サムディン侯爵の舞踏会~4
ハイジャイも長くなってきました。
曲が流れ出す・・3拍子・・ワルツだね。
詩乃とニーゴさんは貴族の壁の中、ただ一組クルクルと回りながらワルツを踊りだした、ズンチャッチャ~ズンチャチャ~~~。
ニーゴさんは運動神経が良いから、リードが巧みで安心感が全然違う。
それに虎さんの様にバカでかくないから、190センチ位かな?向こうの世界では十分にデカくてオランダ人並みだが、ここの世界では平均身長だ。
158センチの詩乃と踊ったら、大人と子供のように見えるだろうか?
ところがどっこい、今日の詩乃は厚底靴を履いて激しく底上げしているので
(+18センチはいっている)そこまで可笑しいカップルには見えないはずだ。
厚底で踊りにくいようだが、<空の魔石>製だから、自分の足の様に軽くて動きやすい。
昔はパワーストーンとボタンくらいしか作れなかった詩乃だが、近頃では何でもござれの<空の魔石>マスターだ・・・にんげん窮すれば頑張るのですよ。
クルリクルリと回転するたびに、袖や裾がフワァとたなびいて広がる。
魔虫の布と刺繍がキラキラと虹色に輝き、光の帯を引いてまるで夢の様だ。
『はい、本日のコスプレは安倍晴明さんです~。ゲーム版みたいに派手派手では無い、オーソドックスな狩衣だが。狩衣って一度着てみたい服ランキング上位だよね、卒業式の振袖&袴も捨てがたかったが。』
性別不詳の衣服で、スタイルの良し悪しも全然分からない、もう完璧じゃん!凄いぞ平安貴族。
「綺麗・・・。」
2人を眺めていたモブ令嬢が、ホウッとため息を付きウットリと呟いた。
「貴方も、貴方の衣装もお美しいですよ。可愛い刺繍ですね、ご自分で刺されたのですか?」
能面さんはチェックが細かい様だ、的確に相手が喜ぶポイントを突いて来る。
「こ・・・これは、マーサが・・乳母なんですけど。マーサや、メイドの皆が手伝ってくれたのです。刺繍には沢山の人の手が入った方が、幸せを呼ぶんだと言いまして。」
「貴方は使用人に好かれているのですね、良い主の様だ、貴方の領地の平民は幸せ者ですね。」
優し気に笑う能面さん、誰だこいつは・・・本当に能面さんか?
リリアンヌは赤面した・・・・本当はモタモタとドン臭く、指を針で刺してギャーギャー痛がりながら、下手糞な刺繍をしている私を見て。
「ああああああ!そうじゃなくてぇ!」
と叫ぶや、見ていられ無くなって、説教しながら手伝ってくれたのが実情だ。
『・・・本当の事をお伝えしなければ、嘘はいずれバレてしまうのですから。』
「あの・・私、本当は刺繍より織物の方が好きなのです、単純作業ですから・・あ~・難しい織は出来ません。掃除や洗濯の方がもっと好きです・・・無心に出来ますでしょう?バサバサっと振るって、パンパンと皺伸ばしして、外に干すのはもっと好きです。青い空に白いシーツとか・・・身上げると。」
「ドラゴンが飛んでいる?」
「!・・・はい、そんなんです、青い空を悠然と飛ぶドラゴン様が。あの、空を飛ぶ気持ちとは、どんな心持なのでしょうか?」
「確かに気持ちが良いものですが、少し寂しい感じもしますね。周りには何もない・・・足下も確かでない、空に出ると地上ばかりが気になります。働く人や家・・・干して有る洗濯物、どんな人が暮らしているのか、幸せなのか・・・そんな事ばかりを考えてしまいます。」
お優しい方なのだわ・・・子羊のモブ令嬢は、狼の大口に気づかない。
「あの、先程オマケ様が、家の領地を褒めて下さいましたが・・・。立ち直って来たのは最近の事なのです、実は他国からの難民の方達を受け入れまして・・・王妃様からのご推薦でしたので。
旧ザンボアンガの方達なんです、彼らが力持ちで働き者だから領地が潤って来たのです。・・・彼らは今では大切な領民なのです、尻尾や角があったり・・・耳の形が私達とちょっと違いますが・・・それだけなんです違うのは。
家族を大切思う心や、嬉しい事や悲しい事を感じる気持ちは同じなんです。
あのぉ~~、獣人さんをどう思いますか?お嫌いですか?」
領主の娘としてこれだけは譲れない条件です、獣人を受け入れ、領民として愛してくれない領主(婿)は不要なのです。
いくら私が、きゃ~~素敵~~~と、思ってもダメなのです。ダメ!絶対!!
私はドキドキと、神様の判定を聞く心地でお返事を待ちました・・・マーサ、父ちゃん・母ちゃん、メイドの皆!!リリアンヌは頑張っているんだよ~~~お願い助けてぇ~~~。
・・・助けようも無いのだが・・・。
「空軍にも獣人はいます、今オマケ様と踊っている彼、虎の獣人です・・・彼は良い人ですよ。強く、逞しく・・・そして優しい。私の大切な友人の一人です。」
ニーゴさんが聞いたら はぃ? みたいなことを、平然と言う能面さん。
そうか、友人だったのか・・・ただの飯友かと思っていたよ・・・失敬・失敬。
安心したように笑うモブ令嬢、エスコートはGetできそうだ・・・ただ彼は、頭の方はすこぶる宜しいが、実家は相当な貧乏で・・・持参金の方は当てに出来そうも無い身の上なのだが。
世の中、完璧な者など居ないのである・・・肉体労働・嫁=知的労働・婿で、案外上手く行きそうなカップルだ。
1曲踊り終わって、パラパラと拍手等を頂きながら場所を譲って引き下がる。
掴みはOKかな?
椅子に座って、ジュース等を頂いていたら執事さんが現れた。
むぅ?執事か・・・余りいい思い出は無いのだが。主人思いの執事&裏切り者の執事は、時に主人より面倒くさい毒がいるのだ、此処の執事さんは黒かな白かな、どっちかな?
執事さんは慇懃ながら、高圧的に主からの面談の要請を告げて来た。
掴みはOKだったね、別室に御呼出しだ。詩乃とニーゴさん&モルちゃんの3人、異世界人と獣人とドラゴン・・・濃いメンバーだね。
執事さんを先頭に、人目を避ける様に会場を後にする。
あれだ、後は若いお二人でって奴だ。
流石に侯爵家、広い屋敷には沢山の部屋が有り、使用人がゴロゴロいる。
カポエの貴族の館も、トデリの子爵様の館も出来合いの同じ図面で造られた物だったが、侯爵家ではそうはいかないらしい。広い館内は←でも無ければ迷いそうだ、あちらこちらに置いてある家具も一級品で、中には懐かしいトデリの飴色の家具もあった。
奥様も営業頑張っているんだな・・・あのヨイさんもイヨイヨイヨイ結婚かぁ。
アホな事を考えているうちに目的地に着いた様だ、執事さんより音声案内が入る。
「旦那様、ドラゴン様とオマケ殿とニーゴさんをお連れいたしました。」
様と殿と・・さんね・・・。
自動に内側に開くドア、機械では無くて侍従さんが中にいた様だ。
窓もない行燈部屋の中、侯爵様が憮然とした表情で座っている。
『ふ~~ん、魔力が入り込まないように、魔術具が仕込まれているな、ラチャ先生の部屋みたいだ。』
侯爵様自体は出来るお方の様で、魔力の漏れも無く、サイレントに佇んでいる・・・息子の大佐も無音君だったね・・・そういえば。
椅子に座るように促される、侍従さんがお茶を入れ終え一礼して下がって行くと、ドアは完全に閉ざされ気まずい沈黙に包まれた。モルちゃんだけがのんびりと、サービスされた果物などを頂いている。
「それで、私の息子は何処でどうしているのかね?事前の話と大きく違うのは、どう言う事だか説明を願おう。」
子爵様はかなりお疲れな感じで、椅子に深々と腰かけながら詩乃に聞いて来た。
「アッシの世界では、重婚は犯罪です。」
以上終わり・・・それ以上も以下でも無い。
侯爵様が納得いかない様なので、補足説明をする、アッシってば親切さんだねぃ。
「此方の遺族の婚姻の習慣が、どんな風なのかは知りませんが、好きでもない妻子持ちのオッサンと結婚する気は御座んせん。」
モルちゃんがその通りと言う様に、ピヤァと鳴いた。
「この度の事は、そんな色恋の事では無い、政略的な事だ。
そなたはドラゴンを得た、強大な力を手に入れたのだ。それ故に、そなたの後見の問題が持ち上がったのだ。これ以上王太子派の力が強まると、国内的に問題が生じるのでな。そこで中立派の我が家にそなたを取り込む事で、バランスを取り、穏便に対処しようとした王妃様の御気持ちが解らぬか?」
「何故そちらの都合で、アッシが望みもしない事を強いられなければならないので?そんな義理はサラサラありゃんせん。」
「そなたは王宮で保護されていたのではないのか?」
「来たくてこの世界に参った訳ではありゃんせん、当然の権利だと考えやす。」
グヌヌゥゥゥゥ~~、睨みあう詩乃と侯爵、話の通じないジジイだな。
「ドラゴンは貴族でなくては所有する事は叶わん、そのドラゴン様をどうするのだ、そなた自ら貴族に成れるほどの教養も常識も人脈も無かろうが。」
ドヤ顔するジジイ、無いのは貴族の常識だ、平民の常識なら頑張って覚えて来た。
「駄目と言うなら出て行くまでさぁ、この子はアッシに付いて行くだろうから、そのおつもりで。」
爺はワナワナと震え血圧が上がって来たようだ、顔が赤黒くなっていて危険な感じだ、脳の血管がバッチンと切れたらお陀仏さんだ。危ないよ?
「侯爵様、貴族貴族と仰いますが、ドラゴン側からの絆を持つ者の条件には、爵位の有無などござんせんよ。爵位の一件はあくまで人間の言い出した事だ、現に近頃では高位の貴族と絆を結ぶドラゴンは皆無だ。その意味をどうお考えで?若いドラゴンが言っておりやした、ハイジャイに来る奴は嫌な奴ばかりだと。
侯爵様にドラゴンの言葉は聞こえていやすか、最後に空に上がったのはいつですかぃ?」
侯爵は不機嫌そうに黙り込む・・・多分人間側の仕事に忙殺されていて、いつのまにか気が付いたらドラゴンの声も聞こえず、空を行くことも叶わなくなっていたのだろう。色々溜め込み過ぎて、重くなった心と体では、魂の輝きなど暗いオ~ラに隠れて見えなくなってしまったに違いない。
「貴族達が何を心配しているのか解りかねますが、アッシは人が悲しいんだリ、泣いたりしているのを見るのは大っ嫌いなんだ。人に仇する事なんかしない、異世界のアッシの家族に誓っても良い、彼方でそんな教育は受けてこなかったからね。」
暫く黙り込んでいたが、侯爵は・・そなたがこの世界で何を成して来たのかは聞いている・・・と呟いた。
「信じて信用しろとは言いませんが、アッシとニーゴさんは、自由にしておいてやっておくんなせぃ。貴族には、王都・王宮には聖女様がおらっしゃる、それで満足してはくれないか?
アッシは平民担当だ、魔力も平民のB級しかないんだ。平民のB級聖女さ、それでいいじゃないか。」
「わしが納得しても、他の貴族は収まらない・・・王妃様の元には、そなたと見合いをしたいと言う、物好きな貴族達の釣り書が山の様に置かれておるそうだ。
・・・更に面倒なのは他国からの縁談よ。異世界人の血と、ドラゴンが手に入るまたとない機会だからな。そなた自分の姿絵を見た事が有るか、恐ろしく美化されているぞ?本人に会ってガッカリしているのは儂だけではあるまい。」
酷い言われようだ・・・ムキッーーーだ。
「解った、では侯爵の書類上の養子となろう。神殿からは聖女様の御使いとしての白紙委任状の発行してもらう、・・・狼族からは既に一員として認める牙の飾りを貰っているしな。これで文句は無かろう。」
「婿はどうする、そなたの一番の弱みは、これでも妙齢の女性と言う事だ。」
むぅ、今まで誰も女性扱いしてこなかったくせに。
「アッシを嫁にと望むなら、アッシより強い男でなければならねぃ。悪いが侯爵の息子は脱落だ、仔細は訓練生に聞くがいいさ・・・現場を見ているからな。
とにかく!アッシに命令しないでもらいたい。魂の輝きを守るのには、自由の心が大事なんだ。柵は要らない、一人ぼっちで、どんなに不安で恐くてもドラゴンが、モルガナイトがいてくれるからな。それだけでアッシには十分なのさぁ。」
「そなたも、同じで扱いで良いのか?」
いないも同然に、視線もくれなかったニーゴさんに、突然話しかけて来た。
「養子の件も、委任状も要らない・・・俺は、オマケ様のガードとして傍にいるから必要ない。俺の絆のドラゴンが、オマケ様のドラゴンに夢中なので・・・引き離すのもかわいそうだから。一緒にいるしかない。」
なんだってー!!
驚いてモルちゃんを見ると、満更でもなさそうな顔で、微笑みながら佇んでいる。
この前まで卵で、詩乃の懐でヌクヌク惰眠を貪っていたくせに。ビックリだよ。
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侯爵との面談の後、詩乃とニーゴさんは裏口からお暇した。
裏口の広場にはすでにニーゴさんのマイ・ドラゴン・・・ニーゴさんの瞳のような黄金色のドラゴンがスタンばっていた。モルちゃんを見て、安心したかのように笑って(多分)いる、随分と惚れ込んでいる様だ。
いつからそんなに仲良くなっていたんだか、お母さんは知りませんでしたよっ!!
モルちゃんを指先でツンツンして揶揄う、この子は~初心なネンネだと思っていたら。いつの間に。子供の大きくなるのは早いと言うが・・・詩乃など初恋もまだなのに。正直、羨ましいぞーーー!
モルちゃんはBFが出来た女子高生の様に、照れ臭いのか詩乃を見ようとはしない。
ニーゴさんがヒラリと騎乗すると、詩乃に顎でクイッと合図をして来た。
『まぁ、エスコートなんぞは、期待してはいなかったけどね?こりゃ酷いね、いつか彼女が出来た時の為に、少しレクチャーしてやらねばなるまいよ。』
詩乃は<空の魔石>で、空中に結界を張ると、それを踏み台にしてドラゴンさんの上まで登って行った。傍目には、忍者の様に身軽に飛び跳ねて、空中を駆け上って行くいる様に見えるだろう。
・・・むぅ?ニーゴさんの前に座るか、はたまた後ろか?
当然前だね、デカすぎて前の景色が見えないモノさぁ。
騎乗した2人は使用人達に軽く挨拶すると、ドラゴンに合図を出し、夜空の中に飛び立って行った・・・モルちゃんを引き連れて。
侯爵はバルコニーで1人佇み、タンデムで飛んでいくドラゴンを見てた。
「獣人にドラゴンか・・・。」
商業も運送業もザンボアンガ系に牛耳られ、ドラゴンもまた下位の貴族(ほぼ平民)に攫われる。獣人を受け入れる領地が増え、この国の形が変わり始めている・・・。
「お前は今どこで、何をしているのだ・・・。」
もう聞こえなくなってしまった自分のドラゴンの声を、今こそ聞きたいと、心の底から願った侯爵だった。
お見合いも良いと思いますよ・・・誠実な感じなら。( *´艸`)
頑張れ若者達!次世代を生み出して、作者の年金を払うお子さんを育てておくれ・・・何の話だ?