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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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お久しぶりです ~ 青い森のほとりの村

その後・・・如何ですか編。

海が静かになった・・・環境的には冬に入り、荒れた高い波が打ち寄せて常時時化ているのだが。そう言う事では無くて・・・海賊が出なくなった・・・と言う比喩的表現なのである。




詩乃達が関わり、生け捕りにした糞生意気なガキンチョは、ガムル帝国の皇士様だったそうだ。どうりで偉そうで、魔力もそこそこ強いと思ったよ、最も皇士様は全部で13人もいるそうなのでスペアに不足は無いらしい。


彼は今、シュザイルム王国の牢獄に幽閉されていて、国際裁判所(あるのだ、そんなものが。)での判決を待つ身の上らしい。

当初ガムル帝国は皇士の存在自体を否定したが、何たって動画で証拠が残っているし、すでに社交界にデビューしていて、軍の一翼を担っていたそうなので、面が割れてて言い逃れは出来なかったようだ。

帝国の威信は失墜し、海賊行為の謝罪と賠償を迫られて、財政はかなり激しく厳しいらしい、もともと懐具合が厳しかったから海賊なんぞをしていた訳で・・。

無理に併合を繰り返して来た地方から、反逆の狼煙が上げられて、帝国の屋台骨を揺さぶり、国内の分裂は時間の問題だ・・・と囁かれているそうだ。

奴隷にされていた人々が帰国して来て、涙の再会も果たされた様だが・・・すでに帰らぬ人も多いとの事で、帝国への怒りは静かに深く溜まってきている・・・。

以上、事情通で不機嫌デフォのシェルワさんの解説でした。


船を拿捕して来て、国に富みをもたらしていた時には、海の勇者とか言って散々持ち上げていたくせに。今では手のひら返して、知らん存ぜぬとは・・・。

少々可愛そうな気もするが、今まであやめて来た人々の怨念がおんねん・・・なのだから、いた仕方の無い事でありましょう?

そのガキンチョが、わずか12歳の少年と言うところが・・・何とも哀れな事では有るのだが。



まぁ、そう言った情報も聞かされれば聞くが・・・右から左に流して、サッサと忘れてゴミ箱に捨てるのが詩乃さん流の生き方だ。

この世界は悲しい出来事の方が多いので、溜め込む事なくスルーさせるのが、精神衛生上には良いと思うよ・・・詩乃があれこれ悩んでも、出来る事など限られているのだから。

人間自分を中心に、半径10メートル圏内の人達を幸せに出来れば、御の字な人生なんだそうな。昔、誰かが、そんな事を言ったいたような気がする。

こっちの世界だったか、あっちの世界で聞いた言葉だったのか、今では定かでない事が増えて来た。




さて、海のパトロールから外された詩乃達<独立空軍部隊>は、休む事も(休みたいのに)なく、今度は白骨街道の警備にと駆り出されている。


他国など遠いところに輸出する作物は早めに収穫して、海が荒れる前に出荷・船出させ、収穫の第2弾は国内各地に流通させる。

それがランケシ王国の秋の風物詩、長いキャラバン隊のお荷物となるわけだ。

厳しい冬が来る前に、是非とも済ませておかねばならない一大イベントで、どこの街でも荷馬車がひしめき合って大変に賑やかだ。

農村で収穫された穀物などが都市部へ、都市部から日用品などの生活必需品が農村部へ。ランケシ王国国内を、色々な物資があちらこちらと流れて、商業活動が活発化する時期が秋~初冬なのだそうだ。

パガイさんも6男も、此の所トント姿を見せないのは、そんな事情があるらしい。今頃血道を上げて、商売に精を出しているのだろう。

稼げ!!幻聴が聞こえる様だ・・・どこの異世界の商人も同じだね。

御蔭様で此処の所、詩乃の周りは静かで快適だ。


    ****


普段人通りが少ない白骨街道でも、この時期はマァマァの賑わいを見せる。

空の上から見ていると、そんな様子が可愛くて面白い、ちょこまかと動く一つ一つが、ほぅ・・人がまるで〇〇のようだ。はっはっはっ・・・・。


賑わうと・・・出て来るのは・・・黒いGと・・・盗賊だ。


騎士隊などは都市部周辺の警備に付いているし、輸送体隊のキャラバンには冒険者ギルドの傭兵が付いている。それでもその隙間を狙って湧き出て来る、無法者をいち早く見つけ、討伐するのが詩乃達<独立空軍部隊>のお仕事だ。

悪い奴らはドラゴンの姿を見かけると、青い森の中に逃げ込んでしまうので、みんなラチャ先生謹製の幻術の魔術具を身に付けている。

空に紛れて<身隠し>が出来る優れものだ、むかしカポエの貴族の館に展開されていた魔術を、更に洗練させ苦心惨憺の末に作り上げた自慢の一品らしい。

ラチャ先生が自慢げに持って来たブツを、詩乃が隊員分コピーして配っていたのが見つかって・・・あの時はヤバかった。ラチャ先生は、何だか固まって立ち竦んでいたけれど、著作権なんかない世界だから。仕方ないね?便利な物は、数多くあった方が良いに決まっているもの。

他のメンバーはもの言いたげな顔で詩乃を見ていたが、あれは何だったのだろう?

・・・まぁどうでも良いけど。


    ****


朝トンスラを出発して詩乃・ニーゴ組は西回り、白骨街道の上をゆっくりと飛んでパトロールして行く。

盗賊たちは平民なので総じて魔力は強くない、貴族が紛れている海賊よりは気が楽だが、追い払うだけでは無く捕獲しなければならない所が面倒臭い。

近くの騎士団を呼ぶか、網で吊るして運んでいくか・・・其処が悩む所だ、モルちゃんはまだ力が強くないから、無理をさせて重いモノを運ばせたくは無い。



「随分と紅葉してきやしたねぃ、森がカラフルで綺麗だ~。」


こう言った情緒はニーゴさんは無いようで、特に返事は欲しくも無いが、黙っていられると少々寂しくは思ってしまう。


「クイニョンの紅葉と色が少し違うね、木が違うのかな?」

「クイニョンの方が高地だし、寒いところだから針葉樹が多いのでしょう。」


モルちゃんは絶対女の子に変化すると思うな、だって御喋りだもん。ニーゴさんもゴールディも無口だよね、主とドラゴンは似るって言うけれど本当だ。


「美味そうな匂いがする・・・下だ。」


たまに喋ればこれだ、こんな空の上まで匂いが届くか?そう思いながら下を眺めれば・・・うん?何だか見た事が有る様な、知っている気配が漂っている・・・この気配はパワーストーン?


青い森のほとりに小さな集落があり、村人達が集まり落ち葉を積んで何やら燃やしている。・・・懐かしい様な、甘い香ばしい良い香り・・・牛乳と食べると最高な・・秋の味覚。


「あぁ、青い森のほとりの村だ・・・チビ師匠のいる!」


かつて詩乃が旅の不仲間をしていた頃に、此処にはサツマイモを植えると良いよ?と、勧めた村が眼下にある。プウ師範が随分と骨を負って、畑を使えるように掘り返してくれたんだった。

あれから・・・何年経ったのか?

荒れ果てていた畑が綺麗に整えられ、さらに増やしたのか見渡す限りに広がっている。収穫を終えたのか沢山のサツマイモが山と積まれて、出荷を待っている状態の様だ。

焚火は焼き芋でもしているのだろうか、ニーゴさんが美味そうな匂いと言ったモトだろう。詩乃達は身隠しの魔道具をOFFにして、村の上を旋回し始めた。


ドラゴンが上空を旋回しているのに気が付いた村人たちが、訝し気に此方を見ている・・・解るかな?詩乃もあれから随分と綺麗になって変わったから・・・気が付かないかもしれないな・・などと思ったいたら。


「オマケの姉ちゃん!」


元チビらしい少年が、此方に手を振り叫んでいる。

・・・おかしいな、何で分かったし?まぁ、いいや・・・お芋の出来はどうだろう、チビの姉ちゃんは結婚したかな?懐かしい気持ちで詩乃は舞い降りて行った。


「ラチャ先生は、先生はいないの。」

挨拶も無しにいきなりこれだ、チビは随分とラチャ先生に懐いていたからね・・・残念でした詩乃だけですぅ~~。

「ラチャ先生は忙しい方ですからねぃ、今は魔術師長として活躍しておりますよ。チビ・・もう、チビでは無いな。君は何か新しい技を開発なさったかぇ?」

「俺、風で小麦の穂を切れる様になったよ。俺だけなんだ出来るのは!」

自慢げに言うが周囲からは、穂が散らばって二度手間だ・・とか、突っ込みが入っている。それでも周囲も嬉しそうに話すので、一人で突っ走って悪目立ちしている訳でも無いのだろう。


「今年もお芋が沢山採れました、商人さんが全部買い付けて下さって・・・心配の無い冬を迎える事が出来るのはオマケ様の御蔭です。」

「それはないよ、皆が頑張った結果だ。あぁ~~いい香り、焼き芋だねぃ。一つ売ってはくれないかぃ?」


勿論です!一番甘い美味しい所をご馳走いたします。

そう言うと、女の子達が燃えて白い煙を出している落ち葉をかき分けて、大きな焼き芋を出して来てくれた。どうぞ、どうぞと勧められて・・・アチアチっとお芋を両手に掴んで、エイッと割れば。


・・ピンク色なんですけど・・前に食べた種イモは、普通の薄黄色だったよね?


「此処で採れるお芋はなんでだかこの色で、でもお味はピカ一なんです!」


嬉しそうにキラキラした目で見つめられると・・・嫌とは言えない。

ピンク色した食べ物って・・・生の豚肉?くらいしか思い浮かばないけれど。

ガブッと齧れば、これはもう・・・まごう事無きサツマイモのお味・・・。

あぁ、秋の味覚の王者。詩乃の家では松茸などは拝んだ事が無かったので、秋と言えば芋・栗・新米・・これに尽きる!


「美味しい~~~、どれ、モルちゃんも食べてみなんし。」


フーフーして、舌の上に乗せてあげればモキュモキュと食べる。

美味しいね~~と、首を傾げ合えば周囲の村人達は大喜びだ。

いつの間にかニーゴさんも食べている、村人たちは獣人もOKの様だ・・・っていうか、ここに獣人さん達もいるではないか。

何でも6男が、人口の減った村の為に、力の強い草系の獣人さん達を連れて来てくれたそうだ。男手の減った村には彼らは貴重な戦力で、畑を広げられたのも彼らのお陰だと言う。今ではスムーズに村に馴染んで、中には村の娘と恋仲の獣人さんもいるんだってさぁ。ヒュウーヒュウー。


「そりゃぁ、結構な事だねぃ。良く働いて、自分と生まれる子供に優しけりゃぁ、尻尾があろうが角が生えていようが、女は気にもしないもんさぁ。目出度いねぃ、結婚はするのかい?ありゃありゃ赤くなって、初心なネンネは可愛いねぃ。」

「婆臭っ」

ニーゴさん、黙って食べな。


村では芋の収入で、モモウを買い入れ、今ではバターもチーズも手に入ると言う。

それならば・・と、詩乃はスィートポテトを作って見せてレシピを公開した。

タルト生地に乗せて、オーブンで焼いても美味しいよ・・・お菓子を作るのも久しぶりだ。時間の許す限りお菓子を作って振舞い、お喋りをして笑い合う・・・これこれ、この感じ。トデリでリーやアンとしていた、当たり前の日常な感じ、何だか懐かしくて目の奥が熱くなった。

パトロールを放り出してしまったが、ニーゴさんは何も言わなかったし、たまの気分転換にはちょうど良かった。これが本来の詩乃だ、鞭を振り回し敵を水攻めにするような女王様の詩乃は・・・何かを目覚めた感じだったけれど・・・詩乃じゃない・・と、信じたい。


その後、子供達に<お守り>を配ったり、村の<守り石>を増やしたりした。

御土産にサツマイモや焼き芋・スィートポテトなどを貰い、ご機嫌な気分で村に別れを告げトンスラへと戻る。旅の不仲間の時は、徒歩で大変だった距離だけれど、今はドラゴン!ひとっ飛びで楽勝だ。


「ねぇ、モルちゃん。ラチャ先生には魔術具のアイテムも貰ったし、チビの事も気にしている・・・か、どうかは知らないけれど、御土産の一つも渡さなけりゃ不義理だろうよ。ラチャ先生のドラゴンさんに、お土産が有るから、暇な時にでもトンスラに寄るようにって、ラチャ先生に言う様に伝えてくれる?」

「うん、わかった。」


太陽が沈む只中を、詩乃とニーゴさんは飛んでいく。

今日は良い日だったね、楽しかったね・・・みんな元気で良かったね。


たまには、こんな一日が有っても良いよね?



大満足で帰還した詩乃だったが・・・ラチャ先生が、トンスラに待ち構えていたのには驚いた。そんなにお土産が欲しかった?・・・今まで誰かに貰った事が無いのかないな??


ピンク色のスィートポテトと焼き芋を嬉しそうに、尚且つ上品に食べるラチャ先生を、不憫な子を見る目で眺める詩乃だった。




「そうそう、ラチャ先生。青い森のほとりの村のチビは元気でしたよ。先生を懐かしんで、会いたがっておりやした。」

「誰だ、それは?」



・・・・・・・・・・・・・おぃ!


焼き芋は牛乳と食べるのが美味しいと思いますが・・・どうでしょう?(#^.^#)

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