サムディン侯爵の舞踏会~3
シャル~ ウイ~ダンス~~~。(`・ω・´)ゞ
「今宵はこれからランケシ王国を担う、若い貴族達の幸運を祈る舞踏会だ。
存分に楽しみ、交友を深め合う事を期待しよう。さぁ、踊りたまえ若者達よ。
夜は長い、踊り明かして、新しい世を導く光となってくれたまえ。」
ダークシルバーの髪をオールバックに撫でつけた、口髭の渋いオジサンが・・・意味の良く解らない挨拶を舞台上から述べている。あの人が空軍の創設者の末裔、サムディン侯爵らしいが・・・その実態は、単なるお見合い爺なのだろうか?
貴族が少子高齢化して久しく、魔力も魔石もじり貧状態で、産めよ育てよの戦時体制の如くなのだろうが・・・戦う相手は魔獣かはたまた同胞か?
・・・まったくもって、ご苦労な事である。
詩乃とモルちゃんは奥まった(それほど上席な場所ではなく)落ち着けそうなカウチを前に、侯爵の挨拶と貴族達の華やいだ歓声を、遠い世界の出来事の様にボケッと聞いていた。
『さすがに主催者の挨拶を、座り込んで聞くのは失礼だからさ?』
既に絨毯の上で寛いでいるモルちゃんに、そう話しかけている詩乃だったが、侯爵の挨拶が終わればドッカリとカウチに根を下ろす気満々である。
詩乃の近くにはいつものメンバーが、ボディーガードの如く控えているが、別に頼んでいてもらっている訳ではない。詩乃といれば即ち聖女派と思われる為、声を掛けて来るのを待つ方が効率が良いと踏んでいるそうなのだが・・・。
「モルちゃんがいるから、敷居が高くて近寄って来ないかもしれませんぜ?」
そう、真のボディーガードはモルちゃんなのだった。
モルちゃんはこう見えて大変にお怒りで、例のバンダル大佐との1件から、もうず~~~~っと、激オコぷんぷん丸状態なのである。周囲(ドラゴン達)が大変にモルちゃんに気を使っていて、何だか主として申し訳ない様だ。
【妻子持ちの人間を、事も有ろうに、あたちの詩乃ちゃんに宛がおう等とは。何たる事!何たる無礼!許ちまてん!】なのだそうだ。
モルちゃんの怒りを配慮して、バンダル大佐のマイドラゴンさんは今朝早く行方を晦ませるし、代わりに大佐を乗せようとする奇特なドラゴンもいないしで・・・気の毒にもかっこ悪く・・・大佐は馬車でこの屋敷に向かう羽目になっている真っ最中なのであ~る。
ドラゴン(空路)じゃぁなければ、結構遠いしね・・・この屋敷。
今頃どの辺を走っているのやら?お気の毒にもザマアミロの気分なのだ。
なにしろ、大佐は下手を打ったのだ。
まず第1の失敗は、詩乃を相手に貴族の論理で話を進めた事だろう。
侯爵家の肩書に、泣いて喜んで、尻尾を振って結婚を承諾すると思い込んでいた所が、浅はかミツケの北千住?・・・なのである。大佐とは言え、所詮は遺族のボンボンだと言う事か?
彼は愚かにも舞踏会当日まで詩乃に接触する事も無く、すべてをビューティーさんに一任していた様だ。肝心要のビューティーさんは・・・と言うと、詩乃に菊一文字則宗で脅された後、身の危険を(詩乃にか?はたまた王妃様にか?)感じた為か、サッサと辞表を書き故郷に戻ってしまったらしい。
・・・詩乃と付き合うと、何故だか辞表を書きたくなる女官長や文官が出てくる事は、まことに不可思議で遺憾な事である。
事の顛末を聞かされないまま大佐は舞踏会の当日を迎え、愚かしく×2も準備万端整っていると思い込み、詩乃を迎えに部屋まで行き・・・摩訶不思議な衣装を身に纏った未来の花嫁を見て愕然とするに至った訳である。
第2の失敗は、詩乃を相手にDV男が如く怒鳴りつけ、無理やりに自分に従わせ様とした事だ。肉ギャースの咆哮に慣れ親しんだ詩乃の耳とオツムには、たかが人間の怒鳴り声などでビビる謂れは無いのである。トデリを出てからの約1年の暮らしが、尋常では無かった事を調べもしなかった、大佐の大きな落ち度であろう。
貴族やそこいらの平民の娘なら驚き恐れ、泣いて許しを請うただろうが・・・大変残念な事に、一昨日来やがれと逆に啖呵を切られる羽目になったのだ。
第3の失敗は、詩乃が卑怯を恥だと思う遺族特有の感覚を、一切持っていない事を知っていながら(鍛錬の時間、アサイー様がどうなったか見て居ながら)自分には適用されまい等と、たかを括っていた事だ。
詩乃の摩訶不思議な衣装には、卑怯な仕込みがワンサカ付いていて、凡人・・いや、かなりの手練れでも勝てない程のバーサーカー状態だったのにだ。
そんな相手に戦いを挑んだ事を、愚か×3だったと言わずに、何と表現すれば良いのだろう。大佐は窓をブチ破って綺麗な放物線を描きながら外に放り出され、訓練生の哀悼の籠る視線の的となり果てた。
空軍の責任者を放り出すなど、尋常では考えられない話だが、そもそも王太子の側近のプウ師範を、聖女の離宮から窓をブチ破って放り出した前科があるのだ・・・たかが大佐・・・今更である。
第4の失敗は、一連の行動がモルちゃんからドラゴン達に伝わり、反感を買われていたことに気づきもしなかった事だ。
マイドラゴンは行方不明、代わりに乗せてくれるドラゴンもいない。
元よりドラゴンの好意によって成り立っている空軍に、人間の権威と都合を持ち込むのが間違なのだ。
【王妃のトンスラドラゴン飛行学校が、どんな体制で運営されているのかは解らないが、ザンボアンガ系の元貴族が係わっているらしく、ハイジャイとは全然違う雰囲気らしい。なんだか評判は良いらしいよ・・・ドラゴン達に。】
詩乃とモルちゃんはプウ師範の黒さんにお願いして、サムディン侯爵の屋敷まで乗せて貰って来たのだった・・・押しかけ花婿を置き去りにして。
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華やかな音楽が鳴り出し、ダンスをする為にカップルがホールのセンターに集まり出した。それと並行して、白い軍服の所に、若い女性たちが群がり始める。
大物(爵位的に)狙いの勇者たちの登場だ、精一杯めかし込んだ若いお嬢様達が、ハンターにしか見えないのは何故だろう?肉ギャース真っ青な迫力だぁ。
「凄いねぃ、あの貴公子達の性格は最悪だって、教えてあげたいような・・・あげたく無い様な。」
「大丈夫さ、似た者同士だろうから。」
涼しい顔でカクテルを飲んでいる、いつものメンバーの1人<事情通>君は遺族の結婚事情を教えてくれた。
大物狙いの娘は、結婚して家を離れなければならない立場なので、なるべく条件の良い縁談を望んでいるらしい。この際相手の性格なんか、どうでも良い事案なのだそうだ。なんせ貧乏貴族の2男・3男等をGetしたら、騎士職がほとんどな為に、旦那の命の保証など無いのも同然、何かあったら未亡人まっしぐらコースなのだそうである。
・・・ってか、あんた達の事では有りませんかィ?
冷静に構えているのは、後継ぎ娘達・・・有能な旦那をGetして、自分の領地を豊かにするのが望みだ。彼女達は試験官的な立場なので、舞踏会=面接の場だと考えているらしい。踊るよりも何処の派閥に属しているとか、持参金はいくらか?とか・・・そっち方面を気にする現実派。網を張った蜘蛛の如く、栄養たっぷりな獲物が掛かるのを、虎視眈々と待ち受けている隠れ肉食女子なのだ。
・・・やっぱり、 舞踏会=合コンじゃん。
「それで、アニィは蜘蛛の餌になりやんすのかい?」
「下位の貴族で、文官タイプは喜んで餌になる為に、その身を捧げるだろうねぇ。王都の文官職は狭き門だし、商人になるか婿になるか・・・究極の選択さ。」
「商人は人気のない職業なんですかぃ?」
「貴族の我儘に振り回され、農民や職人には恨まれる・・・それが商人だ。」
・・・ドンマイ、頑張れパガイさん・・・。
令嬢達は詩乃の存在と、不思議な衣装が気になる様だったが・・・モルちゃんが眼光鋭く控えているので近寄れない様だ。
『あんなへっぽこ令嬢達なんぞ、捌けないアッシじゃありませんぜぃ?モルちゃん、こんな空気の悪い所にいないで、ハイジャイに戻った方がよこざんすよ?』
【詩乃ちゃんが捌けるのは知ってるけど、それでも詩乃ちゃんの心に、傷がつかない訳では無いでしょう?そう言うのは、モルは嫌なの!】
可愛い事言ってくれるなぁ~~~。嬉しいよ・・有難うね。
詩乃とモルちゃんが心の中で話し込んでいたら、目立たなそうな(モブ)令嬢が1人で恐る恐るこちらに近寄って来た。詩乃にイチャモンを付けに来たのかと思ったら、彼女の視線は詩乃やメンバーに注がれることも無く、モルちゃんにロックオンしている・・・・ドラゴン愛好者なのか?
彼女は両手を胸の前に組んで、キラッキラした瞳でモルちゃんを見つめている。
「君、ドラゴンが好きなの?」
食いしん坊君が話しかけた、あれだけ筋トレしていながら細身の力士?体形な彼は、おおらかで人懐っこい性格をしている。
「はぁはい、はい!あ・・あの大変失礼しましす。」
『失礼しましす?』
「あの、あの・・・家の領地の上を、いつもドラゴン様が飛んでいまして。
私、畑から見上げてて・・・高い空を行くドラゴン様は、スズンメくらいの大きさで。近くで見るのは初めてですぅ~~~、感激ですぅ~~~。空の上を行くのはどんな心地なのかなぁと・・・いつも地べたで考えて・・・はっ!!」
貴族令嬢らしからぬ発言をしてしまった事に、遅ればせながら気が付いた様だ。
・・・・畑に地べたね?
真っ赤になって、アウアウとパニックになる影の薄いモブ貴族令嬢・・・あんた、働き者なんだね?令嬢にしては、しっかりとした節くれだった手をしている。
働き者の綺麗な手だと、某姫さまなら言うだろう。
「貴方の家のご領地は、湖を南に見た丘陵地帯ではござんせんかぃ?」
「!・・ははぁあぁいい、そうでござる。」
『ござる?』
「空の上から下を見やすとね、領地の管理の違いが一目で分かりやす。春もまだ浅いのに、小麦が勢い良く育っていますね?朝早くから夕暮れまで、働き者達のいる領地だと思って見ておりやしたが。そうですかィ、貴方のお家ですかィ。」
畑仕事を馬鹿にされなかったので、モブ令嬢ことリリアンヌは、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。可愛く見えない事も無い、素朴な人の好さそうな顔をしている。
「聖女様のご改革で、地方の貧乏貴族は大変に助かっております。とうちゃ・・・父も母も、感謝しています。・・・あああのぅ、以前に父は王宮の舞踏会で・・オマケ様にお会いしまして、地方の困窮を聞いていただいたそうで、それで聖女様がご改革をして下さったのだと。凄く凄く感謝しております・・・あのあの、お会いできて感動で嬉しいです。」
『ヤンキー騎士に、良い様に転がされた時の事か・・・。』
「あの、あの・・・。」
『いけね、ムカついて鼻に皺を寄せちゃったよ・・・流石、名誉狼族。』
「すべては聖女様の御心のままに成された事、感謝の気持ちは聖女様に届くでやしょう。」
聖女のオマケ様スマイルで微笑む詩乃、横から、らしくねぇ・・・などと不届きな言葉が聞こえる。誰だ、飯を横流してやらないぞ?
話ながらも彼女の目は、チラチラとモルちゃんを見ている、好きなんだねドラゴンが。怖がる事なく、喜こんでもらえると嬉しいね~、子供を褒められたお母さんの気分になっちゃう。
「可愛いでしょう?この子はまだ幼いドラゴンでねぃ、人間で言うと5歳位かな?でもアッシが舞踏会で貴族様に虐められて、不愉快な目に遭うといけないと言ってエスコートに付いて来てくれたんでさぁ。」
「まぁ!なんて頼もしい。オマケ様の騎士様なのですね。」
可愛モブさんに褒められて、モルちゃんも満更ではない様子だ。
小首をかしげてモブ令嬢を見つめている・・・あざとい。自分が可愛いと知っていてのあの態度、ぶりっ子だね~~~。詩乃の突っ込みにも動じないモルちゃん、あんたなかなかの大物だぁよぅ。
「エスコート・・・うらやましいぃ・・・。」
本音がポロポロダダ漏れだ、あんまり貴族に向いているタイプでは無いよね。
詩乃はチラッっとメンバー達を見た、婿入り希望者はいるかね?
メンバーの中でも年長者で、貴族の3男だったか庶子だったか?頭のいい(詩乃の座学の先生だ)能面さんがウインクしてきた・・・さぶっ!
「お嬢さん、此処にいるメンバーはダンスに慣れていなくてね。ハイジャイは男ばかりだろう?どうだろうか、一曲付き合ってやっちゃぁくれないかぃ。」
「ええええぇぇぇぇ・・・・・。」
能面さん、モブ令嬢の前に騎士の礼を取ると慇懃にダンスに誘って来た。
モブちゃんは、真っ赤な顔でコクコクと頷いている・・・ウブなネンネは可愛いねぃ。
能面さんは足を踏んでくることは無いので、まぁ大丈夫だろう・・・2人はホールの目立たない所で踊り出した。うぇ!能面さんが微笑んでいるよ・・・これは落しに掛かっているね。子羊ちゃん、狼にご用心だ!
メンバーが踊りに出たので安心したのか、ちらほらと令嬢たちが近寄って来た。
あれか?ほ~~らぁ、捕まえてごらんなさい?って奴か?
ご期待に応える様に、メンバー達がダンスに誘うべく出撃していく。
頑張れ、諸君の健闘を祈ろう。
「ニーゴさんは行かないんで、ダンスはいっち上手だろう?」
貴族に慣れ合うつもりは無いと、ニーゴさんは言う・・・クールだね?
食いしん坊君が令嬢の足を踏ん図けてペコペコ謝っている、彼は事も有ろうに令嬢を軽々とお姫様抱っこすると、人があまりいない場所の椅子に運んで行った。
アイツ、策士だねぃ・・・つま先の一つも拝んだら、既成事実の完成かい?
下位の貴族と言ってもハイジャイの一員だ、転んでも只では起きないド根性、優秀なのだろう・・・あらゆる意味でだ。
既成事実か・・・・。
「ニーゴさん、異世界人と獣人で度肝を抜いてやりましょう?
シャル ウイ ダンスだ。ホールのど真ん中で踊ってやろうじゃないの。」
「踊れんのか、その衣装で?」
「ませなさい!」
詩乃とニーゴさんは、手を取り合うとホールのど真ん中に進み出た。
驚き蜘蛛の子を散らす様に場所を譲る貴族達、余りの出来事に声も出ない状態だ。
『さぁ、反撃の合図だ。』
泣いて従っている時間は終わった、自分の行く道は自分で決める。
詩乃はニッコリと笑ってニーゴさんと向かい合い、ホールドの姿勢に入った。
遅刻したことで、大佐は詩乃獲得レースから脱落です。
バイバイ・・・(T_T)/~~~