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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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モルちゃんの進化

子供が大きくなるのは、早いものです・・・(;´Д`)

このところモルちゃんの成長が著しい、何やらやる気に満ち溢れている。


アサイー様の1件から、モルちゃんの雰囲気が変わった。

モルちゃんが言う事には、自分が幼くチョロそうに見えるから、詩乃ちゃんにイチャモンを付ける輩が出て来るのだ・・・らしい。

別にそんな訳では無いと思うのだが、


「詩乃ちゃんを守れる、立派なドラゴンになるの!」


だそうで、毎日白さんに付いてドラゴンの基礎知識を学んでいる・・・感心感心。


それから騎乗訓練が始まった事も刺激になった様だ、まだ絆を結んでいないニーゴさん以外の訓練生は、絆候補の若いドラゴンに乗せて貰って飛ぶのだが、詩乃もまたそのグループに入った。何故ならモルちゃんはまだ小さくて、詩乃を乗せて飛ぶことが出来ないからだ。これにはモルちゃんが激しく反発した【他のドラゴンに乗るなど何て事だ!】なのだそうだ。気持ちは解らないでもないが・・・物理的に無理、[チビは引っ込んでいな]とからかわれた様で、プンスカ怒っていた。


鞍を付ける練習の時には、ウロチョロと周りを動き回り・・・飛行訓練の際には【イヤァ~~~~。】と叫びながら、詩乃が乗る灰色のドラゴンさんの周囲を飛び回って邪魔をした。ヤキモチ焼きさんなのだ、そこがまた可愛いのだが(モルちゃんだから可愛いのであって・・・クイニョンの若い衆がこんな事をしていたら、エルボーで沈めるような気がする。)みんなの笑いを取って大変だったのだ。

詩乃を乗せてくれた灰色のドラゴンさんは、そんなモルちゃんを面白がって、付いてこれないような高みに舞い上がったり、急降下をしてみたり・・・ジェットコースター並みの乱高下を繰り返したので、詩乃はえらい目にあった。

またマーライオンする所だったよ・・・黒歴史を思い出す。

地上に降りた時には、足に力が入らなくて生まれたての子ヤギ状態だったし、夕食も食べる気がしなくて食堂にも行けなかった。・・・もちろん皆を清浄してから部屋に戻ったけれどね・・・縋る様な視線に耐え切れなかったから。

奴らこの頃・・・アッシに甘え過ぎではないか?餌付けしすぎたか?


そんな詩乃のヘロヘロの様子を見て、益々自分が頑張らねばと奮起するモルちゃん・・・頼もしい限りだが、ホドホドにしてくれるとありがたい様な気もする。




そんなモルちゃんだが、成長は精神面だけではなく、物理的に・・・体も大きくなっていった。

不思議な事だが、ドラゴンは自分の意思で成長を止めたり早めたりと色々出来るらしい。そういえばモルちゃんは、卵ちゃんの時には百年単位で、状況が整うまでクマムシの如く卵のまま眠っていたんだっけ?器用なモノである。

そうして今、やる気に満ち溢れたモルちゃんは、既に詩乃の懐の中でヌクヌクと惰眠を貪っていた幼獣では無く、大型犬~仔馬並みにデカくなってしまった。

鱗もね、低反発クッションの様に柔らかでは無くなって、体育でデングリ返しに使ったマットみたいに固くなっている。

そんな成長が嬉しい様な寂しい様な、ランドセルをしょって学校に向かう子供を眺めるお母さんは・・・こんな複雑な気分なのだろうか?



出会ってからず~っと、一緒の寝袋や布団で休んでいたのだが、それも本日を持ってダメ出しをされてしまった。

・・・ビューティさんにである・・・。


「ベットが壊れます・・・いい加減にして下さい。」


モルちゃんと2人顔を見合わせる、デカくなったってモルちゃんはモルちゃんだ、可愛い甘えん坊の卵ちゃんなのだ・・・詩乃の中では。


「モルガナイト様、今日からはドラゴンのお部屋でお暮しください。すでに準備は整えられています、ご立派なドラゴンを目指しておいでだそうですね?一人で眠れない事など有りませんよね?」


『そんな事言ったって、急に離れるのは無理だろう・・・甘えん坊の子だから。』

内心そう思っていた詩乃だったが、解ったと快諾したモルちゃんにショックを受けた。えええええ~~~~!!そんなぁ~~~。


「じゃぁアッシがドラゴンの部屋で寝起きしまさぁ、なに寝袋が有るから地べたでも何でも大丈夫さぁ、そうだそうだ、そうしよう!」


詩乃の意見をビューティーさんは

「貴方、馬鹿ですか?」一刀両断に切り捨てた。


     *****


ビューティーさんの説教は長い、そしてクドイ・・・1日の鍛錬の終わりにやられると半分は夢の中だ。何故そんな時間に説教が始まるかと言うと、昼間は詩乃が逃げ回って捕まらないからだ。

夜はね・・・お風呂に入りたいし?お布団も有るから、どうしても自室に戻ることになる。そこを地蜘蛛の様に待ち受けているのがビューティーさんだ、捕まるのが解っていても帰らない訳にはいかないし。


彼女は王妃様より、詩乃に貴族に嫁げるくらいの教養と礼儀作法・・・常識と色気を付ける様にと命令されているらしい。

空軍に放り込んでおいて、色気を付けろとは矛盾するのではなかろうか?

毎日の筋トレで、詩乃の腹はポッコリと6つの筋肉が浮かび上がっている。脂肪が有るからね、カブトムシの腹の様にはならなかったが、遠くから斜めに光でも当てればAカップぐらいの膨らみが見えるのだ。凄いねぇ~~自分でもビックリだよ?


「聞いておられますか!」


・・・聞いていませんでいた・・・眠いんです。

どうやらビューティーさんは夜中に急に寂しくなった詩乃が、ドラゴンの格納庫に忍び込み、モルちゃんの所で眠っていたのを怒っている様だ。

だって、隣がスウスウして寒いんだもの・・・仕方ないね。


「まったく20歳も過ぎた、いい歳をした女が!寂しいからと言ってドラゴンの寝床に忍び込むなど・・・聞いてあきれますわ。その年で同衾するなら男でしょうが。」


吐き捨てるように言うビューティーさん、チョッと過激な言葉が聞こえたような?

「貴方、結婚する意志は有るんですか?やる気が欠片も見えませんが。」


「だから~~~何度も行っているでしょう?貴族に嫁ぐ気持ちなんかないと、貴族なんか嫌いだし王族も・王宮も王都も鬼門なんだってば。」

「貴族でなければ、ドラゴンを所有出来ません。モルガナイト様はどうなさいます?」

ウグググ~~~~。

「特例が有るでしょ、特例が!!ニーゴさんだって貴族じゃ無いし?パガイさんだって、商人だってドラゴンを所有しているじゃない。」

「ニーゴ殿はどちらかの貴族の御養子になられると伺っていますし、パガイ殿はじめザンボアンガ系の商人は皆ザンボアンガの元貴族です、おまけにパガイ殿はザンボアンガの王弟のお孫様です。」

『げぇ、あのチベットスナギツネめ、そんなお育ちだったか。偽装結婚を申し込もうと思ったが・・・チッ、無理か。』


「とにかく!週末のサムディン侯爵家の舞踏会は、ハイジャイの者は全員参加ですから必ず出席していただきます。恥をかきたくなければ、ダンスの練習もなさる事です。貴方の行動が聖女様の評価に繋がる事をお忘れなく、同じ世界から来た者が可笑しな振舞をすれば、聖女様がどんな陰口を言われる事か・・・御いたわしい事。」


グチグチと続くビューティーさんの説教を聞きながら詩乃はぼんやりと考えていた。




『トデリに帰りたい・・・この際クイニョンでも我慢する・・・。

本当は、旅の不仲間は自然消滅したと思い込んでいたから、スルトゥでパワーストーンのお店でも開こうと思っていたんだ。スルトゥならパガイさんの口利きも期待できるし、豆ちゃんもいるし・・・ムースさんや、虎さんも・・・。

虎さんがスルトゥで冒険者になったら、お店に買いに来てくれるだろうし・・・たまに顔を見れたら嬉しいなって。スルトゥならドラゴン仲間も沢山いるから、モルちゃんも安心だし・・・。』



「あら・・・寝ているわ・・・。」

人が親身になって話しているのに・・・不愉快そうに顔をしかめたビューティーさんが、詩乃に布団を掛けようとして・・・。


『泣いている・・・?貴族に絡まれても、辛い鍛錬を強いられても泣かなかった者が・・・。』


この世界では貴族に嫁げるのは、平民の女性にとって最高な幸運だ・・・何がそんなに嫌なんだか解らない。自分自身はA級の平民で、能力を見込まれて文官にまで出世したが・・・それでも、貴族から声は掛からなかった。王宮の中で貴族の醜聞はあれこれ見て来たが、それでもまだ貴族社会に憧れを持つ自分がいる。


「本当にこの世は・・・ままならない事。」


そのころドラゴンの格納庫では、泣きながら眠る詩乃の心を、モルちゃんは胸を痛めながら感じ取っていた。



    *****


ダンスの練習というのは自主トレで、踊る機会など無かった下位の貴族が集まって講義の間に細々と行っている。・・・と言う事はいつものメンバーだ。

代わりばんこに女役をするのが面倒で、詩乃を指名して来る・・つまりは詩乃は踊りっぱなしの、足を踏まれっぱなし・・なのである。・・・痛いよ。

食いしん坊クンはドタドタとドン臭く、何回も足を踏んでくるので、終いには頭に着て投げ飛ばしてしまった。悪くないもん、痛いんだもん!!


サムディン侯爵の舞踏会は盛大で、ある種のヘッドハンティングのイベントらしい。

優秀な人材を後継ぎとして養子に迎えたい貴族や、結婚相手を探す者、騎士団のスカウトや王宮の親衛隊まで・・幅広く優秀な人材を確保する場所なのだそうだ。

伝手の無い下位の貴族の子息は張り切って出かけて行くし、女性の参加者も優良物件そうな男性をGetする為に余念がないらしい。


何故そんなに盛大なのか?

それはドラゴンと言う巨大な力を持つサムディン侯爵が、政治的に中立を保っている為なのだそうだ。

第1王子派が退き、王太子が第2王子に決まっても不満分子は沢山いるし、虎視眈々と王太子の失脚を狙って、隙が有れば足を引っ張ろうとしている。

そんな派閥に関係なく、自由に優秀な人材を確保できる場所がサムディン侯爵の舞踏会なのだ。


「シーノンちゃん、機嫌が悪いね?舞踏会は嫌いかい、女は皆憧れるものだと思っていたよ。」

投げられても平気な様で、ニコニコと話掛けて来る食いしん坊クン。

詩乃が知っている舞踏会は、半魚人だらけで、泣き黒子愛好会が沢山いた王宮の舞踏会だ。ヒソヒソと悪口を言い合いクスクスと馬鹿にした様に笑う女達。

魔力を当てて挑発して来るジジイども、子供のような姿を鼻で笑う若い男・・・。

全て捨てて、トデリに行ったのに・・・3倍になって返って来た感じだ。

不貞腐れて、返事をする気にもなれない。


「私と踊って頂けますか?」

「ニーゴさん・・・喜んで。」


踊るならニーゴさんが一番踊りやすい、感が良いのかリードが上手で、安心して任せられる感じだ。

クルクルとワルツのような拍子の曲を踊る、取り敢えずこれが踊れれば誤魔化せるそうだ。


「あんたのドラゴンが心配しているそうだ・・・あんた毎晩泣いているんだって?」

直球すぎて答えに詰まるね・・・。

「何を思い悩む、いざとなったら逃げればいい、此処のドラゴン・・・ドラゴンは皆、あんたの味方だ。」


驚いてニーゴさんの虎の瞳を見上げる、その瞳は何処までも真っすぐで強い力を宿していた。

・・・そうだ、逃げればいいのだ・・・。


挿絵(By みてみん)


詩乃は胸の閊えが取れたように、晴れやかに・・ニヤリッ・・・と笑った。

あの胸糞悪い王宮の聖女様の離宮の中で、寂しさと不安に震えていたあの頃の自分ではもうない・・・そうだ、自分は肉ギャースを倒し解体し肉を食らう女になっているのだ。


虎さんのような、静かで深い自信が欲しい・・・何者にも動じぬ強い意思が。



その晩、詩乃は自分の為の守り石を造った。

<デュモルティエライト>

困難に立ち向かう勇気をもたらし、起死回生の一手を打ち出す・・・パワーストーン。

深い青灰色の石を握りしめ、詩乃は自分を絡めとろうとする見えない何かの力に・・・心静かに宣戦布告をした。


王妃様の意向に逆らえるか?

嫌な時は・・・逃げるのも手だと思います・・・(-ω-)/

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