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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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お久しぶりです ~ オイ君

あれから半年経ちまして・・・独立空軍部隊隊員になりました。

役どころは、勿論ピンク隊員ですよ~~~(#^.^#)

「裏帆をうて、面舵一杯~~!!」


「アイ・サー」

船長が怒鳴り散らす、船は風の魔術具を積んではいるが、魔石の手持ちが不如意なので気軽には使えない代物だ。ギリギリまで自然の風の動きを読み、掴んで利用し操船するしか方法は無いのだ。


「しつこい奴らだなぁ、ぴったり張り付いて此方の進行を邪魔してくる。」


=詩乃が最初に移住したトデリと言う名の港町で、水を介して知り合いとなり、仲の良いご近所さんであったオイ君は、今は外洋向けの商船(パガイ商会)のクルーとして頑張っている。=


オイは甲板員として、帆船の帆を操る為にトップロープの上を伝い歩いていた。


広い世界を見たい、詩乃を見つけ連れ帰るんだと張り切ってトデリを出て早3年。

航海士の勉強や、甲板員としての仕事は着実に学び実績を積んで行ったが、立ち寄る港々には聖女のオマケの噂も無く、私的には無為な日々が続いていたオイ君だ。


たまに有る嫌な刺激はと言うと、嵐と・・・海賊船である。


海賊船は厄介だ・・・捕まれば奴隷の憂き目にあうのだから。

水平線の向こうにチラチラと見え隠れしている帆船は、略奪行為を行う所謂海賊船なのだが・・・実のところは、大陸のとある帝国の海軍だ。

国を上げての蛮行は、大陸が魔獣との闘いに疲弊して、立ち行かなくなっている証のようなものだ。急場を凌ぐ為には、手軽に奪えるところから奪って来る・・・弱肉強食の掟は魔獣でも、人の世界でも健在の様だ。


「不味いな、このまま陸近くに押されると、座礁の憂き目にあいそうだ。」


1等航海士と船長が話して合っている。

右手には白く高い崖が垂直に連なり、その足元には白波が激しく踊っている。

海賊の手口は獲物を浅瀬に追い込み座礁させ、動けなくなった所をボートで乗り込み、征圧・略奪行為を働くと言うものだ。抵抗する者は殺され、怪我が酷いモノは海に捨てられ、残りは奴隷市場で売られる。すがすがしいまでの悪辣行為、しかし彼らは何も証拠を残さないので・・・商会や国としても、非難も賠償請求も出来ずに困り果てていた所なのだ。


「前方・2時の方向・・白波・・岩礁の恐れ。」


トップロープの上から、オイは精一杯の大声で叫んだ。人手の少ない船では一人何役もこなす、目の良いオイは重要な見張りの仕事もしている。

慌てて舵を切る航海士、岩礁を避けるとどうしても海賊船の方に近づいてしまう、そろそろ魔弾の射程距離に入りそうだ・・・。不味いな・・・ヤバ過ぎる。

その時だ・・・水平線近くの海賊船の方から何かが放たれ、光ったのが確認できた。


「敵・魔弾・・・数1」

「総員、衝撃に備え!」


逃げ場のないトップロープの上、オイは必死にマストに齧りついた。

もう駄目だ!!そう、覚悟を決めた途端・・・すぐ近くに巨大な皿のような、不思議な虹色の何かが広がったのが見えた。


「A〇フィールド」


誰かが、のんびりした声で話している・・・なんだ?どうしたんだ。


オイがゆっくりと目を開けて辺りを見渡すと、何かの影で船が覆われていることに気が付いた。驚きながらも、静かに顎を上げ空を見上げると・・・其処にはドラゴンが・・薄ピンク色のドラゴンが、船の傍を滑空していた。

魔弾は・・魔弾は虹色の何かに跳ね返されると、真っすぐに海賊船に向かって打ち返されていった。船首の木くずを派手に散らして、破壊されているのが見える・・被弾したようだ。


「敵船・船首被弾・損害中・・・追尾不能」


炎がチラチラ見える、何かに引火したみたいだ。こうなれば此方を追う余裕など無いはずだ。ホッとして見上げたドラゴンの背に、懐かしい黒髪が揺れているのが見えた。


「えっ!シ~ノン!?!」


思わず叫んだオイの声が聞こえたのか、振り向いた丸めの顔は・・黒い瞳。

オイが会いたくて諦めきれずにいた、聖女のオマケ・シ~ノンその人だった。


****


「ホント、久しぶり~懐かしいよ~~。」


船のデッキに舞い降りた、マウくらいの大きさの薄ピンク色のドラゴンの上から、髪の毛が伸びた以外は全然変わりが無い詩乃がスルリと降りて来た。

髪は成人の歳は過ぎたはずだが、結い上げる事も無く高い位置に結んでマウの尻尾の様に垂らしている。見慣れない白い軍服は肩にケープが付いていて、腰に青いベルトを絞め、前の裾を持ち上げボタンで留めてあり、下は青いズボンで白い長靴を履いている。変わった軍服だ、見た事も無い意匠だ・・・後で聞いたところによると、それは独立空軍部隊の制服で白と青の色は空での保護色となっているそうだ。

【実は詩乃の意匠で、某擬人化漫画の<お兄さん>の軍服を参考にしている。】


「うわぁ~~、オイったら、また背が伸びた?凄いねぇ~髭なんか生やしちゃってさぁ、なんか男の人みたいだねぃ。フフフ・・・。」


俺、男だし・・・昔から!

3年のブランクを感じさせない話ようだ・・・と言うか、髪型以外は全然変化が無いんだが?オイの突っ込みに、頬を膨らませて詩乃が抗議する。


「そんな事無いよ!空軍に突っ込まれて訓練漬けの毎日でさぁ、筋トレで腹筋300回だよ?おかげで腹筋も割れてんだから、シックスパックだよ?シックスパック!!オイは腹筋われているの?」


自慢げに腹をめくって見せようとしたシ~ノンだったが、ドラゴンに止められている・・・どっちが主だか解らん光景だ。

とにかくシ~ノンの言う事には、トデリを出てから色々あり過ぎて、何がどうなったかは詳しくは忘れたが、気が付いたら空軍に居たそうなんだ。

なんじゃぁそりゃぁ?


複雑な心境で、オイは自分たちの船をけん引して飛んでくれている、黄金色の大きなドラゴンを見上げた。今のところ海賊とは距離は離れたが、危険はまだあるそうで、付近の自国の海軍がいる所までエスコートしてもらっている最中なのだ。

シ~ノン達、独立空軍部隊は海賊被害の警戒の為、このところ自国の領海内をパトロールして回っているそうだ。


『あのドラゴンの騎乗者は、獣人だった・・・もしかしてシ~ノンの・・。』


「モルちゃん!この子が良く話していた同郷の、近所のいたずら坊主のオイ君。スパイシーピザが大好物でさぁ、焼け焼け五月蠅く言って来てね。初めて会った時は小さくて、声もこんなに野太く無くてさぁ~可愛かったんだよ?今じゃぁ面影も無いけど・・・こんな髭ズラになっちゃって・・・お姉さんは悲しいよ。」

「航海中は水が貴重だからな、髭は剃らないんだよ!」

「そうなの?オイにアクアマリン渡してなかったっけ?水出ないあれ。」


言われて始めて気が付いて、オイは懐の中から布製の紐付きポーチを取り出した。中にパワーストーンが入っているらしい。オーバルカットの大きなアクアマリン、見せて貰ったが、石には少しの濁りも無くて、この3年間オイが健やかに成長し、暮らしていた事を物語っている様だ。


・・・大事に持っていてくれたんだね、詩乃はかなり嬉しくなった。


石を持つオイの手と、重ねる様に自分の手を置いて、

「清らかな水を此処に」

と、願えば真水が石から溢れ出した。


オオオオオオオオォォォォォォ~~~~~~と喜ぶクルー達。


航海で大事なのは水だ、無くてはならないものだが嵩張るし重量も重い・・・水樽が無くなる分、余計に荷を詰めるし、手間も掛からなくなるしで良い事尽くめだ、これは嬉しいだろう。


しかし浮かれるクルー達に詩乃は警告をした。

「船長さん、水樽のスペースが空くだろうが欲張らない事だ。荷を積み過ぎ重くなれば、船足は遅くなって逃げ足は鈍くなる。今回は運良く撃退できたが・・・かなりの数の海賊船が海峡に出回っている。此方も巡回を増やして警戒しているが、海は広く人手が足りないのが実情だ。」


急に軍人らしく喋るシ~ノンに驚き、遠い人の様に感じて苦しくなってしまう。ドラゴンは貴族しか持てないと聞いた事が有る、シ~ノンは・・・・。


「シ~ノンは・・・ドラゴンの騎乗者になったのか、貴族になっちまったのか?もう、トデリには帰って来れないのか?」

聞きながら目の奥が熱くなってくる・・・貴族になるのが嫌でシ~ノンはトデリに来たそうだと、以前パガイ会長は言っていた。シ~ノンから預かって来たと<アクアマリン>を手渡してくれた時にだ、そんな嫌いな貴族に、無理やり成らされたのかと・・・もう、自分達とは違う世界の人になってしまったのかと。

そう思うとこの3年間が虚しく悲しくなってしまう、俺はシ~ノンを助けたくって、トデリの外に出て来たのに。


しかし詩乃はあっけらかんと、

「貴族の都合とか何とかでさ、書類上は貴族の養子にはなっているけどね。お互い気が合わないから、滅多に合う事も無いけどさぁ。ホント貴族って面倒臭いよ~~ぉ、ウザイから王都になんか行かないし、呼び出されても極力逃げ回っているんだぁ~。モルちゃんがいるからね、逃げるのは簡単なんだ。」


ドラゴンと目を見合し  ねぇ~~~  とか言って首を曲げている。

心配したのに拍子抜けだ・・・。

いつもいつもシ~ノンに助けられているばかりだ、男として情けないし、手に入らない者を思い続けるのは苦しく悲しい。


「トデリの飴色の家具をさぁ、貴族の屋敷で沢山見たよ・・・懐かしくってさぁ、誇らしくてさぁ。みんな元気かなぁって、いつも考えていたよ。お婆さんや妹ちゃん×2と弟ちゃんは元気?リーやアンはどうしているかなぁ。ヨイさんの結婚相手って誰さぁ?会いたいなぁ・・・ギーモンの卵漬け美味しかったよ・・・。ほら、これ見て。」


シ~ノンの首には貝殻で作った首飾りがあった、俺が以前王都まで航海した時に、暇に飽かせて作った稚拙な贈り物だ。持っていてくれたんだ・・・。

それと何だか黒光りする獣の爪?の彫り物が胸に下がっている・・・誰から貰った?何か悔しい。作品のクオリティが全然違う・・・面白く無い。

そんなオイの葛藤を他所に、詩乃が懐から出して来たのは飴色の彫刻だ・・・石窯を背に皆でピザを焼いている、そんな場面が彫り込まれている。


「これヨイさんがくれたんだけど、アッシが小さすぎやしませんかぃ?顔もなんだか扁平で、もう少しもっとこう・・・何が可笑しいのさ!オイばっかりかっこ良く彫られていておかしいよ!」


全然変わり無い・・・いつものシ~ノンだ。

元気で呑気でお人好しの・・・皆が大好きだったシ~ノンだ。

何が可笑しいのさぁ!シ~ノンは怒るけど、嬉しくてたまらない。シ~ノンの中にトデリの皆はイキイキと存在している。オイはシ~ノンの脇を掴むと持ち上げてクルクルと回り出した。


『はぃ???そうだよね、危機一髪の後は持ち上げられてクルクルだよね。アメ友のみなさん、詩乃は異世界でついにシ〇タになりましたよ!ここはフフフアハハと笑うシーンですよね!』

詩乃は手を広げて、飛行機ブーンみたいに回ってみる。

アハハハ・・・久々に心の底から愉快に笑った、やっぱり幼馴染?は良いね。損得が絡まない、本当の友情って素晴らしい!


横で見ていたモルちゃんの目には、友情でなくて確かな愛情が見えて取れたが・・・鈍いからねぇ・・詩乃ちゃんは。せめてつまらない男に捕まらない様に、しっかりと見張っていなくては!モルちゃんはオイに厳かに頷いて見せた・・・・2人して頷き合う。言葉が無くても友情は育まれるらしい。

モルちゃんの中で、オイは詩乃ちゃん親衛隊の会員ナンバー3番と登録された。

ちなみに1番はパガイのオッサン、2番が虎さん、3番がオイである。

少ないと言うのか・・・少数精鋭と言うべきか?人望の無さが痛いようだ。


    ****


ニーゴさんから合図が来た、領海に入った様だ、もう少し航海すれば自軍の艦船が見えるそうだ。撤収の命令が下る・・・何故か詩乃はニーゴさんの部下扱いだ。難しい命令書が読めないのだから仕方無いね。


「じゃぁ、オイも元気でね。」

ドラゴンの鞍にヒョィと飛び乗るシ~ノン、慣れた動作で本当に空軍に居る騎獣者なんだと思い知る。


「シ~ノン<春の女神のお祭り>に来れないか?俺も帰郷するつもりなんだ、ドラゴンならヒトッ飛びなんだろう?久々にみんなでピザ食べようぜ。」

ダメもとで誘ってみる。


「焼くのはアッシだろう?材料用意しておくように、リーに伝えといて。全力で逃げ出して、トデリに向かうから。」


そう言うと、明るい笑顔を残して、シ~ノンは空に舞い上がって行った。


オイ君・・・髭ズラに。まだ若いのでポヤポヤ猫っ毛の髭です(´-ω-`)。

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