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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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お久しぶりです ~ ルイ君

オマケの私は~~に出て来る旅商人の卵、ルイ君の

その後如何ですか・・・のお話です(`・ω・´)ゞ。

白骨街道の賑わいも落ち着いて来た今日この頃、本格的な冬が到来した様だ。

雪こそまだ降っていないが、寒さが厳しい・・肌に刺される様な風が吹き、痺れるような空気なのだと人は言う。


独立空軍部隊はラチャ先生謹製の<結界>の魔術具のコピーが有るので、冷たい風が身体に触る事は無いから大変に有難い。

あれから隊長の私蔵のマル秘魔術具とか、ラチャ先生特製の凄い魔術具とかをコピーしまくって、独立空軍部隊隊員の装備の充実を図って来た詩乃である。


『空の魔石を使って作ったアイテムのアレコレの事は、貴族に話すつもりは無かったのだけれどなぁ・・。軍の只中に居ると、隠しているのも無理になって来たし・・仕方ないか。』


今までこの世界のややっこしい政治的な事には無関心で、敵と言ったら魔獣位なものだったのだが、事情通さんの解説を聞いている内に、そんな悠長な事も言っていられなくなってきたのだ。


・・・帝国が暴走しそうなんだって、国内の難問題は外に敵を作る事で、民の不満を逸らすことが出来るんだってさぁ・・・何処かで聞いたような話だね。


魔力の少ない下位の貴族が騎乗者となっても、怪我をする事なく任務を果たせるようにと願って、あれこれとアイテムを作ってきた詩乃だ・・・コピーは詩乃にしか出来ないのだから仕方が無い。

エフルや他の隊員が怪我をするシーンは、もう2度と見たくはないし、ドラゴン達の嘆きもかなり酷かったからだ。ドラゴンが騎乗者の怪我の責任を感じる必要も無いとは思うのだが、もし詩乃が怪我などしたら、モルちゃんも激しく嘆き悲しむだろうと思うと・・・他人事だと思えない。

軍の上層部に軽く扱われている、<独立空軍部隊>の隊員は、アイテムを強化するなどして、独自に自己防衛に励むしかないのだ。

獲物を解体とかして料理する詩乃だったが、流血沙汰なんかは嫌いだし、人が泣くのを見るのは大嫌いだ。



アイテムの事は、今のところはラチャ先生にしか教えていない。

ラチャ先生はアイテムの開発で世話になったから、話さない訳にはいかなかったのだ・・・秘密を教えたら、何気に嬉しそうだった先生が・・謎だったが?

国の上層部に知られると、何を命令されるか解ったもんじゃぁ無いから、この件は秘密にして貰っている。勿論、アイテムを渡している隊員達には箝口令を引いている、一応同期の桜だからね、信用しているのだ。ドラゴン同士の絆も有るからね、大丈夫!裏切りは・・無い。


その他の便利グッズの諸々は、パガイさんと6男を介して平民にも広げている。

魔術具は魔力の弱い平民には強烈すぎて使えないが、<空の魔石>でコピーした魔術具なら、魔力の無い平民でも使えるのが解った為だ。

虎さんとムースさんがアイテムを使えたのは、なにも詩乃を信じている・信じていないの問題では無かったらしい・・・アッシの涙を返せ!くそぅ。


・・・グッズには大喜びしていたね~~、パガイさんと6男。


勿論、詩乃は手数料として2割程を貰っている。2割は少ない様にも感じるが、値段を抑える様にお願いした為にそうなった。貧しい人ほど忙しいからね、彼らが買えないのでは困るというものでしょう?

便利グッズは魔力無しでも使える、新しい奇跡の魔術具として平民達に大歓迎されているそうだ。因みに製作者は、偉大なる大魔術師のラチャターニー閣下と言う事になっている。

ラチャ先生の発案だ、詩乃が製作者だとバレると、悪い奴らに狙われるとイケない等と言い出して、先生自らが貴族達からの目隠となってくれた。

偉大なる魔術師長であるこの私に、チョッカイをし掛けて来る様な愚か者はいない、な~んて言ってさ。ラチャ先生に庇われる日が来るとはなぁ・・・人間、長生きしてみるモノである。



    *****



ガラガラガラ・・・・・・。

ある日の事、薄っすらと雪が積もり始めた白骨街道を、1台の馬車が走っていた。


夕暮れが近づく前に、次の避難所に入れなければヤバい感じだ、御者の男は内心焦りを感じていた。このあたりの森には、青い魔獣が多く住んでいるからだ。

青熊・青狼・青猪・・・青い奴らは人里近くに生息する厄介な魔獣だ。平民の強い者なら、どうにか撃退できる魔獣だろうが・・・逃げるが勝ちとばかりに遁走するのが常識人の判断だ。


「ブケルが強いのは解っているけど、出来れば戦わないで済みたいよな。」


手綱を握る若い男が1人、横には護衛なのか、強そうな熊獣人の男が槍を構えて1人座っている。


「俺達みたいな駆け出しの旅商人は、人の行かない遠い村とか、遅い時期まで仕事をしないとやっていけないからなぁ~。前の村は随分歓迎してくれたから、遣り甲斐は有るけどさぁ・・こう寒くちゃぁボヤキも出ると言うものだよぅ。」


ブケルは無口な質なのか、お返事をしてくれない。


「ブケル~~寒いよ~~。モフモフさせてくれぇ~~。」

「断る。」


ブケルの熊さん獣人なので、少々毛深くて温かそうだ・・・良いな、熊毛。

ちょっと毛並みは固いけれどね、チクチクするからモフモフとは言い難い。

夏は暑苦しそうで、気の毒で見ていられないがな~、見かねて丸刈りしてやったら喜んでいたっけ。奇妙な図だったけど。


「来る」


ブケルが槍を構えると、突然走っていた馬車から飛び降りた。


「ブケル!無茶すんなぁ!!」


咆哮を響かせて、1頭の青い熊が街道に飛び出して来た。やばいやばいやばい!!

青熊と熊獣人ではどちらが強いのだろうか、取り敢えず体付きは青熊の方がブケルの3倍は大きい。ブケルは熊獣人の中でも大きな体をしていて、3メートルは有りそうな偉丈夫だが、爪や牙は退化していて人とそう変わりはない。武器の槍はこの前ブチ壊したから、新しく購入した物だが質流れの中古品だ。


「ドゥドゥドゥ・・・。」


慌ててマウを止める、2頭のマウと幌の付いた馬車は数少ない彼の財産だ。

それでも相棒のブケルを放り出して、一人で逃げる訳にはいかない。



=御者の男は手綱を放り出すと、両手に何かを掴んで戦う二人に向かって走り出した。男が両手を激しく上下に振ると、不思議な音色が響いてきた。鈴を転がすような、シャランシャラランと綺麗な音色が聞こえて来る。戦う二人の後ろで、陸に上がった魚の様に(別に踊っている訳ではなく、マラカスを振っているのだ)激しく動き回る。すると・・彼の気迫に怖じ気づいたのか、青熊が逃げをうって背中を向けた。=



「ブケル!深追いはするな!!」


走り出そうとしたブケルを慌てて止める、森に入って無事に出て来る奴は少ない。

青熊がブケルから3メートル程離れた時だろうか、突然天から光の槍が降って来て、青熊を貫いて昏倒させた。


     なんなんなんん~~~だあ!


驚き固まる二人の目の前に、2頭のドラゴンが悠然と舞い降りて来た。


「脅かせてごめんね~~。怪我は無いかぃ?」


見慣れない白を基調とした衣装は見慣れた騎士の軍服では無い、世間で今話題になっている<オマケのドラゴン使い>さん達なのだろうか。

<オマケのドラゴン使い>さん達は、平民にも優しく・そして強く・助けた駄賃を請求しない・・大変に有難い人達だと聞いた事が有るが。

・・・あれ・・・シ~ノン?

黒髪に黒い目・・・彫りの浅い子供のような・・・幼げな顔。


「あんた、いや貴方様は・・・シ~ノンじゃあないか?王都の港で別れたきりだけれど、俺の事覚えていないか?俺だよ、俺。王都で一緒に細工物を売って、歌って踊っただろう?」

「ええええええええええええ・・・・、あんたルイ君?ジゴロのおじさんに、ご飯貰えなくて、ほったらかしにされていた・・・あの可愛かったルイ君?」



=旅の商人は、詩乃がオマケとして聖女様の離宮に居る時に、抜け出した王都で知り合いになった、歌が上手くて、将来タラシになりそうだった・・ルイ君・・・その人だった。=



「わぁ~~久しぶり~~~。全然分かんなかったよ、背が伸びたね~~。

あの頃は同じ位の背丈だったよね?嫌だなぁ、髭なんか生やして、くすくすくす。何で皆髭を伸ばすんだろうねぃ、似合わないのにさぁ。」

あれ?・・・タラシにはならなかったんだ、予想が外れた?


『連射される魔弾の様に話すシ~ノン・・・あんた、あの頃と髪型が変わっただけで、後は全然変化が無いのだが・・・妖精なのだろうか?あの頃と変わらず、なんとも不思議な変わった子だ。』

「俺、今はおじさんから独立して、旅商人をしているんだ。此方は相棒で荒事担当のブケル、俺達同郷の幼馴染で一緒に旅をしているんだ。」

「よろしく~~ブケル君。その若さで独立は凄いねぇ、おじさんは元気?まだブイブイ言わせてるの?」


あぁ~~~~。


「おじさんは、奥さんと愛人さんの抗争に巻き込まれて・・・謝罪の為に、今は奥さんの実家の商家を手伝っているんだ。・・・無休で無給のブラック商家で・・・。」

「ふ~ん?顔の良いのも考えモノだねぃ。・・それでルイ君はタラシにならなかったのか・・。賢明な判断だよ、顔も小さな頃の方が可愛かったし。」

後半は小さな声なので、ルイ君には聞こえない・・・でも獣人のブケル君には聞こえた様だ、頷いている。


「それより、俺ずっと前からシ~ノンに、お礼を言わなきゃと思っていたんだ。ほら、これ・・・。」


ルイ君が差し出して来たのは・・・。

あの日・・・王都を去ろうとして、港で早い夕食を食べていた時・・。

守り石が割れた音を聞いて、詩乃は王宮に引き返す羽目になって・・・ルイ君に餞別として渡してた<空の魔石>で作ったマラカスだった。

・・・そういえば、そんな事が有ったね?


「これには不思議な力が有ってさ、俺が初めて魔獣に殺されそうになった時、無我夢中で振り回したのがこのマラカスなんだ。・・そうしたらさぁ・・・不思議な事に、魔獣が逃げて行ってね?なんかこのマラカスの音が、魔獣には嫌な音に聞こえるらしくてさ。今だって、マラカスを振ったら青熊が逃げて行っただろ?

あれからずっと使わせてもらっているんだ、これのお陰なんだ・・・俺達が少ない人数で、森の傍を旅しながら商売する事が出来るのは。」


へぇ~~ビックリだよ、当時そんな事を考えて実行していなかったと思うよ?

ルイ君以外の人が使っても効果はないそうで、随分と思い込んで実行したようだ・・・当時は知り合いも居なくて寂しいボッチだったからね。ルイ君の存在は有難くて、嬉しくて・・・あの後は王妃の所に監禁されたから、一緒に行ったらどうなっていたか・・なんて随分想像していたものだ。


マラカスを見せて貰ったが、随分と使い込んで貫禄が出ていた。

ルイと一緒に沢山の旅をして来たんだろう・・・良い旅も苦しい旅も、ルイ君のこれまでの経験が沁み込んでいる様で、彼の人生の重みを感じる。


「ボロッちくなったねぃ、新しく作り直そうか?」

「いや、これが良いんだ。見ていると何だか安心するしさぁ・・・・俺達の屋号は<マラカス屋>って言うんだぜ。」


そんなに気に入って貰えると嬉しいね、詩乃はこれ以上ボロくならない様にと、マラカスの表面を<空の魔石>でコーティングしてみた・・・ルイと相棒のブケル君の旅の無事を祈って。

ユックリと振ってみる・・・シャラララァン・・・うん、良い音だね。


「あのさぁ、良ければこの青熊を売ってくれないかな?・・売って貰えると凄く助かるんだけれど。」


いや、俺達倒していないんだけど・・・ルイ君達はそう言うけど。


「いや、実に良い囮だった、倒せたのはお前らのお陰だ。」


ニーゴさん、言葉を選ぼうよ・・。

それにしても、どこかで聞いた事が有る様なセリフだね?



恐縮していた彼らに、お金の代わりに便利グッズを見せて交渉をする。

「新製品・平民用の異次元便利収納も出来たから、旅にはお役立ちだと思うよ?青熊は良品で20万ガルくらいだから・・・結界はどう?寒さ・暑さを防げるよ?まぁ平民用は貴族の半分くらいの性能だけどさぁ・・・あんまり良くすると貴族に取られちゃうからね。」

販促用に詩乃も持ち歩いているのだ、プレゼントしても良いしね。

2人は凄く喜んでくれて仕入れもしたいと言って来たから、手持ちのグッズを全部渡して、代わりに珍しい珍味や手芸品と交換した。

山ウギナの干物だって、ラチャ先生喜ぶかな~?


次の避難所まですぐだからと、其処まで上空からエスコートする。

彼らが避難所に入って、安全を確認してからサヨナラだ。


サヨナラの時、ルイ君達はいつまでも手を振って見送ってくれた。

空の上から小さくなって行く彼らの姿を目に焼き付ける・・・彼らが無事でよかった、何だかいつの間にか独立空軍部隊の隊員になってしまったけれど、こんな時には遣り甲斐を感じる、詩乃だって役に立っているのだと実感できるひと時だ。


頑張ってねルイ君・・・幸せにね。


昔の知り合いが、元気に活躍しているのを見るのは嬉しいものだ。

何だか・・・オイもルイ君も、いやに老けて見えるんだけどね?

暮らしが厳しいからだろうな、この世界の人は10代前半が一番綺麗に見えるような気がする。リーやアンはどうなっているのか、貫禄が出ただろうな~もう、お母さんだし。



夕焼けの中、嬉しい思いで詩乃達はトンスラに帰還した。


ルイ君・・・タラシにならなくて良かったね!( *´艸`)

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