激闘~1
戦いの前の緊張感って・・・お腹が痛くなりそうですねぃ(*´Д`)。
夜明け前、ドラゴン達は静かに魔術を使って飛び上がって行った。
敵に気配を探らせない為にだが、そんな必要が無いほどに森の中は荒れている様だ。遠くに咆哮するオレウアイの声と走り回る地響きが聞こえる、相当な数だ・・・あの巨体が走り回っているのだから、森の中はさぞかし荒れているだろうな・・・詩乃は呑気に考えていた・・・その元凶にも関わらずだ。
前日、領に到着した際に森の上空を回り、ある程度の魔獣の個体数を確認しておいたのだ・・・・どうやってか?深い森の中に潜んでいても、熱検知センサーに掛かれば、放熱している個体は解ってしまう。
爬虫類の癖に・・・卵で産まれるのだから、正しく爬虫類だろう?
しかしだ、その体温を一定に保ち、寒い雪の中でも平気で動き回る・・・異世界の生き物を甘く見ちゃぁ行けない、たとえ卵で生まれようとも、アッチの常識は通用しないのだ。
現に、爬虫類のクセして高い体温を放熱しているオレウアイは、他の蛇系・蜥蜴系の魔獣よりも発見しやすく・・・また個体数も多かった。
その数およそ300頭・・・此処に籠る戦闘可能な人間の6倍の数だ。
良くここまで数が増えたものだ、それは彼らが高い知能を有していて、社会性のある群れで行動し捕食している事と関係が深いだろう。
この数年、この地を襲った未曽有の災害でも、オレウアイは滅びること無く、かえってその数を増やしていたようだ。死んだ魔獣の肉を食らい、弱い獲物を取り囲んで狩って、この地を支配して増殖して来たのだ。
此処まで増えてしまった彼らにしても、残る獲物は此処(城塞)に籠る人間か、共食いするしか生き残る術はないのだろう。
彼らもまた餓えている・・・生き残りをかけ、この地を支配するモノを決める時が来たのだ。
海から朝日が上がり、だんだんと薄闇が晴れて来る・・・遠く空に6頭のドラゴンのシルエットが浮かんでいる。小さいのはモルちゃんだ、今日は世話係のラセンさんが乗っている。
結界を張るのが上手な詩乃は、今回は城砦の防衛に回って、物見台の上で清浄の魔術百連発を受け清潔になったピカピカな冒険者達と並んでいる。
「いいのか?他の者にドラゴンを託す騎乗者なんて始めて見たぜ。」
弓に具合を確かめながら、オッサンが聞いてきた。
「アッシは此方に詰めなきゃならないし、ドラゴンの機動力を減らすのも惜しい・・・妥当な判断だと思うよ。」
ラセンさんは騎士では無いので<空の魔石>でコピーした攻撃用の魔術具は持たせていないが、脅かしに使う癇癪玉や他の皆のカバーが出来る様に、遠隔で張れる結界の魔術具は持たせてある。
『モルちゃんも、本格的な討伐は初めてだし・・・無理はさせたくは無いんだよね。中身は優しい可愛い娘だからねぇ。怖い、嫌な思いはさせたくは無い。』
今回は、後方のサポート要員として、隊長の補佐に選任されている。
他のドラゴンさんもモルちゃんには甘いからね、詩乃の思惑と完全に一致したわけだ。
モルちゃんの性別の分化はまだ先との事だが、牡ドラゴン共にモテモテだから・・・今更♂とかに変化たら暴動が起きそうだ。
今のところゴールディさんが1番人気だが、対抗にパガイさんのタンザナイトさん、大穴にプウ師範の黒さんかな?と思われている。
・・・モルちゃんも、何気に爺選みたいだし。
モルちゃんの恋の行方は、トンスラの皆さんの中で密かに賭けの対象になっている、因みに胴元は王妃様だ・・・そう言うの好きみたいだなあの人。詩乃とニーゴさんは、関係者だから賭け禁止なんだって~ズルくない?
これからの時間の事を考えたくなくて、思考が斜め上に脱走していた・・・今のところ、オレウアイ達を追い詰めているのは、実は詩乃さんの作った魔術具である。
ハイジャイで馬鹿貴族相手に使った皿の様な、エネミーの攻撃を反射する例のアレを魔改良して・・・オレウアイを目掛けて、チョッカイを出し、爬虫類の嫌がるであろう音(領地の猟師さんに教えて貰った)を響かせて、一晩中オレウアイを追い回し・・走らせ疲れさせ・・・弱らせて此方の城砦の前の草地に誘導している最中なのだ。
・・・ほら、仕留めた後なら、お家に近い方が何かと便利だし?
ただ、上手い事オレウアイのつぶらなおメメに、冒険者さん達の鏃がヒットしないと、此方が危ないかも?な状況な訳だが?
エフルの毒液は<空の魔石>で濃縮還元して、更にエゲツ無い物いモノに魔改造してコピーして、冒険者・領地の猟師さんなど戦闘要員各位に渡して有るが・・・此方の思惑の上を行くのが、異世界のお約束だからねぇ。
グギャァオオオオウゥゥゥゥ~~~~~!!!
ひと際大きな咆哮に、物見台の猛者の面々も動きを止める。
此方で止めを刺しにくい様な、大きすぎてヤバそうな個体は、上空から攻撃する手筈になっている。ニーゴさんが光の槍を放って、デカ物を串刺しにした様だ・・ドラゴンの晩御飯かな。美味いと良いね。
*****
昨晩の作戦会議で、ポワフ隊長は不服そうだったが、詩乃は一定数のオレウアイを残す様に主張した。
オレウアイは生態系の頂点だ、彼らが居なくなったら草系の魔獣が増え過ぎて、今度は別の何かが起きるかも知れない。
ザンボアンガの例を出して説得に努めたが、意外だったのは孤立無援だった詩乃の意見に、婆の伯爵が賛同してくれた事だ。
何でも王宮に仕えていた時に、王妃様付きになった事も有って、ザンボアンガの悲劇の事は良く聞いていたらしい。地中にある魔石から発せられる魔力が有る限り、魔獣の発生は止められない・・・余り追い詰めると、新たな異形に変異して、更に強力になって現れて来るそうだ・・・何だか、ウイルスみたいだね・・・。
*****
空から次々と光の槍が発せられる、そのたびに断末魔の悲鳴が聞こえるのだが・・・。
「何だか、随分と多くないか?デカ物をヤル手はずだろう。」
「デカ物が、思ったよりも多いと言う事か?」
・・・・何か嫌な予感がする・・・それ程までに、デカ物が多とか。
クイニョンで虎さんが戦っていたデカ物は、そう・・・映画で見たティラノサウルス位はあったと記憶している・・・そんなものが大量発生していたら。
そんなティラノさんが全力で、この城壁に特攻をカマシテ来たら・・・。
物見台の上には結界が張ってあるが、城壁自体はノーマーク何だよね。大阪城の様な石組だから、大丈夫かなぁと思っていたんだけど・・・まぁ、崩れても図体がデカいから侵入される心配は・・・並みサイズのオレウアイなら・・その限りではないけど。
・・・・侵入されたらヤバくね?
ただ待っていると、暗い事ばかり想像してしまう・・・嫌だねぇ。
その時モルちゃんから連絡が入った。
【大変!詩乃ちゃん!海の方に難民の船と思われる数隻と、攻撃を仕掛けている海賊と思われる船が!海岸に上がろうとしているみたい!こっちに向かって来る!】
今は・・それどころじゃぁ無いのに・・・・はて、迷惑な。
【詩乃!肉ギャースの群れの一部が、海岸の方に向かっている!どうしよう、皆は森の上空で気が付いていない。難民と鉢合わせしてしまう!】
『了解、大丈夫、落ち着いてモルガナイト。隊長のジャスパーさんに連絡・指示に従って。海岸はアッシが遠距離攻撃するから、巻き込まれないでね、以上。」
やっぱりね、簡単には済まないんだよ・・・これが。
詩乃は胴巻の中から、パチンコを取り出した・・・以前よりパワーアップしてますのよ、競技会で使うスリングショットで、腕を支えるアームも付いている強い奴だ。弾もデカいよ~~、散弾方式で、密集している敵にはピッタンコでぃ。
自棄のヤンパチだ
「詩乃、行きまぁ~~~~すぅ。」
計画通りに行かないのが、詩乃達のお約束・・・臨機応変が大事です。
頑張れ、みんな( `ー´)ノ。