表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
66/126

サムディン侯爵の舞踏会~1

舞踏会・・・武闘会・・・詩乃に似合うのはどちらだ?

私はリリアンヌと申します、父は男爵位を賜っている地方の貧乏貴族の一人です。


貧乏な貴族ですから王都に行く事など稀で、成人のこの歳になるまで、お茶会や園遊会など出席した事は御座いません。

そんな私ですが、今年の<春の女神のお祭り>にはデビュタントとして、王宮の行事に出席しなくてはなりません・・・それが目下の悩みの種なのです。

<春の女神のお祭り>は舞踏会ですから・・・エスコートして下さる殿方が必要になりますが、その当てが全く無いのですもの・・・。


ご近所の親しくさせて頂いている(貧乏仲間の)貴族様には、私と年回りが近い適当な殿方がいないし、親戚も貧乏で魔力も弱い為か、王都に行きたがらないので困っているのです。

兄か弟でもいれば良かったのですが、生憎と私は一人娘で兄弟はおりません。

父は母一筋の愛妻家で、それは大変に好ましい事なのですが、それ故に妾とか使用人などに手を出すタイプでは無かったので子供は私一人しかいないのです。


正直に言いますと・・・プレッシャーが半端ないのですよ。


私が領地を引き継げれば良いのですが(聖女様と王妃様の御働きで、女性でも爵位を引き継ぐ事が出来る様になりましたから。)残念ながらそんな能力も根性も人望も御座いません。

子供の頃から難しい事は苦手なのです、いつも書斎で頭を抱えて居る父と執事を見て育って来ましたから、領主など苦労の多い立場で、報われる事など少ない仕事だと思っております。

こんな貧乏で苦労の多い領地に、養子に入って下さる方はおられませんから、領地の生き残りの方法としては私が・・・私と結婚して領地を継いで下さると仰る奇特な方を捕まえ・・・いえ、言い方が露骨すぎましたね。

私を見初めて下さる方を、何としてでも見つけなければならないのです。


サムディン侯爵の舞踏会はお相手を見つける会なので、特例としてエスコート無しに女性が単独で参加できるのです。なにしろ繰り返しになりますが、出会いの場を設ける為の舞踏会!なのですから。

サムディン侯爵様のご厚意には、貧乏貴族の皆は大変に有難く感じております。

王都まで行く費用も伝手も無い私達のような貴族には、お金もかからず(交通費は王都までの半値程でしょうか)あまり高位過ぎる貴族も出席していないサムディン侯爵の舞踏会は、垣根が低く参加しやすい初心者向けの会と言えるでしょう。


何度も舞踏会やお茶会に参加できる様な身分では無いのですから、王宮に行くまでにせめて此処でエスコートをお願いできる殿方と知り合いにならなければ・・・うぅぅ・・・プレッシャーが。胃がキリキリいたします。


今日の舞踏会には、本当は父か母に付いて来て貰いたかったのですが、その様は資金(交通費の魔石料)も無く・・・両親はすべての資金を私の衣装につぎ込んでくれました。・・・もちろん下位の貴族としての分は弁えて、フリルなどは少なめですが、両親の気持ちが嬉しいのと(頑張れ!Getだぜ!!)の重荷が辛いのとで複雑な心境です。

私が絶世の美女でスタイルの良い、見目麗しい淑女であれば良かったのですが。

父に似てしまったのです・・・父親似の娘は幸せになる・・・などと、世間では言う様ですが、その言葉に根拠は有るのかと、膝詰めで問いただしたい気持ちで一杯です。母はそれなりに美人なのですが・・。


貧乏貴族の娘は、正直に言いますと、畑仕事もしますし料理や洗濯も致します。

舞踏会に参加する数日前までは、その様に働いておりました・・・。

けれども・・・どうしても手が荒れますからね、舞踏会の前には貴族の娘として、それは如何なものかと思うと言って乳母のマーサが仕事を代わってくれました。

優しいんですマーサは・・・出掛けにも言われました。

「お嬢様、是非とも多額の持参金など持って来て下さる、有難い婿様を捕まえて来て下さいね~~。」

と、持参金付きで家に来てくれるような方は、何か訳有りの方だと思うのですが・・・私も出来れば幸せになりたいのですが・・贅沢な望みでしょうか?



「リリアンヌ、悪いけど髪を整えて下さらない?」

友達のセリーヌが声を掛けてきました、私達貧乏貴族には連れてこれる侍女やメイドはいませんから、お互いに助け合うのです。


「えぇ、もちろんよろしくてよ。」


セリーヌの家も男爵家で、彼女は5人兄弟の末っ子長女です。領地は既に長男のお兄様が継いでいらして、奥様もお子様もおいでです。彼女のお母様はA級平民の出ですので、ご兄弟が多いのです。残るお兄様方は養子に入られたり、騎士団に所属していたり・・・セリーヌは今夜の舞踏会でエスコートの殿方が見つからなくても、騎士のお兄様(既婚者)が代行して下さるそうなので羨ましいです。

彼女から言わせると、結婚して家を出なければならない身の上なので、先が見えなくて不安なのだそうです、家を継ぐ私が羨ましいと言っています。


隣の花壇の花は美しい・・・お互い無い物ねだりしているようですね。


彼女は貴族の子息をGet出来なければ、平民に落ち(平民との結婚)しなければならない事が辛いのだそうです・・・毎日やっている仕事は平民と何ら変わらないのですが、不思議ですね?心持が全然違うそうです。

私は平民でも構いません、優しくて、稼ぎが良くて、ハンサムで・・・全然謙虚ではありませんね(笑)。夢見るだけはタダなので、心の中でこっそり言っているだけです、かなり本心ですが。


大きな鏡の前にセリーヌを座らせて、彼女の栗色の髪を梳かしていきます。彼女の髪は濃い栗色で、貴族の特徴である金髪には遠いのですが真っすぐな綺麗な髪で羨ましいのです。私の髪は黄色っぽい色合いですが癖が強い髪で、押さえつけるのに難儀する質ですので。マーサは出来の良い干し草の様だと言いますが、それ絶対に褒めてはいませんよね?


「見てリリアンヌ、歪みも無いこんな大きな鏡・・・私始めて見たわ。」


私達下位の貴族は、侯爵家のご厚意で館の一部にホームステイしております。

私達が居るこのお部屋は、客間の中ではグレードが低いそうですが、十分な広さとトデリの高級家具が揃い、まるでお姫様になった心地がいたします。

とっても素敵なのですが、掃除が面倒そう・・と、思うのは貧乏根性が身に染みているからでしょうか。


「髪は編み込みで良いかしら?聖女巻とどちらが良くて?」

「まぁ、リリィ。聖女巻は素敵だけれど、聖女派・・・つまり王太子派だと自ら申告するようなものよ?いくらサムディン侯爵は中立だと言っても、此処にはいろんな派閥の方が来るのだから迂闊な事はしない方が良くてよ。」

「まぁ、セリィ。王都ではまだゴタゴタが続いているの?」

「騎士の兄によるとね、聖女様の御改革は性急過ぎて貴族の不満が高まっているそうよ?平民達は息を吹き返しているみたいだけれどね、その分貴族達は旨味が削られているって事でしょう?半年近く前だけれど、どこかの街で反聖女派の貴族が一斉に摘発されたって大騒ぎになったらしいし?獣人に土地を明け渡すなど、勝手な事をしているそうじゃぁない?」


・・・そうなんだ、父が聖女様のご改革で、地方の貴族はだいぶ楽になったって言ってたから、皆喜んでいるんだと思ったいたのだけれど。


「異世界人かなんか知らないけど、随分と勝手なものね、此方には此方のやり方が有るでしょうに。黒い髪に黒い目なんですって・・・気持ちが悪くないのかしら王太子様も。」


セリィの濃い栗毛も、光の当たり方によっては黒く見えるのに・・・そう思った事は、内緒にしておいた方が良さそうです。彼女は良い娘なのですが、我が家より裕福な男爵家な為か、考え方が貴族寄りのような気が致します。


「私、絶対伯爵家以上の方と縁づいて、王都で生活してみたいわ。すぐに王宮へ行けるのよ、素敵だと思わない?」


・・・それ、かなり無理だから。


「このドレスも王都の騎士のお兄様が贈って下さったの、王都の流行りなんですって素敵でしょう?」


彼女のどピンク服にはフリルが派手についていて・・・ひと昔の、聖女様の現れる前の流行のドレスみたいです、騎士のお兄様も苦労なさって手に入れたのでしょう・・・中古品を。末っ子の彼女を大事に思う兄の心を、私がとやかく言うつもりは御座いませんが・・・騎士に、脳筋男にドレス選びは無理!と言う事でしょうか。奥様に相談して買い求めたのでは無いのでしょう、A級平民出の奥様の事をセリィは酷く嫌っておりましたから。




王都も王宮にも行ったことが無い私達は、所詮世間知らずの小娘なのです。

私はネガティブなタイプなので、身分不相応な夢は見ませんが・・・本当にA級平民の方で十分なのです。両親が、持参金の夢を諦め切れないのと、ただ一夜の夢を見る為に此処にいるのだと思います。


セリィの髪はドレスに会う様にひと昔風にしました、彼女のマークする高位の貴族達は皆、昔風のドレスが好きな様なので構わないでしょう。

この情報はサムディン侯爵家のメイドさんに聞きました。メイド情報は馬鹿にできないんですよ?私の家の領地でも今頃<お嬢が婿取りに向かった>とか、メイドの口から情報が領民に流れて・・・うううぅぅ・・胃が痛い。


髪を整え終ったセリィはお化粧を始めました、もちろん泣き黒子を付けています。

・・・公爵に下った第1王子派に見えないのかしら?

心配ですがセリィは人の忠告を聞く性格ではないので放置いたします、彼女はきっと改革派の王太子より公爵様が好きなタイプなのでしょうから。


「まぁリリィ、貴方聖女巻にしたの?」

「一人で出来る髪型がこれしかないの。」


うねりが凄い私の髪を押さえつけ整えるには、編み込みをして頭に巻くしか出来ないのです。父は聖女様に感謝していたから大丈夫でしょう・・・多分。


「まぁねぇ、今日は地方の貴族が多いから、概ね聖女派だろうけど・・・でも、ハイジャイの空軍の方は違うわよ。高位の貴族が多いからね、狙うなら断然そっちのエリート達でしょう。ドラゴン様を操り国を守る、ランケシ王国の槍といわれる精鋭部隊!あぁ憧れる・・・。」


そう言えばサムディン侯爵の舞踏会の花は、ハイジャイの軍人達だそうです、此処の会場にもドラゴン様に乗って現れるそうなんですよ。そのお姿は凛々しくて、御綺麗で御立派だとメイドさん達が騒いでいました。ドラゴン様はよく家の領地の上を飛んでいますので、近くで拝見できれば嬉しいですね、いつもはスズンメ位の大きさでしか見られませんもの。


「そいえば貴方聞いて?その伝統ある栄えあるハイジャイに、黒髪のオマケが紛れ込んだそうよ?呆れた事にムアンシン家のアサイー様を陥れて、ハイジャイから追い出したんですって。聖女の陰に隠れて悪事を行なう、恐ろしい獅子身中の虫だって噂されていたわ。」

「まぁ恐ろしい・・・オマケ様って、女性よね?女性がハイジャイの空軍に入っているの?ドラゴン様に乗っているのかしら、空を飛ぶのよね・・・怖く無いのかしら?」

「貴方の言う<恐ろしい>が何を指しているのか判りにくいけど?でももしノコノコと面出しでもしたら、貴婦人達にハブにされて絞められる事間違い無しでしょうね。いい気味だわ。」


・・・私達は平民と付き合いがありますので、悪い言葉は豊富に知っているのです・・・むしろ得意なのですわよ。ほほほ・・・。




もうすぐ夕暮れです、あちらこちらの魔術具に明りが灯り、舞踏会の始まりが迫っています。


聖女様のオマケ様・・・私は両親から話を聞いただけですが、王宮の舞踏会で下位の貴族の訴えを熱心に聞いて、聖女様に伝えて下さったと伺っています。

真面目そうな本当に小さな女の子だったそうですが、そのオマケ様が空軍に入り、ドラゴン様を操る様な方になっているのだとしたら・・・。


『すげぇ、カッコいいじゃん!』

・・・興奮して素が出てしまいました、初心を忘れそうです・・・婿殿Get!

忘れないようにしなければ・・・。



私達は舞踏会の会場に移りました、煌びやかなホールにビビり・・・驚いて息も付けないぐらいです。伯爵や子爵様もおられる会場は、華やかな衣装と笑い声でまるで天の国の様です。

付け黒子の方は少ない様で、セリィはそっと外しておりました。いたずら者の彼女ですから、どなたかの衣装に付けないと良いのですが。


「ドラゴン様が飛んで来たぞ!」

その声に私達はホールを出て、広い庭先に集まりました。ドラゴン様が着陸や離陸できるように、広い草場になっています。


夕暮れの美しい空に、何頭ものドラゴン様が浮かぶその景色は大変に美しく、また力強い覇気を感じます。

『オマケ様はおられるのかしら?』

私の胸は、早鐘の様に鳴っておりました。


婿殿Getなるか?頑張れお嬢様達( ^ω^ )

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ