねぇよ!謹んでご辞退申し上げます。
「お上品な嬢ちゃんは知らないだろうが、力仕事をこなす男達には必需品の魔術薬でな。素材が高値な為に気安く飲めない代物だ、有難く飲め、ってか早く飲め。」
聞こえないふりをする詩乃に、オ~イさん自ら、ビールのジョッキさながらのデカマグカップにナミナミと紫色のブツを注いで持って来やがった。
「お嬢、飲め・・・お前パワーが堕ちて来ているぞ。まだまだ先は長い、此処でお前にへたばられたら今後の予定が狂う。お嬢には、まだまだ頑張ってもらあにゃぁ成らんのよ。頼むよ。」
『だって、不味いんだもん・・・それ。
トデリに向かう船で海の魔獣に襲われた時、魔力を使い過ぎてヘロヘロになって、賄いのお爺さんに無理やり口に注がれたブツだ。・・・ゲロマズで記憶が飛んだ覚えがある。』
「結構美味いぞ?」
『嘘つき。』
詩乃は無視を決め込み、薄く結界を張りつつ警戒態勢に入った。
オ~イは、貴族に(養子だけど、あれ?アッシも養子だった。)しては良い奴だし、平民の常識も通じるし、話は面白いし、顔も地味目で親近感が湧く奴だけれど・・・。
ここ一番、譲れない時には鬼になる奴だ・・・と、冒険者のオッサンズが言っていた。だから十分用心しなきゃならない、あんな不味い物はもう絶対に飲まないと、あの日あの時・・海の向こうに薄く浮かぶトデリの街に誓ったんだ。
それなのに・・・・?
えあっ?
オ~イは一瞬で間合いを詰め、あろうことか詩乃の結界をすり抜け・・・ドリンクサービスを強行した・・・のだった・・・口移しで。
グッギャァアアアアアアアアァァァァァァ~~~~~
ピューピュー、指笛を鳴らして冷やかすオッサン共!
ファーストキスは・・・ノーカンで、お願いします。
これだから、手の早い女っタラシのオッサンは・・・( 一一)。
詩乃を怒らすと、バックが怖いよ?