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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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青い森のほとりの村~3

ピザはお好きですか?

 村の広場に子供達を集め、魔術に見込みの有りそうな子をラチャ先生が選別していく。


40人いる男の子の内13人が選ばれた、平民の魔力持ちの割合は大体そんな所らしい。体格は関係ないそうで、石礫のチビとか足を怪我している少年とかが選別されていた。


「ラチャ先生は厳しいですがねぃ、力の強い魔術師でやんすから良い勉強になりやんす。頑張って覚えれば、強い魔獣にも対抗できる様になるでありやんしょう」


子供達は希望に頬をテカテカさせて、一心にラチャ先生を見つめている。


「では、昨日やった体に魔力を巡らせる・・・の、復習から始める」

「はい!!」


元気よく答える子供達、ちょっとビックリして固まっているラチャ先生。

貴族の子弟は大きな声を出して返事をしたりはしないものね、それでも「コホン」とか咳払いをして誤魔化している。

ある意味純粋培養的なラチャ先生だ、無垢な子供達相手が良い様に思える。



 残りの子供は荒れ地の修復作業だ、元々は耕作地だった様な荒れ地が周囲に広がっている、大人達が居なくなって働き手が足りず放棄したのだろう。

ややこしい問題は6男が何とか解決するにしても、仕事や収入源が無ければ元の木阿弥になってしまう。大人が戻れた時に畑が整っていれば、その後の暮らしは大分マシになるだろう。


「プウ師範、お願げぇいたしやす」


プウ師範の<どっこいしょ~~>はパワーが違う、詩乃では3平方メートルを掘り起こすのがやっとだが、プウ師範は20平方メートル位を一偏に掘起こす事が出来るのだ。今回は深くでは無く40センチ位下の土を上の土と入れ替える、所謂<天地返し>と言う作業だ。上の雑草を土ごとひっくり返せば、埋もれた雑草はやがて肥料になるし、地中の石や害虫などは上に出て来て取り除く事が容易くなる、良い事づくめな作業なのであ~る。


「プウ師範、固まった土はなるべく柔らかくなるように、細かく砕いて空気を含ませておくんなせぇ」


子供達はプウ師範が作業した後、出て来た石や虫を取り除いていく。かなり堅い赤土で土地は痩せている様だ、こんな土に育つ植物は何だったっけ?ソバか?ソバは痩せた土地にも生えると聞いたことが有ったが。此処の人達がソバを・・ガレットやカーシャのようにして食べているのを見たことは無いな。これは6男と相談だな・・・。


男どもが順調に作業をしているので、詩乃は女の子達を呼び集める。


「どうだえ?水は上手い事出やんしたかぇ」


皆興奮してちゃんと出たとか、凄く美味しい水だとか言っていた、そうかい・・そりゃぁ何よりだ。

洗濯や掃除用・畑の水やり等の用水路も必要だな。沢から引いてきてもいいけど魔獣の取り分を犯すと奪い合いになる、トデリではその辺に凄く気を使って森や魔獣と共存していた、余り欲張るものでは無い。村の真ん中に井戸(形だけ)を掘ってアクアマリンでも入れ込むかな・・・。


「今日はねぃ、村に魔獣が入って来ないように願い石を埋めに行くよ」


村と森の間には緩衝地帯ではないが、岩石砂漠の様な荒れ地が30メートル程の幅で広がっている。その村側の端っこにパワーストーンの<オニキス>と<タイガーズアイ>を交互に埋めていく事にした、魔除けと危険回避だね。


「どこが良いかねぃ?この辺には皆の方が詳しいでやしょう?この石は魔除けになるが、ただ埋めりゃぁ良いってもんじゃぁ無いんだ」

背を屈めて、女の子達の顔と目を見て言う。


「石には皆の願いが宿るんだ、魔獣が来ませんようにでも良い。父ちゃん母ちゃんが無事に帰って来るようにでも良い。兄弟が危険な目に遭わないように、爺さん婆さんが長生きするようにでも何でも良い。

ただし・・自分が良い暮らしをしたいとか、可愛くなりたいとか、あの子より良い彼氏が欲しいとか?」

女の子達は顔を見合わせてクスクス笑う、お年頃に近い子もいる様だ。


「自分一人の幸せを願うと石の輝きが曇り、やがて力を失っちゃう。解るかぇ?」

緊張したような顔で何人かの女の子が目を見開き固まっていた、思い当たる願いでも有るのかいな?


「あのイチゴ村長を見てごらん、一人で良い服を着てデブになるまで腹いっぱい食っている。村長は幸せなんだろうよ・・だけど村の皆はどうだぇ?一人だけ村長のように暮らせても、あんたは幸せと思えるかい?」

固まった女の子に聞いてみる、彼女は慌てて首を振った。


「石は強欲、欲張な人を好きにならない・・だから力も貸してくれない。

いいかい?みんなにお願いするのはねぃ、こうして石を埋めた場所を覚えておいて、たまにでいいから<みんなの幸せ>を願って欲しいのさ。こうやって両の手を合わせて<村が平和で幸せでありますように>って石に語り掛けておくれな。そうするってぇと、皆の願いが石に宿って力を貸してくれるようになる。他人の為に祈れるかい?女の子に頼むのは男の子はどうしても自分が強くなりたいとか、魔獣を倒したいとかさぁ?そっちの方に関心が向くもんだからねぇ。

どうでぇ頼めるかぃ?それからこのことは大人には内緒だよ、大人はどうしても柵が多いからね銭になると思えば石を隠れて売っぱらっちゃうだろうさぁ」


女の子達は真剣な顔で頷いてくれた、このぐらいの年頃は男の子よりもしっかりしている。任せても大丈夫だろう、詩乃と女の子達は村の境界線に魔除けの石を埋めて行った。



 3時間はたっぷりかけてパワーストーンを埋めて行った、何となくだが村の周囲を暖かいものに囲まれている感じがする・・最も、解るのは詩乃だけだが。

急いで昼飯の支度をしなくてはならない時間となっていた、早く出来るもので大勢が食べられるもの・・雑穀は昨夜使ったから。魔術は王妃様に止められているが、チビッ子腹ペコ軍団の前では致し方ない。

強力粉と塩を入れたお湯、ドライイースト的何かを、モッチモッチと混ぜ捏ねる。普通だったらその後1時間ほど生地を寝かせなければならないが、此処で時短魔術だ・・あっという間にすぐに膨れる。

便利だね時短魔術!

石窯が無いのだが、其処は魔術の天才のラチャ先生の出番である。

こんなふぅでぇ~っと、説明しながら下手糞な絵を地面にガリガリ木の棒で描いていく。するとラチャ先生が絵の通りに結界を使って窯を作ってくれるのだ。


何て便利!一家に一人ラチャ先生、意外と大喰いでコスパは悪いが。


薪をくべて温度を上げる、その間にピザを作る、ソースは詩乃自作のトマトソースの瓶詰め(持ち歩いているのだ)である。バジルもどきも有るが、子供はトマトの方が食べやすいだろう。

みんな午前中頑張って作業や修行をしたので、ミートソースも奢っちゃおう。

ピザの台にソースをヌリヌリする、ハムやサラミを(これも詩乃が運んで来た物)女の子達に切って貰って形よく並べてチーズをふりかけ・・結界の窯にIN。

一度見ればやり方は簡単なので、後は任せてラチャ先生とプウ師範に冷たいお茶をサービスする。この親父達は煽てて使うのがコツだと、このところようやっと解って来た。2人とも育ちは良いので女性のお願いは断らない事が多い、詩乃は女性枠ではない様だが美味い飯の為なら我慢するようだ。


「どうでやんすか?見どころの有る子供はいんしたかぇ?」

「魔力は弱いのでどうともいえんが面白い風の使い方をする、足を掬って転がすとか目つぶしをするとか、普通の騎士なら卑怯と言われるような使い方だな。確実に相手のダメージを狙うような、魔獣の急所を良く知っている」

「まぁ、魔獣は卑怯何ぞと言いやせんしねぇ」

「そうだな実践的と言えるだろう。風で麦の茎を切れたら作業が楽になると言われたが、狙いが甘いのでもっと練習が必要だな。草は切れても木までは無理だろう、ましてや魔獣には・・」

「目でも狙えばよこざんしょう。」

「惨い事を考える女だ・・・」


あれ?ラチャ先生に呆れられちゃった。象牙の塔の住人だから荒事は苦手なのかな?その割には肉好きだよねアンタ?食べるよね、惨くないんかい?


ピザが次々焼きあがって来る、匂いにつられたのかプウ師範の方も作業を中止したようだ。


「美味そうだな」

「美味いよ」


食事を始めるが嫌な予感がする、食事時になると来るんだもんなイチゴ村長。

村の外れの白骨街道の方から、大人数が土埃を立てて移動してくるのが見えた。

ちぇっ!


「みんな、ピザを持ってしばらくの間、家の中に入って静かにしてなんし」


街道の方を見た子供達の顔色が変わる・・騎士だ・・誰かが呻いた。


「心配はいらねえよ、プウ師範とラチャ先生の強さを皆は知っておりやんしょう」


さあ、家の中に入った入った。

子供達は心配そうに2人を見るが、ピザに夢中で知らん存ぜぬの有様だ。

またあいつらとの話し合いは、詩乃に任せる気か?全く持ってうんざりだよ。

取り敢えずは腹ごしらえだ、腹が減ったら戦はできぬ!!うん、ピザ美味しい。

サラミのピザはオイが好きだった、サラミの味がトデリと少し違うのは仕方が無い事だけど、やっぱりどこでもピザは美味しい。

美味しいピザで少し気分が上向きになった詩乃に、またまた無粋な声が掛かった。


「この風来坊どもが!今度こそ覚悟しろよ」


イチゴ村長は偉そうにふんぞり返って後ろを眺めた、馬に乗っているのは噂の代官か?傍に侍る騎士は何処の所属なのか?本物の騎士なのか?



青い森のほとりの村の謎が、今暴かれようとしていた。


ヘイトさんが集団で来襲・・・頑張れるか詩乃!

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