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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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最南端の地~3

昔を知る人がいるって・・・恥ずかしい(*´Д`)。

結局その後、ムウアの期待は裏切られ、伯爵家からゴチになることは無かった。


むしろ此方がゴチしなければならない程の困窮振りで、全員が激しくペコ状態だったのだ。お貴族様も老女の伯爵しかいない為、もう随分前から無礼講で、領民が自主的に生活基盤を整え、女衆が行なう炊き出しに並んで、皆平等に食事を受け取る避難所方式になっているそうだ。

伯爵の館&城砦(渡り廊下でつながっている)では何と、被災地の自治体さながらの避難所経営の様相を呈していた。

領内では住民の自治が進んでいて、どんな問題でも皆で話し合い、子供を含めた多数決で決めていると言う、民主主義の夜明けみたいだね。

頼る者がヘボければ、自分達でやるしかない・・・の見本みたいなものだろう。

領民は昨年の嵐の後から僅かな家財道具、衣料などの財産を持ち出し、伯爵の城砦に移り住み込んでいた。これも騎士団の駐屯跡(史跡になりそうな古いものだが)の城砦が残っていた御蔭で、頑健に造られている石造りの城砦は、嵐もやり過ごす事が出来る優れものなのだそうだ。

惜しむらくはその城砦が超古すぎる事と、騎士団跡なので質実剛健と言うか・・・狼族のダンジョンハウスの方が、明るく華(消臭娘達の功績が大きいのだが)が有って百倍住みやすそうな点だろう。




「はぁい、並んで~~~。平等にね、御残しは許しませんよ~~。」


城砦内の食堂で、女衆に手伝ってもらいながら大量の食事を用意する。


何だか何処に行っても飯を作る羽目になるんだよね・・・。

詩乃は多少の不思議を覚えつつ・・・味方を作るには胃袋を押さえてしまうのが最適解なので、美味いモノを食べ満足したなら、せいぜい此方の言う事を素直に聞いてもらいたいものだと思っている。

ラチャ先生から貰った救援物資だが、此処は聖女様から贈られたとした方が美しいだろう・・・別に王妃様からとしても良いのだけれど、少しでも聖女様の好感度が上がればいいと思ってな。まだまだ反聖女派って居るらしい・・・ラチャ先生は聖女様萌なので、この件に文句を言うはずも無いだろうから。


「平等って・・・嫌だよ、体重別に配ってよ。」


良い匂いに釣られて、食いしん坊の隊員ムウワが最初にやって来た。

今日のメニューはね、ご存じ雑穀と肉野菜炒め丼です。栄養バランスがバッチリで、疲れに良いビタミンB群も豊富なのだぃ・・・美味いよ!


ムウワが不満げに抗議して来た、体重別に配ったらあんたダイエットにならんじゃぁ無いか、少しは痩せないとドラゴンに負担が来るぞ?詩乃が反論しようと口を尖らせた時・・・。

そうだ!そうだ!と、外野からも不満の声が飛び出した・・・むぅ、冒険者のオッサン共だね。コチラは此処に長くいるのか痩せコケていて、目ばかりがギョロギョロしているし・・・何気に臭い。

オサーンども、風呂入ってないな!

・・・これは後で清浄の魔術の百連発をせねばなるまい。


「明日から、魔獣を狩ったら素材だけではなく肉も持ってきなせぇよ。アッシが上手い事料理してあげるから。」


どんな堅い肉(蛋白質)だって、酵素と時短魔法を使えばトロットロのお肉になるのさぁ。


「魔獣の肉がか?あんな堅いモノ食えた物じゃ無いぜ。」


「いやいや、ノンさんの料理は魔術具を使うからね、美味いよ!ねぇ此処にはどんな魔獣が居るのかい?俺、青熊や青野牛の肉が食いたいなぁ。」


「そんな美味い魔獣はあらかた俺らが食っちまった、残りは火蜥蜴や蛇系・鱗の硬い凶暴な奴よ。それからオレウアイのデカイ変種もいるからな、あれはヤバいぜ・・・奴ら知恵も回るし、日に何度も此方を伺って襲って来やがる。」


食意地の張った同士が、とんでもなことを話してだした。


「アホか!あんたらが大物魔獣の餌を丸取りして、全部食っちまったから、奴らが餌に困って此方を襲う様になったんじゃ無いのかぁ?もう小型の魔獣は狩猟禁止!狩っちゃダメ!!ダメ!絶対!!

大物取って来な、オレウアイの肉は鶏肉と豚肉を合わせたような味で、なかなか美味いんだ。皮は高値で売れるからな、皮を傷付け無い様に注意してヤル事だ。」


・・・たく、アホ共め飯減らしの刑だ。


詩乃の態度に非難が轟々と上がる。


「無茶言うな、傷跡も無しに、どうやって狩るんだ。これだから素人は。」


「そうだ、そうだ!飯よこせ。腹が減ったら戦えない。」


睨みあう詩乃とオッサン達の間に、スッと影が入って来た。


「出来るよ、これを使うのさ。」


気配を感じさせない、中性的な魅力でコアなフアン(トンスラの女性職員達に)を持つエフル君が口を挟んで来た。エルフは森の民だ・・・それゆえ魔獣の氾濫の時には最初に深刻なダメージを受けて、森から退き・・・今では人間との混血化が進んでいると言う。隊員のエフルも貧乏貴族の母とエルフの父とのハーフさんだ、森での知識は父親から沢山教育されて来たと言う。


「これはね。毒蜥蜴の牙から取り出した毒液だ、オレウアイも倒すエゲツナイ奴。」


エフルはガラスの小瓶に入った、毒々しい黄緑色の液体を見せつけてにじり寄る、オッサン達はどよめき後ずさった。


「鏃の先をこれに浸して、毒を付着させるんだ・・・乾かないうちにオレウアイの目を目掛けて、弓を引けば一発さ。」


因みに毒は熱に弱いそうなので、十分に加熱調理すればお肉は安全に食べられるとの事、良かった良かった。


「オレウアイの鱗は固いからな、解体だって魔術具の包丁じゃぁ無いと無理だと聞いる。目を限定で狙うのはその為か・・難しいな。しかし体を狙うなら、相当な強い弓で無いと傷も付けられ無いだろう、鱗に弾かれるのがオチだ。」


「なるほどね・・・だから目か、しかし動く標的相手に、あの小さな目を射るのは至難の業だろうな。」


エフルが「フン]と鼻を鳴らして、挑発的に言う。


「風を操れる奴はいないの?冒険者は魔術の心得も有るんだろう?」


エフルの問いかけに、冒険者のオッサン達は怒る事む無く、不敵な面構えでニヤリと笑った。


「やったことは無いが、そうかこれは要練習だな?」


俄然張り切り出したオッサン達、生き生きとし出して何よりである。

そうですか練習するから栄養補給が居るんですね・・・大盛りなら更に元気が出るんですか、そうですか・・・仕方が無いな今日だけですよ。


ワイワイと楽し気に食事をする冒険者達に、昨日までのショボくれた雰囲気は微塵も無い。一瞬にして館の風が変わったのに、女官長は唖然とした・・・自分の時と、あまりに違うではないか・・・これがドラゴン部隊の実力なのか?


【・・・何やら伯爵様は深く考えすぎている様だが、要するに脳筋には飯を食わせておけ・・・そう言う単純な話である・・・少なくとも詩乃はそう思っている。】


「伯爵様、庶民の味で悪いが如何で?腹が減ったら戦は出来ないと申しますれば。」


詩乃が食器を差し出すと、伯爵は


「そのような言葉は聞いたことが無いが、異世界の言葉か・・・どうやら異世界にも戦は有るらしい。」


冷たい態度に驚いた詩乃は、配膳の手を止めると伯爵に向き合った。

異世界・・・久々に聞いたワードに違和感を覚えて、伯爵の顔をマジマジと見る・・・?うん?何だろうこの懐かしい様な・・・博物館で見た・・・そう、遮光器土偶の様な目は・・どこかで・・・・はぁあ?


「もしかして・・・何処かでお目に掛かった事が有りやしたか?」


詩乃の態度に愕然とする女官長・・・。


『この小娘、あれだけの騒ぎを起こした癖に、覚えていないのか!たかがオマケを1年近く世話をしてやったのは、誰だと思っている!!』


元女官長・現伯爵は怒鳴り付けたくなったが、綺麗サッパリ忘れ去られている事に屈辱を感じて言い出せない。


『その程度の付き合いだと言う事だったか・・・確かに、聖女の世話に追われて小娘を放置していたことは否めないが・・・それにしても・・・忘れるか?普通!』


何でもないと言い捨てると、伯爵は食器を受け取りサッサとその場を離れた・・・詩乃だけが、何か思い出せない様なムズムズ感に、気持ちの落ち着かない思いをしていたが・・・遮光器土偶・・・。



実はあのクーデター未遂騒動の後、詩乃はすぐに王妃様預かりになって監禁されていたので、その後の関係者一同の処遇は聞いていなかった(・・・ってか、興味も無かったし。)。


「ご無礼をご容赦願いたい。俺はあの伯爵の後継ぎで甥っ子のアドウ・エバンスと言う者だ、伯爵領の主に戦術面での指揮をしている、よろしくな。

叔母は悪い婆では無いんだが・・・昔、王宮で女官を務めていた事が有ってな、無駄に気位が高いんだ。自力ではこの難局を越えられない事は解ってはいるが、それでも面白く無いんだろうよ。あの、魑魅魍魎の巣くうと聞く王宮で、それなりの苦労を乗り越えて来たつもりだったのだろうが、まだまだ甘かったようだな。・・・魔獣や災害は説教では退かない。」


「いやいやいやいや・・・。それは無理ですよ、苦労の流派が違いますもの。

でも領民の皆さんが言っていましたよ、この数年の惨事が続くが・・・それでも領地では人死にが出てい無いと。一人も死なせずに、守って来たのは伯爵と甥っ子さんの頑張りの賜物でしょう?」


褒めると、照れ臭いのか図体と態度のデカイ甥っ子は、ポリポリと顔を掻いた。


「アッシの様な若輩者に、偉そうに言われて腹立たしでしょうが・・・。これでも部隊の仕事で彼方此方回っています、中には酷い領主もいて、ブン殴りたい奴も多いんですよ。領民を飢えさせ、自分達だけ贅沢している輩の何と多い事か・・・御立派ですよ伯爵様は。」


二人の話を、遠巻きにして領民や冒険者たちが聞いている、どうやらこの会話は一種のパフォーマンスなんだろう。何をしたい、させたい?・・・侮れんなこの甥っ子は。


「そうだろう、俺の叔母さんは大した領主だろう?なぁ、皆!そう思うだろう?」


オオオオォォォォォォ~~~~~~~。


「だから賃金は出世払いで勘弁してくれ~~。」


甥っ子で、後継ぎ様の言葉にドッと笑いが起きる。


「早く出世してくれ~~~。」


冒険者の一人が混ぜ返した、明るい笑い声が城砦の陰鬱な食堂に響く。


「任せろ!飯を食ったら作戦会議だ。人間様の強さを見せてやろうぜ!」


オオオオオオオオオオオオオォォォォォォ・・・・・。





・・・煽るの上手いね、次期伯爵。


『とにかく、一人も死なせない。』


詩乃の目標はそれだけだ・・・エライ所に来てしまった・・・早くも王妃領にある、ラチャ先生の屋敷の自分の部屋に帰って布団に潜り込みたくなってしまった詩乃だった。


詩乃は人の顔を覚えるのが苦手です、みんな同じに見えるんだもの。

苦労して激痩せしている女官長さん、解らないのも無理は無いのです・・・(T_T)。

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