最南端の地~2
久々に知人に会うと懐かしいモノです( *´艸`)。
女官長や甥の後継ぎ様、それから数少ない使用人達はドラゴンが良く見える様にと、物見台へ急ぎ上がって行った。
この超古い伯爵の館は、その昔は南の大陸(帝国ほか)との前線基地として、騎士団が駐屯していた事も有ったので無駄にデカいし頑健なのだ。すべては昔の、貴族達に魔力が溢れかえり、景気よく過ごしていたご先祖様の名残である。
物見台から眺めると、確かに鳥にしては大きな影が此方へと連なって、近づいて来るのが確認できた。
「手前に2頭・・・遅れて4頭、全部で6頭か・・・。これは面白くなって来た。」
「何が面白いのです?6頭ものドラゴン様が、一同に飛ぶところなど初めて見ましたが。さぞかし名の有る名将が来て下さったのでしょう、頼もしい事。」
老眼の目を凝らして一心に眺める女官長、しかしドラゴン達は中々着陸しようとはせず、領地の上空を旋回してばかりいる。
何をしているのだ・・・まさか、素通りして帰ってしまうのではあるまいな?
不安げに空を見上げる女官長に、世慣れた甥が解説してくれた。
「この付近の魔獣達の様子や、ドラゴンを休ませる為の設営場所をどこにするのか考えているのさ。奴ら何が有っても、一番大事なのはドラゴン様だからな。」
そんなモノなのか・・・出迎えに答える様子も無く、無視されている様でジリジリする。仮にも此方は貴族の領主なのだ、相応の挨拶は当然の事だろうに。
やがて低空に滑空して来たドラゴンの上に、騎乗する面々の姿が見えて来た。
中でも目立っているのは、長い三つ編みの黒髪をなびかせている女性だ。
女性?ドラゴンを操れる女性が居たのか・・・それに黒い髪と黒い目?
・・・・あれは、聖女のオマケの小娘ではないか・・・・。
小娘は一人前に軍服を纏うと、ドラゴンの背にまたがり、何やら同僚と話をしながら降りて来るところだ。あのオマケ風情が、どうやってドラゴンを手懐けたのか、どうせ碌な事ではあるまい。
・・・・何故、あの様な痴れ者が此処に!
わが領地はそれ程までに、軽く扱われなければ成らないのか・・・たかがオマケを派遣して来るとは。女官長は、忘れたと思っていた聖女の離宮時代の感情が蘇ってくるのを感じた。
『黒髪の小娘と甥・・・私の常識が通じない者が、また増えた・・むふぅ。』
女官長の内心の葛藤も知らず、甥は嬉しそうに話し出した。
「見ろよ、独立空軍部隊が来やがった、王宮にしては良い選択だぜ。
こいつ等なら話だ通じるってもんだ、おぃ!みんな安心しろ。平民の味方、腹が減る辛さを知っている貧乏貴族様のドラゴン部隊だぜ。貴族に対しての辛気臭い気遣いはいらん、正直にこの領地の窮乏を訴えるんだ、彼らは悪い様にはしないだろうさぁ。」
ドラゴンは館の裏手、魔獣の住む森との緩衝地帯の為に広げられている草原に降りて行く。
「いいねぇ、ドラゴンが居たなら魔獣もおいそれとは近寄っちゃぁ来ないだろう。自分らを盾にするナンザァ、並みのお貴族様なら考えもつかないだろうよ。流石ぁ独立空軍部隊様だぁ!」
甥の解説に嬉しそうに歓声を上げる使用人達、それは女官長がこの地に戻って着て、初めて聞いた嬉しそうな声だった。
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半日ぶりに地上に降り立つと、詩乃は笑っている内股を鼓舞しつつ、何でもなさそうな顔を装い行動を開始した。
「シャルワ、此処に寝床を作るんでしょう?草を乾燥させて干し草にした方が良いかな?なんかヤバい虫でもいたら嫌だし。・・・うん、出来るよ~格納庫ぐらいの大きさで良いかな?」
<空の魔石>でコピーした魔術具で、草を乾燥していく・・・虫もカラカラに乾いていなくなるからね、自分達も此処にテントを張るつもりだから虫にはご用心なのだ。此方の虫はデカいから、血でも吸われたらエライ騒ぎ出し、感染症も怖いからね。その点が無頓着で、この世界の人は平均寿命を短くしている。
「あぁ、ラセンさん。お疲れの申し訳ないが、最初にモルちゃんを見てはくれないか?今日は長く飛んだし、疲れ気味だぁ。癒しの魔術具よりラセンさんのお世話の方が効くからねぃ。よろしくお頼みします。」
彼らは・・・本当にドラゴンファーストらしい、出迎えている女官長達・伯爵家関係者一同に一瞥もくれずにセッセと宿営地の設営に余念がない。
「あの黒髪の小娘が、なぜドラゴン様を得る機会を持てたのか・・・あり得ない、ドラゴン様は貴族の証と決まっているのに。それに、あれは獣人ではないか。獣人が騎乗者?騎士団ともあろうものが、何故あの様な者達を身の内に住まわすのか・・・・。」
「伯爵様。」
・・・いつにない低い、抑えた声で甥が耳元でそっと囁いて来た。
「ドラゴンに認められたものを侮辱する事は、ドラゴンを侮辱するのと同じ事だ。命が惜しければ止めておけ。」
女官長は余りな驚きに、屈辱で声も出ない、あのオマケが貴族を超える大きな力を得たと言う事なのか。
甥は言う事だけ言うと、機嫌良さそうに。
「おおぉい、皆聞いておけ。ドラゴンは気に行った人間しか傍に寄せない、間違っても近づくんじゃぁ無いぞ。吠えられただけで、身がすくんで気絶モノだからな。
それから隊員=ドラゴンだと心得ておけ、隊員を怒らせれば、それがドラゴンに伝わり隊員の代わりとばかりに暴れ出す。その破壊力は魔獣の比じゃぁ無いぞぉ。」
・・助けに来たのか、止めを刺しに来たのか・・女官長と領民は混乱していた。
呆然と立ち尽くす女官長に、ドラゴン達の方から歩み寄って来た人物がいた。
彼は女官長の前に跪くと、恭しくそのシワクチャの手を取り口づけを落とす。
「お久ぶりです、メイサ殿。今はノクワータル伯爵とお呼びした方がよろしいですね。」
「貴方は・・・あぁ、ポアフ伯爵のご長男・・・本当に、久しい事。お懐かしい・・・あれから何年経ったか。お元気そうで何よりだ事。」
不思議そうな顔をする甥に、ポアフ隊長の方から説明を始めた。
「私の生まれ育った領地は、ここノクワータル伯爵領と岬を挟んだ反対側にありましてね。私も幼い頃には、初々しいメイサ殿に遊んでもらった事が有ったのです。」
『遊んだ?家の庭のキカの実を、皆食べてしまった、悪戯小僧だったくせに。』
「メイサ殿が王都に女官として勤める為に、此処を去った時には、それはそれは寂しかったものですよ?」
『一番下の妹よりさらに10歳以上年下の、煩わしいガキだったが。』
女官長の内心の発露は、女官時代に培われた鉄壁なポーカーフェイスで微塵とも漏れ出ない。
ポアフ隊長はまたこの地に戻って来れて、感慨無量だと呟き・・・眩し気に海の方を遠く眺めた。何を思い出しているのか・・・良い事では無いのだろう、その横顔は苦い憂いを含んでいる。
その後チラリと顔を見られたので、伯爵の甥っ子は、後継ぎの予定者でアドウ・エバンスだ(あくまでも予定だ!)と貴族対応で慇懃に名乗った。
「そうですか、貴方の御父上のエバンス先任騎士には、騎士団の新団員時代に大変お世話になりました。貴方が此処の後継ぎに・・・それは亡き伯爵様も大変にお喜びの事でしょう・・・、ついに念願の男性の後継者をお迎えになられたのだから。」
貧乏で絶倫でケチ臭く・領地は荒れ放題で、良い印象などこれっぽっちも無く、会ったとたんにポックリ亡くなってしまった伯爵(父・祖父)には・・・2人とも思う処が有ったので、思わずショッパイ顔になってしまったのだが・・・仕方が無い事だろう。
「この地を離れて、長かったお二人には解らないでしょうが。
前伯爵ほど強い血、その体に流れる魔力を欲していた方は無いでしょう。魔獣との戦いで、それがどれほど必要な物なのか、痛感しておいででしたから。
・・・自分の血を分けた男児の誕生を、どれほどか待ち侘びて居た事か。女性が魔獣と戦うなどとは、前伯爵の時代には考えられなかった事ですから。」
ポワフ隊長はチラリとシ~ノンを見ると、少し複雑な憐れみが籠った様な表情をした。
「前伯爵は共に助け合い、魔獣と戦う合う・・・心強い後継ぎが欲しかったのでしょう。
10年前・・・私の父の領地を襲った魔獣の氾濫の時に、僅かでも領民が生き残れたのは、メイサ様の御父上の注力が有ったからです。
御父上が魔力弾で援護をして下さったから、その隙に少なくない数の領民が伯爵の館まで逃げ込む事が出来た。・・・我らの命の恩人なのですよ、貴方の御父上でお爺様は。
それからの事はメイサ様が良く御存じでしょう、領地も領主も無くし、流人となった我が領民が。
王都や・・・他の領地で、家族や知り合いと離れ離れにもならず、苦しくも如何にか暮らしてこれたのは、メイサ様・・・貴方様が他の貴族に口利きして下さったお陰です。
お二人の伯爵にお助け頂いた恩は、このポワフ片時も忘れた事は御座いません。
・・・この地に、亡き両親が呼んでくれた様な気さえ致します。
今こそご恩返しをする時、そして魔獣に復讐をする絶好の機会だと。
今の私にはその力がある・・・どうぞ、任せて下さい。伯爵の御期待に沿えるよう、全力で頑張ります。」
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「うわぁ~~、暑苦しい事言っているよ。『フラグ立てまくりじゃん。』」
「俺は・・別に義理など無いけど。」
「そう言う訳にも行くまい、仕事だからな・・難民の件も気になるし。」
「飯はまだかな、今日は伯爵邸でゴチかな。」
「魔獣を狩るのには異存は無い、珍しい肉は喜ぶからな。」
上司の言動を探る(盗聴する)のは、部下の心得の一つだぃ・・・あれだ、上司の気持ちを慮って行動する為の下準備?・・・付託する為って奴だ。
それにしても、隊長・・・難民問題とか、海賊退治とか?丸ッとその辺が抜けて居ません?大丈夫かなぁ命令書は基本隊長しか読むことは出来ないし。・・・王妃様、ただ助ける為だけにアッシを派遣した訳ではなさそうだし?
・・・深読みするのは、悪い癖かな・・・王妃様のせいだけどね。
これは実力行使部隊(脳筋)と、援助(丸投げ)部隊を分けた方が良さそうだ。
なんか遠巻きに見ている人達に、やけにガタイの良いのがいるが・・・ありゃぁ冒険者達か?支払いの悪そうなこの領地によく来たね?一癖も二癖も有りそうなオッサン達だこと。
海岸付近の洞窟で過ごしていると聞く難民達、彼らの処遇もどうするかだ。
それに・・・ドラゴンの姿を見て東に帆の向きを変えたけれど、海上に浮かんだ襤褸船は、明らかに不審船だった・・・諦めてこっちに来なければいいけれど。
何処から手を付けたらいいか・・・?
王妃様ならどうするだろう・・・疲れた頭で、詩乃はそんなことを考えていた。
隊長の話を盗み聞きしていた隊員の面々・・・誰が、どのセリフか解りますか?
書き分けって難しい・・・(/ω\)。